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乙女6

よろしくお願いします

アビランデ伯爵家の実家にこんな形で帰るなんて…と馬車の中で隣に座る漆黒の髪の美しい方を見上げる。


ルベル=ビジュリア伯爵子息。シュリツピーア王国、近衛騎士団所属の…私の婚約者。


嘘みたい…私がルベル様と婚約しているなんて…


見ている私の視線に気が付いたのか、ルベル様が優しい目を私に向けてくれる。そして、先程から見詰める度にされる…口付け。


互いの唇が触れ合う音が車内に響いて恥ずかしくなる。もう婚約者だし、多少は触れあってもいいとは思うけれど今はステファン=シガリーの件でルベル様は必要なことだと言い、引っ付いている。そしてふたりきりの時までも引っ付いてくる。腰や…胸も触ってくる。変な声が出そうになると、口付けで声が出ないようにしてくる。


本当にこんなに触らないとダメなのかしら?


胸を触られて大きく声を上げそうになった時に馬車が停まった。


「ん?着いたね」


もうっもうっ!ルベル様ってば…何とかルベル様の手を押し戻すと、息が上がってしまったので深く深呼吸をした。先に降りられたルベル様が、馬車を降りようとした私に手を差し出している。


完璧すぎるわ…陽光の中、蕩けるような微笑みを浮かべ…淑女に手を差し伸べる漆黒の獣。


私はルベル様の隣に降り立った。


家の前では両親と弟、使用人達が勢揃いで迎えてくれていた。使用人…特に新人のメイド達の小さな歓喜の声が聞こえる。


新しいメイドの方はサラジェかしら?


「ああ…ビジュリア卿よくお越し下さいました…」


お父様はすでに泣きそうになっているわ…まあお母様ったら、満面の笑みだわ…マリアイズはもしかして騎士様だ!と興奮しているのかしら?


ルベル様を両親に紹介し挨拶を終えた途端、マリアイズがキラキラした瞳でルベル様のお傍に駆け寄って来た。


「ルベル…お、お兄様は騎士様ですよねっ!?僕に剣術を教えて下さい!」


やっぱり…ウフフ、マリアイズってば変わらないわね。ルベル様はマリアイズの目線まで背を屈めると、こんな所で色気を垂れ流している。


「マリアイズ、俺の稽古は厳しいぞ?付いて来られるか?」


何故マリアイズにそんな流し目をして色気を出しますのぉ!?マリアイズは勿論、周りにいたメイド達が色気魔法(とでも呼んでしまおう)に中てられて、漆黒の獣に魅せられている。


喜々としたマリアイズとルベル様は打ち合い稽古を始められた。そこで新たに分かったことがあった。


ルベル様は教えるのがお上手だということを、だ。


「マリアイズ、今のは良い踏み込みだ!」


とか


「マリアイズ、手首だけで剣を振るっては駄目だぞ、体重をかけて…こうだっ!」


「きゃああ!」


メイド達がルベル様とマリアイズが手を取り合い、剣を振っているだけで悲鳴をあげてしまっている。


私、知っているわ…そういう男性同士の禁断の愛の物語も一部の性癖の方々から熱い支持を受けているのを。


ルベル様は言わずもがな…だけど、マリアイズも美少年だものね。はぁ…ルベル様は何と罪深い…


そんなルベル様とマリアイズの微笑ましい稽古の様子を見ながら、私と両親はテラスでお茶を頂いていた。お父様がルベル様と弟の様子を目を細めて見ている。


「先日、国王陛下からステファン=シガリーの件は責任をもって追及するから心配するな…とのお言葉を頂いたのだけど、マエリアがハラシュリア様を通してお願いしてくれたのか?」


お父様は心配そうに私の目を覗き込んできたので、首を横に振った。


「ううん、ルベル様とフリデミング殿下が全てお話を進めてくれたの」


「っ…じゃあビジュリア卿はお前のことを知って…」


お父様に頷いて見せた。お母様は手で顔を覆った。


「傷もね…知っておられるの。それですごくステファン=シガリーに対して怒って下さったの…ルベル様とってもお優しいのよ?昔の事で沢山心配もおかけしたし、ご迷惑もおかけしたけど…それでもこうして寄り添って下さるの」


