第78話 頼み
〇自宅 【殲滅者】志波蓮二
時刻は正午。あれから寄り道もせずに車で真直ぐに帰宅した。龍太を焚き付け、阿良々木に告白を促す策は十中八九成功する。
つーか、あいつらはぶっちゃけなくとも相思相愛だもんな!! 龍太は全く気付いてないけど・・・・・・告白なんてしなくても、最初から出来レースもイイとこだ。
さて、クレアの姿が見当たらない。気配察知にも引っかからない。地下にいるかもしれない、そう思って地下に降りてきたが、どこにも姿が見えない。周囲を見回すと以前運んだベットの上に書置きが置いてあった。手に取り内容を確認するが・・・・。
『レンジ様へ。先にあちらに赴き、レベルを上げておきます! 以前知り合った方たちと行動しようと思っていますので、心配なさらないでください』
(ふむ。何も言わない勝手な行動は褒められたもんじゃないが、俺にはクレアを縛る権利も資格も無い。自分で考えた末の行動ならとやかく言う気は無いな)
しかし既に向こうで知り合いがいるとは・・・・・ボッチの俺よりコミュ力が高いな! まあ俺は向こうでの関係を必要以上に持たないようにしているだけだが。
それでも友人などは出来なかったと思うけどな・・・・・・・自分のコミュ力の無さを自嘲する。
ええい!・・・・・切り替えだ切り替え。俺も向こうに行くとしよう。
地下の作業スペース(アイテムボックスに入っていた資材でアイリスが組み上げた)で俺の依頼した品を作成していたアイリスに一声かけた後。俺も転移魔法陣からクレアの後を追い、異世界へと旅立った。
光が収まるともはや見慣れたファーチェス近隣の森だ。転移を使いたくても、あれはクールタイムが長い。東京のクエストを片付けたら、USNAまで行くのに使用するつもりなので、軽々しく使うわけにもいかん(大亜連や新ソのクエストに関しては興味が無いとまでは言わんが、そこまでの関心が無いため。介入する気は全くない)。
(さて、取り敢えずはギルドに行ってみるか。クレアがどんな冒険者と行動しているか、知っておきたい。それに、こちらでは一か月以上たっているからもう昇格もできるはずだ)
Eランクからは昇格までに一ヶ月の期限があるのはよく考えられていると思う。有望な若手が調子に乗らないように一歩一歩歩ませるように考えてるんだろう。
俺自身は冒険者ランクにそこまで執着心は無い。しかし、その恩恵を受けれるなら可能な限り受けたいというのも当然だ。ギルドに到着したらその件を受付嬢に聞いてみよう。
そう決めるとファーチェスに向けて歩き出す。
門番のおっちゃんに軽い挨拶してからファーチェスの中に入る、周囲を見回しても、数日程度では何も変わったところは見られなかった。寄り道もせず、真直ぐにギルドに足を運んだ。
地球と違ってコチラの時間帯は既に夜だ。もしクレアが俺が出社してから直ぐに此方に来ていたならば、長くても2日。少なくとも一日以上たっているはずだ。
途中、拠点にも立ち寄ろうかと思ったが。やはりギルドに向かうことにする。
既にアイテムボックスは満タン近い。要らない素材は売却しておかないと、ダンジョンに潜っても素材を無駄にするかもしれない。たとえ屑素材でも、無駄に捨てていくと勿体ないと思うのは、根が貧乏性なのかね?
