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乙女2

そうしてシュリツピーア王国に行くことが決まった私、マエリア=アビランデでございます。


それにしてもどうしよう…シュリツピーア王国に行きたいと申し出たメイドの子達とハラシュリア様と私とリーネも交えて面談をしているのだけれど、ルベル=ビジュリア卿への追い回し発言を繰り返すアレニカをタニアさんが殴ってしまい、騒ぎ出してしまって先程から収拾がつかない。


まだ子供のハラシュリア様は怖くて竦んでいらっしゃるようだし、私も目の前での平手打ちの迫力にステファン=シガリーのことを思い出したりして恐怖で同じく竦み上がっていた。


そこへフリデミング殿下がいらして下さった。助かった…と思ったら、まあ!漆黒の獣がいらっしゃるわ!?こんなにお近くでルベル=ビジュリア卿を見るのは初めてだわ。


こんな時に不謹慎だけれど、やはり漆黒の獣様は素敵だわ…


ビジュリア卿は室内に入って来るなり、タニアさん達を睨みつけた。


「俺にだって…相手を選ぶ権利がある。お前達の好みの男は俺じゃない…他を当たれ」


この声!まさか…


ビジュリア卿の声を聞いて恐怖で体が硬直した。ビジュリア卿にお会いしたらすぐに謝罪をしようと決めていたので、力の入らない体を無理矢理立たせて淑女の礼をして腰を落とした。


「ルベル卿、お初にお目にかかります。コーヒルラント公爵家メイド長補佐をしております、マエリア=アビランデと申します。この度は当家のメイドが大変にご迷惑をお掛け致しましたことを深くお詫び申し上げます」


情けないけれど声が震えてしまった。ビジュリア卿の声は…ステファン=シガリーの声に似ていた。よく通る低音の美声…その声音に怒気が混じっている。


ああ…体が震える。


「どうぞお顔をお上げ下さい。私も女性に対して声を荒げてしまって申し訳ない」


ビジュリア卿が静かに私に近付いて来られたけれど、ステファン=シガリーを思い出して身が竦む。体が震えてしまって力が入らなくて、更に腰を落とすような体勢になってしまった。


「恐らくこれまでも度々ご不快な思いをされていたとお察し致します。当家のメイド長補佐として、当家使用人の指導を怠ったことも事実で御座います。どんなご叱責もお受け致します」


何とか考えていた謝罪を全て言い終わると、力尽きて完全に膝を床についてしまった。


すると私の前にビジュリア卿が膝をつかれて、顔を覗き込んでこられた。漆黒の獣だわっ!?


「もう大丈夫です。マエリア嬢が気に病まれることではありません。ここからは公爵家の主が判断なさることです」


再び血の気が引いた。より一層近くで聞いたビジュリア卿の声はステファン=シガリーと本当によく似ていた。


名前を呼ばれて、あいつを思い出してしまう。ビジュリア卿が更に近付いて来られたけど、恐怖で体が震えてしまった。


違う…この方はステファン=シガリーじゃない…違うのよ。


「マエリ…」


「すみません……少し離れて頂けますか…」


また名前を呼ばれそうになったので、素早くそれだけを告げた。お願いだから…近くに来て声をかけないで欲しい。


ビジュリア卿は小声で謝罪されながら離れて下さった。ああ…漆黒の獣様を怖がっている訳じゃないのだけれど、ビジュリア卿があんなにあいつの声に似ているとは思わなかった。


私はその日の夜


『攫って騎士様〜朝まで共に〜』を見返していた。この騎士様の想像画、本当にルベル=ビジュリア卿に似ていらっしゃるわ…まるでビジュリア卿を見ながら描かれたみたい。


そう…あの方は近衛騎士のビジュリア卿、ステファン=シガリーではない…声だけ聞いていては怖いだけよ。目を開けてしっかりと見ればいいの…あの方は違う方。


そしてハラシュリア様と共にシュリツピーア王国に入国したのだけれど…ビジュリア卿を変に意識してしまってぎこちない私に、とうとうフリデミング殿下とハラシュリア様がお話を聞きにこられた。


私は包み隠さずステファン=シガリーの事を伝えた。この聡明なお2人の事だ、私が変に隠し立てすれば疑心を抱いて色々と気を揉まれるだろう。


そして…ルベル=ビジュリア卿とお話をする場を設けて頂けた。


緊張する…ビジュリア卿に声が苦手だとお伝えすると、卿は労われるようなお顔で私に言葉をかけて下さった。ああ…サラジェの私には心臓に悪いわ。こんな至近距離でビジュリア卿の瞳を覗き込んでしまっては眩暈が起こりそう…尊い。


その日の夜、ルベル卿が今ご自身に降りかかっている令嬢からの嫌がらせについて話された。なんてことなの…美しい近衛騎士に懸想をするあまりご迷惑をおかけするなんて…貴族令嬢の恥だわ。


もしかしてその令嬢サラジェかしら?だったらもっと許せないわねっ


お話を終え、廊下に出られたビジュリア卿に私は思い切ってお声をかけてみた。厚かましいサラジェをお許し下さい…


「あのビジュリア卿、卿が今お困りのことがあるのに、私の事でご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした」


