漆黒3
よろしくお願いいたします。
三日間療養し怪我が完治した後、職場復帰したマエリア本人から過去に何があったかを全て聞き出せた。
腸が煮えくり返るとはこの事をいうのか…というくらい体が怒りで震えた。俺があまりに怒るとそれを見たマエリアを怯えさせてしまうと思い、何とか表面上は抑えてみせた。
「マエリア…」
何も言えなかった。只々、話し終えてもまだ震えている愛しい彼女を腕の中に囲い込んだ。マエリアの顔を覗き込むと目に溜まった涙がマエリアの頬を流れ落ちた。
無意識のうちに唇を寄せていた。その涙を舌で舐め取り…そのまま鼻先も舐め…唇を奪った。柔らかくそして涙の味が混じる魅惑的なマエリアの口内をこれでもかと蹂躙した。
「ん…ふぅ…」
長く喰らい付いた後、ゆっくりと唇を解放すると…マエリアは顔を真っ赤にしていた。
「これ…夢…夢でぇあの夢ぇ?…うそっやだっ…」
恥ずかしいのと興奮でもしているのかな…可愛い。マエリアの頭頂部にわざと音をたてて口付けを落とした。
「…っひ…頭!?…ひぃぃ…」
何かまた悶えている?益々可愛い…その後マエリアにずっと引っ付いていた。
休憩を終え、後輩の近衛と持ち場を交代して廊下に立っていると、フリデミング殿下と地方役人の方と侍従のフーレイさんが出て来た。
「あ、ルベル。ちょうど良かった。フートロザエンド王国に視察に行くことになったから、ちょうどいいからマエリアと一緒に彼女のご実家に挨拶に行って来たらどうだ?」
いきなりな発言にポカンとして俺よりまだ小柄な綺麗な少年を見詰めてしまう。綺麗な顔の少年、フリデミング殿下はう~ん?と言いながら首を傾げた。
「お前マエリアとはゆくゆくは…とか考えているんじゃないのか?俺、知ってるぞ。とうとうマエリアを山へ誘ったと聞いたぞ?」
「ぶっ!」
思わず吹き出してしまった。若い役人もちょっと吹き出している。
「ビジュリア卿の有名なアレですか…」
侍従のフーレイさんまでがそう言う。何故皆…笑う?
「私が野営に誘うと…将来の話になるのですか?」
「だってそうだろう?お前と一緒に川で魚釣りしたり、天幕の中で眠れなきゃ嫁にはなれないんだろう?」
どんな嫁基準だ!いや…そう言えばフリデミング殿下とハラシュリア様には女性との逢引には山に誘っている言ったことがあるな…それは本当だ。マエリアと外で会っていると良からぬ輩に目を付けられるかもしれないし…独身寮ではマエリアを連れ込めないしな。
「しかしながら殿下がどうして私がマエリアを山に誘ったとご存じなので?」
「そんなものマエリア本人から相談されたからに決まってるだろ?ルベルに山に誘われたは良いが…どんなものを準備すれば良いか分からない。以前殿下が山で野営をご一緒されたとお聞きして…と言われたからな!俺とハラシュリアとで『マエリアを野営中でも可愛くみせる乙女詰め合わせ装備』だったかな…を鋭意準備中だ。心して待つように」
何を心して待つのだろうか…いやいや?可愛く見せる?どういうことだ?はっ…もしかして夜着のことなのか?まさか山の中で俺の目の前だけで煽情的な意匠の…
「兎に角なぁ~山に連れて行くのはいいが~害虫に刺されないように気を付けて…」
「それは殿下だけで御座いましょう?わざわざ藪の中に入って行って…珍妙な植物を採取して食されようとなさるから…」
フリデミング殿下が歩き出したので、皆が後に続く。
「あれはなっ!本当に食べられるモノなんだぞ…俺の推察では煮たり焼いたりもイケる筈だ!」
「殿下、毒見もしないで野草など食べてはいけません!」
侍従のフーレイさんがそう言って怒っている。フリデミング殿下が生まれた時から侍従として殿下の側付きでいらっしゃるから兄か父みたいな叱り方をしている。
「自然に群生しているものだっ俺にはある程度の自己治癒能力もある!」
え?そんな能力あるの?と俺が見たのと同じく、フーレイさんも役人も前を歩く金髪の少年の後頭部を見詰めている。
フリデミング殿下は前を見ながら笑っている。
「これは特異な能力かもなぁ~多分ハラシュリアも似た様な体質だと思うよ。魔術師団で研究しても構わないけど?」
そんなことは早く言って下さい。きっと魔術師団長なんて喜んで殿下とハラシュリア様の体質を調べますよ。そう言えば…マエリアの拉致事件の時も見たことも無い魔法を使っておられた…殿下とハラシュリア様って何者だ?
