第83話 混浴
〇<ファーチェス拠点>【殲滅者】シレン
俺の提案に満面の笑みで頷きつつも俺を見つめてくるクレアの視線から逃れるように顔を背けた。・・・・・美女に見つめられるのが恥ずかしかったからだ。
この嬉しそうな表情を見ると反対はされまいが、急速な予定変更についての説明は、しておかねばいかんだろう。・・・・・別に民衆を助けるとか、正義に目覚めたわけじゃないからな。
言い訳臭くなるが、俺は正義感とは無縁だ。この提案はあくまでも俺の利に添っているからに過ぎない。
「まず、この急な予定の変更について説明しよう。俺の目標とするトップジョブ【殲滅王】の条件で一番厄介なものは『種族討伐数一万体以上を5種、合計五万体以上』だいくらダンジョンでもこれだけ討伐しようと思ったら相当な時間と労力を要する」
「そうですね。一日で5種族を百体ずつ、500体を討伐しても百日以上かかると思います」
恐らく弱いモンスター討伐でも条件は達成できるだろう。だがスローター系の条件は相当な時間と労力を要する。そして俺にはそんな悠長にやっている時間も余裕も無い。
「そうだ。後の条件は達成しているから残すところ条件はそれだけとなる。俺たちも時間が有り余っているわけじゃない! 経験値の無駄を省くためにも今回の各国で発生するクエストは被害の出る国にとっては不幸でしかない・・・・・・。が俺にとっては・・・・不謹慎を承知で発言するが、絶好の機会でもあるっ!!」
被害を受ける国の人間が聞いていたら殴られても文句のいえない超問題発言だろう。だが俺にとっては【殲滅王】の最後の条件を達成できる好機なのは確かだ、これを利用しない手はない。
各国に発生するクエストの内容は期限こそ3日なのは変わらんが。出現する魔物が違うのがミソだ。
◆◆
大亜連合:エンペラースライム(MR7)と眷属3万体。東京のクエストから2日後に開始。
新ソビエト:ハイコボルトキング(MR7)と眷属3万体。大亜連のクエストから2日後に開始。
東西EU:ヴァンパイアジャネラル(MR7)と眷属3万体。新ソのクエストから2日後に開始。
USNA:カイザーウルフ(MR7)と眷属3万体。東西EUのクエストから2日後に開始。
◆◆
厭らしいことに、各国同士で援軍が出来ないように。各国のクエスト期間に被る様にクエスト発生するよう調整がされている。仮に被っていなかったとしても、自国にいつ危機が迫るかわからん中で援軍を送る国など存在しないだろうけど。
この軍勢を見る限り、ぶっちゃけなくとも無理ゲーである。正直言って、地球ではファーストジョブのカンストさえできているのか怪しいのに。こんな連中と戦うなんざ自殺行為を超えて自殺志願だろう。
(まだ地球では魔物の解析やランク付けさえまともに出来ていないはずだ)
この国の国防軍や政府のトップダウン型の構造では到底リスクを覚悟で魔物の調査など行う事を許すとは思えない。部下の犠牲が嫌というよりも、部下を失った場合の責任を負う事は嫌なはずだ。この前のダンジョンで部隊壊滅の大失態をやらかしたばかりだしな。当然軍人のレベリングさえマトモにしていないはずだ。
そんな連中に高ランクの魔物を討伐できるとは思えない。ステータスやスキルは嘗ての地球の常識を軽く覆してしまう・・・・・それほど大きいからな。
俺が短期間でカンスト間近に漕ぎつけたのは一人だったからだ。自分で得た情報を自分で精査してリスク承知で危険地帯に赴きレベリングした結果いまの俺がある。
要するに自分の裁量で好きなように動けたのが大きい。だが他の人間がいればそうはいかない。やれ安全性や、リスクが高いなどの意見に振り回されて自由に動けないだろう。これが軍ともなればなおさらだ。上からの命令を待ち、やれ上官命令だの命令無視だの戦場を分かりもしない頭でっかち共がアレコレと口を挟んでくるのは確実だろう。
(現場で命を張ってる人間が、安全圏でふんぞり返ってる連中の命令に従わなければいけないのが軍人さんの辛いところだ。あ~やだやだ、軍人だけにはなりたくないね)
内心で吐き捨てるようにそう吼える。
自分の命が安全圏で何もわかっていない連中の命令一つで左右されるのだ。俺の感性からすれば、そんなもんには耐えられない。
・・・・・・話を戻そう。
