第91話 惨劇
〇~ある■■について~
その少年は日本でも有数の名家の長男として生まれた。両親の愛情を受けて育ち幸せに満ち溢れた生活は永遠に続くと思っていたが、その生活は少年が4歳になった時に脆くも崩れ去った。
大好きだった母が死んだことにより、母の死より半年後に父親が新たに迎えた後妻は少年を汚らわしい者でも観るような目で蔑み、憎しみの目を向けていた。それだけに留まらず、夫のいない時を見計らって家人と結託して虐待紛いの扱いを行った。
後妻が少年を憎んだのは少年の母に負けたから、愛する男を少年の母に奪われたからだ。後妻である七海は幼少の頃から同じ年の倖月家長男の宗一郎を好いていた。長じてもその気持ちは変わることがなく、やがて恋は愛へと昇華していった。
————だがその愛は実を結ぶことは無かった。
悲劇は七海が大学3年生の時に起きた。宗一郎が少年の母となる志波美夜に恋をしたからだ。宗一郎の気持ちに気付いた七海は何とか自分にその想いを引き寄せようとしたが、宗一郎の気持ちは動くことは無かった。名門の次期当主の自分に下心丸出しで自分に擦り寄ってくる女ばかりの中で、美夜は美しさは元より自分を特別扱いせずに普通に接してくれたのが新鮮だった。
一方で美夜は宗一郎を友人とは思っても、恋愛の対象とは見ていなかった。美夜には既に交際をしていた男性がいたからだ。それに嫉妬した宗一郎は何としてでも美夜を振り向かせるために、あらゆる手段を用いて美夜には気づかれないように二人の仲を引き裂こうとした。
その企みは成功した。交際していた男性の両親が急に職を失った事で男性は家計を助ける為に大学を中退することになり、自然と美夜との関係も薄れていった。いや、正確には両親が急に職を失ったのが宗一郎の仕業と思い至り、美夜とは距離を置いたが正しい。
この事から解る様にいい寄ったのは宗一郎であり、七海の奪われたという感情はお門違い以外の何物でもないが、名家の出身で幼い頃から気位の高かった七海にはそれを認めることが出来なかった。
思い人を失った事で傷心した美夜は、後に熱心なアプローチを行ってきた宗一郎と交際することになり、やがて結婚をすることになる。だがそれは愛情からではない。交際相手が中退したのが宗一郎の仕業と勘づいていた美夜は、彼が自分に寄せる思いが狂気————ストーカーに近いモノだと察していた。どこに逃げても必ず何かをしてくるような恐ろしさを宗一郎から感じ取っていた。宗一郎を受け入れたのは愛情よりも、何をしでかすか分からない恐怖が大きかった。ここで受け入れなければ自分の家族まで魔手が伸びてくると敏感に察していたのかもしれない。
宗一郎の両親は美夜を心から歓迎したが、親族は表面上は歓迎しつつも内心では庶出の美夜を蔑み見下していた。宗一郎の兄弟や親族たちとしては何の利益も生まない庶出の美夜よりも、名門の令嬢である七海と結婚して欲しかったからだ。
そのことはある意味で但しいいだろう。名家の次期当主たる者なら自分の恋愛感情よりも家の利益のために行動しなくてはならないのは確かに道理かもしれない。だが損得勘定だけで推し量れるほど人の気持ちとは簡単ではない。宗一郎は美夜との結婚に当たって必要なら次期当主の座を降りても良いと宣言しているが、父である当主を始めとした一族の重鎮たちはソレを了承しなかった。
宗一郎以外の候補者たちは当主として必要な能力基準に達していなかったからだ。そして兄弟たちも当主になる重責よりも、安定したポストでの生活を望んで居た事から宗一郎と美夜の結婚を認めざるを得なかった。そして結婚が成立して翌年には長男を授かる。
・・・・そして美夜は少年が3歳の時に母が体調を崩し始め、一年ほどで死に至った。その半年後に父は後妻を迎え、家中でも少年の扱いは子供に行うものではないといえるほどに凄惨を極めた。後妻にとっては少年個人に恨みは無いが、少年の母には言葉で言い表せない恨みと憎しみがあった故に。
