閑話 勉強だけ出来る愚か者
〇城崎商会会議室 【戦士】海堂龍太
蓮二が会議室を出た後。誰一人退出することもせずに会議室に残っていた。
会議室には重苦しい雰囲気が未だに漂っているが、誰一人として口を開く者はいない。
やがてその雰囲気に耐えられなくなったのか。黒山が口を開いた。
「ぶっちゃけ、志波さんの言ってるのは何の確証も無い、妄想による思い込みでしょ? あの人、ゲームが趣味だって聞いた覚えがありますけど、ゲームのやりすぎで現実と仮想世界の区別がつかなくなったんじゃないですか? ハハ!!」
蓮二の何とも言えぬ雰囲気?に当てられたのか。虚勢を張るように大声でレンジに考えを否定していた。
「・・・じゃあ聞くけどよ? お前はこれから先、この国はどうなっていくと思うんだ?」
蓮二の友人でもある龍太は逆に黒川に尋ねる。龍太は志波蓮二という男の異常性を誰よりもよく知っている。学生時代に蓮二と一緒になって株をお遊び感覚で転がしていたことがある。龍太の知る限りでの話だが。蓮二は一度として損を出したことが無い。蓮二が購入する株式は決まって上昇し。売却する株式は決まって数日で下落していた。
その事について尋ねても。蓮二はいつも偶然だ、まぐれだとはぐらかしていたが、一度や二度くらいならばともかく、十回以上も繰り返されると、さすがに羨むのを通り越して不気味にさえなったのを今でも鮮明に覚えている。
それに蓮二は冗談も言うし嘘もつく。もっと言えば人を謀るし、陥れることも平然と行う。
しかし、それは自分かもしくは親しい者に害を与える輩に限定されるのであって。無関係なものを享楽のために陥れたりはしない漢だと信じている。
それに、こういった真面目な場で根拠のない戯言を吐くような性格では断じてない。さっきまでこの場で話していた推論は、蓮二なりの根拠があると考えるべきだ。
「確かに魔物の数は多いかもしれませんが、都には一千万以上の都民がいるんですよ? 政治家も馬鹿ではないですし、何らかの手段は講じるでしょう。それに国防軍が今の状況を黙って座視するとは到底思えません。必ず部隊を編成して事の解決に乗り出すはずです。・・・・オークでしたっけ? その豚の群れは、なすすべも無く殲滅されるでしょうね!!!」
そういって得意げに、自分は絶対に正しいという自信を、全く隠しもせずに自論を捲し立てるように展開した。
自分の意見や考えは絶対に正しい。と勘違いをしているお坊ちゃんはコレだから嫌なんだ。お勉強ができる=頭がイイ、と思っている。いや、思い込んでいるからな。
実際、事務仕事は兎も角。商談や接待などには間違ってもこいつを一緒に連れて行きたくない。
国内最高学府卒業の学歴を鼻にかけ、自分の方が上、という目線でお得意様やお客様に接するから。決まって面倒なことになる。
接待相手は大抵が人生経験も豊富な年長者や、会社のお偉いさまであるケースも多い。そういった人は自分に向けられた感情に敏感だ。黒山程度の小物の思考程度は簡単に見透かされる。
この馬鹿の尻拭いで、俺や蓮二がどれだけ頭を下げたのか・・・・正直思い出したくも無い。
接待終了後、取引先の会社にアポを取って。地に頭を擦り付けて詫びた事や、個人的な伝手でそういった店に招待し。自腹で落ちない領収書を受け取るふりをして身銭を切って詫びた事もある。(敢えて気付くようにさりげなく、ではあるが)別にこの馬鹿を庇ってじゃなく、あくまでも会社のためだが。
この馬鹿は俺たちの苦労なんざ露知らず。業績が伸びたのは、自分一人の功績のように吹聴するから腹が立つんだ。
蓮二がコイツの接待中の様子を動画に収め。社長と重鎮だけの極秘会議で説明したことによって、コイツは営業から事務方に回された。しかし、普通ならクビにされても文句が言えない立場の分際の癖に、本人はこの温情措置にまるで納得がいっていないのか、事あるごとに不満を漏らしているのが救えない。
「俺も政治家や国防軍が無策でいるとは思ってねぇよ? でも都民一千万以上でも戦えるのは半分、いや、十分の一にも満たねぇんじゃねぇか? それでも数だけなら豚より多いな」
俺が自分を支持していると勘違いしたのか、更に得意気な顔になる。何でお前なんざ支持しなきゃならんのだ馬鹿馬鹿しい。
「そうです。戦いの基本は『相手よりも数を集める』それに尽きます。豚の数は五万でしたか? 普通に二十倍の数です。歴史を振り返っても少人数が勝つケースが無いわけではありませんが、其れは奇策を用いるか奇襲などの不意を突いた場合に限ります。今回は人間の一方的な殲滅で幕を閉じるのは確実でしょう」
それは人間相手の場合だろ? 相手が一騎当千だったらどうするんだよ? 百匹いりゃ十万人が殺される計算になるんだぞ? 魔物数匹で百人以上の被害が出たって今朝やってただろ?
