第四十四話~みんなでお鍋!?~
くつくつ、くつくつ。
おいしそうな匂いが部屋を包む。
小さなちゃぶ台に、お鍋が一つ。それをみんなで囲っている。
鍋の中身は普通のもの。変に赤かったり錠剤が入っていたり炭が入っていたりはしない。いや、これは鍋なのだから、それらがないのは当たり前だ。でも、なぜがその当たり前が、とてもとても、身にしみてうれしかった。感動したとも言える。いや、感動、なんて稚拙な言葉でこの気持ちが表現しきれるだろうか、いや、ない!
「んだよ。幸せそうな顔しやがって」
真宵ちゃんが気味悪そうに僕に言う。でも、全く気にならない。
「き、きっと、お鍋がおいしそうなんですよ。四季君、一緒に食べましょ?」
「うん!」
昨日とかだったらたじろいだかもしれないけど、今は本心から、そう頷けた。
「……そうか。そうだったのか。これが、キミにとってのおいしい料理、か。なるほど……」
煮立つ鍋を興味深そうに睨みながら、零が呟いた。
「……それでは四季様、いただきましょうか」
「そうだね!」
みんなが各々の小鉢へよそっていく。
「あ、お兄ちゃん!お肉ばっかり食べちゃだめ!野菜も食べなきゃ!」
「えー。僕野菜よりもお肉の方が好きだもん」
「今後一週間野菜しか食べられないような状況になりたい?」
「なにするつもり!?」
四様の怖るべき脅しについ叫んでしまう。ま、まさかこの世から牛とか豚とか消しちゃうつもりじゃ……。
「私は、何もしないよ。私の予想だと、お兄ちゃんがお肉を買おうとしたら売り切れる、とか、そんな地味だけど確実なやつをオネガイするつもりだよ?」
「うう、野菜も食べます……」
僕はしぶしぶ、野菜をよそう。
「ったく!四様もなんでそんなに野菜を食わせようとすんだよ?別に肉だけでも死なねぇぞ?」
「そんなことしてたら健康によくないよ!偏食は健康の敵なんだから!」
「でも、私毎日肉しか食ってねえけど元気だぜ?」
「それは、真宵さんが大人になるまでの話です!大人になって、運動しなくなったらだんだん酷いことになってきますよ!」
「な、なんだって……?」
驚愕の表情で、野菜を見つめ始める真宵ちゃん。その表情には不確かな未来に感じた不安と絶望がいい感じに混ぜられて、普段とはまた一味違うしおらしさが……。
「……かわいい」
あ。
「え?」
「……可愛いな。可愛いな。真宵さん、可愛いです」
「え、あ?」
普段言われなれない言葉と、雰囲気の切り替わった四様に混乱しているのか、近づいてくる彼女を跳ね除けようともしない。
「……あ、しまっ……!?」
「もふもふさせてください!」
「ちょ、あ、そういうことは許可もらってから、みゃあああああああああああああ!?」
意外にも、四様は十分ぐらいで正気に戻った。あれ、昔はずっとしてたのに。
「というか。まだ治ってなかったんだね……」
「病気じゃないってば!」
だから、そのレベルまでいけば十分病気だよ……。
「むう~!」
四様は頬を可愛くふくらませ、ポカポカと猫がじゃれつくように僕をたたくのだった。
……ああ、なんだか平和だなぁー。




