第二十二話~三月ちゃんと、十二月さん!?~
「……誰?」
「私にもわかりません」
「ボクにもわから……いやもしかしたら……」
まったく正体不明のおじいさんの正体の見当を一瞬でつけた零ちゃん。
「……心あたりがあるの?」
「おそらく、……弥生の保護者だろう」
「保護者?なんで?」
まさかただ喧嘩しただけで親が出てくるわけがないし、いたとしてもあんなおじいさんではないだろう。
「なんで?四季はもう忘れたのか?弥生は唯一『親の承諾を得ずに』キミの家に寝泊まりしている人間だぞ?」
「あなたはどうなんです、あなたは。研究所から逃げて来たと言っていたではありませんか」
「ボクは違う。ボクはあそこで働くのはごめんだと思ったから自主退社したようなものだ。親はもうとっくに死んでいるのでな。心配してくれる人間などいないのだよ」
零ちゃんは笑いながら言った。親がいないのは零ちゃんにとってあまり悲しいことではないらしい。それとも、悲しいのを無理して隠しているのかな……?
「さて、四季。もしかしたら今日明日中には弥生がいなくなるかもしれんぞ」
「……なんで?」
「いくらキミでもわからないわけはないだろう。保護者が来たんだ、目的は一つ。どこの馬の骨ともわからん輩から愛娘を取り戻すためだよ」
「零さん、四季様は馬の骨では……」
「親御さんから見たら馬の骨にしか見えないだろうね。娘を誑かしたにっくき仇……なんて思われていても不思議じゃない。……あ、そうそう、おそらく弥生の保護者は如月戦闘術の党首だろう。
四季、骨の十本二十本で済めばいいな?」
さあーっと僕の顔から血の気が引いて行くのがわかった。
子供の弥生ちゃんでもめちゃくちゃ強い如月戦闘術。その党首が僕に怒ってその力を振るったら……!!
「……どういうことですか、零」
「ま、運悪かったり虫のいどころが悪ければボクたちは翌日にでも葬式の準備をしなきゃいけなくなる、ということさ」
「そんな!」
夜闇は悲しそうに言うが、僕はそれどころではない。
こ、殺される……?
確かに僕と弥生ちゃんは一緒に暮らしてる。でも、やましいことなんか何一つしてないし、誑かしたりもしてないよ!?
「………ふむ、グラウンドにいた彼らはどこに行ったのだ?」
ふと、零ちゃんが外を見て、今まで走りまわっていた二人の姿が忽然と消えていることに気付いた。
え、と僕が疑問に思うと同時。
「がははははは!わしから逃げようなぞ、百年早いわ、弥生!」
「は、はう……」
がらりと、呵々大笑しているおじいさんが脇に弥生ちゃんを荷物のように抱えて保健室に入ってきた。
「……あ、あああああ、あの、……あ、あなた、……は?」
僕は弥生ちゃん以上におどおど、おろおろ。
「……ううん?お主はなんじゃ?」
しかも質問に質問で返された。
「ええ、っと、僕は秀句四季、です……」
「わしは如月 師走じゃ。……ふむふむ、そうか、お主か?」
そう言いながら、如月 師走さんは僕を品定めするようにじろじろと全身を見回す。
「な、何がです……?」
ちなみに、夜闇も零ちゃんも師走さんに圧倒されているのか、それとも下手に動いたらまずいと感じているのか微動だにしない。僕だってできることなら動かない側に行きたい。でも、どう頑張っても師走さんの視線は僕に釘付けで、動こうとしない。
それが敵意か親愛かは、まだわからないけど……。
「弥生を誑かして自分の家に連れ込み、うちの弥生を好き勝手しているのは、お主じゃな?」
あ、死んだ。
僕はそう思った。
「え、あ、あの……、ぼ、僕は……あの、」
「お、お、お師匠様!わ、私は、私から四季君の家に行ったの!四季君は悪くない!」
「弥生は黙っておれ」
「は、はう……」
「ええっと……僕は、何もしてません」
「ほう、何もしてない?」
「は、はい」
「キスも?」
「は、はい」
「……えっちもかの?」
「「はい!」」
最後の質問は僕も弥生ちゃんが顔をまっかにしながら答えた。
「……なんじゃ、面白くない……」
とん、と優しく弥生ちゃんを地面に下ろした師走さんは、しかめっ面でそうつぶやいた。
「え、今なんと……?」
僕がおっかなびっくりに訊いた。
「面白くないと言ったのじゃ!お前さん仮にも男じゃろう!かわいい女子とひとつ屋根の下にいるくせに、手も出せんのか!?情けないにもほどがあるわ!」
ええ、えええ!?
なんかめちゃくちゃ不条理なことで怒られてませんか、僕!?
「あ、あのあの、お師匠様、なんでここに……?」
「決まっておろうよ」
弥生ちゃんの問いに、師走さんはりやりと僕を見て笑って、言った。
「弥生の婿殿として、四季、お主にわしら如月の里まで来てほしいのじゃよ」
……ええと、また旅行ですか?