「そうだな。人間側は訓練はおろか、連携や実戦経験。ましてや覚悟も決めていない一般市民と少数の軍人。相手は恐らくエンペラーとかいう皇帝に率いられた精鋭。果たしてどっちが勝つんだろうな?」
数がいても戦闘訓練もしたことのない素人と少数でも強者に率いられた精鋭・・・・どっちが強そうかなんて説明するまでもないと思うがな。
得意げに鼻を鳴らしながら力説する黒山に、俺は冷めた口調で冷水をぶっ掛けた。
「・・・・海堂さんは、俺よりも志波さんの意見を支持するという事ですか?」
そう不満げに聞いてくるが俺としては「何言ってんの?」ってとこだ。
そんな当たり前のことを聞いてくる時点でコイツは馬鹿なのが分かる。お前と蓮二、どっちを信じるかと聞かれたらレンジを信じるに決まってんだろ?・・・ってかこの会社にある程度勤めているなら、誰だってお前よりもレンジの方を信じると言うだろうがな!!!
「少なくとも荒事に関してレンジの見る目は正しいと思う。軍隊の強さは兵器の運用と連携にある。兵器が使えない以上、幾ら敵より数が上っていっても。いきなり実戦に放り込まれた市民がまともに戦えるとは正直思えん。それに仮に戦えて豚共に抵抗できたとしても、目の前で死んでく人が出りゃ恐慌状態に陥って、一気に崩壊するって蓮二の意見は正しいと思うがな?」
さっきまでの蓮二の意見は当然のことを言っているだけだ。小難しいことは何ひとつ言ってはいなかった。少なくとも、黒山の楽観的な意見よりは遥かに可能性がある。
「た、・・・確かに市民だけならそうかもしれません。しかし、こ、こく、国防軍。ぐ、軍人がいるんですよ? 大丈夫に決まってるじゃないですか!!!」
動揺を隠せ無いのか、どもりながら発言する・・・・・だが軍人はそこまで信用できるのか?
軍人が国民を絶対に助けてくれる。という神話はとうの昔に否定されている。連中が守るのは国や有力者であって、市民の安全は前者の後、ついでに過ぎない・・・・。と以前に蓮二から聞いたことがある。
大戦中は戦略のため市民を囮にしたり。兵器が発射され市街地に着弾することを感知しても、外交のために避難警報を出さなかった記録もある・・・・らしい。そのことからも政治家や軍人を無条件で信じるな!!!・・・とも言っていたな。
「まぁお前がそう思いたければ、そう思ってりゃいいんじゃね? 蓮二も言ってたけど、何の力も無い、何も出来ない俺たちが騒いだところでどうにもならんさ。それに会社の方針はトップである社長が決めたんだ・・・・・・。俺はそれに従うだけさね」
「しかし、このまま何もせず、指を咥えているという選択よりは何らかしら行動を起こすべきでは『だったら社長を始めとした役員に利を提示してその行動について納得させればいい。わざわざ言うまでもないことだが、この会社はお前のモノじゃない!!! 会社の方針を決めるのは社長を始めとした役員の人たちだ』」
社長が方針を決定したってのに、懲りずにまだ自分の考えを押し付けようとするバカの愚言に自分の言葉を被せることで強制的に打ち切る。
これ以上この馬鹿に付き合っているとハッキリ言わずとも疲れ損だ。蓮二も帰っちまったし、俺も帰るとするかね!!!
「それでは社長、奥様。これで自分も失礼させていただきます」
社長を始めとした上司たちに一礼し、この場から立ち去るため会議室を後にしようとした時、懐からの振動に気付く。
(うん?メール? 誰からだ? 蓮二から? 珍しい事もあるな・・・「なっ?!」)
懐の端末が震えるので、内容を確認してみる。レンジとは珍しい、アイツは滅多にメールなんてしないのに。だがその送られてきた内容を一行も見ない内に絶句してしまった。
『やっほ~! 龍太君。こんなご時世だ。後悔しない内に阿良々木に告っとけ!!! 今ならつり橋効果?でオーケー貰えるかもよ? そのまま自宅にお持ち帰り~。キャ~、龍太君のエッチ~ケダモノ~!!! むっつりスケベ~!!!』
さっきまでのマジメな話の後に、このふざけたきった内容だ。思わず端末を握り潰しそうになったが、これは俺に対するエールだろう。こんな状況だ、確かに告白もせずに後悔するくらいなら、告白して玉砕した方がマシだな。
(漢、海堂龍太。一世一代の大勝負とイきますかっっ!!!!!!!)
そう決心するとまた端末が震えて相手はレンジだ・・・・・どうし・・・・・っ!?
『追伸・お前のことだ。一世一代の勝負とイキますか!!!とか考えてんだろう? 阿良々木と一勝負は構わんし、先走るのも迸るのも構わんが。まったく違うところにイクなよ』
(てめ~。種族選定で読心術でも会得したのか? コラっ!!!)
心の中でレンジにツッコミをしておく。
余りのドンピシャなタイミングでのブラックジョークに苦笑をしつつ。一世一代の勝負に臨む心構えで阿良々木のアドレスにメールを送った。というか阿良々木はこの場にいるので、直接言った方が手っ取り早い。だが何事も形式は大切だと思うんだ・・・・・。
(蓮二。お前も色々考えて動いているようだが。もし阿良々木からオーケーが貰えたら思いっ切り見せつけてやるからな? 覚悟しとけよ!!!)
彼女いない暦年齢のレンジをおちょくれる未来を想像し、何とも胸が躍ってきた。