「まああっ…マエリア!」


お母様も色気魔法に中てられたのか頬を染めた。


「大層な美丈夫だし、フリデミング殿下の直属の近衛の方だろう?マエリア…向こうの伯爵家では大丈夫だったかい?」


「ビジュリア伯爵家の皆様はとてもお優しくて皆様…やはり美形でいらしたわ」


思わずお母様の顔を見てしまった。お母様も私の影響でサラジェだものね。


お母様は私のその言葉で、顔に喜色を浮かべた。


「もしかして…ルベル様のお父様って…」


「ええっお母様のご想像どおり、渋く壮年になられたグーテレオンド様のようだったわ!」


「まああっ!あちらで婚姻式をするのかしら?是非是非お伺いしなくては、ねっねっ!」


お母様…取り敢えず今はあまり漆黒の獣の話をなさらない方がいいわ…お父様のご機嫌が段々悪くなっているから…


「姉上~ルベルお兄様にいっぱい教えてもらったよ~」


マリアイズが木刀を持って駆けて来ると私の胸に飛び込んで来た。


「まあっ良かったわ~現役の騎士様と御手合せ出来るなんて良かったわね」


ルベル様も笑顔でマリアイズと一緒に戻って来られた。その後、ルベル様は両親とも楽しそうに会話をしている。マリアイズもすっかり懐いたようだし、これで一安心だと思った。


さて、本日の午後から例の見せびらかしを始める予定だ。


こちらにいる間はうちの実家にルベル様も宿泊される予定で……でも何故私の部屋でルベル様も身支度を整えているのでしょうか?


「ん?」


何か妙な圧力を感じて、ルベル様にどうして私の部屋にいるのかは聞けない雰囲気だ…


お互いに服を整えて、まずは商店街に行くことにした。何故かというとハラシュリア様に、商店街近くのメガロアモナーラというお菓子を買って来て欲しい!と頼まれているからだ。


ついでに可愛い茶店でルベル様とお茶でもしてゆっくりしてきてね。


とも言われている。ハラシュリア様は本当にお優しい。一応は見せびらかしが目的なので、ルベル様と手を繋いで商店街まで歩くことにした。


「疲れていない?」


「大丈夫ですわ」


道すがら、ルベル様と今回の作戦のおさらいと、私達の今後の話…フリデミング殿下とハラシュリア様の微笑ましいお話…2人で話す話題には事欠かない。


不思議だわ…男性の前では委縮してしまって、家族以外の異性と話していて楽しいなんてことはなかったのに…ルベル様も私も決して多弁な方ではない。お互いに話すことを思案し過ぎて時々黙ってしまうけれど、この静かな時間も心地よい。


「マエリア…俺は口が立つ方じゃ無いし、君の心情に疎い所もある。至らない所も多いだろう。そんな時はすぐに教えてくれ。俺は…君の為だけに耳を傾け…君に愛を囁く」


きゃあああああ!それはっ!?『攫って騎士様~漆黒の獣の狂愛~』の絵物語の中の台詞ですね!


「あ……ルベル様、私はこうやってお傍に居られるだけで…とても幸せです」


は……恥ずかしい。最後の方は声が小さくなってしまったわ…ルベル様よくこんな台詞を真顔で言えるわね…流石、漆黒の獣様。


そう…話しながら歩いているうちに商店街に到着していたので、ルベル様は早速、腰にクル甘い台詞を連発されてきたのね。よーしっ私も負けていられないわっ…え~と…


「ルベル様、私…腰が寒くなって参りましたわ…擦って下さる?」


「…っ!」


ルベル様は目を見開き、固まってしまった。しかし、体は淀みなく動いて茶店を目指している。


どうされたのかしら?これ『攫って騎士様~朝まで共に~』の帰られようとしているグーテレオンド様を引き留めようと主人公が声を掛ける時の台詞だけど…どこかおかしかったかしら?


「ルベル様…?」


「分かった、今すぐ触ろう直ぐ触ろう沢山触ろうしつこく触ろう」


「あ、ああの…」


何か早口過ぎて分からなかったけれど、ルベル様が私の腰を引き寄せられて密着されていることは分かる。ルベル様の体温が感じられて…恥ずかしい。


「もう引き寄せられて離れられないね…」


攫って騎士様にそんな台詞はありませんっ!


