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第二六話~違和感、そして始まり始まり!?~


 くらっ。

 

 「うわっ!」


 僕は駆けて、ふらついた弥生ちゃんを抱きとめた。


 「……あ、すみません、四季君。ふらついてしまって」


 弥生ちゃんは僕にもたれながらしっかりと立った。

 ゆっくりだけどふらついてはいないから、多分大丈夫だろうけど、何かあったのかな?


 「大丈夫?」

 「大丈夫です。気にしないでください」

 「う、うん……?」


 何か違和感を感じながらも、僕はまた里に向かって歩き出す。


 僕が抱いていた武術の里のイメージは、森に囲まれていて、古い昔ながらの家が立ち並んでいて、それで住人の人たちを見ても一見普通なんだけど、実はめちゃくちゃ強いとか、そんな誰でも抱くようなものだった。

 

 実際は山に囲まれていて、森にも囲われているんだけど、しっかりと開発は進んでいて、家もところどころに洋式のものがある。


 「……ふむ、弥生。少しみんなに里を案内してやりなさい」

 「はい、お師匠様」


 すっと流れるような動作で弥生ちゃんは先頭に立ち、目の前の山と森に囲まれている細々とした村を手のひらで指して、言った。


 「あれが私たち如月戦闘術の親元、如月の里です。過去四百年にわたって練られ、今もなお進化をつづけている実戦仕様の戦闘術、それが私たちの武術ですが――」


 小さいころから何度も聞かされているのだろう、弥生ちゃんの説明はよどみがなく、流ちょうだった。


 弥生ちゃんの説明は里のことから武術のルーツまで多岐にわたって、道中僕らはほとんど暇をしなかった。


 「……では、つまらない私の説明はこれまでにして、あとは里の皆さんとあいさつや、少しの会話でもしていただけたら、と思います」

 「へえ~すごいね弥生ちゃん!」

 

 締めくくりまで上手だった弥生ちゃんに、僕はつい拍手して褒めてしまった。


 「……ありがとうございます」


 僕のお礼を受けて、微笑みと一緒にぺこりと頭を下げる弥生ちゃん。


 「……」


 でも、すごいと思っていたのはどうやら僕だけのようで、他の四人はしかめっ面で黙りこくったままだった。


 ……何か面白くないことでもあったのかな?


 「……なあ、四季」

 「今はいけません」

 「今はダメだ」

 「今はダメよ」


 口を開こうとした間宵ちゃんは、三人に同時に止められた。


 珍しいことに三人の忠告に間宵ちゃんは従い、「……悪い」と言って黙ったのだ。


 しばらく僕たちは農村さながらのあぜ道を歩き、田舎らしい風景を堪能する。

 でも、みんなのしかめっ面がなおることはなく、僕だけがはしゃいでいるみたいな雰囲気で妙に居心地が悪かった。



 「……みなさん、ここがみなさんに宿泊していただく旅館です。……では、行きましょうか」


 指されたのは、一際荘厳な旅館だった。


 手入れが行きとどいていて、くすみ一つ見当たらない外観。全部木造だからこその重圧感。

 この前の成金趣味の屋敷とは大きく違い、この旅館からは歴史と威厳が感じられた。


 「いらっしゃいませ。『秀句様』ですね?」

 「はい」


 弥生ちゃんは出て来たおかみさんに慣れた感じで応答している。

 ここも顔みしりだったりするのだろうか。


 「……みなさん、部屋は二つあります。四季君、四様ちゃんで一室。他の皆さんは私と同室と言うことになります」

 

 師走さんはこの里に家があるから、そこで寝泊まりするようだ。って当たり前か……。


 ……僕と四様、かあ……。うわあ、またなんか言いあうだろうなあ……


 「……わかったわ。お兄ちゃんと一緒ね?」

 「はい」


 と、思っていたんだけど、意外とみんな了承した。……なんかみんな聞きわけよすぎない?いつものパワーはどうしたんだろう?


 「……では、今日は各自自由に過ごしてください。散策するも、休息するも自由です」

 

 弥生ちゃんの言葉で、今日は解散となった。










 ……なんかみんな大人しいな?

 そう思ったのは、どうも僕だけじゃないみたいだ。










 「……お兄ちゃん、変だとは思わない?」

 

 与えられた自室に入って、四様がすぐにそう言った。

 僕たちの部屋としてあてがわれたのは、絵にかいたような旅館の和室。

 6畳ぐらいの畳に、緑色の壁。押し入れがあって、中にはきっと布団とかが入っているのだろう。


 「変?確かにみんななんか大人しかったけど……」

 「違う違う。弥生さん」

 「弥生ちゃん?」


 ……まあ、確かに違和感を感じるところはないわけじゃないけど……


 「特に?間宵ちゃんたちよりかはましじゃない?」

 「……そう。お兄ちゃんってやっぱり鈍いね。程度で言うと『俺、ずっと管理人さんのお味噌汁が飲みたいんだ!』って熱烈な視線で言われてるのに何にも感じない超有名漫画の管理人さんレベル」


 「……それって、鈍いのか……」


 てか、四様ネタが古すぎるぞ。……僕も読んだからわかるけど、四様の同世代で今のわかる人いるんだろうか? 


 「……鈍いわよ。一緒にいて気付かなかったの?」

 「何に?」


 僕がそう言うと、四様は憐れむように僕を見た。

 そして天を仰ぎ、胸の前で手を組み、懇願するように言った。

 

 「……神様、どうかお兄ちゃんの鈍感が治りますように……」

 「神様に頼むほど僕は鈍いのか!?」


 僕は反射的に突っ込む。

 

 「……突っ込みは早いのに」

 ぼそりと言って、四様は部屋を出ようとした。


 「どこ行くの?」

 「弥生さんのところ。聞きたいこといくつかあるから」

 「行ってらっしゃい」

 「行ってきます」


 そんなありふれた会話を終えると、四様は部屋から出て行った。


 ……独りきりになった。


 暇だな……。

 三秒で思う。


 ……疲れたし、寝よっと。


 布団も敷かずに、僕は横になる。

 まあ、仮眠みたいなものだ、わざわざ布団を敷くまでもない。

 ……めんどくさいってのが、一番の理由だけど。

 すぐに眠気は襲ってきた。













 「……訊きたいことがあるの、いいかしら、弥生さん?」


 私の問いに、弥生さんは「いいですよ」と微笑んで言った。

 間宵さん夜闇さん零さんも私の隣で弥生さんをいぶかしげな目で見ている。

 

 「じゃあ、まず一つ目……」


 さあ、なぞ解きゲームの始まりよ。

 まずは聞き込み。


 最初の証言者、如月弥生。

 

 いざ、開始。

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