第三者———誰が見ても見苦しい八つ当たりであり逆恨みだ。ある意味では美夜は宗一郎の狂気の犠牲者と言えるのだから、選ばれなかった自分の器量不足を棚に上げて何言ってんだ?と事情を知る者が聞けばそう言うはずだ。
だがその晴らす事の無い憎しみは美夜から少年へとすり替わり、虐待に発展していくことになる。既に当主は宗一郎になっており、少年を可愛がっていた父方の祖父母も隠居していたので後妻や子供たちの所業を知らなかったのが少年の悲劇に繋がった。もし祖父母が少年の現状を知っていれば一喝して黙らせるぐらいはしたはずだ。
————だが運命はそうならなかった。
所詮は子供に過ぎない心は理由なき理不尽な虐待により幾度も壊れかけた。いつしか自分の心を護るために仮想人格を創り出し、虐待時には仮想人格を表層に出して身代わりとすることでソレに耐え続けた。
少年は幼い頃より人に悪意に敏感だった上に、その思考はおかしいほどに発達して・・・・・違う、虐待により才能が異常な開花をしたという方が正しいだろう。そして開花した才能が母の死がおかしい事に気付かせていた。
だってそうだろう。母は名家の次期当主夫人、当然日本いや世界でも最先端の治療を受け、名医が主治医として傍についていた。当初の診断結果は精神的な疲労だったが、そのやつれ方は異常といえるほどの速度だった・・・・・そんなことは普通ありえない。何らかの外部的な要因———第三者からの介入があったといわれる方がしっくりくるのだ。そして母が入院していた病院は後の義母・七海の実家が経営に深く食い込んでいた。
少年は虐待を受ける中で「母の死には七海と父の兄弟が関わっている」と確信を深めていった。
そう考えると全てが繋がるから、だがその想いを表面に出すことはしなかった。義母と父の兄弟が結託すれば母の死の真相など簡単に隠蔽が出来る。そう少年は母は病で死んだのではなく殺されたのだと確信していた。そうしている内に義弟が生まれ、倖月家から追い出されることになり、母方の祖父母に引き取られ子供のいない叔父夫妻の養子となる。
「血の繋がりなど何の価値も無い」と親族から度重なる虐待を受けた中で悟っていた少年も、実の子供以上に自分に愛情を注いでくれる祖父母と叔父夫妻をいつしか慕い、本当の両親と思うようになっていく。だが自分の存在が理由で家族が倖月より嫌がらせを受けている現状が歯がゆく、自分の弱さが憎かった。
考え続けていた母の死に関しても証拠がなく、あっても握りつぶされるだけという事も同時に理解していたが故にいつしか考えないようなっていく。真相解明に動くにしても自分の力ではどう足掻いても不可能だと、下手に動けば新たな家族に更なる迷惑をかけるだけだと嘗ての親族への怒りと憎悪を心の奥底に封じ込め蓋をする。
・・・・・・だが、憎しみの感情が消え失せた訳では無い。強靭な理性と家族への愛情により押さえつけていたに過ぎない。その感情が解き放たれた時・・・・・・母の死が病ではなく他殺だと知ったら、確信した時・・・・何が起こるかは誰にも分からない。
◆
〇倖月家本邸 【殲滅者】志波蓮二
都心でありながら緑豊かな自然が広がる一角。広大な敷地内に複数の家屋が立ち並ぶが、古より続く伝統を取り入れながらも近代的な、華美であるが決して下品ではない時代を超えた美しさを誇る大邸宅。
ある種の矛盾をはらんでいるが、それがこの国が誇る有数の名家にして世界的な巨大企業、倖月家の一族が住む場所だ。
世間は皆々倖月家を褒め称えるが。ソコに入った事のある者の感想としては、上流階級とやらは決して素晴らしい物ではないというのが本心だ。
確かに華やかで衣・食・住。人が生きていく上で真っ先に求める物は最上級といっていいだろう。
誰もが羨みこんな家に住みたい、こんな家に生まれたかった。多くの人が口を揃えてそう言うだろう。
