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漆黒7

俺は確かに言った。


「罠を仕掛けるのはいいが、マエリアを危険に晒すことは絶対にしません」


確かにそう言った…でも…


「マエリアにこんなっ胸の開いた…エロ…ごほん、扇情的なドレスを着せるなんて聞いてません!」


そうマエリアは蒼色を基調にした布地に胸元、腕と背中を黒のレースで素肌を透かしてチラ見させる、とてもとても魅惑的で大胆な意匠のドレスを纏っていた。


俺の買ったドレスはどうした!何故このドレスを着ているんだ!


「いいでしょう~?いつか色っぽくて可愛いマエリアに着て欲しくて温めていた意匠なんだ!」


そんなけしからん意匠を温めないで下さいっハラシュリア様!悔しいけど大変、素晴らしいです!


黒の透け透けのレースに覆われた胸がフルンと揺れて…私を困ったような目で見上げるマエリア…堪らん。


「ルベル様…先日買って頂いたドレスはシュリツピーア王国で着用しますわ…ただ、ハラシュリア様に絶対に着てぇ…と抱き付かれて泣きつかれてしまいましたので…すみません。私、ハラシュリア様に頼まれるとどうしても断れなくて…」


俺はソファにふんぞり返って座り、ニンマリと笑うハラシュリア様を苦々しい思いで見た。


あざとい…その可愛い見た目を利用して庇護欲を誘い、マエリアに強要したに違いない…素晴らしいけど…あざとい。


今、俺達はフートロザエンド国王主催の夜会の会場内の控室の一室にいる。ここにはフートロザエンド国王陛下と国王妃、ライトミング殿下、ケールミング殿下、フリデミング殿下とハラシュリア様…腹黒の大集結だった(一部を除く)


「いいか、ルベル!お前の使命はマエリアを連れて色気を振り撒き、枝の嫉妬心を盛大に煽ることだ」


またしても枝…と呼ぶフリデミング殿下。ハラシュリア様の横に座られた国王妃…ハラシュリア様の実姉のジュリアーナ妃殿下が「ラシー、枝ってなあに?」と聞いておられる。答えるのも馬鹿馬鹿しいはずなのに、


「あーっ枝っていうのはねーあのクズで馬鹿のステファン=シガリーがぁ…」


と説明しているハラシュリア様、そんな彼女の横で、そーだ!そーだ!と合いの手を入れて更に煽っているフリデミング殿下。


「ルベル様…あの会場の中を歩くだけで、上手くいくのでしょうか?」


マエリアは不安なのか…先程から何度も同じ確認をする。


「俺とマエリアで歩いていれば色気で何とかなる…らしいし、よく分からないけどフリデミング殿下に従おう」


そう言ってからマエリアの頬に口付けを落とすと、くすぐったそうにして微笑んだマエリアは今日も安定の可愛さだ。


「よしっその勢いで夜会で色気を垂れ流してステファン=シガリーを釣り上げてこい!」


フリデミング殿下にそう言われて、マエリアと共に夜会会場に放り出された。


俺達の周りにはフリデミング殿下とハラシュリア様が臣下を守るような立ち位置でいる…おかしくないかこれ?しかしマエリアは緊張しているのか、そのことに気が付いていないようだ。


「マエリア…あまり気を負わずに楽しもう」


「はい…そうですわね」


俺とマエリアは二曲続けてダンスを踊った。けしからんことに踊るマエリアの胸が黒いレースの布地の中でフルンフルンと揺れまくっている…


これはマツマレの枝を呼び寄せるより先に、好色ジジイ共をおびき寄せてしまうのでは?と心配になる。案の定、会場のあちこちからねっとりした魔力と気配を感じる。その度に鋭く目をやると、俺に睨まれたジジイ共は目を逸らして逃げて行った。


しかし、マツマレの枝こと、ステファン=シガリー侯爵子息が中々現れない…


「来ないわね…根性無し!」


ハラシュリア様が夜会会場の広間の入口を睨みつけて毒づいている。俺とマエリアは兎に角、目立つように…との指示の元、国王陛下とジュリアーナ妃殿下のお傍に立ち続けていたのだが、流石にマエリアに疲れが見え始めていた。


「マエリア…少し下がって休ませてもらおうか?」


「はい…そうですね、最近夜会に出ることもなかったので…」


そうか、二年ほどだがコーヒルラント公爵家で家内メイドとして働いていたから、令嬢としての正装も久しぶりなのかもしれない。女性は下着も締め付けたりする素材らしいし…辛いだろうな、と思い至った。


