第四十二話~喧嘩……だよね!?~
間宵ちゃんと零が戦ってる。と言っても零ちゃんは防戦一方だけど。
「……四季様」
「夜闇」
ふうっと、周りの時間がゆっくりになった気がした。事実、零に飛びかかってる間宵ちゃんの動きがスローモーションになっている。
「あまり、お気になさらずとも」
「四様のこと?」
それ以外に何があるのだろう?
「ええ。私とは『違う』のが彼女です。幸運……それは本当に神様からの贈り物なのですから、大丈夫です。彼女はおそらく、誰よりも神様に愛されているのですから、四季様が心配なさらずともよいのです」
ふうっと、今度は時間が元通りになった。
教室のやかましい音が僕の耳もう一度入ってくるようになる。
「……夜闇」
「何でしょう四季様?」
「……さっきの、何?」
弥生ちゃんの時もそうだった。なんか時間がすうっと遅くなったような気がして……。
「……スーパーメイドパワーと言うものがありまして、それを四季様にかけると、『はいぱーめいどたいむ』になって……」
「……説明する気がないのはよくわかった」
不思議だけど、いくら不思議だからってまるでこの場で作ったような嘘にはだまされない。
「……そうですか。……あ、そろそろ暴力女が零にとどめを刺しそうな勢いですが、どうしましょう?」
「……止めてきて」
「御意」
うん、幼馴染に人殺しにはなってほしくないからね。止めなきゃ。
すっと夜闇は間宵ちゃんの前に立った。
「……んだよ!今私はこいつを」
「……」
「みぎゃっ!?」
クルリ、ダン!
夜闇が少し手を動かすと、間宵ちゃんはひっくり返って床にたたきつけられた。
「な、て、てめえ……いつの間に、こんな力を……!」
天井から夜闇を見上げながら、間宵ちゃんが言った。
「……メイドと言うのは、ご主人様の命令があれば三倍強くなるのです。心得ておきなさい」
夜闇は間宵ちゃんに最大限の冷笑を浴びせ、あざける。対して間宵ちゃんは茫然とした表情で立ちあがり、次の瞬間には怒りの表情と感情をめいっぱいにたぎらせて、夜闇に……いや、こっちに…………いや、………もしかして……僕に向かってる?え、なんで?
「おい、コラ」
「な、なななななにかな……?」
ずんずんとまるで不良のような足取りで間宵ちゃんは僕のところに来た。
「だ、ダメです!四季君はやらせませ……ふぎゃ!」
間宵ちゃんの進路を阻もうとした弥生ちゃんが、一撃で視界から消えた。次の瞬間どっからがっしゃーんとすごい音が聞こえた。……だ、だいじょうぶ……かな……?
「……メイドはてめえの命令があれば三倍強くなるんだと」
「そ、そうみたいだね……?」
「ってことは、だ。……てめえが命令しなきゃ強くなれねえってことだよな……?」
あ、今心配すべきは弥生ちゃんの体じゃなくて、自分の体だったんだ。……なんて、後悔してももう遅い。
「……ええ、っと……その、零がね、その、危なかったから……」
「ちなみに、教えといてやる」
「な、なにを?」
冷や汗だらだら。体温急上昇。危険な状態に陥った男女は恋をするなんて話がどこかにはあるみたいだけど、僕に限ってはないようだ。……危険な状態に陥ってるの僕だけだし、原因は目の前に居るし。
「私はな、お前への怒りなら……」
あ、そう言えば次の時間なんだっけ。……数学、その次が英語、か。まあ、休んでも特に問題ない教科
かな。じゃあ、何も問題はないわけだ。……涙が出そう。
「三百倍は強くなれんだよおおおおおおおおおおおお!!」
ブツン。
意識が途切れる音なんて、初めて聞いたよ。……いつ起きれるかな……?