(・・・・・・外から見ている分には・・・・な。中に入ったことがある人間としてはこんな家に生まれたくは無かったがね・・・・・)
俺からしてみれば名家だ名門だといったところで、素晴らしいモノとは到底思えない。薄っ気味悪い笑みを張り付けて、人にすり寄って来たかと思えば。陰では陰湿な嫌がらせや陰口を叩く親族。
常に人の粗を探し、上におべっかを使い下を虐げ家中内の序列を上げるしか興味のない低俗極まりない使用人。
気品とは決して家柄や血に宿る物ではない。その人の行動や生き様によって宿り、磨かれていくものと俺は考えている。確かにこの家の連中は作法とかマナーに関してだけは一流かもしれない(幼い頃から徹底的にしつけられているので当然かもしれないが)。だが人としての品や人格は最低の部類に入ると考える。
人を血統や家柄でしか判断できず、上位には擦り寄り下位の者を見下し虐げる下劣な人間性。それが俺の知る倖月家の一族だ。
母が病に罹った原因の根本はこの家に連綿と受け継がれる風潮にあったと思っている。周囲から庶出というだけで、見下され悪意を受け続けて生活していた事が心を弱らせ病に至ったことで、後妻や親族の悪意を加速させたのだと考えている。
アレの兄弟は弟1人に妹1人だが、いづれも名家から配偶者を貰っていることも、親族が母に対して攻撃的だった理由だろう。俺からしてみれば名門出身だから何だって感じだがな。
(人間の価値は血や家では決まらん。そんなことは春か太古から受け継いできた歴史が証明している。それなのにこの時代の逆行ぶり、倖月って輩は真の愚者集団だな)
吐き捨てるようにそう断じることに一切の躊躇は無い。
優れた人間同士を交配させることにより強い存在を産み出す。その考え方は完全には否定しない。
だが完全な肯定も出来ないのが本心だ。
それも歴史が証明している。もし優れた人間の子が同じように優れているならば、過去に栄えた国々は何世代も栄えているはずだ。しかし、現実は違う。
曹操が興した魏、アレクサンドロス大王の巨大帝国も大王の死後に分裂した。織田信長や豊臣秀吉にしてあれほどの隆盛を誇っていても一代栄えただけで大抵は滅びを迎えている。その理由は優秀な跡継ぎに恵まれなかった点が大きい、正確には世継ぎが隆盛を築いた父と同格以上のカリスマや器を持っていなかったことで、家臣や周囲に侮られ、見限られた点が大きいといえるかもしれない。
もし後継ぎが父と同程度の実力やカリスマを持っていれば、臣下に畏怖されていれば下の物は野心などは持たない・・・・・ことも無いが、実行に移しづらいのは確かだろう。
(そこから考えてみても倖月の連中が優れていたとは考えづらい。無能とまではいかずとも、優秀と呼ぶには余りにも実績が無い。奴から買い取った情報だ、間違いは無いだろう)
奴に以前依頼した情報では。倖月の幹部は有名大学こそ出ているが、コレといった実績も無く瞬く間に重役になる所謂、身内びいきのケースが多い。これでは能力があるとは到底言えまい。
(親が子を必要以上に甘やかせばそれが当たり前になり。その立場に至れることが当然と思い込むと今度は努力をしなくなる。それにより、自分を戒めず甘やかすようになる。ハッ! 典型的なダメ人間を作るシステムだな)
その結果が現在俺の真下でで繰り広げられている惨状だ。
「きゃ~、や、やめてっ!」「き、貴様ら、ここをどこだと、ゴハッ!?」「お、お願い。お、お金ならいくらでもギャッ!」「わ、私を逃がせ、貴様らの代わりなどいくらで、ゴォッ、や、し、死にたく・・なド!」「は、早く行きなさい、こ、この子をあげるから、わ、私だけはホゲッ!!」
倖月の使用人や縁者が豚さんに捕まって悲惨な光景が繰り広げられているが、まったく可哀そうとも思わない。
どいつもこいつも見苦しく喚いて不様な事この上ない。な~にが「倖月たる者、窮地の時こそ毅然とすべし!」だよ。母親がガキを差し出して自分は助かろうって、恥ずかしくね~のかよ? おおん?
