第三十三話~いきなし準決勝!?~
トーナメントの二十回戦。
参加条件はなし。
準決勝までは一試合3分で、降参させるか、気絶させるかすれば勝ち。殺しはご法度。
武器、魔法、何でもアリ。
……とまあ、ルールを簡潔に説明すれば、こんな感じ。
僕は殺し合いのようなドロドロとしたものを想像していたのだけれど、意外とクリーンで安心できた。
これで死ぬ、なんてことないだろうから。
でも、それでも。
みんなが戦うっていうのに観戦しかできない悔しさは、消えるどころか薄れもしなかったけど。
戦闘は苛烈を極めた。
……らしいんだけどね?
いや、正直僕の認識が甘かったとしか言えないよ。
なんにも見えないんだもん。コメントも描写もしようがないって言うか……
まあ、里の人たち同士の戦いなら、ぎりぎり見えるんだけどね?
間宵ちゃんとか弥生ちゃんとか夜闇とか零ちゃんまでもが僕の、いや一般常識の認識のおよばないレベルになっていて、戦っているのかどうかもわからないぐらい。
……手加減されてたんだな……ってつくづく思う。だからと言って感謝なんかしないけど。そもそも一瞬で人を半殺しにできるような力でなんの訓練もしてない一般市民(僕のことである)殴るなよな……
「ふむふむ、なかなか……」
睦月さんはそんな彼女たちを見てもなかなかどまりのようだ。
「そうですわね、なかなかやりますわね」
その隣の純和服の女性、睦月さんの奥さんである如月卯月さんが少し残念そうに言った。
「けれど、弥生が一番です」
自信に満ちた声で、卯月さんは言った。
よほど弥生ちゃんの実力を信じているのだろうか。いや、きっとそうだろう。でなければ……こんな言葉は出てこない。
そう思っているうちに、放送が流れ、次の試合の開始を告げる。
準決勝。
十三夜月夜闇と、心葉零。
二人の戦闘が今、始まろうとしていた。
「……やれやれ、暴力女と当たらなかったことを幸運と喜ぶべきか、キミと当たったことを悲しむべきか……。夜闇、キミはどうだい?」
不敵な笑みと共に夜闇に語りかける零ちゃんに、夜闇はため息一つついて、
「あなたとだけは戦いたくなかったのですが……これも運命、ですか」
氷のような表情をわずかに嫌そうにしかめながらつぶやいた。
「運命?それは四様の得意分野だろう。……ま、異常な運の良さは認めるが……弥生に当たってしまうことを鑑みれば、特殊能力というほどのものでもあるまいがね」
そう、四様は14回戦までは全て不戦勝で勝っていた。
でも、15回戦目で運悪く弥生ちゃんとあたり、戦闘開始と同時に降参するしかなくなった。
……たしかに、零ちゃんの言うように、少し疑問に思うところもある。あるけど、14回も不戦勝してれば、それは十分特殊能力なんじゃないだろうか……?
「確かにそうだったとしても、私にはそのようなこと、まったく興味ありません。今私がしたいのは、あなたを打ち倒すことです、零さん」
「おや、キミとボクの意見が合うとは、これはまた珍しい偶然があったものだね?ボクだって今すぐにでも弥生と勝負し、勝利を収め、四季に褒めて……いや、四季が一体自分のために動いてくれた人間にどう反応するのかが知りたいのだ。無駄話は置いておき、始めようではないか」
「ええ」
今一番僕が頭を悩ませていたのは、これだった。
四様を除くみんなが、ノッリノリで戦っている。
まるで心配した僕がバカみたいだ。
まったく……みんな好きだなあ……
戦ってもいいことなんて、ないのにね。
「では」
「うむ」
白い髪の科学者と、黒い髪の従者。
武闘派と、頭脳派。
本来なら絶対に相まみえるはずのない組み合わせの二人が、激突する。