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21.騎士団長さま

 団長さんは妖精さんたちと楽しそうにお話していて仲が良さそうです。

 旦那さまの従弟ですし、幼い頃から妖精さんたちと顔見知りなのでしょうか。彼らのことをよく知っているのがわかります。メレンゲのお菓子を持ってきてお願いをするなんて用意周到すぎますもの。


「ユーリィが見当たらないからみんなにお願いして案内してもらったんだ」

「どうして……」


 一介のメイド個人にに用事があるなんてあきらかにおかしいです。

 失礼を承知で、疑問をぶつけてみました。


「あの、もしかして街の中でお会いしましたか?」

「そうだよ。あれから何か思い出した?」


 ケロリと答えられてしまいました。なんてことでしょう。団長さん=ナンパ師さんが確定しました。

 前にお会いした時もそうですが、思い出して欲しいことって何なんでしょうか。


 私が首を横に振ると、団長さんは小さく肩を竦めました。


「そうだと思って、良いことを教えに来たんだ。小さい頃に妖精から聞いたことなんだけどね、どうしても叶えたい願い事を妖精に頼むときの作法ってのがあるんだ」

「妖精への作法……?」


 なんだか儀式的な響きがありますね。

 妖精にお願いするんですから、なんだか複雑で難しそうです。だけど、団長さまの口から出てきた作法は意外にも簡単そうで。


「妖精をもてなすんだ」

「もてなす……?」


 もしかしたら私にもできるかもしれないと思ってしまいました。

 そういえば、ウィルは「妖精はもてなされるのも好きなんだ」と言っていましたね。


「満月の夜に妖精たちをお茶会に招待してもてなして彼らに気に入ってもらえば、なんでもお願いを叶えてもらえるんだって。ヴィオニフの森を模した敷物で空間を作り、彼らが好む菓子を用意してあげるんだ」

「妖精さんたちが好きなお菓子って何でしょうか?」


 これまで何度も妖精王さまにお菓子を献上しても気に入ってもらえない私としては、彼らの好むお菓子を作るのは最大の難関のように思えます。


「ゼリーに花を閉じ込めてあげるといいよ。妖精たちの間では水晶の中に咲く花に触れると力が増すという言い伝えがあるから透明なものは喜ばれるはずだ」


 えっ?!

 そんなに簡単なんですか?

 これまであれこれと凝ったお菓子を試していましたのに、ゼリーにお花を閉じ込めるだけだなんて、なんだか拍子抜けしてしまいます。


「記憶を取り戻してくれるようにお願いしてみたらいいんじゃないかな?」

「ぜひやってみます!」


 団長さんは華やかなお顔を破顔させて微笑んでくれました。至近距離でこんな表情を拝んでしまうと誰だって心臓発作を起こしそうになりますよね。ドキドキとして胸のあたりを抑えそうになった私は悪くないと思います。


 彼はどうして私の記憶のことでここまで気にかけてくれているんでしょうか。

 彼との関係性はまったく見当がつきません。


「団長さまは私とどんな関係があったんですか?」

「恋人」

「えっ?!」

「嘘だよ」 


 良かった……。

 随分と心臓に悪い冗談です。ご主人さまの片思いの相手の婚約者の恋人だなんて、醜聞も甚だしい関係ですよ。


 思わず胸に手を当てて自分を落ち着かせていると、温室の扉が開いて旦那さまが入ってきました。眉根を寄せて顔を顰めていて、怒っているような、不機嫌なような顔をしています。


 心なしか温室の中の気温が下がったような気がするんですが。それに、小鳥たちが小さくなって籠の端で丸くなってしまっています。

 この冷気、旦那さまから発していますよね?


「レイ、メイドに手を出すなんていただけないな」

「怖い顔するなよ。世間話も大切だろ? じゃあね、ユーリィ」


 団長さんは苦笑すると、ひらひらと手を振って颯爽と温室から出て行ってしまいました。


 残されたのは私と、剣呑なオーラを纏う旦那さま。

 私の勤務態度に怒っているんですよね。お仕事中にお客さまと話し込んでしまうなんて言語道断ですよね。

 叱られる覚悟で旦那さまの方を向くと、意外にも心配そうに私を見つめていました。


「何を話してたんだい?」

「妖精さんの話をしていました」

「それだけか……?」

「ええ」

 

 旦那さまは何か言いかけて言葉を飲み込んでしまいました。

 代わりに空色の瞳が真っすぐに向けられて、あんまりにも綺麗で見入ってしまいそうになりました。

 

「あいつのことをどう思った?」

「え、えっと、とても華やかなお方ですね」

「ああいうのが好きなのか?」

「いいえ、私はナタンさんが理想の男性です!」

「――え?」


 先輩達にはどれだけ熱心にプレゼンしても同意していただけないんですが、私はナタンさんが本当に理想なんです。

 紳士的で、穏やかで、愛妻家で、絵画を愛でるその姿……理想を通り越してもはや貴いお方なんですよ。


「そうか、ナタンが……盲点だった」


 旦那さまが小さな声で何やら独り言を呟いているんですが、あまりにも小さな声だったのでまったく聞き取れませんでした。


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