第一七話~比喩の真相と四様の気持ち!?~
私は熱海の露天風呂で、裸で取っ組み合いのけんかをしている間宵さんと夜闇さんを眺めながら、零さん、弥生さんと話をしていた。
「……神様、ね。よくたとえたわね」
私、本来なら敬語を使わなきゃいけないはずなんだけど、弥生さんも零さんもいいって言ってくれた。私はそれに甘えることにしたんだけど、敬語を使わないおかげでより親しくなれた気がする。
「ははは、昔見たのをそのまま言ったまで、だよ。たいしたことじゃない」
でも、そのわりに考え込んでたから、きっとこれは謙遜なんだろう。
「あはは、でも『神様』、かあ……本当、よくたとえましたね……」
弥生さんが遠い目をして相槌を打つ。
弥生さん、聞いたところによるとかるいあがり症で、好きな人の前だと、どうしても緊張してどもったりするらしい。が、そうでないならしっかりしゃべれて頼れるお姉さんだ。
「弥生さん、ぶりっこだって言われません?」
嫌味で言ったわけではないのは、ニュアンスでわかってくれるだろう。
「いえ?私、誰にでも、ってわけじゃないですから。私がああなったのは、人生で四季君が初めてでした……」
なんと、初恋だったのか。
……と、いうことは?
「……零さん」
「なんだい?」
「お兄ちゃんのこと、好きですよね」
私が訊くと、零さんは顔を私に寄せて、囁くように言った。
「当たり前だ、そうでなければわざわざ研究所など抜けだしてくるものか」
すぐに離れて、シニカルに笑う。
「……そうですか」
と、いうことは。
間宵さんは、……わからない。でも、お兄ちゃんのことを気にかけてる。
夜闇さんは、お兄ちゃんのことが好き。
弥生さんももちろん、お兄ちゃんのことが好き。
零さんも、同じく。
そして私も、………どうなんだろう?
私、お兄ちゃんのこと好きだ。
でも、それって恋愛感情だろうか?
違う、かもしれない。
だってお兄ちゃんと一緒にいても胸なんかときめかないし、お兄ちゃんのことで頭がいっぱいになったりなんかしない。
でも、恋かもしれない。
お兄ちゃんに話しかけられたら胸が暖かくなるのは事実で、一緒にいて安らぐのもまた、事実だった。
人によっては親愛の情だと言うのだろう。
でも、私にとってはこの気持ちは恋に近しい何か、なのだ。
家族愛とも、兄妹愛とも違う何か。
これって、どんな感情なんだろう?
知りたい、って願えば知れるのかな。
こればっかりは、わかんない。
「おい、こら!神様って何のことだよ!おい!待ちやがれ!……って、いい加減離せクソメイド!なに発情してんだ!」
「間宵さんはいつもいつも四季様と共にいました。……もしかたら、四季様の匂いが移ってないか……」
「移ってるわきゃねえだろ!気持ち悪いこと言うな!てめだから、離せってんだろ!この、発情メイド!とっととゴシュジンサマに尻尾振ってこいや!私に抱きつくな!」
いい加減にのぼせて来たので、私たちは抱きついて何やら言いあっている二人を置いて、お風呂場を出ました。
「知ってる、間宵さん、夜闇さん。神様ってね、なんでも見てるし、聞いてるんだよ?」
きっとお兄ちゃんは見ていないだろうけど、聞いてはいるはずだ。
全ての会話を聞きとる神様。
私の神様は、いつも私に味方する。
でも、この神様だけは、私の思い通りにならないし、してはいけないと思った。
「……う~~~~~~……」
「………し、四季……様……」
僕がお風呂からあがるころには、弥生ちゃん、零ちゃん、それと四様が先に部屋でくつろいでいた。
それからしばらく僕らは話しこんで、気が付いたら結構時間がたっていて、んで、あんまりにも遅いんで心配した弥生ちゃんが間宵ちゃんと夜闇の様子を見に行って、帰ってきたらこうなった。
「……まったく、何をやっているんだい、キミたちは。のぼせるまで喧嘩するなんて、バカじゃないのか?」
零ちゃんが適切な応急処置をしながら、うんうん唸る二人に厳重注意をする。
二人はせっかくの休日、それも熱海で過ごす三連休の半日を、寝て過ごすこととなった。
まったく、お風呂の時ぐらいゆっくり仲良くやればいいのに、ねえ?
僕はそう思いつつも、零ちゃんに言われて新しい濡れタオルを用意するのだった。
……明日もこんな調子なのかな?