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第五十九話~間宵ちゃんの異変!?~

 ちょん、ちょんと消毒液に浸したコットンが僕の頬に触れる。


「い、痛いよ間宵ちゃん」

「我慢しろ」


 それから間宵ちゃんはガーゼを当てて、医療用のテープで固定した。応急処置は、これで終わり、かな。


「……終わりだ。とりあえずひでぇことにはなってねえが、痛みがひかねえようなら医者行けよ」

「ありがと、間宵ちゃん」


 間宵ちゃんは照れた様子で頬を掻いた。

 周りにいる人たちが、興味深そうに僕たちを見ている。

 ここはモール内にあるドラッグストアの前。医療道具を買った間宵ちゃんは、近くにあったベンチに座り、僕の治療を始めた。こんなところで始めちゃったもんだから、周りの視線が痛くて痛くて……。


「礼を言うのは私のほうだ。ありがとよ、四季」

「いや、いいけど……どうして?」


 僕は思わず聞いていた。気に入らない奴はぶち殺すが行動基準の間宵ちゃんにしては、さっきの様子はずいぶんしおらしかったから。


「……それから、今まで、本当にすまなかった、四季」

「え? 何が?」


 僕は思わず聞き返していた。間宵ちゃんは、似合わない苦い顔をすると、申し訳なさそうな声で言った。


「今まで、殴ったり蹴ったりして」

「え?」


 驚く僕に、間宵ちゃんは続けて言う。


「昨日、優勝して、家に帰ってベッドに入って、初めて自分の強さに気付いたんだ」

「え?」


 もしかして気づいてなかったの?


「いくら小さい大会だって言っても、優勝できるくらいの実力があったんだ。そう思ったら、私、今までお前になんてことを……」


 なんだろう、嬉しいなあ。これでもしかして僕、殴られずに済むんじゃないか?


「今まで無自覚だったのが、余計に怖かった。私は格闘家。自分の実力は、なにより把握していなきゃいけなかったのに……」


 僕は驚いていた。まさか、大会での優勝が、ここまで間宵ちゃんを変えるきっかけになっただなんて。僕はてっきり、自分の実力を信じて僕にもっとひどいことをするんじゃないかって……。


「だから、さっきのやつらにも、攻撃するのが怖かった。手加減の仕方なんて全然知らなかった。今までは運が良かったから……そう、四様の兄ちゃんのお前だから、私は殺さずに済んだのかもしれない。もし私が普通の人に攻撃したら、もしかしたら、死んでしまうんじゃないか、殺してしまうんじゃないか、そう思ったら……」


 いつもは大きく見えたその体が、とても小さく見えた。縮こまって、持っている力に怯える女の子のように思えた。

 間宵ちゃんが、苦しんでいる。助けて、あげないと。

 僕は間宵ちゃんを抱きしめた。


「ふぇ? あ、ええ? な、し、しき」

「大丈夫だよ、間宵ちゃん」


 小さく震えて、あわあわと驚く間宵ちゃんが、妙にかわいらしかった。


「間宵ちゃんは、大丈夫。手加減だってできる。力の扱い方は、これから学んでいけばいいんだよ。ね? 間宵ちゃんは普通の高校生なんだから、さっきみたいな変なことがない限り、戦う必要なんてないんだよ。ううん、さっきみたいなことがあっても、大丈夫。

 僕が守ってあげるから」


 ぴたりと、間宵ちゃんの動きが止まった。


「ま、まも、まも?」

「うん、守ってあげる。だから、無理に強くならなくてもいいんだよ」


 ぎゅ、と腕をつかまれた。僕はうつむく間宵ちゃんを見た。


「……ダメ。私は強くならないと」


 すくりと、間宵ちゃんは立ち上がった。

 僕と、視線が合った。


「……励ましてくれて、ありがとな、四季。ホント、見直した。でもダメだ。私は、強くならないと。強くなり続けないとダメなんだ。世界で一番、強くなるんだ」


 強くなりたい。間宵ちゃんの幼い時からの夢。でも、中学生の時からは、その言葉は、あまり聞かなくなった。僕はてっきり、『自分が強くなった』と間宵ちゃんが思ったからだと思っていたけど……。

 間宵ちゃんのこの悲しそうな目を見るかぎり、そうじゃないみたい。何か、ある。

 なんだろう。


「間宵ちゃん、何かあったの? 僕でよかったら、相談に乗るよ。話して?」


 間宵ちゃんは、首を振った。


「ほんと、お前は優しいよ。ああ、だから私は……。だけどな、こればっかりは、話すわけにゃいかねえ。

 ああ、そうさ。私にゃ覚悟が足りなかったんだよ。実際、それだけの話さ」


 ひょうひょうと笑って、間宵ちゃんは言った。


「……私は、今日から修行の旅に出る。場所は聞くな。……じゃあな」


 間宵ちゃんは僕のほうに近づいてきて、顔を近づけてきた。その眼はまるで鷹のようで、僕は睨まれた小動物のように、動けなくなった。

 顔はさらに近づいてくる。そして、そして。


 僕と間宵ちゃんは、口づけをした。


 すっと、僕の首に間宵ちゃんの手が伸びる。


「……四季」


 トン、と首に衝撃。


「ま、間宵、ちゃん」


 僕は地面に倒れ、そのまま気を失った。


 

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