第三話~食事時の恐怖!?~
「はう、あの、お、お食事、作りましょうか?」
そろそろ夕暮れ時、弥生ちゃんがそう言った。
「うん、ありがと」
僕はそう軽い気持ちで言った。
「四季様にお食事をお作りするのは従者たるこの私です」
「ボクは研究対象に餌をやる義務がある」
でも、最終的には一つしかない台所を取りあう結果になってしまった。
「い、いえ!わ、私が作るんです!」
「私です」
「ボクだ」
弥生ちゃん以外は口調こそ大人しいが、絶対に引こうとしない。
「……ねえ、一人ずつ作ったら?」
僕は毎日交代して作ったらどう?って言ったつもりだった。
本当に、それ以外の意味はなかったはずなんだ。
「そ、そ、そうですね!じゃ、じゃあ、私から作ります!」
そう言って料理に向かったのだけれど、さっきみたいに二人が割り込もうとはしない。
わかってくれたのかな?
しばらくすると、料理が出来上がった。
「あ、あの、少しだけ、待っててください!」
そう言って、どんな料理ができたのかは見せてくれなかったけど、きっとおいしいんだろうな。
と。そう思ったのもつかの間。
今度は夜闇さんが料理をし始めた!?
「え、ええ!?な、なんで夜闇さんまで!?」
「夜闇、とお呼びください」
料理を作ったまま、僕に呼び掛ける夜闇さん……じゃなかった、夜闇。
「よ、夜闇はどうして料理を?」
「決まっています、私の番だからです」
ええと、なんで?
僕は戸惑いながらも、ああ、明日の朝ご飯作ってるのかな?とか勝手に納得しておく。
「完成しました。では」
と、やはり料理は見せてくれなかった。
次に、少しは予想してたから驚かなかったけど、やっぱり零ちゃんまでもが料理に取り掛かった。
「……なんで?」
集中しているのか、零ちゃんは答えてくれなかったけど。
「……できた。ではみんな、お披露目といこうか」
零ちゃんがそう言うと同時に、僕の目の前に三つの料理が差し出された。
三人ともの料理全てがとんでもない量があり、どう考えてもその量を三つも食べるなんて、無茶もいところだった。
「え、ええと?」
「た、食べてください!」
「食べてください」
「食べろ」
だから、なんで?三つも?し、しかも……
それ、本当に料理って呼んでいいの?
三人共の料理がみんな、その、なんて言うか……作ってもらったのに失礼なのは重々承知だけど、正直ゲテモノ料理のほうがまだおいしそうだろうというほどの出来だった。
「……こ、これ、なに?」
弥生ちゃんのぐつぐつと煮立っている鍋を指して、言う。
弥生ちゃんの気弱そうな正確に反して、その料理は自己主張の激しい赤が主体の辛そうな料理のようなものだった。
「こ、これですか?か、カレーです!」
カレーって、茶色いよね?
そう突っ込んだら負けな気がした。けど、勝ってもない。
「あの、よ、夜闇?」
「肉じゃがでございます」
ございますって、……け、消し炭にしか見えないんだけど……
炭になってしまった、というよりはもともと炭を作るつもりだったんじゃないかってほどきれいな炭化っぷりだ。炭として使えても、食べられはしないだろう。……食べさせませんよね?
「ええ、と、零ちゃんのは?」
「……う、うどんだ。これしか作れなくてな。で、でも!これ、ボクはよく研究所で食べていたんだ、特に問題は……!」
あるでしょうよ。だって、うどんのスープに錠剤がいくつもいくつも浮かんでるんだもん。
ケミカルすぎて食べる気起きないよ……健康にも悪そうだし。
「……あ、あのあのあのあの!ど、どれが一番おいしそうですか!?」
「私のものに決まっています。料理は肉じゃが。『月』でもそれが一番だと……」
「ボクのだろう。研究所でも評判だったんだぞ?」
「な、何を言うです!私自信作なんですよ!?あ、味見もちゃんとしたし、調味料も間違ってません!私のが一番おいしいんです!……ですよね、し、四季君」
「何をおっしゃいます。私は従者。従者は主人の好みを完全に把握できています。事前調査でも、四季様は肉じゃがが好きだとありました。私に負ける道理はありません……ね、四季様」
「ふん!そんな食べたら死にそうな料理を出すなんて神経を疑うね!キミたちもっとちゃんとした料理を作れないのか!?この調子だと僕が一番のようだな!どうだ、四季!」
……間宵ちゃんの牛丼が食べたいな……
とか言ったらきっと泣かれるんだろうな~とか思いながら、僕は油汗をかきながら三つの料理を眺めた。
いちばん右。赤々しくて味は想像できる。……正直、これが一番病院直行コースなんじゃないだろうか。
真ん中。黒々しくて味は想像できる。……これは将来的に危ないんじゃないだろうか。焦げって発癌物質だって聞いたことあるし。
一番左。真っ白けっけで味は想像できない。うどんの白に、錠剤の白。これが一番安全に見えてきた僕は、おかしいのだろうか?
悩んで、悩んで、悩んで……最後に僕が出した結論は。
「僕と勝負しよっか。もし僕が勝ったら自分で作った料理は自分で食べること!じゃあ、料理を作るよ――」
結果、僕の圧勝。でも、彼女たちは自分の作った料理を笑顔で食べてましたとさ、ちゃんちゃん。
……なんだか、料理係は僕になりそうな予感だな。




