第五話~転校初日で言い争い!?~
「……は?」
教室中が、そんな声を出したように僕は感じた。
「……な?わかんねえだろ?じゃ、質問な」
先生の質問に答えれる生徒はいなかった。ただでさえ、意味のわからない人間なのだ。何が地雷なのかわからないのだろう。
「……あ、あの……」
同じクラスの、弥生ちゃんがおそるおそる手を挙げた。
その自己主張に、クラスの中の何人かが、驚いたような顔をした。
如月弥生。このクラスのポジションはいじめられっ子、であった。
僕が頑張っていじめはやめさせたんだけど、それでも、弥生ちゃんの根暗な子、というイメージは拭えなかった。
そんな子が、自分から手を挙げている。
「……あ、あの、夜闇さん、零さん、どうして……どうして、四季君に付きまとうんですか……?わ、わ、私は、一緒に、四季君と寝た、仲なんですよ……?」
またも、教室がざわめく。
「はあ!?秀句と如月が?マジかよ!」
「すげえ、進んでるな~!」
「……ぷちっ……四季の奴、調子に乗りやがって……」
そんな声が教室のあちらこちらで起こる。ぼ、僕が一体何を?
しかし、さらに混乱を招いたのは、教壇に立つ二人の女の子の言葉だった。
「何を言っているのです如月弥生。四季様と同禽させていただいたのは私です。冗談は名前だけにしてください……なんですか、二月三月って……」
「私が二月二九日生まれだったからです!ほっといてください!あなたこそなんですか、『十三夜月夜闇』って!どう考えても偽名じゃないですか!」
教室がざわめいているのを気にも留めず、弥生ちゃんとはは思えないほどはっきりとした口調で言いあう。
「私の名前は『月』にちなんでつけていただいた『従名』です。名前がその者の能力を表すのです、偽名とはなんですか、偽名とは!」
「『十三夜』って満月一歩手前ってことじゃない!大方、料理だけがダメなんでしょ!」
「う、ぐ!?な、あなたにだけは言われたくありません!この激辛料理女!普通真っ赤になったカレーなんて食べませんよ!?」
「消し炭食べてるような味覚音痴に言われたくありません!」
なんか、二人ともヒートアップしすぎてなない?
「……キミたち、言い争うのは勝手だが、少しは場の雰囲気というものを読みたまえ。……見ろ、四季が宇宙人でも見るような目を向けているぞ」
そう零ちゃんが言った途端、ぱっと赤くなって口を閉ざした弥生ちゃんと、冷めた氷のような表情に戻って一礼した夜闇。
「……ちなみに、四季はボクとも布団を同じくした」
まるで小学生のような体の零ちゃんが言ったんだから、教室はまたうるさくなった。
「おいおいおい!四季ばっかりずるいぞ!間宵に続いて三人かよ!やるねえ~」
そんな風に、冷やかしてくれる声は少なかった。
よくこの教室の喧騒を聞いてほしい。誰彼かまわず話しているように聞こえるでしょ?
でも、違うんだよ。
ほら、男の声はほとんど、いや一切聞こえない。
女子や教師に聞こえないように、声の調子を変えているのだ。
この声を聞きとろうとするなら、二カ月近い地獄の特訓に耐えなければならない。……あれは、つらかったな……
でも、僕もこのクラスの男子生徒、その声の調子は聞きとれる。
「……さて、どうする諸君。闇討ち、夜焼、いろいろあるが……やはり定番のトイレが一番訊きやすいのではないか?」
そう、さっきのように冷やかしてくれるのなら、まだ恩の字だったのだ。
女子や先生は気付いていない。こんなにも恐ろしい会話が、今かわされていることを。
「拷問って、ほんとに効果あるのか?」
「あるさ。別に死んだところで構わねえし」
「裏切り者だからな。死を持って償わせるのが当たり前、というものだろう」
誰かー助けてー
そう心の奥で叫んでみたけど、無駄みたい。
「……まずは、トイレ、そして裏庭、体育館裏、ラスト路地裏だ。……わかったな?」
コクリと意思に燃えた瞳でうなずく男子生徒諸君。
……明日の朝日、拝めるかな………
「……四季君!」
「四季様」
「四季」
いきなり、名前を呼ばれた。
え、と見回してみれば、教室はいつの間にか静かになっていた。もちろん男子の秘密会話は続いたままだが、誰にも聞こえない声なんて、ないのと同じだろう。
「……なに?」
「四季君は誰のことが一番お気に入りなの?」
「四季様は誰のことが一番なのでしょうか?」
「四季は誰のことが一番好きなんだい?」
……え、いきなり、なんで?
会話を聞いていなかった僕がそんな質問に答えられるわけがない。
ど、どうしよう?
「……四季」
そう悩んでいた時だった。
「へ?」
本日二度目の、悪鬼羅刹修羅、東堂間宵本気モードだった。
「おい、四季。てめえが家でメイド従えてようが乱交しようが文句はねえ」
え、文句ないの?って声が女子の間で起こった。
「だがよ、ここは学び舎だぜ?学校だぜ?てめえのハーレムのプレイスポットと同列にみられちゃ困るな……ああ、本当に困るぜ!」
目が、間宵ちゃんの目が真っ赤に燃えて、僕をにらんだ。
「おい、最後に何か、遺言はあるか?」
え、あ、そ、その……
「話を聞いて、間宵ちゃん、僕は別に彼女たちとは何にも……」
「問答無用だばかやろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
またも闘気の塊とこぶしが僕にクリーンヒットし、僕はまた気を失ったのでした。