私がそう伝えると、ビジュリア卿は慌てたように首を横に振られた。


「マエリア嬢の事は迷惑な訳はありません…私の方こそよく知りもしないのにマエリア嬢の気持ちを暴くような真似を…」


ビジュリア卿…!ああ…やはりこの方はお優しい。グーテレオンド様のような切りつけるような荒々しさや冷淡さ傲慢さ(そこが漆黒の獣の良い所だけど)はまったく感じられない労りに溢れた微笑みだわ。


それにこの方はステファン=シガリーとは違うのだ…安堵したので、目元が潤む。何とか微笑みを作りながらビジュリア卿を見詰めた。そう…俯いていては卿の声ばかり聞こえるもの、しっかりビジュリア卿のお顔を見て話せば絶対怖くない。


「ビジュリア卿のお声だけ聞けばまだ怯えてしまいますが、こうやって卿のお優しい顔を見てお話すれば全然怖くありませんものね」


ビジュリア卿は口元を手で覆うと、何故か後ろを向かれてしまった。どうされたのかしら…私、何か余計なことを口走ってしまったのかしら。


嬉しくなっていた気持ちが途端に萎んでいく。ああんっもう~サラジェ失格よっ!踏み込んでは駄目、漆黒の獣は遠くから愛でて嗜むものだわ。


背を向けて何か小声で呟いているビジュリア卿に


「あの…不躾なお話をしてしまい申し訳ありませんでした、失礼致します」


と声をかけて、ハラシュリア様がお待ちの室内へと戻った。室内に戻ると、ハラシュリア様は私の表情を見て顔を綻ばせた。


「ルベル卿とお話、出来た?」


「はいっ…ビジュリア卿は声は確かに侯爵子息に似ているところもありますが、お声だけですわ。卿はとてもお優しくて…不謹慎ですが、懸想をされても仕方のないほどの清廉なお方でした」


「そうよね~ビジュリア卿ってあの野性味あふれる色っぽい外見とは違って優しいし気さくな方よね。そこはグーテレオンド様のようなお色気野獣と違って、爽やかよね」


まあ!ハラシュリア様よく分かっていらっしゃるわっ


「そうなんですよねっグーテレオンド様のような荒々しい気性で乙女を翻弄するような所は無いけれども、包み込むような優しさを兼ね備えていらっしゃるような…」


ハラシュリア様が前のめりになられた。サラジェ語りが嬉しくて近付いて行った私の両手を小さな可愛い手で握り締めてこられた。


「そうよね~色気垂れ流しな所は似ているけど、ねっとりした色気はグーテレオンド様で、ルベル卿はサラッとした色気なのよね~」


ハラシュリア様と2人で声を上げて笑い合った。フリデミング殿下の白けたような目が気になるけれど、真正サラジェの私には漆黒の獣の話題は心の潤滑剤ですもの、許して下さいませ。


その日は心の重石が取り払われたようにすっきりとした気持ちで、一日を過ごすことが出来た。


心地良い疲れと共にリーネと部屋に戻って来た。


私はリーネと一緒にシュリツピーア王国に来ている王宮内にあるメイド棟の寮で同室だ。明日からハラシュリア様のお部屋近くの部屋でリーネと交代で側付きとして勤務することになった。


暫くは2人で交代だけれど、頑張ろう。


「私、マエリアさんと一緒で良かったです…タニアさんやアレニカとだったら疲れてしまってとてもやって行けないもの」


リーネは部屋に入るなりそう言って安堵したようにへニャと笑った。


そう言えばアレニカってビジュリア卿に執拗な付け回しをしていた…とか言っていたわよね?


「アレニカってあんなに思い込みの激しい子だったのね。ビジュリア卿はお優しいから強くは拒否出来なかったと思うけれど…」


私がそう言うとリーネは首をぶんぶんと横に振った。


「えっ?そんなことなかったですよぉ!私が見ても怖いくらいにビジュリア卿がアレニカを叱責してましたよ!『遊んでいないで仕事に戻れ』『仕事をしない者は認めない』って言われてましたし、私なら近衛の方にあんな事言われたら恐怖で失神しそうになりますけど、アレニカは妙に喜んじゃってて…変な子ですよね」


あら嫌だ…それ『攫って騎士様』のグーテレオンド様の名台詞じゃない。確か部下のマヒマリ少尉を叱って鼓舞させる場面だったかしら。


その叱った後にマヒマリ少尉を飲みに誘って、マヒマリ少尉に優しくするその描写が一部の嗜好をお持ちのサラジェの性癖に刺さり、グーデレなる造語が生まれたんだったわ。


それにしても…たまたまだろうけれどビジュリア卿がアレニカに、グーテレオンド様と同じ台詞を言ってしまって、アレニカを喜ばせてしまったんだわ…


ルベル=ビジュリア卿も無意識で萌えを垂れ流しされて、本当に罪なお方ね…

マエリア視点の話とルベル視点の話を入れながら話が進んでいく仕様です。次話はルベル視点です

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