【運営】は人類を滅亡させたいとしか思えない。いや、敢えて魔物による被害を見せつけ危機感を煽ることで、急速な成長を促しているかもしれんな。どっちにしろ俺たちを虫けらくらいにしか思ってないんだろうけど。
俺も『運営』に振り回されている側だ。連中の思惑を外して一泡吹かせてやりたいという感情も多分にある。クエスト達成で入手できるだろう報酬も根こそぎ頂いて、トップジョブの条件も達成。・・・・・・うん、これで俺の総取りだ。
厄介な場合は俺の正体がバレた時だが。俺はスキルと装飾で外見はおろかステータスも偽装しておけば良いし。クレアにはピクシー種の特性『縮小化』で小さくなってもらい、俺のフードの中かポケットに隠しておけば良い。
会社に出社した時に、街ですれ違った者とあの場にいた社員に解析を掛けたが。『異形種』、上級職は一人もいなかった。(付け加えるならレベルを上げている者もいなかった)
恐らく千人以上を解析しても、一人も見つからなかったことから。『異形種』は相当に少ないんだろう。・・・・『異形種』自体デメリットもあるし、選べても選択しない者も相当いるかもしれんが。しかし、外見の変化はそれなりにあった、耳が尖っていたり、肌が褐色になっていたりと目に見える程度の変化があった。まあ角が生えてたり、尻尾が生えてる人間はいなかったけどな。
「まぁこの変更は詰まる所、俺の勝手な都合によるものだ。別に人助けとか、急な正義感に目覚めたわけじゃない・・・・・って、聞いてんのか?」
ニコニコと笑顔で俺を見つめているクレアに釘を刺しておくが・・・。
「フフッ! どんな理由でもそれで結果的に助かる方がいるなら良い事だと思いますよ? 少なくとも口では立派なことを言って、何も行動しない連中よりもよっぽど素晴らしいことだと思います」
その真直ぐな言葉と優しいが真剣な目を見ていると。妙に気恥しいやら後ろめたいやら、言葉に出来ない感情が心の奥から湧き上がってくる。最終的にはプイッと後ろを向き気恥ずかしさを誤魔化した。
(ちっ! ガキかよ俺はっ・・・まぁクレアが勘違いしてるんならそれでいい。悪印象を持たれるよりはマシなはずだ・・・・よな?)
何を言っても言い訳臭くなるのでソレで自分を納得させることにした。
「今日はもう遅いからゆっくり寝るとしよう。明日から4日は探索やスキルと魔法検証の時間に当てる。最後の一日はゆっくり休んで英気を養うことにする。クエスト開始からは強行軍だ。転移はUSNAに行くときに使わないといけないので実質、陸地を走るか飛行スキルで空を飛んで国境越えをすることになるだろう」
既に自分が出せる飛行スピードは検証済みだ。AGI1000以上で亜音速。5000以上で遷音速。恐らくは10000以上は超音速に達すると考えている。
今の俺は8000弱程度のAGIだが、アクセで補強すれば10000は超える。
まぁそんな速さで移動して、何かにぶつかったら壁のシミもしくは非常にスプラッターな光景になるので。魔法による空気の繭で全身を覆い、移動する予定だ。
大亜連合まで正味2時間弱。そこから新ソまで4時間弱。ヨーロッパまで6時間強は掛かると見てイイ。ぶっちゃけなくても頭のおかしい奴が考えた狂気の計画だ。
だがそうしなければ、この機会を最大限利用しなければトップジョブへの道のりは険しく時間を要する。
(既存のジョブをカンストしても。Aランクダンジョン深部をアタックするには厳しい。母の容体がいつ悪化するかわからない現状では一刻も早く実力を身に付ける必要がある)
そのためのリスク。これは・・・・・取るべきリスクだ。
クレアには伝えなかったが、極東、USNAだけ参戦し。他の国を無視してしまうと俺の身元・・とまでは無理だろうが。俺の国籍や出身国を嗅ぎ付けられる可能性は無視できない。
今回のクエストで介入し俺の力を見せれば、高確率で各国は俺の身元を割り出し、何としても自分たちの勢力下・支配下に置こうとするだろう。だが幸いとは言いたくないが、俺は固有スキルでこの地球のすべての言語を話せる。(正確には話しているように聞こえる、だが)
ゆえに身元をかく乱する意味合いもあり。参戦の暁には、各国の言語によって。ちょっとしたパフォーマンスを行う予定だ。少なくとも当面の時間稼ぎ・・・は無理でも。攪乱程度には十分なるはずだ。
俺は少なくとも『国家のため!』・『民衆のため!』など御大層な題目のために動く気も、尽くす気もサラサラない。
