第三十九話~朝の目覚めと信賞必罰!?~
夜中起こされたせいか、僕はその日の目覚めが悪かった。
体内時計はすでに朝を告げている。けれどいくら根気を振り絞ったところで眠気は飛ばず、目は覚めず。
「ううん……」
まどろみながら、起きなきゃ起ききゃと意識を総動員して起床に全力を注ぐ。
『うん、おはようみんな』
『はい、おはようです!』
『おはよう四季』
『おはようございます四季様』
『おはようお兄ちゃん!』
あはは、そうそう、こうやって今日も平和に日々を過ごして……
「起きて!お兄ちゃん起きて!早く起きないと一昨日の二の舞だよ!キッチンが!キッチンが爆発する!お兄ちゃん!」
「嘘でしょっ!?」
ま、そんなさわやかな朝なんてのは夢のかなたに吹き飛んでいて。
「……おはよう……四季君……」
「おはようございます、四季様……」
みんななぜか機嫌が悪い。と言うか顔色がよくない。
「やあ!今日もすがすがしく実にすばらしい朝だ!そうは思わないか四季!今日という日は今日限り、という言葉は誰が言ったものだったかは忘れてしまったがなるほど、実に的を得ている!今日という特別な日は昨日という特別な日とは全くの別物なのだ!それに気付かせてくれたのはそう、他でもない四季、キミとキミを存在させてくれていた世界なのだよ!キミが生きていると言うことはボクにとってとても喜ばしく、また同時にある種の幸福をもたらしてくれる!……まあ、つまりボクが何を言いたいか、というとだ。
……おはよう四季。今日もいい朝だね?」
「あ、うん。おはよう、零ちゃん」
なぜかいつもの冷静沈着な零ちゃんらしくない饒舌で感情的な口調だったが、でも、楽しそうだったからそれでいいか。
「……元気いいね。なんかいいことあった?」
四様が苦笑交じりに言った。
「あったさ!あったとも!ボクには何もない!なにもないが!それゆえに!四季の唇を、奪えたのだっ!」
……………………は?
「え?なんですかそれぇ!?私聞いてないですよ!?昨日零さん確かにほっぺたに、って……!」
「ふははは!そんなもの嘘に決まっている!ボクは目的のためなら手段を選ばない人間なのだ!」
小さい身体を大きく偉そうに反らせて勝ち誇る。
……かわいらしいな。まあ、感想としてはそれぐらい。
「……………っ」
「あ。……いや、よ、夜闇。待ってくれ。な?少し、少し茶目っ気を見せただけなのだ。それぐらい聡明な貴女ならわかってくれるだろう……?ほんの、ほんの冗談なのだ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………
と音が聞こえてきそうなほど何かの雰囲気をまとった夜闇に、さっきまでの威勢はどこへやら、零ちゃんはたちまち狼狽した。
「…………っ」
「ま、待ってくれ、お願いだ。ぼ、ボクは一般人……いや、正直言おう、その水準をはるかに下回る身体能力、耐久力しか持っていない。この前の戦闘で順当に勝ち上がれたのは科学の力添えあってこそのものなのだ。わ、わかってくれる……だろう?ぼ、ボクは障子紙よりも簡単に破けてしまう自信がある。……だから、な?」
なんの自慢だろう。そう思いながら、事の成り行きを見る。……決して、怒ってなんかないよ?うん、勝手に唇奪われたぐらいで、怒ったりするもんか。
……そう言えば、今何時だ?
「……………それはそれは」
「な?ボクは貴女のように強くはないのだ、だから」
「破った後の処理が、楽そうで何より……」
「…………!!」
ああ、もうそろそろ準備しないと遅刻してしまう。
「し、しき……!た、助けて……」
「…………………………ごめん、それ無理」
「そんなっ!?ご、後生だ、頼む……!」
「……それなりに、理想はあったのに」
「!!」
すぐに、キスのことだと悟っただろう。
うん、理想はあったのだ。告白して、いい返事をもらえて、その時気持ちを確かめあう時にそっと……とか。
「それは、その、悪かった……と、思ってる」
「うん、じゃあ。僕は準備してるから」
「ご無体なっ!?」
僕は黒い影をまとって悪鬼になりつつある夜闇になにも言わず……学校に行く準備を始める。
「………………御覚悟」
「ま、待ってくれ夜闇たのむ頼む後生だお許しをどうかご慈悲をお願いします何でもしますからっ!」
「………………御覚悟」
「ま、待って待ってすまなかった四季!勝手に唇を奪ったのは謝るから、謝るから頼むからその機会を設けてくれ、いやくださいお願いしま……ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
零ちゃんの悲鳴が朝のアパートに響き渡りましたとさ。
…………くすん。ファーストキス、だったのに……