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乙女5

漆黒の獣大暴れの回です

その日はハラシュリア様とメイドのリーネ達と一緒に物置で探し物をしていた。


このシュリツピーア王国では年の瀬に冬の精霊に感謝をする厳かな祭があるのだが、その祭を王都を挙げての大規模な祭にして諸外国、各領地に参加、出店してもらい一大観光行事にしてしまおう!とフリデミング殿下が言い出されたのだ。


この発案にご年配の大臣の方々は反対されているらしいが、若い役人や子息令嬢方や地方領主からは地方や他国からの輸出入品が入ってくると外交面でも盛り上がると逆に賛成されているらしい。


それはそれで毎年、冬の精霊の真似をした扮装をするのが若者の間で流行っていることを聞いたハラシュリア様が、今年の祭では本格的に制作したドレスや冬の精霊関連小物などを売り出すことを目標に計画を立て始めた。


「それで、冬の精霊ってどんな姿なの?」


その祭を企画しようとした時にハラシュリア様がそう言われて、使用人棟の物置に冬の精霊を模したメイド用の衣裳を保管していると聞き、ハラシュリア様と他の数名のメイド達とおまけにウラスタ卿も参加されて、皆でその衣裳を探しに来たのだ。


「埃っぽいですね…」


「ウラスタ卿お手伝いして頂いてすみません~」


メイド達が滅多に近付けない渋くて素敵なウラスタ卿のお姿に浮足立っている。気持ちは分かるわ。


「長い籐籠に入れていたと思うのよ」


「毎年、その期間だけはメイド服の代わりに精霊の衣裳を着てお仕事しても大丈夫なのよ」


城付きのメイドの話に、その扮装は面白そうね~と思いながら、物置の入口付近で籐籠を確認していく。ん~掃除道具ね…これも違うわね。


「冬の間しか着ないから奥に仕舞い込んだのかなぁ~」


「ねえ、服を見るより書物庫で精霊関連の書籍を探す方が早くない?」


何故かハラシュリア様も埃にまみれて籐籠を探しているけれど、誰も気にも留めてないわね。


「それはぁ~ものすごく数がありますよ?その中で挿絵の入っている本って探すの難しいですよぉ?」


「そうか、衣裳探す方が早いか…ああ、これ季節行事って書いてある!」


ハラシュリア様が探しながらそれらしい籐籠を発見して、皆で中を確認していると…突然、物置の灯りが消えた。


「あら?魔石灯が切れたのかしら?」


ハラシュリア様が廊下の方へ目を向けたので


「私、見てきますね」


と言って立ち上がった。私が一番廊下に近い所に居たので、そのまま廊下に出て壁に設置してある魔石灯に近付いた。魔石に魔力を籠めても反応しない?


メイド棟の事務室の配魔盤を見て来ようかしら?


「ハラシュリア様、元が切れているかもしれませんので、事務室を見て参りますわ」


ハラシュリア様が物置から顔を出した。


「切れてるの?そうか、お願いね」


「はい、見て来ます」


私は物置から事務室へ行こうと廊下を歩き出した。角を曲がり、階段を降りようとしたその時、視界が暗転した。


「マエリア!?」


「きゃああ!」


体が何かに押されて地面から持ち上げられた!?奇妙な浮遊感と揺さぶられることで気分が悪くなってきた。


何が…起こっているの?


どうして?


気分の悪さに意識が朦朧としている間に目隠しをされ、口を布で塞がれて…私は何か麻袋のようなものに入れられて…どこかへ運ばれていた。


体が常時揺すられる衝撃があることで、恐らく馬車でどこかへ運ばれていることが分かる。私を誘拐?城の中で?ハラシュリア様やリーネや他のメイド達も目撃しているから、助けが来てくれる…はず。


誰か…助けて。



……


体に当たる痛みと衝撃で目が覚めた。気を失っていたのかもしれない。手が後ろ手に縛られている。何か体の周りにあったものが取り払われたような気配を感じて、上を向いた。


「マエリア=アビランデ伯爵令嬢…ふん、あなた伯爵家のご令嬢だったのね」


この声……まさか!


「ジーニレア=フリスベイ侯爵令…ぃい!?」


肩に何か衝撃を感じて、後ろに倒れた。


痛い…肩に何か当たった?


「侯爵令嬢……そうよ、私は侯爵令嬢なのよっ!ジーニレア=フリスベイ侯爵令嬢なのよっ!その私が、あばら家で使用人もいない生活なんて…あんた達のせいよ!あの…フートロザエンド王国から来た…フリデミングのせいよっ!ルベルまで取られてっ…あなたがルベルの想い人だって!?」


顔に衝撃が走った。顔を叩かれた…ただ、叩いたのはジーニレア=フリスベイだからか、それほどの痛みはない。それに私がビジュリア卿の?何を根拠にそんなことを…


「…もういいだろう?貰った宝石分の仕事はしましたよ?その女を俺達にくれるんですよね?」


「後は好きにさせてもらいますよ?」


「…っ!」


私を攫ってきた男達だろうかその声がした。彼らの話し方はジーニレア=フリスベイに対して、一応の礼節を感じさせる。昔の知り合いなのだろうか…


近くに男達が近付いて来たのが分かる。


「アーハハ!せいぜい苦しむがいいわ!」


ハァハァ…という男達の息遣いが迫る…ああ、ああ…まるでそれは興奮しているステファン=シガリーの恐ろしい息遣いに似て…


「た…たすけて…助けて…助けてぇ!」


突然、風が顔に当たって何かの破裂音が響いた。


「きゃああ!」


「なんだっ!?」


「マエリア!」


風の音の中にステファン=シガリーの叫び声が聞こえた!?私を呼ぶ声だ!


