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第二五話~到着、そして不穏な影!?~


 その日から、一週間。

 一週間で、私をいじめようとする人は、クラスにはいなくなりました。仲良くはなれませんでしたけど、私をいじめようともしません。誰が止めてくれたのかは、簡単に推理できました。


 お礼がしたいな。 


 きっかけは、ほんの些細なことでした。

 知らないなんて、私は言えません。


 『……あ、あの!』

 

 私は、さりげなくを装って、でも全然できなくて、おたおたしながら楽しくおしゃべりしていた四季君に話しかけました。


 『なに?如月さん』


 『あ、あの……き、来てくれ、ませんか?』


 今からしたら、なんて大胆なことをしたんだろう、って思いました。ついてきてくれないかも、って思いました。


 でも、四季君は笑顔でいいよと言ってくれました。


 私は冷やかされながらも、四季君を屋上に連れ出すことに成功しました。


 その時の会話は、昨日のことのように思い出せます。














 「……ねえ、四季君」

 「なあに、如月ちゃん、こんなところに呼び出して」  

 「弥生」

 「え?」

 「弥生って呼んで?」

 「……弥生、ちゃん?」

 「……ありがと、四季君。……四季君は、さ。なんで私のこと助けてくれたの?」

 「……なんで?……なんでだろうね?」

 「わからないまま、見ず知らずの私を助けてくれたの?」

 「ううん、見ず知らずなんかじゃないよ」

 「え……?」

 「クラスメイトだろう?なら、助けあわなきゃ」

 「……そ、そんな」

 「え?」

 「そ、そんな単純な理由で、私を?私だからじゃなくて、クラスメイトだから?」

 「そうだよ?」

 「……っ!」

 


 








 衝撃、でした。

 夢に見ました。思い馳せました。

 でも、全部幻想だったのです。


 私のことを見ていてくれたんじゃないか、っていう夢は夢のままで。

 私のことを好きなんじゃないかという希望は絶望になりました。


 私が特別だからじゃない。私がクラスメイトだから、助けた。

 もし、別のクラスだったら?

 もし、どこかの路地だったら?


 私は、助けてもらえなかったの?


 訊くことは、できませんでした。


 気が付いたら、走り出して、いましたから。


 









 その次の日、決心しました。

 『私は、出家します』

 

 お父さん、如月 睦月むつきとお母さん、如月 葉月はづき


 大切な話があると前置きして、私はこう言いました。


 『……本気か?』

 『どういう意味かわかってる?』


 いまだに戦闘こそが世間を渡る方法だ、なんて信じている田舎です、出家なんて家出の理由でも、嘘だとはすぐにはわからないのです。


 とにかく、この家から、こんな血と闇にあふれたこの里から、一刻も早く出なくては――


 私はそういう思いで、一心に両親を説得し、見事許可をいただきました。


 もちろん、お寺になんか行きません。尼そぎなんてやってられません。


 行くのは、……その、尾行して調べた、四季君のおうち。


 古い、年季の入ったアパートです。

 

 私の決心。それは、四季君のところに押しかけて、一緒に住んでしまおうと言うものでした。

 私は特別じゃなかった。じゃあ、特別になればいい。


 そんな単純な道順で、私は今まで嘘もついたことのない両親に嘘をつきました。


 もしかしたら追い返されるかも。もし住まわせてくれたとしても、襲われちゃったりするかもしれない。 

 ……もちろん、後者は大歓迎ですよ?


