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漆黒5

ハラシュリア様に頼まれていたメガロアモナーラを王宮にご滞在のハラシュリア様に届けてからアビランデ伯爵家に帰って来た。


結局、屋敷までついて来た…か。


マエリアは先に帰していたが、アビランデ伯爵家を単独で出て来た俺を尾行して来た者の気配を探る。1人か…茶店を出た辺りからつけて来ている、俺が狙いか?


アビランデ伯爵家に戻り、本当はマエリアの部屋に泊まりたい気持ちでいっぱいだが…別に用意して頂いた客間に入って部屋の窓を開けた。


取り敢えずフリデミング殿下に尾行の件をお伝えして、念の為に人員をお借り出来るか聞いてみるか。俺一人で対処出来るかもしれないが、マエリアの家族が人質に取られる危険性もある…よし。


魔法鳥をフリデミング殿下に向けて窓から放った。屋敷の様子を窺うようにしている者は、俺の放った魔法鳥に気付く素振りも見せない。魔力を感じない者で…尾行の仕方からも素人だと判断出来た。


さてどうなるか…


夕食前にマエリアの部屋で、明日は宝石店に行こうなどと話していると、強大な魔力を持つ者が三名、玄関先に現れた!?


殺気や嫌な気配は感じないが…


「マエリアは部屋にいろ」


と、マエリアを制してから剣を手に持ち玄関先に移動すると…


「フリデミング殿下?ハラシュリア様!?…えっ?ライトミング殿下!?」


玄関先に高貴な方々が供もつけないでいらっしゃる!?礼をする前に思わずフリデミング殿下に怒鳴ってしまった。


「殿下っ!供も付けないで何をなさっておられるのですかっ!」


「ああもうぅ~大丈夫だよ!俺もそこそこ戦えるし、兄上だっているし。だって兄上は軍人だよ?ルベルの頼んだ人員だよ?」


アビランデ伯爵家の警護の為に軍の人間を数名貸してはもらえないかと聞きましたが、ライトミング殿下を指名した訳じゃない!


俺は今更ながらライトミング殿下の前に膝を突いた。


「ライトミング殿下にわざわざご足労頂くとは…」


「ああ、ああ~そう言うのはいいよ。気にすんな!俺は軍人だし使えると思うよ」


俺達の声に執事の方や伯爵達が慌てふためいて小走りで駆けて来るのが見えた。


警護に高貴な方が来るなんて前代未聞だ…


アビランデ伯爵がご挨拶をしようとしたら


「今日は警護の軍人として来ているんだ、挨拶はハラシュリアにまとめてしておけ」


と軽くあしらってしまったライトミング殿下…この方、フリデミング殿下に輪をかけて変わっている…只、強いことには強い。警護という面ではこれほどに心強い方もおられまい。


