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09.カヌレと行き詰まりと

 庭師さんからいただいたお花を花瓶に生ければ、廊下の掃除完了です。

 ひと仕事終えるとすがすがしい気持ちになりますねぇ。


 柱ごとに置かれた白磁の花瓶は1つ1つ形が違っていて見惚れてしまいます。デボラさんが季節に合わせて花瓶を選んでいるのです。色とりどりの花を受け止めるために、この季節は白磁の花瓶を選んでいるのだとか。


 今はちょうど花の陽、前世の暦だと3~4月くらいに当たります。


 この世界の1年は14カ月、季節は7つに分かれています。多いですよね。


 早春や初夏も1つの季節にカウントされるのこの数になっているようです。細やかな季節の変化を感じ取っている文化のようです。

 ちなみに1つの季節に2カ月あり、1月目は【〇〇の陽】、2月目は【○○の月】と呼んで1つの季節にしています。例えば今ですと、花の陽と花の月で【花】という1つの季節となります。


 そして今日は草癒の日。気温の変化に体調を崩してしまわないように薬草茶を飲む日です。いわゆるハーブティーですね。お屋敷には朝から商人の方が大量の乾燥薬草を持ってきました。


 花の陽の時期の大切な風習。この日は領民の方が自由にお庭に出入りできるようにしてハーブティーを振舞うそうです。

 朝からハーブティーの準備をしているとワクワクしちゃいます。


「あ~、染みわたるなぁ」


 妖精王さまは目を閉じてしみじみと味わっています。どうやらハーブティーがお好きのようです。オシャレな飲み物を飲んでいるのにビールをグイ飲みしたおじさんのような台詞を漏らしていますね。


 本日はまた妖精王さまが戻ってきました。旦那さまの身体に入ると力が消耗してしまうらしいのです。暇つぶしにしてはリスクが大きすぎやしませんか?


 しんどいなら止めましょうよ、と言ってみたのですが話を逸らされてしまいました。催促されたので今からおやつタイムです。


 今日のおやつはカヌレ。昨日の夜に準備して今朝焼きました。


 試食してみたら表面はカリッとしていて、中はもっちりしていています。噛みしめるとじゅわっと洋酒が香るのでオトナの味ですねぇ。


「美味い! それに触感を楽しめていいな!」

「そうでしょう?」


 妖精王さまも喜んでいます。


 前夜から作らないといけないのでひと手間入りますが、そういうのもいいですね。2日かけて作りますが、空いた時間にちょこっと準備するだけでこんなにおいしいものが作れるんですもの。


 ――空イタ時間ガアッテイイノ?


 ああ、またです。何者かが問いかけてくるのです。


「……っく。罪悪感が……罪悪感がぁぁ」

「おいっ、落ち着けよ」


 真っ黒い何かに足元を掬われそうです。


 デボラさんが記憶が思い出せるようにと、気を利かせて仕事にゆとりを持たせてくださっているのですが、身体を動かさないとかえって息が止まりそうです。


 何も思い出せていませんし。


「何の成果もなくゆとりを持った生活をしているなんて……許されません」

「自分を責めるなよ。……ほら、気分転換とかしたらどうだ?」


 気分転換だなんて、そんな時間残されていません。妖精祭までに身体を返していもらわないといけませんのに。


 と、くよくよ考えていたら不意に背中に手が添えられて引き寄せられました。不意打ちです。重力に従ってそのまま妖精王さまにキャッチされてしまいました。机にぶつかってティーカップがカチャリと音を立てたので冷や汗が流れましたよ。

 あっぶな~。紅茶零さなくて良かったです。というか、カップ落とさなくて良かったです。今日のティーカップは薄く繊細なデザインなので落ちたら一瞬で粉となってしまいそうですもの。


 そんな私の心配も知らずに妖精王さまは呑気に背中をポンポン叩いてきます。なんだか小さい子を宥めるような感じなんですけど。


「まあまあ、自分を責めるな」


 元気づけようとしているのでしょうか。ことの元凶は妖精王さまですのに。

 

 思わずじっとりと見ると、彼は肩をすくめました。まったく悪びれない様子です。

 はぁぁ。せめてデボラさんくらいの威力を身につけられたらいいのですが。いかんせん経験値が足りないのです。眼差しで戦えるようになりたいです。貫禄を身につけないといけませんね。


「じゃ、明日も張り切って作ってきてくれよ? 期待してるぞ」

「えっ?! お気に召さなかったんですか?!」

「美味いんだが、な~んか足りないんだよなぁ」


 厳しい。

 妖精さんって何が好きなんでしょうか?


 小さい妖精さんたちだとメレンゲでイチコロなんですが、前に出してみたところ美味い、の一言で終わってしまいました。妖精王さまは違うようです。


 明日は何を作りましょうか。

 デボラさんとナタンさんにまた相談しましょう。


「ユーリィ、交代だよ。今日はどうだったかい?」


 おやつ時間が終わってナタンさんが現れました。手紙の束を手にしているので、今から執務室で振り分けるようです。昨日旦那さまとお話した結果、代わりに手紙を開けて内容を確認するのも彼の仕事になったそうです。


「ダメでした……」

「じゃあ、後で明日の作戦会議しようね」


 ナタンさん……っ!


 この優しさ……仏です。尊いです。本日の結果は不服ですが、こうしてナタンさんとお話するきっかけができるのは嬉しいなぁなんて下心がちょっと芽吹いちゃいます。

 

「あ、あれ……ブランシュ嬢からの手紙、今日も届いたんですか?」

「そうだよ、さっき受け取ったばかりだ」


 手紙の束の一番上に、見慣れた名前を見つけました。綺麗な字なのですが少しクセがあるので一目でわかります。


「無下にするわけにもいかないけど、こうも頻繁だと困ったもんだよねぇ」


 旦那さま宛てに来たお見舞いのお手紙はナタンさんが代筆しているのです。ナタンさんからお返事がもらえるなら私も手紙を出したいですねぇ。そんなことしたらデボラさんからお叱りを受けてしまいそうですが。


 それにしても連日届くだなんて……この手紙ってもしかして……毎日届いているんですかね?

いつも読んでいただきありがとうございます!

相変わらず妖精王さまに振り回されているのですが、次話からまた一人ややこしい方が出てきます。

どうか引き続きユーリィたちを見守ってあげてください。

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