第二十三話~如月の里へ、レッツゴー!?~
如月戦闘術。
殺すためにある武術だそうです。
「ま、わしらのことはどうでもいいんじゃよ、この際」
そう言ったのは、大型ワゴンの運転席に座る如月師走さん。
「どうでもよくはねえだろ。世界一の武術だぜ?」
助手席に座ってその世界一の武術の師範にため口を利く間宵ちゃん。
彼女は僕らが車に乗る算段が付いてようやく先生たちのお説教が終わったみたいだ。弥生ちゃんよりもお説教が長いのは普段の行いが悪いせいだよ、と僕が言ったらまた殴られた。気絶はしなかったけど。どうもお説教が効いているらしい。
「そ、そ、そうですよ……お師匠様」
僕の右隣に座っているのは、おどおど度がいつもの三割増しぐらいの弥生ちゃん。
どうも師走さんは弥生ちゃんの保護者兼師匠というらしい。
「いーや、そんなことよりも弥生の縁談の方がはるかに重要じゃよ。どうせすぐ廃れる運命にある武道なぞ、もはやどうでもよいわ」
「……そのような悲観に走るのはまだ先でもよろしいかと」
僕の左隣は、学生服から一転、メイド服に着替えた夜闇。
「ま、事実なんだ、仕方ないだろう」
僕の後ろの席で冷淡に切り捨てるのは、学生服の上から白衣をはおった零ちゃん。
「そうかしら?意外と長持ちしたりして、ね?」
そう思わせぶりな言葉を発するのは、車でアパートまで迎えに行って連れて来た四様。
師走さんを除けば総勢六名。
「……それにしてもずいぶん大人数じゃな?」
思わず、といったふうに漏らした師走さんの気持ちがわからないでもない。
しかも僕以外の全員が女の子だし。
「……ふむ、そうかそうか、理解したぞ」
「何をですか?」
僕は訊く。もちろん敬語。
「この子たちも嫁候補じゃな?」
「違う!何勘違いしてやがんだじじい!」
「私は妹ですよ?」
だが、否定したのは四様と間宵ちゃんだけだった。
……え?
「ふむふむ、お前さんは違うのか……おしいのう」
「何がおしいんだよ」
間宵ちゃんがいぶかしげに訊く。
「その腕と肩、それから脚の筋肉の付き方が格闘家のものじゃからな、てっきり、な」
「……わかってんじゃねえか」
格闘家、と言われて嬉しがるなんてどこの少年漫画の主人公ですか、間宵ちゃん。
なんて言ったらまた気絶だろうな……なんて思いながらも、車は進む。
高速道路に入ってもう二時間。師走さんの話ではそろそろ着くらしいけど……
「さて、一つ言っておかなければいかんことが一つだけある」
高速道路を下りた時点で、師走さんが神妙な面持ちで口を開いた。
「今から行くところは如月戦闘術の里、つまり住人全員が戦闘員、というような現代社会とかけ離れたところじゃ。今回は婿を迎える、という名目で四季殿を連れていているわけじゃ」
全員がうなずく。
「じゃが、おまけがあまりに多すぎる。……まあ、一人は肉親じゃから構わんが、それ以外の人間が多すぎるわけじゃ。……じゃから、選別をする必要がある、と言い出す者がおるかもしれん」
「それって、みんな同士で戦えってこと……?」
僕は不安げに言う。だ、だって、みんなが戦うところなんて、僕見たくな
「……いいじゃねえか。おもしれえ。おい弥生、さっきの決着、向こうでつけねえか?」
「い、い、いいですよ?わ、私も、その、あの、間宵さんとは、その、戦いたかったなあ……って、ちょ、ちょうど思っていたところですからっ!」
「私は相手がだれであろうと、勝利します。それが私の意味なのですから」
「……ま、実験したいのはまだまだあったし、戦闘なんて趣味じゃないが、四季の研究の妨げになるものは排除しなければな。受けて立とう」
「……私の能力、戦闘でも役立つか疑問だったの。使えなきゃギブアップすればいいし、別に私はいいわよ?」
みんな、なんでそんなにノリノリなの?なんで四様までそんなこと言うの?お兄ちゃん悲しくなちゃうよ?
「……いや、ノリノリなのは構わんが、戦うのはお主ら同士じゃないぞ。里の者たちと戦って、それで実力を認められれば、弥生と共に四季殿を取り合っていい権利を得られる」
「ちょっと待てじじい」
「なんじゃ」
めちゃくちゃ偉そうな間宵ちゃんの言葉に全く不快の意を示さないのは、大人の冷静な態度なのか、それとも師走さんの中ではそれが当たり前なのか。
絶対に前者であってほしい。
「なんで、弥生が嫁なのが前提なんだよ。おかしいだろ」
「……ふん、ただの順番じゃ。それとも、勝つ自信がないのか、おぬしには?」
「あるにきまってんだろ!どうせ弥生みたいなのばっかなんだろ?なら余裕だぜ!さっきも全然私の勝ちだったからな!」
……ほんと、変なところで見栄張るあたりも男みたいだな、間宵ちゃん。
「……ふはは、その言葉、忘れるなよ?」
「ったりめえだ!」
そう間宵ちゃんが叫ぶころには、車は右も左もわからないような森の中に入っていた。
目的地はもうすぐだ。