(如何やら倖月の防衛システムを過信していたようだな。これも近代兵器に入るのか? 作動不良を起こしているようだが。まともに作動していたら、もう少しマシだったかもしれんな、南無)
だが生憎と連中の冥福など全く祈っていない、これは皮肉に過ぎない。
倖月の敷地内には、下手な軍事施設も真っ青な防衛設備が整えられている。しかし、クエストの制限か明らかに挙動がおかしい。そのおかげで敷地内は阿鼻叫喚の地獄と化している。っていうよりもシェルターへの避難ぐらいはしておけよ。
(フン・・・・本来なら真っ先に指示を出さねばならない立場の人間が恐慌状態になり逃げまわってるんだ。下の者も困るだろうさ。それでもこの状況でSPがマトモに機能しないとは・・・倖月のSPは優秀と前評判があるそうだが、お里が知れるな。それよりもオークの戦術は中々のモンだ)
倖月は散々扱き下ろしたが(実際、評価すべき点が無い)、オークの戦術には注目した。
(オークメイジの魔法で広大な敷地の出入り口を5メートルの石壁で囲い込む。それから包囲網を狭め退路を塞ぐ、見えない位置に伏兵を伏せておくことも忘れていない。これなら敷地内にいる連中の全滅は、ほぼ確実だろう)
暢気に批評している間に、この敷地内の攻防も終わりを迎えようとしている。
護衛が何とかオークを食い止めようと抵抗していたが、全くといっていい程に歯が立たず。バラバラに殺されて放り棄てられたのか、哀れにも死体をそこらかしこに晒している。
生きている人間も抵抗虚しくオークの玩具と化して嬲り殺されている。
お~お~使用人連中も逃げ惑っちゃってま~。お、アレはガキの頃の俺に腐りかけたり痛んだ食材を使った料理を出していた料理料殿じゃないか。両腕を斬られて鼻水垂らして命乞いかな? おっ、真っ二つにされたね、南無。
俺がガキの頃に七海の意を受けて俺に腐った食材を出していた料理長は真っ二つにされた後にその死体を豚さんたちに食われている。ブタさ~ん、そんな腐った奴を喰うと腹壊しますよ~?
おや、あそこで豚に犯されて糞尿を垂れ流してるのは。ガキの俺に子供じみた嫌がらせをしていたメイド長さんを筆頭にした使用人さんのようだ。今あなたを助けないのも貴方のした行動の結果ですよ? あの世で後悔と懺悔でもしてね。
使用人共は嬲られてから相当時間が経っていたのか、豚共に犯されてアヘアへと唸っていた。だがやがて狂ったように哄笑を上げ始めたのが豚さんにとって五月蠅かったのか、はたまた癇に障ったのかは知らんが頭部を握りつぶされて息絶えていく。
おっと、あそこにいるのは当主の御兄弟さん一家じゃないですか。母の死後、顔を合わせるたびに「淫売の子供」だの「体で男を誑かす売女」「下賤な野良犬」だの散々罵って下さったことは未だに覚えていますよ。おやおや、高貴な出自なのに、豚さんに抱かれて腰を振っている貴女たちの方が娼婦に見えますよ? あらら、元叔父さんたちも両手足を斬り落とされて身軽になっちゃってま~ま~、紳士のニューファッションですかな? 涙と鼻水で顔を汚してそうやって這い蹲ってると貴方たちの方が野良犬みたいですよ? 女房を目の前で寝とられて不様ですね~、何も出来ない無力な自分を恨んでね~。
当主の弟一家、正確には弟・勇児とその嫁の無様な姿。だがそれを助ける気は全く起こらない。こいつらがまだガキだった俺にした散々な仕打ちは明らかに度を超えていた。そしてコイツは倖月家の金庫番だ。契約によって支払われるはずの養育費をちょろまかしたのはコイツで間違いないだろう。唆したのは後妻だろうがね。
やがて声さえも上げられなくなった玩具に飽きたのか、オークは勇児の四肢を斬り落とし、絶叫を上げる姿を楽しそうに眺めると・・・・・・・ゆっくりと頭部を叩き潰した。
(この場には七海と当主の妹一家はいなかった。妹は兎も角として、七海に死なれると困る。あとはどうなろうが知ったこっちゃないっ)
