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第三十七話~決勝!そして!?~

 「……ったく、なんでてめえと戦わなきゃいけねえんだよ、夜闇」

 「いえ、戦う必要はありませんよ?」

 「は?」

 「降参します」

 「……マジで?」

 「マジです」




 そんな情緒もへったくれもない会話だけがかわされ、この如月の里主催の格闘大会は終わりを告げた。

 あとは、帰るだけ……だと思う。









 「……私は、この里に生まれました」


 まるで悪役が最後の締めに自分の出自を語るように、弥生ちゃんは自身の身の上を話し始めた。

 

 あまりにもあっさりとした決勝の後、表彰式を終えて、如月の長二人からおほめの言葉をいただいて、自室に帰って、しばらくした後のこと。

 

 さっきまでの愚痴のようなものではなく、純粋にどうすればいいかを、僕たちに訊きたくて話しているようだった。


 「でも『私』は優しすぎたのです。攻撃一つにもためらいを見せる、そんな優しい子供だったのです」


 でも弥生ちゃん、祖父母の屋敷でも、学校でも、結構暴れてたような気が……。

 いや、きっと気のせいですよね、はい。


 「でも、戦わなければいけなかった」


 そんなことよりも、ついさっきされた衝撃の告白についてはみんな突っ込まないのかな?


 「……ふうん、血に染まらなきゃいけない運命、ってやつか」


 うん、そこだよ、そこ。なんでみんな納得してるかな?ここ日本だよ?人殺しはいけません。


 「実戦訓練は、外国でやっていましたから……日本の法律には触れないと思います」

 「触れなきゃやっていいってわけじゃないよ!?」


 すかさず突っ込んでしまった……けど、うん、これは仕方ないよね?


 「……殺さなければ、殺されていたのです。正当防衛です」

 

 ……これ以上突っ込んだら日本の法律に大いに引っかかる気がしてきたので僕はもう突っ込まないことにした。確かに人殺しは悪いことだけど、うん、その、もう過ぎたことだし。これから先しなければいいこと何じゃない、かな……?


 「…………殺すには、覚悟が必要です。しかし、『私』は覚悟を決めれなかった。だから、別の誰かに肩代わりしてもらうことを祈った。願った。その結果が、私です」


 「二重人格、ってやつか?」

 「ありていにいえばそうなります」


 弥生ちゃん(これからは今の彼女のことを裏と言おう)は自分が作られた存在だと言うのに、意外とけろっとしている。


 「私ですか?『私』の願いは私の願い。『私』が私に汚れろと言うのなら、いくらでも汚れてあげますよ。……それに、戦うのは嫌いではない、ですしね」


 ……ええと、ここ一番の笑顔でそんな怖いこと言われても……反応に困っちゃうな、僕。


 「……ふむ、おそらく戦闘するための人格なんだろうな。だから戦うことにかんする物はなんでも好みになる。……つまり、今のキミは戦闘嫌いの四季があまり好きではないだろう?」

 「はい」


 即答……。


 「……と、言っても好きではない、だけです。『私』の記憶を引き継いでいるのであなたへの想いは覚えていますが、私は戦いを好まない武士らしくない殿方は苦手です」


 はっきりと言われちゃったよ。……好きな記憶を持っていてもなお嫌いだと言われる僕……。

 そんなに男らしくないかな?たしかに武士らしくはないだろうけど……。


 「で?どうすりゃてめえはいなくなんだ?」

 「いなくなりません。……しかし、私がいると言うことが『私』を困らせていると言うのもまた事実。……どうすればよいと思います?」


 やっと、本題に入った。


 ……つまり。弥生ちゃん(裏)はいなくならないけど、このままだと弥生ちゃんが困るからなんとかしてほしい、ってわけ……かな?


 「……難しいな。……ま、でもなんとかなんだろ。ちょっとこっちこいや」

 「え?」

 

 驚く僕に気にも留めず、間宵ちゃんは弥生ちゃん(裏)を連れて隣の部屋に……。ど、どうして?


 「……ほっとけ」


 そう言うと、昨日と同じく、二人は自分の部屋に消えたけど……なんか意味合い違うような?


 「……ボクはしばらく、そうだな、二時間ほどここに居ることにする。そっち方面はまだ、ボクには早いと思うからな」

  

 「わ、わたしはしばらくと言わず、もう今日は絶対にあっちに行かない!……食べられたらいやだもん」

 

 ふたりとも……何を言っているのかな?

 あはは、全然わからないなあ……わからないよ……。わかってたまるか!


 「……四季様」

 「夜闇」

 

 ふっと、後ろから夜闇が僕の名前を呼ぶ。

 見慣れた光景からか、四様も零ちゃんも特に何も言わない。二人で姦しく会話を楽しんでいる。

 その会話はどこか遠く、まるで別世界の様。

 

 まるで僕と夜闇だけが空間から切り離されたような気さえする中、夜闇は言った。


 「ご命令、完遂いたしました」

 「……ごめんね、夜闇」


 僕はまず夜闇に謝る。

 

 「いえ、命令の変更に少々戸惑っただけです。特に不満には思っていませんが」

 「……それでも、頑張ってただろう?それなのにいきなり『決勝戦で降参しろ』なんて……」

 「構わないのです。私はあなたの従者。

 従者とはただ従うにあらず。主人が間違っているのなら、正すのが役目。

 

 ……しかし、今回私は四季様に間違いがあるとは思いませんでした。よって、従ったまでです」

 

 「……それでも、ごめん」


 僕はもう一度、深く頭を下げた。


 「……四季様、頭をおあげください」

 「でも」

 「私は命令を完遂したのです。……謝られるよりは、その」

 「なに?」

 

 何かしてほしいことがあるのだろうか?それなら、僕にできることなら、なんでもする。


 












 「褒めてください、四季様」












 そのあまりにもかわいらしい頼みに、僕はつい頬が緩み、

 「いいよ。ありがとう夜闇。よくやったね」

 その雰囲気に流されるまま、頭をなでてしまった。


 「…………っ」


 一瞬夜闇は感極まった表情をして、でもすぐに無表情に戻った。

 「ありがとうございます。これからもなんなりとご命令を……」


 そう言った夜闇が言った瞬間。


 「で、だな、その理論を完成させた暁には、全ての人間が等しく人間を愛するようになって……おや、どうした四季?」

 「どうしたの、お兄ちゃん」


 ふっと、二人の会話が急に近くなった。


 ……いや、今までが遠かったのだ。

 ……一歩も動いていないはずなのに……どうして?


 「あ、いや、なんでもないよ」

 「そうか」

 「そう。……じゃあさ零さん、これは――」


 ……きっと、弥生ちゃんのことは間宵ちゃんがなんとかしてくれる。

 相談を受けて引き受けたら絶対に解決するのが間宵ちゃんなんだ。

 

 だから僕は、座って待っていよう。

 また、平和な日々が戻ることを確信して、僕は目を閉じた。


 こてんと、畳が頬に当たる感触がする。


 ああ、いい気持ちだ……


 くーー…………――

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