さて…
そんなこんなで俺とマエリアのふたり揃っての休日…麗らかな気候の中、山道を登っていた。
先程までフリデミング殿下とハラシュリア様と近衛騎士の気配を背後で感じていたが、怒気と殺気を飛ばしていると山道の途中でいなくなったみたいだ。
だからどうしてついて来るんだ!と百回くらい問い質したい気分だ。
心配しているのか、からかっているのか…有難いけどお節介だなあのおふたりは。
「まだ歩けるか?」
少し息の上がったマエリアに声をかけると、女性用のトラウザーズ姿に身を包んだマエリアが笑顔で俺を見上げていた。
「はい…大丈夫です。殿下とハラシュリア様が色々とご準備して下さったので、山歩きにも無理のない靴で御座いますし…」
繋いだ手でマエリアを引き上げながら、歩く速度に合わせてゆっくりと山道を移動をする。
ここに来るまでにマエリアは不平不満は一度も言わない。いつもと同じ穏やかな笑みだ。やはり彼女なら…という思いが募る。
「ここで一度休憩しましょう」
「…はい」
流石に伯爵令嬢でもメイドとして働いているだけあって、足腰はしっかりしてそうだ。
マエリアは手近な岩にそのまま腰かけると笑顔で干した果物を口に入れている。結構豪胆だな…
今回、山にマエリアを連れて行こうとしたら、ハラシュリア様に待ったをかけられた。それでハラシュリア様と交渉を重ねた結果…
その一、山で外泊はせず、日帰りで
その二、マエリアが帰りたいと言ったら即帰宅
その三、二人きりだとしても、如何わしいことは禁止
……まるで母親みたいな堅苦しさだな。本当にハラシュリア様は11才か?それに薄っすらとだが、今以て監視が付いて来ている気がする。
気配は本当に薄いけど、恐らく特殊部隊の者だろう。軍の人間を使うなっ…と言いたいけど俺ってマエリアに何かするとか思われて信用ないのかな…母親の監視が厳しい。
「ルベル様、もう大丈夫ですわ」
「ん?そうか…後三十分ほど歩いたら、そこで野営をしよう」
マエリアは立ち上がってから笑顔になった。やはり疲れていたのだろう。最初の頃よりは歩みが遅い。我慢強いのだな…だからこそあんな虐待を受けても我慢して……いかん、また怒りで魔力が乱れる。
案の定隠れて付いて来ている監視の者が少し殺気だっている。何故殺気を向ける!不埒な事をするつもりじゃない!
「ルベル様、私…山に登るのは初めてで本当に楽しみにしていたのです、ですから…どうぞお気を使いなく…」
俺がマエリアに合わせて速度を落としているのに気が付いたのだろう…マエリアはそう言うが…
「疲れたのなら私が連れて行ってあげよう!」
「きゃあぁ!?」
目的としている山の開けた場所には後、十五分ほどで着くはずだ。マエリアを横抱きにして登っても大丈夫だろう、と判断してマエリアを抱いたまま山道を駆け上がった。
「ル…ルベル様!?わ、私…重いっ…」
「私はあなたより重い剣を毎日振り回している、あなたなんて軽い」
「きゃああ!」
んん?悲鳴とは違うような声を上げて、マエリアは手で顔を隠している。恥ずかしいのかな…一応誰もいないことになってるのに…おれは監視に見られたって平気だけどな。
後日
この横抱きウフフアハハ(命名ハラシュリア様)はとんでもない甘さで吐きそうだった、と監視から報告を受けたフリデミング殿下に場所を弁えろ!怒られたのだった。
どういうことだ?充分に人気の無い所だったけど?理不尽過ぎる。
横抱きでマエリアを抱いたまま、山の中腹より少し手前の開けた場所へ連れて行った。
「さあ着いた、ここでまずは魚を釣ろうか?」
「はっはい!」
私がそっと川辺にマエリアを降ろして、背中に背負った背負い鞄から釣り道具を出してきた。
普通の令嬢なら岩場の石の下から捕まえた虫を餌にした釣りなんて、絶対にしてくれないと思う。内心マエリアも怖いかもしれないが、そんなことは表情にも出さず、俺の教えた通りに釣り竿を川に垂らして笑っている。
健気で可愛い。
マエリアは魚を三匹も釣り、俺が狩ってきてその場で捌いた小型魔獣の串焼きも残さずに美味しい、美味しいと言って全て食べてくれた。
こんなに楽しい野営は初めてだった。女性を連れて来ても途中までは来てくれたが、虫や魔獣を見ると皆、逃げ帰っていた。マエリアはそれすらも楽しんでくれているようだ。
