第一四話~交渉開始と戦闘開始!?~
インターフォンを押す。
もちろんカメラ付きで、しかもそれは常時録画だ。誰が来たのかあとあと確認できるようになっている。
『誰だ?』
あなたこそ。
確かに祖父の声だった。でも、態度が全然違う。昔はもっと、優しそうだったのに。
「……僕は、秀句四季と言います。覚えていますか、おじいちゃん」
『……さあ?覚えとらんな。わしの孫はただ一人、四様だけじゃ』
その声にも欠片も愛情は感じれなくて、なんだか急に悲しくなってきた。
「……おじい、ちゃん」
『四様か。こいつは誰じゃ?』
「私のお兄ちゃん。……ね、入れて?少し、お話があるの。聞いてくれなきゃ、能力の質が落ちちゃうよ?」
そう言った四様の顔は苦々しそうだった。
多分、四様だって自分の運を盾にしたいわけじゃないだろう。
でも、しないとなにも聞いてくれないと、四様は思っているのだろう。
『……そうか、なら、入れ』
『なら』
その言い方に、心底怒りがわいた。
なんだよ、なんだよその言い方!
なら?なら、だって?四様の価値は、能力だけか?神様の運だけか!?違うだろ!なんで、そんな風に四様が運以外に意味がないなんて言い方をするんだ!
「……いこ、お兄ちゃん」
「……うん」
もう、絶対に僕は決めた。
いざとなったら夜闇をけしかけるぐらいの気持ちで、僕は四様について行った。
絶対に、四様を守る。この子はここにいちゃだめだ。
無意味に大きくて金きらな玄関を通り抜けると、僕たちは客間に通された。
金のふすま、金の畳、金、金、金……
そんな金が全体を埋め尽くす、20畳ぐらいの客間に、僕たちは通された。
広い部屋の真ん中には玉座みたいな仰々しい椅子がおいてあって、その前に僕らは並び、座っている。椅子からの距離も、遠い。まるで王様に謁見しに来てるみたいな錯覚をうけてしまう。
「……広いね」
僕は感想を漏らす。他のみんなは、どう反応していいのかわからず、黙っているようだった。
「……広いよ。……でも、広すぎるよ」
四様の悲しげな声が、広すぎる部屋に響いた。
「……で、今までどこに行っていたんだ、四様」
ガラリと重苦しい音とともにこの部屋に入ってきたのは、祖父。
でも、体中に装飾品をつけて、きらびやかな服を着ている祖父の態度はどこまでも尊大だった。
「……おじいちゃん、僕は」
「私ね、外国に行かない」
すっくと立ち上がり、四様は宣言した。
「……なんじゃと?それがどういう意味か、わかっておるのか?今まで育ててもらった恩を、忘れたか?」
「何言って」
問い詰めようとした僕を、四様は止めた。
「お兄ちゃん、私がやるから。……一人で、できるから」
そう言って、一歩、四様は前に出た。僕からは、四様の顔が見えなくなる。
「な、何をするつもりじゃ、四様」
「黙って。おじいちゃんは知ってるよね、私は望めばなんでも手に入るってこと。だからこのおうちはこんなにも大きくなって、おじいちゃんたちはそんなにもきれいな服を着てる。
……ねえ、養ってるのは、どっち?私?それとも、おじいちゃん?」
声からは感情が読みとれない。……四様は何をしようとしてるんだ?
「……答えないの?いいよ。別に。……もう決めた」
「な、何をじゃ?」
四様は質問に簡単に答えた。いっそすがすがしさまで感じれるほど、軽快に。
「決まってるじゃない。この家は、滅ぶべきよ。完膚なきまでに、完全に。……お兄ちゃんは、初めてだよね?」
くるりと振り向き、僕たちに微笑んで言う四様は、どこか危うさがあった。
「何が?」
「私が世界に願うところ。じゃ、始めるよ」
そう言うと、四様は両手を天に掲げた。
「『世界よ世界、聞いてちょうだい。私の願いを、聞いてちょうだい。私はもうこんな家うんざり。もうこんなところにいたくない。でも、おじいちゃんは居ろという。もう嫌。嫌なの。だから、だから。
世界よ世界。この金にまみれて、意味なく広いこの家をどうか――壊して』」
変化は、起きない。
「……三日、ぐらいかな。三日ぐらいは、この家はこのまま。でも、もうこの家は滅んじゃうよ。外国行くお金も、残らない」
悲しそうなのは変わりなかったが、どこかすっきりした表情の四様。
「な……、な……なんてことを!……貴様か、四様をたぶらかしたのは!誰か!誰か!こいつらを……殺せ!」
わなわなとふるえ、僕を指し、そして命じる祖父はもう、目の焦点が合ってなかった。
自分がさんざ利用してきた能力に牙向かれ、恐れのあまり正常な判断ができなくなったんだ。
「……お兄ちゃん」
「大丈夫だよ。……ね、みんな?」
心配そうな表情の四様に微笑むと、皆を見回す。
「おうよ!久々に暴れるぜえ!」
「四季様の命令とあらば、私はいかなることでも実行します」
「……ふむ、実験したい道具が2、3あったな。それを使うか」
「わ、私も、が、ががが頑張ります!」
いや、弥生ちゃんはいいから。
「「「「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」」」」
大量の用心棒らしき人間が、この広い部屋に押し寄せて来た。
「行くぜ行くぜ行くぜ!死にたくねえやつぁ裸足で逃げ出せ!命だけなら、助けてやんぜ!」
真っ先に飛び出し、一番近くの用心棒に鋭い蹴りを入れたのは、やっぱりというか、間宵ちゃんだった。
「……それでは皆様、四季様のご命令です。――死んでください」
メイド服から無骨なナイフを取り出した夜闇は、手当たり次第に殺そうと、手にした武器を振るって……って!
「夜闇、殺しちゃだめだ!」
「了解」
用心棒の一人の首にナイフが滑り込む直前、夜闇は手を返して気絶させるにとどめた。
ま、間に合った……。
「……さて、始めようか」
零ちゃんは呟くように言うと、白衣から何かを取り出し、それを用心棒たちの群れに放った。