「ひぃ……」


剣戟の音と男達の怒号と…叫び声が入り混じる。ステファン=シガリーがいるのっ!?


目隠しをされているから、方向が分からない…ああ、助けて助けて…


「漆黒の獣さまっ!」


「私だっ!マエリア!」


「…っ!」


ステファン=シガリーだと思っていた…違った…そうだこの声は、私の知っている…この声は…


「ルベル様ぁぁ…」


体を抱き抱えられる、温かく大きな体…そして目隠しを取られた。眩しい……光の中、私を見詰める漆黒の獣…


「ルベル様…うぅ…」


「マエリア、もう大丈夫です。よく頑張った」


黒髪にしなやかな体躯、覗く瞳は湖面の水のような蒼。爽やかな中にチラリと見える色気のある眼差し…ルベル=ビジュリア卿。


私は涙が止まらなかった。恐ろしかった…またステファン=シガリーに殴られる瞬間を思い出して体が震えてしまった。


「マエリア!?怪我は……いやぁ!?マエリアの綺麗な顔に平手の跡がっ!?」


ハラシュリア様が転がるように駆けて来られて、泣き叫びながら私にしがみ付かれた。イタタ…肩は痛いのですよ…


後ろ手に縛られていた私の手の縄をウラスタ卿が小刀で切り解いて下さった。


「済まなかった…俺も付いていながら…遅れを取った…」


「い、いえ…ウラスタ卿はハラシュリア様の御身をお守りするのがお仕事です…当然の…」


私がそう言いかけていると、急にビジュリア卿が立ち上がられた。


そして…ビジュリア卿は本当の漆黒の獣と化していた。


私を攫ったと思われる男達(既に気絶している)を足蹴りにし、何度も殴りつけていた。


「いやああ!やめてぇ!」


流石にジーニレア=フリスベイの髪を掴んで拳で殴ろうとした時は、フリデミング殿下と後から来た軍のお兄様方に止められていた。


正直、本物の漆黒の獣は怖かった。


私はすぐに城の医院に入院させられて全治3日と診断された。


「ただの打ち身ですから入院は結構です…」


と断ったけど、ハラシュリア様が頑として受け付けてくれなかった。


しかも入院当日、医院にビジュリア卿がお見舞いに来て下さったのだ…恥ずかしい。医院の寝間着のままだし、顔も化粧をしていないし…


ビジュリア卿は椅子に腰かけると、暫く俯いておられたが私の手を静かに取られた。


「マエリア嬢…もし言いたくなければ構いません。あなたを治療した医院の医師が体に…古傷が沢山ある…と教えてくれました。傷は巧妙に衣服に隠れる範囲に集中していた…と。あなたは以前、私に声の似ている男に声を荒げられたことがあった…という話をしていましたが…それは、その古傷に関係が?」


ビジュリア卿の言葉に血の気が引いた。


私の体の秘密を知られてしまった…体が強張り、震えがくる。


「私は…私は、傷だらけで…穢れて…おりま…」


「穢れていない!」


「っひっ!」


「す、すまないっ!怒ったのではありません」


ビジュリア卿が両手で私の手を包み、擦って下さった。


「あなたは決して穢れていない。美しいままだ。何も心配することはありません」


「あ…わ…たし…汚れて」


ビジュリア卿が優しく抱き締めて下さった。いつか香ったあの良い香りがする。回された手が私の背を頭を優しく撫でて下さる。


「穢れてなどいない、汚れてもいない…勝手に暴き、マエリアを悲しませるつもりはありませんでした。すみません…体を見た医師が腹部に恐ろしいほどの打撲痕と裂傷…そして刃物傷まであった…と顔色を悪くしていました。どう見ても人目に付かない所を痛めつけられていた跡だと…そいつは誰です?」


グッ…とビジュリア卿の手に力が入ったのが分かった。


「誰…それは…」


「教えて下さい、あなたを傷付け痛めつけ、怯えさせる輩は誰ですか?この国の…ものではないですね?フートロザエンド王国の者ですか?私に教えて下さい」


ど…どうしたらいいの?これって今、ビジュリア卿は漆黒の獣化?しているのよね?(命名ハラシュリア様)ステファン=シガリーの名前を告げたらフートロザエンド王国に乗り込んで漆黒の獣が大暴れになってしまうのでは…どうしよう。


先程の暴漢を殴りつけている怒気の籠ったビジュリア卿の怖い姿を思い出してしまった。


思わず、行かせてはいけない…と思いビジュリア卿の背中に手を回した。


「…ぅ…マエリア…」


「ビ…ビジュリア卿…」


「ルベル…と呼んで下さい」


ビジュリア卿…ルベル様のお顔が近付いてこられた。ええっ待って!?そんな…?


「こらぁ!?病人に何やってるのぉ!?漆黒ぅ!」


物凄く良い間合いで、ハラシュリア様とフリデミング殿下が戸口に立っておられた。


助かった…のか残念と悔しがるべきなのか…サラジェとしては悩ましいところです。

漆黒の獣はグイグイ行きます。次回はルベル視点です

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