ルベル様にくっ付かれて歩きにくい。周りの女性の囁き声やあからさまな非難の声を聞きながら…なんとか目的の茶店に到着した。


そして…やっぱり茶店に入っても女性客の視線を一斉に浴びてしまう私達。


「予約していたビジュリアです」


ルベル様が受付の店員にそう告げた時に、誰かが勢いよく此方を見たのに気が付いて目線をあげた。私の視界に店の調理場の方に急いで下がって行く店員が見えた。誰だろう?…う~ん。


ルベル様は案内された席に座る前に


「メガロアモナーラを5つ土産にそれとロアモナーラとアズラを二つ」


と注文をお願いしている。アズラは女性が好む甘めのお茶だ。ルベル様、お優しい…


……と最初は思ったのにそうじゃなかった!


「マエリア…あ~ん」


嘘でしょう!?こんな場面、攫って騎士様の中で無いわよ!?


だってグーテレオンド様って普段は切りつけるような荒々しさや冷淡さ傲慢さで溢れていて、寝所の中だけ主人公に甘々になる方なんだものっ!


こんなの…こんなのっ演技では無いわ…きっとルベル様…チラッと匙を差し出し、私の口元に菓子を近付けているルベル様のお顔を見てしまった。


見るんじゃなかった!目を瞑っていれば良かった!


まさに蕩けるような微笑みを浮かべて、私に微笑んでいるルベル様、甘い…台詞なんて無くったって甘い。


「マエリア…クリームが落ちちゃうよ?」


「はっ…はい…んっ…」


諦めてルベル様の手ずからロアモナーラを食べてみた。口の中で溶けるっ…美味しい。


「おいひぃです…ルベル様」


ルベル様は益々蕩けるような笑みを浮かべている。その後も雛鳥のようにルベル様の手でロアモナーラを食べさせてもらった。


そして帰りはドレス工房に寄った。王家主催の夜会まであまり時間が無い為、既製品のドレスにする予定だ。


「マエリア…次の機会には是非俺の好みの意匠のドレスを着て欲しい」


「ええ、勿論」


ドレス工房の中でも抜かりなく甘々な婚約者同士を演じる私達。お針子の女の子達が悲鳴を上げている。


「まああ~ん美男美女のおふたりでぇぇ~まああ!この紺碧色がとてもお似合いですわぁぁ」


ドレス工房の店長が声を張り上げて褒めて下さる。既製品のドレスの胸元がキツそうだな…と思って見ていると


「お直しはすぐ出来ますから」


と店長が囁いてくれた。ルベル様は優雅に微笑みながら、工房の中でドレスを選んでいる私を見ている。


その日は二着購入して帰ることにした。お支払いはルベル様が支払ってくれた。そこで私が払います~と言ってみたりもした。これも打ち合わせ済みで幸せな婚約者に贈り物をするルベル様と遠慮する乙女…という演技だそうだ。もしかしてハラシュリア様の指示かしら?


そして帰りも徒歩で2人、手を繋いで帰った。


「ハラシュリア様がお菓子を持ち帰られるのを楽しみにしておられましたね」


「甘いお菓子がお好きなんだな…そこはまだまだ御子なんだな~と思ってしまうよ」


「あら、ハラシュリア様はまだまだ可愛らしい少女ですよ?時には…やり手のメイド長のような貫禄を醸し出しておられますが、フリデミング殿下と膝を突き合わせて内緒話をされている時は無邪気で…」


私がそう言うとルベル様は破顔しながら頷いた。


「確かに微笑ましいな~…ん?」


ルベル様が立ち止まって後ろを向かれたので、私も振り返った。


私の手を握るルベル様の手に力が籠ったのが分かる。何か…ありましたか?


「……殺気は無いな、うん。行こうマエリア」


「は、はい」


ルベル様は私の腰に手を当てると、また体を密着させながら歩き出した。


気のせいかしら…ルベル様少し緊張なさっている?後ろを振り向きたいけれど、ルベル様に腰を押さえられているので体の自由が利かない。


後ろが気になりつつも、そのままルベル様とアビランデ伯爵家の実家へと帰宅した。


マエリアの心の声は忙しい(笑)次回漆黒の獣が大暴れ(予定)


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