相変わらずこの時間帯は冒険から帰ってきた連中が結構いる。無駄なトラブルを避けたいので、ギルド内で依頼の確認などをして、時間を潰すことにしよう。
中に入り、依頼の掲示板を確認したが。めぼしい依頼は無かった。あってもBランク以上しか受注できない高難易度のモノばかりだ。
実際の所。依頼内容にもよるが、討伐系統の依頼ならば俺にはそこまで達成は難しくはない。
Bランク冒険者の平均レベルは350~400。Aランクでも450~500といったところだ。
伝手などのいる面倒なものならばともかく。荒事、とくに魔物討伐ならば達成できない事は無いと考えている。
ちなみに、ジーク氏から聞いたSランクの条件としてトップジョブの獲得。、その国にある各支部のギルド長の過半数以上の賛成、客観視されたギルドへの貢献度。最低でもこれらは必須のようだ。流石に一昔前のチート系のラノベの様にイキナリSランクとかはありえないそうだ、周囲との軋轢を考えれば無理もないけど。
更に例を上げれば、ギルド長の特権として、一か月を待たずに有望な冒険者を昇格させることが出来るようだ。しかし、これは通常よりも昇格の審査が厳しく。不正などをすると最悪、冒険者資格の停止、剥奪まで有り得るそうなので滅多なことで行われることは無いそうだ。
この国?ってか都市ではジーク氏くらいしか、例が無いそうだ。まぁ下手なのを昇格推薦し、そいつがヘマこいたらギルド長の信用はガタ落ちだ。・・・・当然と言えば当然ともいえるだろう(ジーク氏ならば納得だけどな!!!)。
考え込んでいたら受付に並ぶ列もだいぶ減ってきた。サッサと買い取りを済ませますかね。
列に並ぶとちょうど買取を済ませた3人の冒険者が帰っていくところのようだ。確か、俺が冒険者登録するときに鉢あった『黒翼団』だったか? 以前威張り散らしていたのに、今日はやけに大人しい。それに顔を見ると大きく腫れあがっていて、オタフク風邪のような見た目になっていた。
まるでお通夜にでも行くような陰鬱な雰囲気が漂っており、そのまま誰とも目を合わせることも無く、すごすごと出口から出て行った。
(世紀末雑魚の服装は変わっていないが、態度が以前とは別物だ。ひょっとしたら改心したのか?)
前見た時『俺たちは偉いんだぞ』オーラを周囲に放っていた。それが『産まれて来てスイマセン!!』って雰囲気で小さくなっていれば、流石に路傍の石ころ程度の存在でも気になるのが人情だ。
シレンの疑問は幸い? すぐに解決されることになった。
「オーッス!!! 久し振りじゃねぇか。あんまり見ないんでくたばったかと思ったぜ!!!」
聞く者によっては失礼と感じるだろうが。これはこの人にとって『無事でよかったぜ!!!』みたいなものだろう。だから俺も笑顔で軽く返す。
「ご無沙汰しています、ジークさん。生憎とピンピンしてますよ。あれから冒険の方はどうですか?」
「おう。好調と言っていいぜ!! 遠征から帰った矢先にルーキー狩りとかいう馬鹿どもの話を聞いたんで、ぶっ潰してやろうと思ってたが。俺が連中を探し出そうと動き始めたら。ピッタっと活動しなくなったみたいでな」
「お陰でルーキーの不幸は無くなったが、自分よりも弱い奴を狙う屑どもがまだのさばってるかもしれね~んだ、まったくもって残念だ!」といった感じで力説していたが。その話の傍らで、俺は内心冷や冷やしていた。
(あっぶね~! 下手したらジーク氏とかち合っていた可能性もあったってことかよ? 正直、俺の力を知られるのは御免だ。早々に片付けてよかったぜ)
俺とクレアがルーキー狩りを討伐したことは秘密だ。連中の装備をガメテるし、誰かに知られると面倒ごとになる予感しか思い浮かばないからだ。
タッチの差の幸運に心でガッツポーズを取りつつも。神妙な顔でジーク氏に相槌を打つ。
「ハハハ!! 大方怒り心頭のジークさんに怖気づいて、危険を察知したんじゃないですかね? 私だったら速攻で逃げ出しますから。しかし、そんな輩がまだのさばってるかもしれないのは、本当に恐ろしいですね!!」
白々しさを一切感じさせない口調でジークを持ち上げつつも、最後だけは神妙な顔を作りそう告げる。