彼女は事あるごとに、私は大丈夫ですよ…と繰り返していた。俺が見た目と違い粗雑な男だという事も承知しており、小説のように女性に甘く囁いたり出来ない男だという事も分かってくれている…と思った。
もう彼女しかいない…マエリアに正式に婚姻を前提に付き合ってくれと求婚をしようと決意した。
ますはフリデミング殿下にお聞きしたところ、花束必須。出来うる限り甘い言葉で求婚を!と言われたので…そう言えばあの漆黒の獣の小説の中に求婚の言葉があったことを思い出し…攫って騎士様の小説をお借りしようとハラシュリア様を訪ねた。
「攫って騎士様の小説~?そんなものどうするの?」
「一度その小説を流し読みしたことはあるのですが、確か求婚の件があって…」
俺がそう言いかけた瞬間、ハラシュリア様の瞳がカッ…と見開かれて物凄い勢いで本棚から書籍を取り出すと、猛烈な速さで頁を捲っている。
「…っ!あった!これよコレコレッこの三行目!」
分かりましたから、そんなに書籍を押し付けないで下さい…余計に見えませんよ。
「はい、ありがとうございます。え~と『この宵闇の獣に愛と安らぎを…あなたとともにむかえるあさのよろこびを……を……して……と……い』…ハァ…」
「こらーーっ!ルベル卿!何だその元気の無い声はぁ!もっと腹に力を籠めて声を出せ!」
ハラシュリア様が鍛錬中の副団長と同じ事を言っている…。助けを求めてソファに座られているフリデミング殿下をチラリと見たが、白けたような表情をされたまま首を横に振っている。
諦めて付き合え…か。
その後ハラシュリア様の前で何度もその求婚の台詞の朗読をやらされた。しかも攫って騎士様の絵物語とやらも出してきて
「ホラッホラッこんな風にマエリアの前でここで色気をだすのよ!いいわね?」
しつこいほど絵物語の漆黒の獣の絵を俺に何度も見せつけてきた。もう疲れていますので勘弁して下さい。
しかし色気ってそんな狙ったように出せるのか?魔力の一種なんだろうか?
そうして俺はマエリアに求婚をする日を決めた。
しかしいざ本番になるとこれはどういうことなんだろうか…遠くからとはいえ、フリデミング殿下、ハラシュリア様、侍従のフーレイさんやメイドの方々、ウラスタ先輩と副団長、軍部の先輩や後輩達…何故皆が見に来ているのだろうか…情報漏洩は誰からだ?
辛うじて、視界に入らない所で見てくれているので、マエリアが気が付いていないのが幸いだが…
「ルベル様どうされました?」
俺はマエリアと裏庭に出向いて、木の根元に隠していた花束を取り出すと跪いてマエリアに差し出した。
「この宵闇の獣に愛と安らぎを、マエリアと共に迎える朝の悦びを一生…いえ永久に心に刻みつけたい。あなたの傍で永久に愛を囁き続けることを許して下さいますか、私の乙女…マエリア=アビランテ嬢…私と婚姻して頂けますか?」
「ふおおおおおっ!」
ハラシュリア様の変な雄叫びがここまで聞こえてきたけど、聞こえないフリをした。
小説のまま…とはいかず文末を変えてしまったけど、甘い言葉になっているか心配だ。
マエリアは驚愕の表情から頬を染め…そして最後には号泣していた。しかし差し出した花束を中々受け取ってくれないマエリア。ああ、フラれるのかな。
ちょっと諦めかけて、花束を持つ手が下がりかけた時に、マエリアがソッ…と俺の手ごと花束を支えてくれた。
そして俺と同じように地面に膝をつくと微笑んだ。
「ああ…騎士様…私も…貴方様のお傍で永久に愛を与え続けたい。その乙女の資格を与えて下さいますか?私の半身…私の愛しい人、ルベル=ビジュリア卿。婚姻お受け致します」
マエリアも小説の主人公の台詞を言いながら、後半部分は言い回しを変えている。
「ふわああぁぁぁぁ!」
またハラシュリア様の絶叫が聞こえたけど無視をした。
花束ごと俺の手を抱き込み、泣きながら微笑むエロくて優しい俺のマエリア。堪え切れずに抱き付こうとしたが、勢いよく駆け込んできた副団長やハラシュリア様やフリデミング殿下達に囲まれてしまった。散々小突かれて、拍手喝采をされて…女性陣には漆黒!グーテレオンド様!と、大絶賛を浴びた。
こうして俺とマエリアは婚約者同士になった。
次はもう1人のざまぁの予定です、ざまぁ案を今頃考え中です;暫しお待ちをw