第五十七話~これってデートっ!?~
「遅い! 三秒遅刻だ!」
「ご、ごめん間宵ちゃん!」
大会で間宵ちゃんが優勝した次の日。最寄の駅前で、僕たちは待ち合わせをしていた。今の時刻は朝九時。ここから大型ショッピングモールまで電車に乗って約一時間。十時には着くと思う。
「ったく。三秒遅かったんだから、三秒長く付き合えよ。わかったな?」
「う、うん、わかってるよ」
顔を怒りで真っ赤に染めながら、間宵ちゃんは僕に念押しした。というか遅くなったのはみんなの説得に時間がかかったからで、僕はこれでも急いだ方……。なんてことを言ったら、遥か彼方へ吹き飛ばされるんだろうけど。
「あいつら連れて来なかったろうな!? ……その、あいつら、女の子ばっかだろ? やっぱり荷物持ちさせんのは悪いからな」
「幼馴染に荷物持ちさせるのはいいの?」
「いいんだよ!」
「えー……」
そんなことを言いながらも、僕は内心楽しみだった。だって、街のショッピングモールなんて、滅多に行く機会がないから。
「楽しそうじゃねえか。そんなに私とのデー、じゃなかった、荷物持ちが楽しみか?」
「楽しみというわけではないけど……。まあ、ショッピングは楽しいしね」
「お前ホントに男か? ショッピングが楽しみなんてやつ、私始めて見たぜ」
「それ、偏見だよ?」
「うるせえ。黙ってついてこい」
豪快に言って駅に向かっていく間宵ちゃんは、まるで男の人のようだった。僕はあわてて彼女を追いかけ、隣を歩く。
「……お、おい、四季」
「な、なあに、間宵ちゃん」
間宵ちゃんは僕を親の仇を見るような顔でじろり、と睨みつけてくる。……何か僕まずいことでもしたのかな……?
「……そ、その。……右手が」
「右手?」
僕の右手には、何もない。荷物持ちをやらされるのは決まっているのに、どうして余計な荷物を持ってくるだろうか。……もしかして、それが癪に障ったのかな?
「……ほら、手」
「え」
す、と間宵ちゃんは左手を僕の方へと向けた。これは、どういう意味なのだろう。
「……繋げ」
「うん」
ゆっくりと、僕は間宵ちゃんの手をとって、握る。格闘家を目指すだけあって、その手は僕よりもがっちりとしていた。
「どうだ? 私の手、なかなかいけるだろ?」
「……い、いけるって、何が?」
「思ったよりも華奢だろ? な?」
何か期待を寄せるような顔で、間宵ちゃんが聞いてきた。
「……ええっと、うん、びっくりしちゃった」
「そうか! あはは、私もまだまだ捨てたもんじゃねえな! さ、行こうぜ四季!」
「え、うわっ!」
間宵ちゃんは急に僕を引っ張って、改札口を抜け、一気に駅のホームまで来た。この駅は小さなホームがあるだけで、売店もなければ待合室もない。人の姿はまばらで、学生の姿もこの時間だとないに等しい。周りの人たちは、急になだれ込むようにしてホームに入ってきた僕たちを見て不思議そうな表情をした。間宵ちゃんは僕と手をつないだまま、うれしそうにくるくると回っている。つまり、彼女と手をつないでいる僕もくるくる回っているわけで。
「ど、どうしたの、間宵ちゃん!」
「ん、なんでもねえよ」
僕が、普段と様子が違うことに驚いて聞くと、間宵ちゃんは照れくさそうに顔を赤くすると、回るのをやめた。
「……ちょっと昔が懐かしかっただけだ」
「昔?」
「……気にすんな。あと二分で電車が来る。……それまで、黙ってろ」
「でも」
「……」
ぎろり、と睨まれた。あわてて僕は口をつぐむ。
待っている間暇なので、間宵ちゃんの様子を見る。表情は普段と変わらず、どことなくむっとした表情。でも、その中に待望の想いが隠されていることを、僕は見つけた。普段は喧嘩ばかりの僕たちだけど、ちゃんとこういう感情の機微ぐらいは、読みとれる。きっと、早くモールに行きたいんだろうな。
「……」
僕たちはそれから二分間、黙って電車を待った。
がたん、ごとんと電車は揺れる。人はあまりおらず、僕たち二人は余裕を持って座っている。
「なあ、四季。今日はどれくらい時間とれるんだ?」
「え? ……そうだなぁ、五時ぐらいまでかな?」
「……そうか」
僕の隣に座っている間宵ちゃんは、しょんぼりと言った。
「どうしたの?」
「……もっと時間とれねえのか?」
「うーん……。四様がいるからなぁ……」
僕は妹の顔を想い浮かべながら言った。零や夜闇、弥生ちゃんは多分二日三日放っておいても大丈夫だろうけど、四様はまだまだ子供だから……。
「……そうだったな。昔と違って……今は、あいつがいるもんな」
「まあね」
僕は複雑な心境だった。昔は、僕の隣には誰もいなかった。今のように弥生ちゃんや夜闇、零がいるわけじゃないし、間宵ちゃんだって、今みたいに毎日顔を合わせる、ということもなかった。
「じゃあ、最低五時までは、お前は私の物、ってことだな」
「そんな、物扱いしないでよ」
「うるせえ。その代わり……」
ふと、さりげなく間宵ちゃんは僕の方を向いて、満面の笑顔で、僕に言う。
「その代わり、最低五時まで、私はお前の物だ」
どうしてか、心臓の鼓動が速くなった。ドキドキする。それと同時に、僕は気付いた。
……あ、もしかして、これってデートなんじゃ。
だって、異性の人と、休日にお出かけする。……うん、完全にデートだ。
……どうしよう。僕、完全に思い違いしてた。今まで本気で、僕は間宵ちゃんの荷物持ち、という程度の認識しかなかった。でも、さっきの言葉で、気付いた。これは、もうどこからどうみてもデートだ、と。
……どうしよう。
やることは何も変わらないはずなのに、デートと認識したとたん、僕は緊張してきた。