「おうよ!! この件はまだ終わっちゃいねぇ。・・・・・下手人を始末するまでは・・な。まぁ何があるのかわからんのが冒険者だ。おめぇも気を付けるんだな!!」
ぶっきらぼうだが、俺を心配してくれてるのは判る。俺は軽く頭を下げて感謝を示しておいた。
「じゃ、俺は酒場に行くからこれで失礼するわ!! あ、そうだ。『黒翼団』の団長と幹部が遠征から戻ってきたようだ。あの団長は出来た奴だ、好き放題やってた下っ端を締め上げた上で。迷惑かけた連中に頭を下げて回ったらしいぜ。これであの馬鹿野郎どもは大人しくなるだろうぜ!!」
楽しげな表情から一変して。神妙な顔になると頼むように言葉を放つ。
「お前もあの馬鹿どもに絡まれたから、アイツが直接詫びを入れに来ると思う。下っ端の馬鹿どもは兎も角、団長のアイツは本当に良い奴だ。もし謝罪に来たら、笑って許してやってくれや!!」
俺個人としては部下の責任はトップの責任だと思っている。仮にトップがどれだけ人格者でも、留守の最中に下の無法を野放しにしているようじゃ、その人望も高々知れている。
まぁ絡まれたと言っても。その前にジーク氏が割り込んで庇ってくれたし、ぶっちゃけ被害らしい被害は無い。正直あの馬鹿どもとの間にあった事など、連中を見るまで忘れていたくらいだ。
ジーク氏がここまでするほどの人なんだし、ジークの不興を買ってまで物事を拗らせる気も、根に持つ必要性も皆無だ。なので重く受け止め、軽く返しておく。
「あの時は絡まれる前にジークさんが間に入って下さったじゃないですか!! あの事自体忘れていたくらいですから、ジークさんがそこまで言うほど立派な人に謝罪に来られても困ってしまいますよ!!」
俺は慌てた様に手をパタパタさせて、ジーク氏に動揺したような素振りを見せた。俺の本音は「そんな面倒なことをされても困る」だが、こう言っておけば十分だろう。
ジーク氏は満足そうに頷くと。「じゃあな~」と去っていった。
しかし、ジーク氏にあそこまでの態度を取らせる『黒翼団』の団長とやらに逆に興味が出てきた。
そもそも、クランのトップが軽々しく頭を下げるのはどうかと思う。しかし、『威厳を損なう』とか『軽く見られる』といった考えもあるが、そこまですることで逆に誠意をアピールすることが出来るのも事実だ。俺的にも、過失があるのに頭を下げもしないような輩よりも感じがイイ。
冒険者は市民に良く見られる必要も無いが。過度な悪印象を与えるのはもっと良くない。
部下の失態で責任を感じて頭を下げても、それ以上の功績によって挽回する事は出来ると思う。
俺の勘だが、『黒翼団』の団長とやらはかなりの食わせ者だ。不謹慎かもしれないが、ますます興味が出てきた。
「シレンさ~ん、どうされたんですか? 査定をしますので素材を持ってきてください!!」
黙りこくっていた俺に焦れたのか、エリス嬢が俺を大声で呼んでくる。
(おっと、思考に没頭していたら知らぬ間に順番が来たようだ)
「ああ、すいません。少し考え事をしていた物ですから。今回も結構な量になりますので、出来れば以前の部屋で査定をしていただきたいのですが?」
アイテムボックスを幾つか見せてそう願いでた。ここで素材を出していらない注目を集める気は無いからだ。
「・・・・・わかりました。それでは私の後に付いてきてください」
わずかな間。何か考えていたようだが、直ぐに笑顔を張り付けサッサと歩きだす。
まぁ受付嬢の態度などそこまで気にする必要も無し。俺もすぐさま後に続く。部屋につく間に気になっていたことを聞いておくかな。
「そういえばクレアと言う冒険者が、親しくしている方たちをご存じないですか? 一緒に依頼を受けると書置きに書いてあったのですが?」
エリスは少し天井の方を向いて考えていたが。直ぐに思い当たったのか大きく頷いてコチラに振り返って答えてくれた。
「ええ、知っていますよ。クレアさんが親しくしている方たちの所属しているクラン名は『月下美刃』と言います。新進気鋭のAランク冒険者【剣聖】アイシャを盟主に戴く、女性だけで構成されている実力派クランです」
その言葉に俺は驚愕を隠せず、ポカンと大口を開けて間抜け面を晒してしまう。




