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22.ナタンさんの嗜み

 騎士団さまたちへのおもてなしはつつがなく終わりました。 

 お見送りの時にまた団長さんが手を振ってくださったので、メイドのお姉さま方に小一時間ほど問い詰められたりしましたが。


 団長さんとの関係は私だって知りたいくらいです。


 そんなこんなでお屋敷が日常に戻ったある日のこと。

 ナタンさんからのお呼び出しがあったので大広間に入ると、長いテーブルが出されていて、その上にはいくつもの絵画が並んでいました。

 その絵1つ1つをナタンさんが見ています。彼の隣では、ウィルが興味津々で覗き込んでいて、なんだか楽しそうです。


「何しているんですか?」

「お屋敷に飾る絵を選定しているんだよ。ユーリィも絵が好きと聞いたから見せてあげたいと思ってね」


 にっこりと微笑むナタンさんは今日も素敵です。

 絵画と老紳士の組み合わせ、最高ではありませんか!

 白い手袋をはめて絵を持つナタンさんが様になりすぎているので瞳に焼きつけていたいです。

 それに、私が何気なく言ったことを覚えてくださるなんて。ますます惚れてしまいます。


 ナタンさんは絵画に造詣が深いので王都のお屋敷(タウンハウス)でも大奥さまと飾る絵を選んだりしていたそうです。


「魔力を込められた絵だな」


 抽象画のような作品の前で、ウィルが立ち止まりました。

 白地に、大きな青と、中くらいの緑と、小さな黄色の丸が描かれた作品です。

 この世界の絵画にしてはかなり前衛的です。大体の作品は、前世で言う写実主義のような作風ですのに。


 じっと眺めていると、丸がゆっくりと浮いたり下がったりしています。

 動く絵画、ですか。魔法がある世界ならではの作品ですね。


「気をつけろ。魔力が込められている絵は気まぐれに人に干渉する」


 ええっ……とってもホラーなんですけど。魔力が宿ると絵に心が生まれるってことですかね。


「ええ、隠居した宮廷魔導士団の団長さまが描いた作品でして、いかんせん魔力が強すぎたので飾れないんです」


 ナタンさんは残念そうに眉尻を下げました。

 異世界らしい困った事情ですね。

 飾らない絵画はどうするんでしょうか。


「ふむ、魔力を抑えてみるか」


 そう言ってウィルが手を伸ばしたその時、絵画からカッと眩い光が放たれて、辺り一面が真っ白になりました。


「みなさん、大丈夫ですか?」


 光が収まっても目が慣れません。霞みがかった視界の中で目を凝らしてみると、ナタンさんと、見知らぬ人影が2つあります。


 1人は黒髪の男の子で、ぶかぶかの服の中に埋もれています。もう1人はプラチナブランドの長い髪が印象的なの背の高い男性で、どちらも床に倒れています。

 さっきまではいなかった方々ですが、どこから入ってきたんでしょうか。

 それに、ウィルの姿がありません。一体全体、何が起こったんでしょう。


「ああ、ユーリィは大丈夫か?」


 プラチナブランドの男性は起き上がって床に座ると、気遣わしげに私の方を見てきました。

 端正な顔立ちの人で、恐ろしく綺麗な人です。肌は透けるように真っ白ですし、人間じゃないみたいな。

 それに、真っ白の不思議な装束を着ています。魔導士のローブにちょっと似てますね。


「あ、あの……どちらさまでしょうか?」

「俺だ」

「へ?」


 俺、とは?

 そんなこと言われても、私にこんな綺麗な顔のイケメンさんの知り合いなんていませんよ。


「妖精王さま、”俺”ではわかりませんよ。ユーリィはあなたのお姿を見るのが初めてなんですから」

「む? そうか、弾かれて出てきてしまったのか」


 彼は横にいる小さな男の子を一瞥するとそう言いました。

 ナタンさんは妖精王さまと呼びましたよね。妖精王さまということはこの人が。


「えっ?! ウィル?!」


 ウィルの本当の姿なんですか?!

 妖精さんたちと全く頭身が違いますよ?


 妖精さんたちの王さまだから彼らと同じサイズ感とばかり思っていましたが、旦那さまと同じくらいスラリとしています。

 顔立ちもあどけない妖精さんたちとは違って、人間の大人のようなんです。


 改めて見るウィルは宝石のように美しい若草色の瞳を持っていて、おまけに陽光に透けるプラチナブロンドの長い髪は腰の辺りまであってサラサラです。

 旦那さまもそうですが、どうして皆さんそんなに髪キレイなんですか?


 見入ってしまっているとウィルと目が合って、彼は悪戯気に笑いました。


「なんだ? 見惚れているのか?」

「はい、ウィルって綺麗な顔してるんですね」

「素直でよろしい」


 ウィルは嬉しそうにポンポンと頭を撫でてきます。

 恐ろしいほどの美貌の顔を破顔させて嬉しそうにしているのをみると、やっぱりこの人はウィルなんだなぁと実感しました。

 まだちょっと慣れないですけど。


「じゃあ、この男の子はもしや旦那さま……?」

「そうだな。エルヴェの魔力を感じる。あの絵に時戻しの魔法をかけられたんだな」


 なんてことでしょう。

 ウィルから身体を取り返せたと思いきや、今度は絵画の魔法で子どもにされてしまうなんて。

 旦那さま、今年は厄払いした方がいいですよきっと。


「旦那さま、大丈夫ですか?」

「ありがとう、目眩が酷かったが立てそうだ」


 ナタンさんに助け起こされた少年もとい旦那さまがこちらを向くと、あまりもの可愛さに息をのんでしまいました。叫ばなかっただけ褒めてほしいです。

 なんせ、すっっっっごく可愛らしいのですから。 

 お人形さんです!

 天使です!


「だ、旦那さまが美少年に?!!!」

「あの絵画にしてやられたな」


 ウィルは旦那さまを見てニヤニヤしています。

 どうやらこの事態を面白がっているようです。本当に、いい性格をしているんですから。


「いつものお前なら防げたろうが、今は精神的な要因があってできなかったみたいだな」

「……っ」


 旦那さまは悔しそうに俯きました。そんな悲しそうな顔を見るのは辛いです。

 しかもなんだか顔色が良くありません。絵画の魔法のせいで体調を崩されているようです。


「戻す方法はありませんか?」

「時間が経てば魔法が消えて戻るだろう。いつになるかはわからんがな」

「そんな……!」


 なんとも曖昧な見立てです。

 もしかしてこのまま年を取っていくなんてことはありませんよね?

 身体を乗っ取られる以上に非常事態な気がします。


「ふむ、ひとまずユーリィが傍にいてやれ。魔法が解ける手がかりがあるかもしれない」


 ウィルは旦那さまの背中をトンッと押して、私の方に倒してきました。咄嗟に腕を伸ばしてしまったんですけど、私が触れてしまったら小さな旦那さまは拒絶反応でもっと苦しんでしまうのでは?


 そう思い至ったものの、時すでに遅し。

 私は旦那さまを受け止めてしまいました。

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