ハッ、あんな連中は元からどうでもいい。恨みはあるので連中の醜態に多少留飲は下がったがな。それにドローンでこの場での映像は記録してある。万が一生き延びたとしても、ネットに公開すればもはやアイツラは終わりだ。自分が生きるために他人を犠牲にしている見苦しいシーンが流出すれば人前に出るどころか、生きることも困難になるだろうぜ。
—————そもそも・・・・・・この敷地内から逃がす気は無いがね。
あんな小物よりも本命は別にある、確実に始末しておきたいのは(直接は誰一人手に掛けていないが)あの女だ。 クエスト後に倖月の機能を停止させるためにも、あの女は確実に死んでるのを見届けておかねば。
こういった名家では当主夫人は大きな力と裁量を持つ場合が多い。倖月もその例に漏れず当主夫人、倖月七海は当主不在時には家中のまとめ役でもある。
俺の嫌がらせを主導していたのは十中八九コイツだ。他の奴らも関わって入るだろうが、わざわざ倖月から出た者に陰湿な嫌がらせをするほど連中は暇でも無能でもない。
コイツは厄介なことにロジックでは動かない。俺に対する嫌がらせの根源には母への憎悪と嫉妬があるからだ。
(七海が学生時代から当主に恋慕していた事は聞いているが、選ばれなかったテメーの器量不足を母や俺にぶつけられても困る。お袋は当主の熱烈なアプローチに折れる形で交際を承諾したようだし・・・・・。横から掻っ攫われたなら兎も角、振り向かせられなかったのはテメーだろ? 恨むなら当主を恨めってのが偽らざる俺に本音だ)
まぁ恋愛に理屈を求めることが愚かしいか? 綺麗ごとや建前で回ってくんなら世の中もっと平和なはずだしな。
(他の連中は特段殺す必要は無いが、コイツは別。後顧の憂いを取り除くためにも、真実を確認した後にここで死を見届ける)
俺は実力がバレないように立ち回っているつもりだが、いつまでも隠せるとは思っていない。いずれ俺の力は知られることになるはずだ(自分からばらす気は全くないが)。
もし俺の実力がバレたとしたら、過去の事を棚上げして倖月のクソ共がちょっかいを掛けてくる可能性は高い、ってか絶対に接触してくる。俺を利用するためにな。
そして倖月の連中なら俺が従わないと分かれば。母を人質に取り、俺を脅迫するはずだ。そして、それを主導するのはあのクソ女だろう、。大義名分はある、自分たちにだけ都合がイイ「この国のために」といった立派なものが…な!
(控えめに言って俺は金の卵、黄金を産出する鉱山だ。恐らく俺は現時点の地球でダンジョンを攻略できる唯一の存在だろう。その内に匹敵する実力者は現れるだろうが、まだ先のはずだ。ダンジョンが宝の山であることは既にこの国の上層部は知っている。国家の利益のためにも確実に俺を縛り付けるはずだ)
これは自惚れでもない客観的な評価だ。俺は人の醜さや卑しさを幼少期から知っている。確かに良い人間もいることは認めるが、人間は負の面の方が顕在化しやすいのは紛れもなく事実だ。そして国家が真っ先に求めるのは個人ではなく国家の利益、その点で俺はうってつけといえる。ダンジョンを単身で攻略できる力を持ち、母という弱みを持っている俺は、連中がその気にさえなれば言う事を聞かせられる駒となってしまうからだ。だがそんなのは御免だった。
母が健康ならば異世界に一緒に逃げる選択も出来る、が今の状態で下手に連れ出せば母の体にどんな異変が起きるかわからない。そのためにも一刻も早く実力をつけ治療薬を入手しなけらばならない。
(わざわざこんなクエストに参加しているのも、トップジョブの条件を手っ取り早く満たせるため。それが一番大きい)
ほかにも理由はあるが、それが一番大きい理由なのは確かだ。
(俺はもう誰かに振り回されるのは真っ平だ。ようやく自分の心に素直になれそうなんだ。その邪魔は・・・・・・誰にもさせん)
心中でそう吼えると、ターゲットを見つけるべく走り出した。
・・・・・真実を知る時は・・・・・近いと確信して。




