第五十三話~お昼休みの話し合い!?~
その日の昼休み。いつもなら昼食をとっているクラスメイトで賑わう教室も、今日はやけにひと気が少ない。主に男子の数が。先生方をどうこうするって息巻いていたけれど……。
「……先生方、大丈夫かなぁ……?」
「心配すんなよ。マジで殺るわけじゃねぇだろうし、大丈夫だろ」
「しかし、みなさんかなり殺気立っていたようですが……」
「能力的に不可能なことを強制されるぐらいなら、多少のリスクはあっても原因を消す、と思っているかもしれんな」
「だ、大丈夫なんでしょうか……」
みんなは昨日とおなじように僕の机を中心に包囲網を敷いている。右側に夜闇、左側に零、正面には弥生ちゃんと真宵ちゃんが狭そうに座っている。
「ほ、ほ本当に大丈夫でしょうか……男子さん達」
「心配するのそっち!?」
「当たり前だろう。午前中のような授業内容ままのテストなど出されればもはやボクらに未来はない」
「ですね。それを阻止するためにも、先生方には消えていただかないと。せめて安らかに逝けるよう、祈りましょうか」
「だな。あとそれと男子連中が成功することも一緒に祈ってやろうぜ」
「みんな何言ってるのっ!?」
なんて物騒なことを平然と……。僕の必死の叫びをあざ笑うかのように、真宵ちゃんは冷徹に言った。
「何言ってるか意味くらいわかんだろ。……ま、てめえには現実を知る必要があるな。周りを見てみな」
僕は言われた通りに周りを見渡す。今教室にいるのは弁当組の女子生徒だけだ。……でも、なんか様子が変。いつもなら僕たちに否定的な目を向けるのに、まるで正義のヒーローを見るような、そんな目で僕たちを見ている。
「ついでに、聞き耳も立ててみたらどうだ?」
零の言う通りに僕は話をしている女子生徒二人に聞き耳を立ててみる。その二人は特に声も潜めていないので割と聞き取れる。
「……いっつも暴走してるあの人達だし、きっと今回も、だね」
「うん。変に難しい問題を出してくる先生におしおきしてくれるよね!」
「おしおきって……まったく、あなたは純粋ね。殺してバラバラにして埋めちゃえ、とか言ってもいいのよ?」
「そんなの悪いよ……」
「まあ、そうだけど。きっと勝手に暴走して勝手に排除してくれるわ」
そんな会話が聞き取れた。
「な? センコーどもの排除はクラスの総意なんだよ。わかるか?」
「この国は民主主義。ならばキミも、大多数にならうべきだろう」
「数の暴力じゃないか!」
「数の暴力が気に入らないとおっしゃるのなら、私が純粋な暴力で教師連中を片付けて来ますが」
「しなくていいよ!」
「な、なら私が、男の人達止めて来ますね! すぐに行って来ます、し、四季君の前に、男子全員分の亡骸を耳揃えて」
「両極端にもほどがあるよっ!」
どっちにしろ人死んじゃってるじゃないか! それじゃ意味ないよ! というか弥生ちゃん、人殺ししたくないから裏人格できちゃったんじゃないの!? なんで嬉々として向かって行くのさ!
「うう……怒られちゃいました……」
困っている顔をしているんだけど、どこか嬉しそうなのは気のせいかな?
「……ならば、どうするのだ、四季」
ひどく面倒くさそうに零が聞いてきた。
「どうするって言われても……」
思いつかない。
「皆さんの意見を取り入れたとするのなら……やはり」
「やはり?」
夜闇の提案なんてロクなものではないだろうけど、一応聞いておく。
「教師連中、男子連中全ての殲滅かと」
「なんでそうなるのっ!? なんでそう恐ろしいこと考えるの!?」
「……お気に召しませんか」
「お気に召すわけないでしょ!」
みんな実はただ暴れたいだけなんじゃ? 急に勉強しはじめたからストレス溜まってるのかなぁ……。
「……まったく。教師も消すな、男子も消すな。一体ボク達は誰を消せばいいのだ?」
「誰も消さなくていいよっ!」
というかどうして誰かを消すのが前提なのさっ!
「……ったく。冗談はともかくこのままだとマジでやべえぞ? どうすんだ四季」
「冗談だったの?」
「誰がたかがテストで人殺しすんだよ。少なくとも私はやらねえぞ?」
そ、そうなんだ……ちょっと安心。そう僕が胸を撫で下ろしていると。
「ボクはわりと本気だったがな。教師連中はともかく、研究対象の四季をどうこうしようと企んでいる連中を生かしておくわけにはいかない」
零は冗談めかして言っているが、真意はどうかわからない。もしかしたら真剣に……なんてこともありえないわけじゃない。
「あ、あああのあの! ど、どうするかはとりあえず置いて、今日はとにかく乗り切りましょう!」
「うん、それが一番平和的だよ」
「私もそれでいい。なかなかいいこというじゃねえか、弥生」
「……四季様が賛成なら、私も賛成です」
「いろいろ言いたいことはあるが、とりあえずは賛成しよう」
弥生ちゃんの提案に、みんなが賛成する。うん、平和的解決が一番だよ。うんうん、よかったよかった。
「……でも、またあの授業受けなきゃいけないのか……」
「……」
確かにうれしいんだけど、気分はあんまりよくない。むしろ憂鬱な気がする。
……はあ。