第二四話~如月弥生の思い出話!?~
闇。
私の中って、それだけです。
暗くて黒い、それだけです。
私は私、なんて甘えた言葉も言えないくらい、真っ黒に染まっちゃってます。
助けて、苦しい。つらい、悲しい、さびしい。
そんな感情が全部バッサリ消えてるんです。
あの人たち――去年私をいじめていた人たちも、きっと、私の泣き顔見たことないと思います。
だって、そう感じないように生まれた時から訓練されてるんです。
何をされてもなにも感じないように、訓練されてるんです。
親に殺されてもなにも感じないように、鍛えられてるんです。
幼いころからそんなことばっかりやってたら、誰だって私みたいになります。だから、私の家――如月家の人間はみんな仲良しです。
だって、他人を憎むよう『作られて』ないから。他人を愛することしか知りません。愛されなくても、何も感じません。うれしい、気持ちいいは感じるのに、苦しい、痛いは感じません。
変ですよね?でも、私にとっては変じゃなかったんです。
それが、当然のことだと思ってました。
そして、私も家族と同じようなものだと、信じていました。
……でも、でもです。
今でも……忘れません。
『何やってるんだ、君たちは!』
本気のどなり声でした。
『うわ、やば、暴力姫の金魚のフンよ』
彼女たち――私をいじめていた人たちは、そう言って『彼』をけなしました。
『それで?僕がフンなら、君たちは?他人をいじめて悦ぶ雑菌かな?』
今では信じられないことですが、『彼』はとっても傲岸不遜に、そう言ったのです。
『……調子乗ってんじゃないわよ!何よ、あの暴力姫なんかと一緒にいちゃって!あんな女私たちにかかれば……』
『……だってさ、間宵ちゃん』
『え……?』
そう言えば、ここはどこだったでしょう。たしか、廊下でした。先生も友達も見ているはずなのに、誰も助けてくれなかったんでした。
『……よお、私がなんだって?』
強い――
私は訓練を受けていました。だから、一目で彼女の実力がわかったのです。
里にいた誰にも負けないような強い思い。
それが、彼女の力の源だということも、すぐにわかりました。
『ひっ……!』
『私はな、強い奴と戦いてえんだよ。……お前ら、強いんだってな?よし、上等だ、やろうじゃねえか。武器だろうがなんだろうが自由に使えよ。私は勝つ』
助けられた、ということは頭に浮かびませんでした。
ああ、早くこの人の戦いが、戦闘が見たい。
私はそう強く思いました。
一般人に力を振るってはならない、そんな不文律も忘れて、とびかかりそうになりました。
でも、私が望む瞬間は訪れませんでした。
『……間宵ちゃん、ダメだよ、喧嘩は』
『……ったく、しゃあねえな、……お優しいんだな、四季は』
そう言うと間宵ちゃんと呼ばれた人は、いともたやすくあんなに大きな闘気を消してしまいました。
『……あ……あ……』
『早く消えたらどうだ?私の気が変わる前にな!』
『は、はい!』
間宵ちゃん、ではなく四季、と呼ばれた男の子に敬礼すると、彼女たちはどこかへと消えてしまいました。
『大丈夫?』
さっきの傲岸不遜な態度はどこへやら、とても優しげな顔を私に向けて、手を差し伸べます。
その瞬間、私は直感しました。この人は私を助けるためだけに、あんな演技をしたんだと。
生まれて初めてのことでした。誰かから、助けられた、なんてことは。
里にいた時はもちろん、都会に来てからも、誰一人助けてくれる人なんて、いませんでした。
だから、でしょうか。
『……ほ、ほっといて、く、ください……。わ、私一人で、な、なんとかできました……』
そんな、心にもないことを言ってしまったのです。
でも、違和感に気付きました。
知らず知らずのうちに、助けてくれた四季さんの反応をくまなく、細かいところ――心拍数や体温の変化などです――まで探っていました。
『……そう。じゃあ、何かあったらまた助けるよ。おせっかいを焼かせてくれるかな?』
私が想像した、残念がる様子や怒った様子は全く見られませんでした。でも、その代わりに感じたのは暖かい、本当に澄んだ親愛の情。
『……は、はい……』
……あ、れ?
気がつけば、私はそんな返事をしていました。
もっとひどい言葉で袖にするつもりだったのに。
なぜ、私はこんないい返事をしているのでしょう?
答えはすぐに見つかりました。
私は、彼に恋をしたのです。
私は生まれて初めて、こんな身体に生まれたことを、如月の里で訓練したことを真剣に、どうしようもないレベルで悔みました。
こんな、闇に染まった女の子なんて、絶対に好きになってもらえない――
私はあきらめました。あきらめたつもりだったのです。
……でも、私自身、気付いていなかったのです。
私の闇は、果てしなく深く、大きいことを。