「殿下方に大変に不敬な事ではありますが、大層心強いです」


俺が心からそう告げると、四兄弟の中で一番の美形(ハラシュリア様談)のライトミング殿下はニヤニヤと笑った。この方ご自分の秀麗さを自ら下げている気がするな…


「そうだろ~そうだろ~まあ見てろ。物見塔から馬糞をぶら下げてやるからさ」


「……宜しくお願いします」


強いけど絡みづらい…何とかならないかな。


そして護衛だけれど、来客室でお茶を飲む殿下達…俺も座れ!と言われたのでマエリアと一緒に対面に座った。


「屋敷まで尾けて来ていたのは素人か?」


「はい、メガロアモナーラをハラシュリア様にお届けの際に、私だけ王宮に向かいました時も私を尾行して来ておりました」


「うむ…卿は美形だから変態に狙われたかな?」


やっぱりライトミング殿下は絡みづらい…助けを求めてハラシュリア様を見てしまった。


「ルベル卿~メガロアモナーラありがとう!流石メガねっ…どーーーんと大きな最高に美味しいロアモナーラだったわ!」


……ハラシュリア様、そうじゃない。いえ喜んで頂けて幸いですが…


伯爵家に王族お二方と公爵家の次期国王妃が居るこの異常な事態。伯爵家の使用人が顔色を失くしている…


そして夕食の時間になった。


食堂に入り、席に着こうとしてハラシュリア様が「あら?」と声を上げられた。


「タニアとラーザじゃない?」


そう言って食堂で給仕をしているメイドに声をかけた。メイドは驚いたような顔をして、慌てて淑女の礼をしている。


「伯爵家で給仕の手が足りないとの事で、コーヒルラント公爵夫人のご指示により手伝いに参りました」


タニア…見たことのあるメイドはそう言って腰を落とした。その時、タニアはチラッとマエリアを見た。決して好意的な目ではない。後ろにいるラーザもそうだった…


「あのメイド達は要注意だな…」


ライトミング殿下が静かに俺に近付いて来られて耳打ちをされた。


やはり殿下方に来て頂いていて良かったかもしれない。夕食は何事も無く終わった。給仕をしているタニアとラーザは給仕中、特におかしな動きはしていなかった。


食事が終わり暫くして殿下方とハラシュリア様は俺の泊まる客室に来られた。内密なお話があるのだろうか…


「ハラシュリア、今日来ていた公爵家のメイドは…ルベルの事で揉めていたあのメイド達だな」


フリデミング殿下がハラシュリア様に聞かれて…そう言えばと思い至った。マエリアと初めて間近で話をした時にいたメイド達か…


「マエリアと確執がある…と聞いているわ」


ハラシュリア様は少し声を震わせている。ライトミング殿下が唸りながら顎を擦ってた。


「魔質からは嫉妬や嫌悪のような負の感情が溢れていたな…用心に越したことはないな。偶然にも我々が伯爵家に来たことによって、あの使用人達を招き入れた形になってしまったかな…すまん」


ライトミング殿下が美麗なお顔を曇らせている。


「いえ、あのメイド達以外にもつけて来る不審者もいたことは確かです。どちらにせよ、何か起こることを未然に防ぐ為にも殿下方がここに居て頂けて……っ!」


「…っ!」


俺が気が付くのと同時にライトミング殿下とフリデミング殿下も気が付かれて、一瞬で魔質を抑えたられた。流石だ、魔力を放出していると気取られるからな…


「マエリアの部屋に向かっているな…」


尋ねられたフリデミング殿下に頷いてみせた。


「私、マエリアの部屋に行ってみるわ」


「危険だ!」


「私が居る事で事件を未然に防げるかもしれないじゃない?」


「でも…」


ハラシュリア様とフリデミング殿下が言い合いを始めている間にもマエリアの部屋に近付く魔質…


ライトミング殿下と俺は痺れを切らして廊下に飛び出した。


「ん?」


「ちょっと待て…」


ライトミング殿下と2人、廊下の曲がり角に身を伏せた。マエリアの部屋の少し手前で…タニアとラーザが居る…が、廊下から様子を窺うだけで部屋に入って行こうとはしないようだ。


「部屋の前で何をしているんだ?」


「何か小声で話をしているようですね…」


その後すぐにタニアとラーザは部屋の前から移動して行った。何をしに来たんだ?


タニアとラーザの気配が完全に離れた後に、廊下から素早くマエリアの部屋の前に移動した。2人が佇んでいた所にも不審な気配はない。


一応マエリアの様子を確認しようと扉を叩いた。


「はい、あ…ルベル様」


「マエリア、変わりは無いか?」


マエリアは俺を招き入れようとしたが、今押し入ってしまうとマエリアの傍から離れがたくなってしまいそうなので、固辞した。


「何かあるかもしれないから…窓の施錠も確認してから眠るようにな…」


「は…はい」


マエリアは顔を強張らせている。


「大丈夫だ…俺がついている。良い夢を…」


マエリアの額に口付けを落としてから部屋を後にした。そんな俺とマエリアのやり取りをニヤニヤしながら見ているライトミング殿下。嫌な目付きだな…


「ルベルは天然のたらしだなぁ~」


「殿下…どういう意味ですか?」


「普段素っ気無い男が、少ーーし優しくするだけで女は勘違いするってやつだよ?」


本当にこの方王子殿下なのかな?近衛の先輩の下世話な話を聞かされているような心境だ。


部屋に戻ると、ハラシュリア様が窓を開けて魔法鳥を放っておられた。


「あ、今ねコーヒルラントのお母様にタニアとラーザの事を聞こうと思って手紙を書いたの。フリデミングが、タニアとラーザがわざとこちらの手伝いに来ているのかもしれないって言い出してね」


