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第一三話~代わり果てた四様の実家!?~



 ……風が、なびく。

 きれいな風だ。

 色はきっと、薄い緑色なんだろうな。


 私は、ふとそんなことを考える。

 ここは熱海直前のサービスエリア。長旅、というほどではないけれど、結構長い道のりだったので少しトイレ休憩、というわけだ。


 ……ふふ、お兄ちゃんったら、こんなところまで来てトイレ休憩もなにもないでしょうに……


 お兄ちゃんは、私をちょくちょく休ませるために、こうやってサービスエリアに入るよう提案してくれた。

 

 私は全然大丈夫だったけど、お兄ちゃんの好意を無駄にするのもアレなので、黙って聞いていた。


 ……お兄ちゃん、怒るかな。

 実は私、たとえ眠っていたとしても、ここに辿りつけたであろうという自信がある。

 

 もう、私の天賦の運はもはや能力と呼べるまでに昇華している。

 外国に行くのだって、能力を強めるためじゃなくて、もっと広い土地で豪遊するため。私の能力で手に入れたお金で、なんでもする。私も、お金に限らずなんでもできる。


 望めば手に入り、願えば叶う。


 でも……こんな能力持ってたって、なんにもうれしくなかった。

 

 おじいちゃんとおばあちゃんのところで使わされる能力は、お金儲けにだけ。

 人助けになんか、使わせてもらえない。全然、幸せじゃない。


 ……でも。


 お兄ちゃんのところに来て、全然違った。

 お兄ちゃんと、あの女の人たちと一緒にいるだけで、私は幸せになれた。

 あれが、私の幸せだった。


 ……お兄ちゃん、怒るかな。


 私は、もうすぐ神様に近づこうとしている。

 その能力を使って、お兄ちゃんとあの女の人たちと一緒に、ずっとずっとずっとずうっと暮らしていきたい、なんて願おうとしてるってこと知ったら。





 「おーい!四様!いくよー!」

 お兄ちゃんだ。

 お人好しで、鈍感なお兄ちゃん。


 「うん!すぐ行く!」

 私はお兄ちゃんに駆け寄った。


 「じゃあ、あとちょっとだ、もう少しだけ、頑張ってね」

 「うん!」


 全然かんばったりはしないけど、頑張らなくてもできるけど、私はそう言っておいた。


 できないことをするから、人は褒められるのだ。できないことを頑張ってやるから、ほめられるのだ。


 ……じゃあさ、じゃあさ。
















 なんでもできる人って、どうやったら褒められるの?















 もうしばらくの旅路を終え、僕らは目的地、熱海へとたどり着いた。特に特筆することはなかったけれど、とても楽しい旅程だった。 


 祖父母の家のすぐ前で車を止めると、四様が降りて、他のみんなが降りる。

 

 「……ついたよ、お兄ちゃん」

 「ありがとう、四様。よく頑張ったね」



  僕は車から降りてそうやって褒めるけど、四様はあんまり喜んでくれなかった。

 「……どうしたの?」

 「なんでもない。……なんでも、ない」

 

 四様はうつろな瞳でそう言うだけで、ふいと祖父母の家へと向かった。


 「うわ、……すげえ!?」

 間宵ちゃんが祖父母の家を見て驚くのも、無理はなかった。


 「……これが、四様さんの運の結果、ですか」

 そう夜闇がつぶやいて、氷の表情に驚きの色を浮かべるのも、無理ないだろう。


 「……はう……」

 弥生ちゃんが言葉が出ないのは仕方ないだろう。小市民過ぎて、このスケールについてこれないのだ。僕もそうだし。


 「ふむ、これが四様と四季の祖父母の家か。くすくす、いかに四様の運を悪用して私腹を肥やしてきたのかが一瞬でわかる構図だな?」

 零ちゃんがあまりにも適切な分析をするのも、今はほとんど聞こえていなかった。




 たしか、僕は一度この場所に来たことがある。そう、ここですまないか、と誘われるときにお試し感覚で数日泊ったことがあるのだ。


 でも、その時の祖父母の家はどこにでもある木造住宅で、時代劇に出てきてもなんら不自然じゃないほどの年季の入った家だったはず。



 こんな、絢爛豪華で城みたいに大きな家、僕は知らない。

 白亜の城、というものはヨーロッパ地方にあって初めて美しいのだ。こんな日本の住宅地のど真ん中にあっても、嫌味なだけできれいじゃない。


 そんな他人の気持ちはお構いなしなのか、とにかくお金を使いたくてしょうがないのか、無意味なまでに、金や銀がいたるところにちりばめられている。


 もとは白亜の城だったのだろうが、今は半分金閣寺並みに金が使われている。


 「……こ、ここ?」

 四様は無言でうなずく。


 ……誰だって、こんなところから出て行きたくなる。


 「……いこ、お兄ちゃん」

 きゅっ、と僕の服の裾をつかんで、うつむいたまま四様が言った。

 さっきまで喧嘩していたことをすっかりわすれて、後ろの四人も仲良くついてくる。


 「うん、行こうか、みんな」 


 「おう!」

 「はい」

 「はい!」

 「ああ」


 さあ、直談判だ。

 絶対に、四様を外国になんてやるもんか。


 僕が四様を、守るんだ!



 人は、お金を持つと変わるそうです。

 おとぎ話に、よくそんなたとえが出てきます。


 鶴の恩返し、かぐや姫、その他もろもろ。


 僕が思うに、世界で一番広く使われる魔法の道具は、お金なんじゃないかと、思います。


 ただの紙、ただの金属が人の命をも左右するほどの価値を持つなんて、魔法としか思えません。


 お金の魔力、そんなものがあるから人は狂うのです。

 でも、お金がなければ人は何で価値を測ればいいのでしょう?

 

 そんな、二律背反。

 お金は人を狂わす。けれど、お金が人を救うことができるのも、また事実です。


 ……僕は狂う側になるんでしょうか、それとも、救う側になれるんでしょうか。


 


 ……もしかしたら、救われる側、施される側になっているかも、知れませんね。

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