俺は国王陛下に少しだけ控室でマエリアを休ませてきます…と断りを入れて会場から外に出た。


「マエリア、大丈夫なの?」


「ジュリアーナ妃殿下…はい、コルセットの締め付けが少し苦しくて…」


ジュリアーナ妃殿下が追いかけて来られてマエリアに近付いて来ると、マエリアは破顔した。


そう言えばマエリアとジュリアーナ妃殿下は令嬢時代からの友人だと言っていたな…女子同士の親密な雰囲気を感じた俺は


「飲み物を持って来るよ」


とマエリアに声をかけて…友人同士、ふたりきりになるようにして差し上げた。積もる話もあるだろうし…


「少し離れます、お願いします」


廊下の少し離れた所にメイド2名と近衛騎士2名がおられたので、そう断ってから会場に戻った。


「あら?マエリアは?」


ハラシュリア様がお菓子を口いっぱいに入れたままビュッフェの前に陣取っていた。


「ジュリアーナ妃殿下と一緒です。ご友人同士ですし、積もる話もあるかと思って…席を外してきました」


「気が利くわね!流石、ルベル卿ね~どこかの枝とは大違いね!」


ハラシュリア様までが枝扱いしている…そんな時に、フリデミング殿下が、あっ!と声を上げられた。


「枝が来たぁ!?あいつ根性も悪いくせに、マエリアが居ない時にやって来る時間も最悪だな!」


「別にいいんじゃないの?マエリアにあんな腐った枝をわざわざ見せる必要もないわよ。今更、枝が騒ごうともここの会場にいる皆様にマエリアとルベル卿の相思相愛を見せつけられたし、大丈夫よ」


ハラシュリア様も枝を連発している…そのステファン=シガリーはド派手な女性をエスコートしながら会場に入って来た。おでこに綿紗が輝いている、招待状で負傷…何とも情けない。


「あーははは!あの怪我ぁ治らなかったのぉ?枝は治癒能力も底辺なのねぇ!」


「ハラシュリアぁ~?可哀相なこと言ってあげるなよ~あんな枝に特異な治癒の力なんて有る訳ないだろう~?」


「……」


会場内に響く少女少年の嘲りと悪意の無いように感じる可愛い声…勿論個人名を名指ししている訳じゃないので、それを聞いても何だろう?と皆は首を捻っているが、言われた枝…ステファン=シガリーは自分のことを言われたと気が付いているようだ。


顔を真っ赤にしている。


だがステファン=シガリーはやはり厚顔無恥だった。その派手な女と共に枝仲間?とお酒を手に取り、まあまあの声量で騒いでいる。


「下品だな…」


ケールミング殿下が小さく呟いているが、果たして馬鹿でクズの枝男は気が付くのか…周りの貴族達もヒソヒソ話をされている。


おっとそうだ、いけない。


俺は飲み物と軽食を給仕のメイドに頼むとその彼女と一緒にジュリアーナ妃殿下とマエリアのいる控室に向かった。


廊下で待機している近衛騎士が俺を見てニッコリと微笑んだ。


「おふたりで中でお喋りされてますよ」


「ありがとう、友人同士の女性の語らいに割り込むのは無粋だから飲み物を置いたら出てくるよ」


と言うと、同じく立っていたメイドの女性も笑顔になった。


「ルベル様はお優しいのですわね~」


「素敵ぃ本当に羨ましい~」


おや?何となくピンときてメイド達に聞いてしまった。


「貴女方は…漆黒の…本をご存じなのでしょうか?」


「きゃあああ!」


ふたりが一斉に叫んだ。当たりだな…


その叫び声を聞いて、控室の扉が開いた。マエリアだ。


「マエリア、飲み物と軽く摘める物を持ってきたよ」


盆をメイドから受け取ると室内に入った。ジュリアーナ妃殿下はソファの上で嬉しそうに微笑んでおられた。


「ルベル様…ありがとうございます」


「愛しの妻とそのご友人で在られる妃殿下に喜んで頂けるならば、給仕の真似事でも苦になりませんよ」


「きゃあ!」


ん?妃殿下が先ほどのメイド達と同じ反応をされた。思わずマエリアに聞いてしまった。


「外にいるメイドの方々も攫って騎士様の小説を読んでいるみたいだね、叫ばれてしまったよ」


「まあ、そうなの?サラジェかしら?」


「サラジェ?」


マエリアと何故だかジュリアーナ妃殿下が立ち上がって俺に詰め寄ってきた。


「攫って騎士様のジェニー(虜)という意味の小説の愛好者の呼称です!」


……な、なるほど。ジュリアーナ妃殿下とマエリアから始めて圧?を感じた。ちょっと怖いと思ったのは内緒だ。


そして再び夜会会場に戻り、フリデミング殿下の所に戻った時にステファン=シガリーの傍に眼鏡をかけたメイドが近付いて来て、何か耳打ちしているのが見えた。


ステファン=シガリーは急いでそのメイドと共に会場から外に出て行ってしまった。


何だ?逃げたのか…?


「ちょっと逃げたわよ!」


ああっ…ハラシュリア様がステファン=シガリーの後を追いかけ始めた。ついでにフリデミング殿下も走り出した!?


俺も殿下達の後を追いかけて走り出した。廊下に出た殿下は右左…と見た後に


「こっちだ!」


と叫んで走り出した。ハラシュリア様もドレスを捲し上げ走る。


こっちの方角は控室のある方向か?…まさか!?