なるほど…!流石フリデミング殿下。何か事を起こそうとしているのならば…まず公爵家に聞いてみるのが一番だろう。


そして暫く待っていると魔法鳥が帰って来た。


ハラシュリア様は魔法鳥を手に乗せると、腹の中から折りたたまれた手紙を取り出して読み始めた。


「そうか……タニアとラーザに伯爵家の手伝いをお願いしたのは間違いないそうよ。但し本人達の志願だそうね。今日…マエリアとルベル卿が婚約されたことを使用人達に伝えたそうなの。帰国してこちらに来ているので伯爵家でお手伝いの手を借りたいとメイド達に聞いた時に2人が志願してきたそうなの。でも以前のルベル卿のことがあったでしょう?お母様が渋っていたら『マエリアに直接会って謝罪したい』って言われたそうよ。それで此方に2人を寄越したそうなんだけど…謝罪してましたっけ?」


「無いですね…」


「ねぇよな~」


俺とライトミング殿下がほぼ同時に否定した。


「それにお母様の手紙に続きがあります。実はアレニカも解雇していて、使用人の再教育と人員不足を解消しようと、陛下にご相談したみたいなの…そこで陛下が王宮の中で優秀なメイドを数名、公爵家に寄越して下さったんですって…その来られた方々すごく優秀で、しかもこれからも公爵家で働きたいと言ってくれたので本採用をすることにしたのだけど、タニアがそれを聞いてすごく激高したのですって。どうやらタニアとその元王宮勤めのメイド達とは反りが合わないようです…ですって」


「う~ん益々ここに手伝いに来た理由が分からないな」


フリデミング殿下は首を捻っている。ハラシュリア様も首を捻っている。


「この文面を見る限りは、コーヒルラントで居心地が悪いからこちらに逃げてきたように感じるけれど…」


「あ~やめやめ~考えるのは後にしようぜ。兎に角今日は張り番しようぜ」


ライトミング殿下が考えるのを放棄した……と見た。この方見た目より大雑把みたいだな。俺も同じだが…


と言う訳で、ライトミング殿下と2人で寝ずの張り番をすることになった。廊下で立っているとライトミング殿下から話しかけてこられた。


「ルベルは寝ないで何日持つ?」


「3日くらいなら問題ありません」


「お前…何となくだけど軍人向きだよな?」


「はい、最初は軍に入隊しました」


「あ、やっぱり?」


「ですが…顔で判断されて近衛に強引に移動させられました」


「辛っ……そうか、お前うちの軍に欲しいわ…判断力もあるし、瞬発力もある。顔が良いのも困るよな~」


因みにフリデミング殿下も張り番をしているのだが、何故かハラシュリア様も参加していてこれまた何故かマエリアの部屋の大きな衣装棚の中に隠れているらしい。


何故そんな所に隠れるのかをハラシュリア様にお聞きしたら


「潜むと言えば衣装棚の中でしょう!」


と訳の分からない持論を展開されてしまった。下手に反抗してはいけない…と最近やっとハラシュリア様の扱いが分かりかけたので、素直にそのまま殿下と2人衣装棚の中に入って頂いている。


「……庭から侵入者だ…」


ライトミング殿下の声に庭に意識を向けた。気配は2つ…真っ直ぐマエリアの部屋を目指している。


「俺達は廊下で待機だ、室内にはフリィが居る、何かありゃ俺達を呼ぶはずさ」


「はい…」


フリデミング殿下も相当にお強いので問題はないだろう。ライトミング殿下と息を詰めて気配を探っていた。


そして賊がマエリアの部屋の庭に面した窓の近くに来た……!


「やああああっ!」


「わああっ!」


「ぎゃあっ!?」


「ハラシュリア!?」


何か変な悲鳴と声が上がってフリデミング殿下の叫び声?が聞こえたので、慌ててマエリアの部屋に飛び込んだ。ベッドの上でドレスを着たままのマエリアが窓の外を指差しているので、ライトミング殿下と2人で窓の外を覗き込んだ。


ああ…あれ今朝、マリアイズと打ち合いをした時に使ってた木刀だ。


その木刀を両手に持っているハラシュリア様が男の上に馬乗りになって、男をボコボコに殴っている。もう1人の男と思われる輩は……言いたくないけど股間を押さえている。木刀で殴ったのか?相当痛いと思う。


「うわっ…木刀で叩いたのか…怖っ」


隣でライトミング殿下が呟いているのが聞こえる。


この騒ぎを聞きつけて、家人が起きてきたようだ。フリデミング殿下が(暴れる)ハラシュリア様を取り押さえて……衣装棚の中に押し込んだ。


色々と騒がしい。衣装棚の中から怒鳴り散らしているハラシュリア様も騒がしい…



結局暴れたのはハラシュリアでした…次こそは漆黒の獣が大暴れ(予定)

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