第二十話~頂点を極める戦い!?~
「『拳閃・銀光刹那』!」
ヒュン、と振り切った右フックの軌道はメリケンサックの銀色に光っていた。
「く……」
ぎりぎりで、それをよける。今弥生が装備しているメリケンサックは刃が付いているので、もし触れたり受けたりしたら怪我じゃ済まない。
うおおおおおお!!
と、クラスが湧く。
暴力の女帝とも呼ばれている間宵とおどおどしていて弱っちそうな弥生とが互角、いや、ともすれば互角以上に戦っているということが、何よりもクラスの人間を湧かせた。
まあ、弥生をいじめていた張本人達は青い顔して冷や汗をかいていたが。
「ち……!『進竜撃』!」
湧く教室を無視し、というか本気でやらないと殺されると直感した間宵はすぐさま闘気の塊をまっすぐ、振り切った体勢の弥生に放つ。
「『拳撃・直崩滅』!」
それを弥生は左のストレートで相殺すると同時、間合いを詰めて、間宵に肉薄する。
「『交撃・銀華旋風!』」
下の足払いし、倒れたところを追撃の拳。
これは本来足払いは牽制で、もしこれで倒れたら追撃、という程度の技だった。
しかし、弥生の足払いは、信じられないほど速く、間宵でも見きれないほど、巧妙に隠されていた。
「な……!!」
地面から天井を見上げ、そして一瞬もしないうちに刃付きの拳が撃ち込まれてくる。
「うわ!」
間一髪、というか反射でよけた間宵はすぐさま立ち上がり、攻撃態勢に移る。
「『弧竜蹴拳撃』!」
弧を描くような蹴りと、拳が順に繰り出される。間宵が扱う拳法の中でも致死性の高い技だ。素人に使えば即座に死を与えられるような、そんな技。
「『反衝・心突』」
それを流れるような動作で拳を上に、蹴りを下に受け流し、間宵の中心を開けさせる。
そこに、刃付きの凶悪な拳を、突きいれ―――
「やめろ!」
どなり声が聞こえて、弥生は止まった。同時に、今までううだったような教室もシンと静まりかえる。
「……え、あれ……」
はっと、周りを見渡す弥生。
「キミたちは一体何をやっているんだ!こんなところで殺し合いなんかしている場合か!そんなものは熱海で十分やっただろう!まだ足りないのか!?」
そんな弥生に構わず、心葉零は二人を叱責し続ける。
「間宵!君は四季に対してやりすぎだ!そして、いちいち人をからかうな!」
「い、いや、私は別にからかったりなんか……」
「キミの言動で襲いかかってきた人間がいるのに、からかわなかったと言うのか!?ならばキミはよほど無神経なんだろうな!」
今度は茫然とする弥生に、
「キミはなんで今日に限ってそんなもの取り出すんだ!熱海の時でもそこまで物騒ではなかっただろう!何考えてる!こんなところで人を殺して騒ぎにならないとでも思っていたのか!」
「ひう、ご、ごめんなさい……!」
なぜ自分がメリケンサックをはめた拳を間宵に突き出しているのか理解できないまま、弥生は謝る。
彼女はメリケンサックをはめたところまでしか覚えていない。
「なぜ叱られているのかわからないまま謝るな!そもそも攻撃体勢に入ったら我を忘れるような武道をこんなところで使おうと思うな!キミの師匠はそんなことも教えなかったのか!」
「ひう、ち、違います……!師匠はちゃんと、教えてくれて、でも、大切な人を守る時は気にするなって……」
戦闘中はいかなる精神攻撃に耐える武道、それが弥生戦闘術。我を忘れて、というよりは修行中に戦闘用の人格を新たに作り上げるのだ。
「ああ、いちいち間宵と四季のことにキレるな!四季の危険を感じるな!別に間宵は四季を殺したいわけじゃないんだ、その武道は本当に四季が危なくなった時のために取っておけ!」
「は、はい!」
弥生はちゃんとかかとをそろえて返事をする。
「キミもだ間宵!今後は少し四季に対する暴力を控えろ!能力のあるものがないものに能力を振るってどうする!今のままだと本当に夜闇が言うように暴力女だぞ!」
「う……す、すまねえ……」
間宵もしゅんとなって謝る。
「ふん、わかればそれで……」
「おい、お前らなにしてる!」
その時、教師がやってきた。
カタブツで有名な体育教師だった。
――――――時は戻る。―――――