第五十二話~みんなレベルが上がってる!?
気が付けば、青空の見えるようになった部屋で僕は目覚めた。どうも朝になったみたい。
学校、いかなきゃ。
「みんな、起きて!」
反応はよっつあった。
「お、おー」
よろよろと、真宵ちゃんが立ち上がった。その姿はまるで戦が終わったばかりの武士のようだ。
「は、ははは、はいですっ!」
しゃきん、と一瞬で瓦礫を押しのけ立ち上がったのは、表弥生ちゃん。
「……不覚」
夜闇が冷静にそう呟いて、音も立たせずにすくりと立ち上がった。
「……うにゅ、おはよ、お兄ちゃん」
やっぱりというか、恐るべきことに四様はむにゃむにゃと目をこすりながら起きた。その体には瓦礫の一片どころか埃一つついていない。さすが、神様の運。
「大丈夫、四様?」
「むにゅ? ……あ、うん、大丈夫」
でも、もしかしたら頭を打ったかもしれない。病院に連れていったほうがいいのだろうか。なんて説明しよう? 同居人の爆弾で部屋が崩落して……。
ダメだ。零に手錠がかけられる光景が簡単に浮かんだ。
「あれ、零は?」
「知るかあんなヤツ!」
真宵ちゃんはすぐさま言った。
「おそらく、どこかへ吹き飛んだかと。本気でやりましたので」
「ど、どどどれくらい飛ぶんですか?」
「約二百メートル前後かと」
「へえ~。そんなものですかぁ~」
世にも恐ろしい会話がここでなされている気がする。人を二百メートルも飛ばして、『そんなもの』!?
「と、とにかく学校行こうよ、学校」
「ま、それには賛成。とっとと行こうぜ。勉強道具も全部吹っ飛んだし、手ぶらで行ってもかわんねえだろ」
「ですね」
「そ、そそそそうですねっ!」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん!」
四様は手を振って僕たちを見送る。……もしかして。
「君も行くんだよ、学校」
「……あ」
やっぱり、忘れてたな。ダメじゃないか。
「あ、あはは……いってきます、お兄ちゃん」
「行ってらっしゃい、四様」
僕は挨拶をして、学校へ向かった。
「……はい?」
学校に来て、一時間目。さっそく僕は来なきゃよかったと思った。
「この問題をといてみろ。テストに出るからな」
先生がいつものように、さも簡単そうな口ぶりで言う。そんな簡単なものじゃないよ!
「……なん……だと……?」
どこからかいつのまにか復帰していた零がバケモノでも見るかのような目で、黒板にかかれた式を凝視していた。
「どうしたの、零?」
「これは、フェルマーの最終定理だ。……高校生解けるようなものでも、ボクが解けるようなものでも、ない……まさか、これ程とはっ!」
今更ながらに、僕は四様の実力を思い知らされるのだった。
そして、次の時間、国語。
「さあ、とっととやれ! この程度の漢字、貴様らにできないはずがない!」
やけに尊大な先生が、黒板の漢字をバンバン叩きながら言った。
「……そ、そんなっ!? わ、私に読めない漢字があるなんて……っ! 漢検一級なんかじゃ、全然足りないんですかっ!?」
「はははっ! 甘いぞ如月! 我が校の生徒でいたいなら、漢検一段は持っていないとな!」
「そんな~……」
弥生ちゃんの地味な実力も、ことごとく上回っていた。って、こんなのでよくみんな我慢してるなぁ……。
「……おい、どうする? ヤるか?」
「そうだな。今は四季の野郎より、あいつらだ」
あ、全然我慢してない。秘密会話で殺人計画練ってる。
このクラスから犯罪者がでないことを祈りながら、国語の時間を過ごした。
次の時間も、その次の時間も、世界レベルの難しい授業になっていて、ただでさえ勉強ができなかった僕は、背筋が凍る思いだ。
……いや、冗談抜きで、大丈夫かなぁ?




