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店長と制服

 体力のないひ弱な俺は、3階までの階段を駆け上がっただけで両膝に手を付いて息を切らす。

 今日はもう帰りたい……。

 そう心の中で思いながらも、何とか腕時計を確認。時計の針はあと15秒程で約束の時間の11時45分を迎えようとしている。

 まあ、始業開始の時間は正確には12時からで、制服に着替える時間とか諸々考慮して15分前に来るように言われているのだが。


 とは言え、その約束の時間を初日から守れないような人間は社会人失格だろう。電車が止まっていたとか、おばあさんを助けていたとかそういうやむを得ない事情があるわけでもなく、ただ単に怖気付いていただけなのだから。


 俺は呼吸を整えると意を決して目の前のリコリスの真新しい華やかな看板の下の自動ドアをくぐった。

 “ピンポーン”と入口のセンサーが俺を感知して入店音を鳴らす。そして──


「ようこそ、リコリスへ」


 店内に入ると今流行りの音楽と共に俺を歓迎する挨拶が耳に入った。

 フロントに立っていたお兄さん……おじさん? が笑顔で俺を見ていた。


「あ、本日よりこちらに配属されました宮坂詠太(みやさかえいた)と申します。宜しくお願いします!」


 俺はまあまあの声量で挨拶をすると、ペコりとお辞儀をした。緊張し過ぎて笑顔を作る余裕はない。もとより笑顔は苦手なのできっと顔は強ばっていただろう。


「ああ、宮坂くんね。店長の(おき)ですー。宜しくお願いします。つーか、時間ピッタリだね」


「すみません、ギリギリで」


「いいよ、遅れてないし。じゃあ、とりあえず制服に着替えてもらおうか。こっち来てー」


 沖店長は飄々とした感じで俺を店の奥へと案内してくれた。30代後半くらいだろうか。身長は180cmくらいありそうな程高く、俺と違って身体もガッシリしている。

 店内は至って普通のカラオケ店。BGMの音楽と共に微かに客室からカラオケの低音が聞こえて来る。客室の防音性能はまあまあだ。


 周りをキョロキョロ見ながら歩いていると、沖店長は店の奥にあった部屋の扉の鍵を開け俺を中へと誘った。


「ほい、じゃあここが更衣室ね、普段は鍵が掛かってるから、この鍵を事務所から取って来て入ってねー。事務所の場所は後で教えるから、これに着替えたらまたフロントに来てねー」


「はい」


 俺は沖店長からロッカーに入っていた制服を受け取った。ロッカーには既に「宮坂」と俺の名前の書かれたマグネット式のネームプレートが貼られている。


「あ、あと更衣室は鍵掛けといて」


 沖店長は俺に更衣室の鍵を渡すと小さく手を振って更衣室の扉を閉めた。


 何だかいい感じの店長だ。まだ雰囲気しか分からないが、ガチガチの厳しい感じや体育会系のノリはない。俺はそういうのがすこぶる苦手だから少し安心した。

 そして俺は受け取った制服へと着替え始めた。

 リコリスの制服は男女共にかなりセンスがいい。男性用はどこかの館の執事のような黒と白のモノトーン。沖店長が来ていたのもこれだ。そして、女性用はCA (キャビンアテンダント)のようなものでこちらもモノトーンだ。首のスカーフが個人的には可愛いくて好きだ。そして男女共通で胸ポケットの所にリコリスの花とロゴが刺繍されている。

 俺は制服へと着替え終わると、壁に設置されている姿見に自身を映してみた。


「ふむ。悪くはない」


 さすがリコリスの制服。俺のようなひょろひょろのもやし体型でもしっかりとカッコよくしてくれる。

 この制服で仕事が出来るのはいいな。

 ニヤリと笑いながら首元のネクタイを直した。


「よし! いくか!」


 気合を入れて更衣室を出ると、沖店長に言われた通りしっかりと部屋に鍵を掛け、フロントの方へ向かった。

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