第三十八話~暗闇の中での!?~
そ……。と微かな衣擦れのような音。
草木も眠る丑三つ時。
……と、いけないいけない。微かな音も今は立ててはいけません。
なぜなら、私、如月弥生は絶賛夜這い中なのです!
『私』にそそのかされた、と言うのもありますが、それよりも間宵さんにあんなことをされたから、というほうがわりかし多いです。私はもう、ここの誰にも隠し事をしなくていいのです!
それに、ライバルが四季君を狙っている以上、私は先手をうたないといけないのです!
……あ、四季君のお布団につきました。会って四日も経っていないのに、この人はスヤスヤと私達を警戒することなく眠っています。
戦いに身を置いていた私や『私』にはこの無防備さが不思議でたまりまん。
だって、こうして唇同士がひっついちゃいそうな程近くにいるのに、起きる気配も感じられない、なんて……殺してくれと言っているようなものです。
「……いただきまぁ~……す」
小さく呟いて、私は四季君の唇を――
ギラリ
「……弥生さん?」
「な、ななななんですか?」
いつの間にか、私の首筋にはきらりと光るナイフがひとつ。それもこれ、刃をつぶしていないから普通にこれ引かれたら私死にますよ?殺す気ですか夜闇さん?
「何ですか?それは私の言葉です。なぜ四季様の寝所に侵入しようとあなたは画策しているのです?」
「それは、私が四季君のことが好き、だからです」
「好きならば何をしてもよいと言うことにはなりませんよ?」
むう。正論を言われて少し黙る。
「じゃあ夜闇さんはなんでここにきてるんですか?まあ、どうせ私の気配を感じたとかそんなのでしょうけど」
「添い寝をさせていただきたくて」
「同じ穴の狢じゃないですか!」
ちなみにこの会話は四季君に聞こえたらまずいので本当に小声です。
「違います。私は従者、あなたは他人。その違いがあります」
「ほとんど変わんないですよ!?」
あれ、夜闇さんってこんなにお茶目な人だったかな?
「……それにしても、いきなり夜這いをするとは思いませんでした。私たちの中では一番常識人だと思っていたのですが」
四季君に絶対服従の夜闇さん。研究好きの零さん。それから戦闘狂の間宵さん。
……あれ、この状況でも私が一番常識人だと胸を張って言える気がするのはどうしてだろ……?
「と、とにかく、今日はもう寝ましょうか、夜闇さん」
「ええそうですね」
話を切り上げるため、私はそう言いました。
警戒させないためにも自分から布団に戻ろうとして……
ヒュッ
キラリ
「……むう。二人とも、故事成語の漁夫の利と言うものを知っているかい?誰かと誰かが争っていて、第三者がその利益をかすめ取る、というものだ。元となった話では動物相手だからうまく言ったのかもしれないが……人間同士ではうまくはいかないものだね?」
「それは自分のことを言ってるのですか?」
布団に入ったころを見計らって、零さんが自然な動作で四季君の布団に這入ろうとしました。もちろん拳で威嚇して止めましたけど。
「そうさ。軽い自虐のようなものだよ。……しかしだね。よくよく考えてみたまえ。ボクはこの場合また新たに争う側になるのかな?いいや、違うよ」
妙に自信のある零さんの口調に、私と夜闇さんはいぶかしみます。
「……どういうことですか?」
「ふふふ、そう急くな。急いては事を仕損じるぞ?そうだな、あえて言わせてもらおう。ボクはいまだに利をかすめる漁夫である、と」
「何言って……」
るんですか、と言おうとしたとき、零さんの狙いがわかりました。
「う、ううん……?」
そう言えば。私と夜闇さんは四季君を起こさないようにと遠慮して声をひそめていましたが、零さんは妙に声高にしゃべっていました。
今四季君の布団の横には私のと夜闇さんの布団とが敷いてあって、私と夜闇さんはそれぞれの布団に居ます。
でも、零さんは自分の布団から抜けだして四季君の布団の上に居るのです。
起きた四季君に一番最短にいるのは、零さん。
「やあ、おはよう、だな。今は草木も眠る丑三つ時。ボクのことは夢か何かだと思うといい。起こした罪を償いたい」
「ううん……?れい、ちゃん……?あれ、もうあさ……?……むぐぐ!?」
ちゅっ。
そんな湿った音が、四季君の唇と零さんの唇の間で起きました。あまりに一瞬で零さんが動いたので、私も夜闇さんも反応できませんでした。
戦闘に特化した私たちの目をかいくぐるなんて、零さんって何者!?……って、そうじゃなくて。
……え?
「……安心しろ。ほっぺただ。勘違いしてもらっては困る」
「あ、そうですか」
訂正です。四季君のほっぺたと零さんの唇とが合わさって、って、そうじゃなくて!
「何してるんですか!?」
「キスだ。罪滅ぼしのようなものだ」
「やってうれしいことは罰じゃないですよ!?」
「ふむ、ならば身体でも捧げようか?」
「いいですよ!」
もう、何考えてるんでしょうね、この人は!
「……ふふふ、明日が楽しみだな、二人とも」
「ええそうですね!」
「……そうですね」
私たちがわめきあっているのにもかかわらず、四季君は一瞬まどろんだだけでまた眠りにつきました。意外と眠りが深いんですね。一つ発見です。
……はあ、明日からどうやって攻めて行こうかな……?
まず明日起きたら零さんと話をつけないといけないな……と思いながら、私は眠りました。