もう俺は誰かに良いように使われる気も、利用される気も全くない。社長に従っているのは拾ってくれた恩義に報いるためだ。それ以外の奴ら、少なくとも国家や政府。それに軍に利用されるのは真っ平だねっ)
力を手に入れるため危険を冒したのは母を助ける為。それは間違いない。
だが、それ以降の目的としては自分を貫いて生きる為。誰かに意志を曲げられて強制的に従わせられるのも、自分を押し殺して生きていくのも真っ平御免だ。
他者が聞けば石を投げつけ、罵倒や罵声を浴びせてくるだろう。だが誰も聞いていない今ハッキリ言ってやる。俺は母が病に陥った事さえ除外すれば、この変化した世界に感謝している。
確かに俺はかつては平穏に暮らすことを望んでいた。しかし、それは力が無く。自分の意思を貫けないがために諦めただけだと今なら分かる。
(別に俺は好き好んで。『悪事を働こう!』とか。『犯罪を犯し、殺しを楽しもう!』とかそんな気は一切ない。俺のモットーとしては。昔、流行ったドラマの『人を害したんなら自分も害される覚悟はあるんだな? 有っても無くても倍返しだっ!』に近い。・・・おっと、つい考えこんじまった。クレアも疲れてるんだ。早く切り上げて休んでもらうべきだろう)
「さて、ここまでのことで何か質問はあるか?」
「では、国境を徒歩か飛行スキルで超えるとおっしゃいましたが。疲労などに関しては大丈夫でしょうか?」
「当然の疑問だな。だが既にスタミナや疲労を回復させるポーションを買い込んである。それに集中力の持続に関しても問題ない。俺は完徹は日常茶飯事だし、到着してすぐ参戦するわけじゃない。現地の様子を見てからだが、体調を見て必要であれば休息をとる。疲労困憊のフラフラな状態で参戦しても無駄死にするだけだからな」
クレアの表情からこれ以上の質問が出ないであろうことを察して。話を締めくくるべく会話を切り出す。
「今日はクレアも冒険に行って疲れただろう? 風呂を沸かしておくから、ゆっくりと浸かって疲れを取ると良い」
この家にはそれなりの大きさの浴場がある。クレアは女性だし身綺麗にしておきたいだろう。
先に入るように伝え、湯を浴槽に貼るべく立ち上がろうとした時。予想外の言葉がクレアさんから飛び出した。
「そ、それならご、ご一緒しませんか?」
「why?」
この時の俺は相当間抜け面を晒していただろう。それほどクレアの言葉は予想外だった。
「か、仮契約を交わしてわ、わかったのですが。このスキルはし、し、親密にな、なるほど。こ、効果があ、あ、上がるようです。こ、コンビを、く、組む以上は。こ、これくらいは、も、もんだ、いないかと・・・・」
クレア自身も相当恥ずかしいことを言っているのは解っているんだろう。現に顔はトマトのように真っ赤でタコがゆで上がる寸前のように見える。
(確かに俺は最初にクレアの裸は見ている。しかし、それは不可抗力だった。それに俺はDTではないが、付き合った女性を抱いたことは一度も無い。あくまでもそういう行為に及んだのは、商売をされている女性限定だ。別にクレアと付き合っているわけではないが、お互い裸で向き合っての入浴は気恥しいぜよっ)
今の俺は怪しげな土佐弁を口ずさむほどにはテンパっているんだろう。思考がグルグルとしてまとまらない。
「そ、それで、では。よ、よよ、浴室にい、行きましょうっ」
そう言って俺の手を握りしめ。浴室に向けて歩き出してしまう。
ここでこの浅く握られた手を振りほどくのは簡単だ。俺とクレアじゃ筋力が違う。だが、こんな恥ずかしいのに勇気を振り絞っている女性を振りほどき、恥をかかせるほど達観していないし枯れてもいない。
(龍太を焚き付けて一日も経たない内にこんなことになるとは。これも因果かね?)
そう思いつつもクレアに手を引かれたまま浴室に向かい今は体を洗っている。
直視は出来なかったが、微かに目に飛び込んでくる豊満なバストに均整の取れたプロポーション。
その上、顔立ちは誰がどう言おうが文句なしの美女だ。
たとえ一晩でも。この女を抱くためなら、際限なく金を積み上げる男は世界に掃いて捨てるほどいるだろう。 そんな女性が恥ずかし気に俺を見つめ、背を流してくれている。
(う~む。ゆっくり休みたいのに眠れそうにないぞ?)
本日の夜は理性を保つのに苦労しながら、なかなか寝付けないであろうことを理解してベッドへ潜り込んだ。




