第二話~交渉成功!?~
……僕らは座らされている。
僕は自室で、本来一人暮らしなはずなのに、女の子に説教されている。
気絶から覚めたら、もうすでに他の三人は正座中で、目覚めると同時に正座を強要された。
まあ、この子は女の子、と言っていいのかどうかわからないほど乱暴だけど。
「ああ!?四季、てめえ、今失礼な想像したろ!?今どんな状況かわかってんのか!?てめえの前に得体の知れねえ人間三人も押しかけてんだぞ!」
「得体が知れなくはありません!」
「私は『月』の人間です」
「僕は研究所の人間だよ」
三者三様に言いわけをする。
「だ、か、ら!てめえらわけわかんねえこと言うんじゃねえ!つうか四季!てめえも玄関で追い返せ!なんで家に入れてんだ!こいつらがやばい関係の人間だったらどうするつもりなんだよ!」
「だから、私は怪しいものでは……」
「私は『月』に所属していた十三夜月夜闇です」
「ボクは国立研究所から来た心葉零だよ」
正直、今のところ弥生ちゃんが一番不利なんじゃないだろうか、とどこか遠くの世界のことのように思ってみる。
「おい、四季!聞いてんのか!」
どうやら間宵ちゃんは、少しの現実逃避も許してくれないようだ。
「聞いてるよ。……なんでこの子たちを入れたか、って?」
「そうだよ。どうせ女の子だったからだろ?お前モロ結婚詐欺に引っ掛かりそうなツラしてるもんな」
うるさい。僕だって男の子なんだ。ちょっとぐらい色香につられても仕方ないでしょ。
「てめえなあ。なに開き直ってんだよ。言わなくてもわかるぜ?今絶対心の中で私のこと否定しただろ」
「し、してないよ!」
なんでそんなことまでわかるんだ!?超能力者か、この子は!?
「……まあ、どうせ女の子だから、って理由で入れたんだろ。これがむくつけき男だったらその場でドア閉めるくせに、何考えてんだか。ほんと男ってのは馬鹿だね」
こう間宵ちゃんが達観するのには理由があった。
たとえば、間宵ちゃんの通う道場に女の子の門下生がほとんどいなくて、男女合同でやるしかない時。
少し胸元を開けて戦うだけで、一瞬で勝負がつくんだとか。
同じ人に何度やっても面白いぐらいに引っかかるので、間宵ちゃんは男の愚かさを悟ってしまったようだ。
「で、なんでてめえらはここに来たんだよ。ああ、その理由を訊いてんじゃねえ。どうやって、だよ。ホワイじゃなくてハウな。じゃあ、そこの内の生徒から」
でも、間宵ちゃん意外と自分の胸の大きさ自覚してないんだよな……
「おい、てめえ話の最中になに人の胸見てんだこら。月のかなたまで投げ飛ばすぞ?」
「ごめんなさい」
速攻で土下座。
じゃないと本当に投げられる。
月まではないとしても、アパートの端から端までぐらいはあるかも知れない。
「よし、仕方ねえから許してやろう。……で、あんたらはどうやってここを知った?」
間宵ちゃんがそう訊くと、三人は口をそろえて、
「尾行しました」
と、言ったのだった。
さすがの間宵ちゃんも、ずっこける。
「な、なあ!?お前らそろってストーカーかよ!?ますます怪しいな……」
「で、でも!」
ここで、弥生ちゃんが声を大きくした。
「で、でも、私、家に黙って出て来たので、行くあてないです……ここ追い出されちゃったら私、野宿するしかありません……それか、本当に尼になるか……」
う、と間宵ちゃんが言葉に詰まった音が聞こえた。
「私も、『月』からはもう名を排された身分ですので、もしここから出ていけと言われるのなら、私は死ぬしかありません、『月」の人間が生涯仕える人間は一人ですので」
うぐ、とまた呻く間宵ちゃん。
「ボクも同じようなものだ。研究所から抜けだしてきたからな。ここを追い出されれば引き戻され、罰として死にも等しい苦痛を与えられるだろう」
うぐぐ、と間宵ちゃんはさらに呻いた。
「……ね、ねえ、間宵ちゃん、ちょっとぐらいならこの部屋スペースあるし、別に泊るぐらいなら……」
「うるせえ四季! てめえそんなこと言ってこいつらとえっちなことするつもりだろ! ……その、口にするのも汚らわしいことを!」
「僕はそんなつもりないよ! で、でも、行くあてないなら、ねえ?」
うぐ、とまた言葉に詰まる間宵ちゃんに、僕はさらに追い打ちをかける。
「もし、追い出してこの子たちが事件に遭ったらどうするのさ? ね、少しだけだから、いいでしょ?」
う、うぐぐ、としばらく呻いた後、間宵ちゃんは言った。
「し、仕方ねえ!いいだろう、泊めたきゃ泊めろ!私はもう知らねえからな!不純異性交遊してたって、先生に言いつけてやる!」
うわあああああああああああああああああああん!
と、間宵ちゃんは目に涙をためて走り去っていった。
……なんで泣いてたんだろう?
「よ、よろしく、みんな」
僕は三人に向き直り、三つ指をついた。あれ、ちょっと違うような……でも、ま、いっか。こんなのは雰囲気だよ、雰囲気。
「こ、こちらこそ!」
「よろしくお願いします、四季様」
「世話になるよ、四季」
挨拶が終わったわけだけど。
「ねえ、君たち、ちょっと訊いていい?」
「も、もちろんです! なんでも答えちゃいますよ!?」
「どうぞ、ご自由に」
「好きに訊け」
うん、許可が出たみたいだし、訊こうかな。
「どうして、僕のところに来たの?」
「好きだからです!」
「好きなり、使えたくなったからです」
「興味が湧いたからだ」
なんだか、さっきからこんな理由ばっか。なんか話す気ないんじゃないかとも思えてくる。
……ま、いっか。もしそうなら、きっといつか話してくれるよ。
「そっか。ま、とにかくよろしくね」
「はい!」
「はい」
「わかった」
ま、そんなこんなで。
僕たちの同居が、始まった。