 四季君が部屋に入るのを見計らって、四季君部屋の扉の前に立ちます。


 すると、私の他にも二人ほど、おんなじことをしようとしている人がいました。

 

 『……同時に行きましょう』

 『そうですね』

 『だな』


 変に騒いで四季君に嫌われたらどうしよう……


 私たち三人は、瞬時にそう考えたのでしょう。意外と喧嘩することなく、私たちは扉をノックし……








 『はい?』








 そして、私の新しい生活は始まりました。














 ……あ……


 「ここが、如月の里かあ……きれいなところだね、弥生ちゃん」

 「は、はい!」


 出家の話をした時に一度帰って来たけれど、なんだか一年ぐらい来ていないたいでした。

 つい昔のことを思い出すぐらい、郷愁の思いにかられていました。


 ここに来るたび、私は嫌な嫌な気持ちになります。


 ……ここが私の闇を生みだした場所。

 

 私の闇を、四季君は知らない。知られてはいけない。

 でも、その四季君の隣で私は、何も知らない少女のように振る舞っている。


 闇を隠して、何も知らないかのように。


 「……へえ、きれいじゃんか」


 間宵さんが言います。

 間宵さんは帰れないかも、知れませんね。


 私は少しだけ、慣れない未来予想なんてしてみます。

 でも、きっとこの予想は当たると思います。


 

 「……」

 夜闇さんが、少し顔色が悪いです。なんか、胸のあたりを押さえて、苦しそうです。ここの空気、そんなに薄いわけじゃないんだけどなあ……?

 

 「……四季様、この里、雰囲気が少しだけ……」

 「なあに、夜闇?具合悪そうだけど?」

 「……いえ、大丈夫です」


 そう言うと夜闇さんはなんでもない振りをして、ぴんと胸を張る。

 私の緊張も、同時に張られました。


 なんで、夜闇さんは気付いたのでしょう?

 『月』という組織が何かは知りません。けれど、相当な能力を持っているようです。

 私は緊張を隠したまま、四季君の隣で里に向かいます。


 「……ふむ、興味深いな」

 ぽつりと、零さんがつぶやきました。私はそれにどきりとしました。

 

 「なんでだよ、零」

 「……意外なのはキミだ。何故キミは気付かない?……ああ、そうか、完全な一般人は、キミと四季だけか……」

 「はあ?何言ってんだよ、零」

 「……いや、忘れてくれていい。へぼ研究者のたわごとだと、聞き逃してくれ」

 「はいはい、わかったよ」


 ……どうして、零さんまで?

 普通はどうあっても気付けないのに……。


 あと少しで、里につきます。

 あと少しで、四季君が私の生まれ故郷にきます。


 「……四季君」

 

 あと一歩で、里の領域です。


 「なあに、弥生ちゃん」


 「……ありがとうございます、私の里に、来てくれて」

 「気にしないでよ。旅行気分だし、めちゃくちゃ楽しんでるから」


 ……胸が痛みます。


 「そうですか」


 四季君が里に入りました。








 ―――一名、確認――





 声が、聞こえました。

 わかってます。いちいち言わないでもわかってます。


 「……四季君」

 あと一歩で、私も里に入ります。

 でも、私はそこで歩みを止めました。


 「……どうしたんだよ、弥生」

 「なんでも、ないです」


 私のことを気にせず、間宵さんは里に入りました。


 ――二名、確認――


 どうやら、夜闇さんも一緒に入っちゃったみたいです。


 「どうした、弥生。……何かあったのか?」

 「いいえ?なにも」


 勘のいい零さんも、首をかしげながらも、私の横を通り過ぎ、一歩。里に入りました。


 ――二名、確認――


 「……どうしたの、弥生さん?しんどいの?」


 朗らかな笑顔を、里に入った四様ちゃんは私に向けました。


 ……これで、全員。


 「……おい、早く入らんか」

 「……はい」


 先にお師匠様が入りました。


 もうこれで私の後ろには誰もいません。

 いません。いません。


 いないのです。



 「早く行きなよ。怖いの?」


 いないのです。後ろには、誰も、いません。


 いません。いない。いない。


 「……いま、行きます!」


 心配し始めたみんなに気付いた私は、そう言って一歩、踏み出しました。

 ……これで私も里に。如月の里に入りました。







 




 ……さよなら。














 私は気を失いました。

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