その時廊下の奥の方で


「何用だ!?」


「下がれっ!」


との声が聞こえてきた。廊下の角を曲がると控室の扉の間でステファン=シガリーを近衛騎士が押さえ込もうとしていた。


「そこで何をしているっ!」


フリデミング殿下が扉の前に立ち塞がると、近衛騎士に完全に体を押さえ込まれたステファン=シガリーが、叫びながらフリデミング殿下を見上げた。


「マエリアがそこにいるんだっ!あいつ俺の命令に逆らいやがってっ…お仕置きしてやらなきゃ…」


俺はステファン=シガリーの腹に蹴りを入れていた。ステファン=シガリーと押さえていた近衛騎士も一緒に吹っ飛んだが気にしちゃいられなかった。


「そのゲスイ口で二度とマエリアの名を呼ぶな、穢れる…」


「……」


「ルベル卿っ私もいるんだから加減して下さいよぉ…」


ステファン=シガリーと一緒に飛ばされた近衛騎士が、頭を振りながら立ち上がった。


「すみません…頭に血が上ってしまって…あれ?」


ステファン=シガリーは鼻血を出して白目を剥いて倒れていた。殺してない…と思う。


「ルベル、よくやった!」


フリデミング殿下が悪い笑顔を浮かべてそう言った。


「ジュリアーナ妃殿下もご一緒されている所に襲撃だなんて好都合…ゴホン、とんでもない事だな!」


王族筋への狼藉…処刑ものだが、本当にたまたまなんだろうか?


「あの……殿下何かありま……まあ!」


廊下で騒いでいたので、ジュリアーナ妃殿下が顔を覗かせて床に倒れている、ステファン=シガリーを見て声を上げた。


その時


ジュリアーナ妃殿下に向かってステファン=シガリーと一緒に居たメイドが突進していった。


「…っ!」


俺は反射的にジュリアーナ妃殿下を背後に庇い、そのメイドの前に立った。


「うおおおっ!?」


そのメイドは雄叫びを上げながら突っ込んで来たが、俺は投げ飛ばすと腕を捻り上げ関節を外した。


「うぐあああああっ!?」


痛みの為かそのメイドは肩を押さえてのたうち回っている。のたうち回っている間にメイドの眼鏡が外れた。


「!」


「ア…!」


「アレニカ!?」


眼鏡が外れて見えた顔に皆が驚愕していた。倒れてもがいているのは俺に懸想し、マエリアを怯えさせていたコーヒルラント公爵家のメイドの女だった。


その後、アレニカを拘束して連行したのだがアレニカは完全に気触れており、話も要領を得なかったが…目覚めたステファン=シガリーの話で謎が解明されたのだった。


アレニカは公爵家のメイドを辞した後、商店街の菓子店で仕事をしていたそうだ。(これがロアモナーラの店だと後日判明した。)


ステファン=シガリーの証言によると、その菓子店で俺とマエリアの姿を目撃したアレニカは俺達の後をつけて、アビランデ伯爵家に入って行ったのを確認したそうだ。


この時に伯爵家から離れようとした時に、ステファン=シガリーはアレニカと偶然会ったそうだ。ステファン=シガリーはこの家のメイドかと勘違いをして、マエリアの所在を確かめて…そしてアレニカがマエリアがアビランテ伯爵令嬢だと知ったという訳だった。


ステファン=シガリーはアレニカの話を聞いてマエリアと俺の関係を知り…アレニカを自身の屋敷に連れて帰り…こういう状況になったという訳だった。


アレニカは恨みをマエリアにぶつけるつもりだったのだろうか…


ただ部屋から出て来たジュリアーナ妃殿下に危害を加えようとしていたのは事実なので処刑されることとなった。


ステファン=シガリーは侯爵子息だが、状況から見てジュリアーナ妃殿下にも狼藉を働こうとしていたと判断されて…国外追放になった。侯爵家は降格されて男爵位になった。


俺的にはまだまだ仕返しが足りないが、ハラシュリア様がこう言った。


「あんなマツマレの枝が1人で国から出て生活出来るかっての…親戚の家を渡り歩くにも限界があるわよ?持って5年ね、そのうち行方不明になるから…」


何だか怖いな…ハラシュリア様がそうだ、と言い切ると本当になってしまうのじゃないかと思わせる説得力がある。


マエリアにも


「ルベル様…確かに憎くて悔しいですが、同じ気持ちを持って相手を恨んでしまったら…今度は自分が卑しい人間になってしまう気がします…もうやめましょう…」


と言われてしまったので、取り敢えず表立っての恨みつらみは止めようと思った。


ただ…ステファン=シガリーの監視は続けている。フリデミング殿下とライトミング殿下が率先して監視に協力してくれている。


あいつが野垂れ死にするまで…追い詰めてやるつもりだ…


ちょこっとだけ暴れました。次回はマエリア視点の最終話です

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