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第6話 再会



〇【会社員】志波 蓮二


本日の御勤めも無事に終わりこれといったトラブルもなく定時で終わることができた。帰路の途中で「たまには外食でもしようかな」と思ったが、節約のため自炊するべく問屋スーパー【ナント】に立ち寄る。(別にお金に困ってないが、派手な暮らしや浪費は好きじゃないからな!)


「カレーを作って冷凍保存しておくのもいいし、偶には少し凝ったものでも作るかな~」


  家にある残った食材や、買い込んだ方が良い物などを考えながら今後一週間の献立を決めていく。


この【ナント】は品質・値段・サービスの三拍子がそろった。知る人ぞ知る隠れた名店だ。


業者はもちろん普段は一般のお客さんも多い。今は閉店間際なのでお客さんもまばらだが、タイムサービス時は商品の取り合いが発生する。


米に味噌、干物といった日本人のソウルフードを籠に入れ、買い落としがないかを確認しつつレジに行こうとすると見知った顔に出会った。


(あれ? あの顔は・・・・・そうか、こっちに戻ってたんだな。気付かれると面倒だ、さっさとズらかるとしますかね)


 それは久方ぶりに合った旧知の知り合いだった。だが彼女はもはや俺とは住む世界が違う。下手に声を掛けたりすれば迷惑になる。あちらも変装しているし、気付かれない内にそそくさと逃げようとするが、生憎と向こうも気づいたようでにこやかに声をかけてくる。


「やぁやぁレンジ君じゃないか。オネ~さんにあったのに無視とは悲しいな~」


長身の美女に声を掛けられる。健全な男なら喜びの余り、飛び上がらんばかりの状況だ。だが生憎と俺は全く嬉しいない。


(俺より年下の癖に何がおねーさんだよ! 寝ぼけたこと抜かすんじゃねぇ)


 内心でそう毒づくと、流石に無視は体裁が悪いので挨拶を返しておく。無視するとより面倒な事態になる予感がするしな。溜息が出そうになるのは避けられなかったけど。


「久し振りだな。お嬢さんこっちに戻ってたのか?」


「おいおい。お嬢さんはやめてよ~。昔みたいに名前で呼んでほしいな」


(敢えて苗字や名前で呼ばなかったんだよ、ボケ!)


こっちの気遣いを無にする発言にイラっと来るがグッと堪える。この女相手に皮肉など言っても無駄だというのは疾うに学習済みだ。


この女の名前は【天川 花蓮】24歳。本業はモデルで、あらゆる海外の有名ブランドから声が掛かり、世界を飛び回ってる。   


 男女共に「現在の日本で一番有名なモデルは?と聞けば、ほぼ全員がこの女の名前を挙げる程には有名だ。


 身長は180センチと俺よりも高く、黒髪ロングで引き締まったウエストとヒップに手足がスラリと長い理想的なモデル体型といえる。今は地味メイクで誤魔化してるが、顔立ちの良さはちょっと見れば直ぐに分かるほどの超が付く美人だ。学生の頃に東京で遊んでいた時にスカウトされてモデルとなり、そのままとんとん拍子にトップモデルまで上り詰めた。


なんで俺みたいなモブが、こんな有名人と知り合いなのか。と言えば。学年も年齢も違うが、小学校が同じでゲーム仲間だからだ。


 まだこいつが売れて有名になる前、ゲームの好みが合うのか俺がやっていた色々なゲームで遭遇してはちょくちょく一緒に遊んでいた。

 ちなみにキャラネは俺が苗字と名前の頭を取って【シレン】。花蓮は【ミルキー・フラワー】となんとも痛いキャラネだった。 ちなみに命名方法は。俺と同じで苗字と名前の頭を英名にしただけ。


普通VRゲームでは示し合わせでもしない限り。知り合いのプレイヤーと何度も遭遇したりしない。特に俺が好んでプレイしたのはクソゲーを始めマイナーなタイトルが多い(神ゲーや良ゲーもやっていたが)。


 あまりにも色んなゲームで遭遇したことから、俺も興味を持ち話しているうちにポロっと小学校の内情などを漏らしてしまい(俺たちの代で在校していた生徒くらいしか知らなかったこと。まさか出身校が同じだとは思わなかった)身バレに繋がった。


その程度で何故俺と特定されたのかというと、俺たちの世代はガラの悪いのが多く、その中で俺は品行方正だったため逆に目立っていたようだ。


気が合ったので昔は一緒に遊んだり、飯を食いに行ったりしていたが。花蓮が有名になったことで、俺みたいなのが周りをうろついてスキャンダルになると不味いと考えた結果、俺から連絡することはほとんど無くなった(たまーにメールが来ると返信だけは返していた)。


 なので「無視しろ」とまでは言わないが。いくら帽子とサングラスで変装していても有名人なんだから「もう少しスキャンダルに気を付けろ」というのが本心だ。


 誰が聞いてるともわからないので近くに行き、小声で話しかける。


「あのな壁に耳あり障子に目ありって知ってるか?・・ちったー自分が有名人だと自覚しろ」


厳しい表情で注意を促すべく小言を言うが、本人はどこ吹く風だ。


「あのね~。こういう時は逆にこそこそする方が目立つんだよ? まぁ私の完璧な変装を見破れるのはレンジ君くらいだけどね」


「変装って・・・・・・帽子被ってサングラス掛けただけじゃねぇか! それを変装とは言わんぞ?」


 スキャンダルをまるで気にしていない態度には苛立つが、この場で目立つのは論外だ。諦めた様に溜息を吐くだけにしておく。コイツのことを心配してるのに、ニコニコしてるのが妙に腹が立つがな。


「それより【戦鬼(せんき)】の冬イベ上位入賞おめでとう。あと【ワールド・フロンティ(ワーフロ)ア】でも大活躍だったみたいだね~」


 言葉だけを見れば俺を祝福してるが、それは表面上だけだ。コイツの言葉には皮肉と憐れみの成分が多分に含まれている。俺が今面倒ごとに直面してるのを知ってるんだろうな。


補足すると【戦鬼】はやる人を選ぶクソゲー。【ワールド・フロンティア】は世界中にファンを持つ神ゲーだ。この前のイベントで活躍したので今の俺は厄介ごとに巻き込まれそうだ。


その後も俺の返答を待たずに矢継ぎ早に言葉を放ってくる。内心で辟易しているが、今更逃げ出す訳にもいかないので付き合ってやる。


「てゆ~か!冬イベ報酬はもう盗られちゃった?」


「盗られてねぇよ、雑魚は返り討ちにしてランカーからは逃げ切ってやった。ログインするたびに追い掛け回されてるけどな」


 思い出したくもない現状に疲れてくる。ほとぼりが冷めるまではあのゲームにはログインしない。


 「【ワーフロ】やってる友達から聞いたけど君を捕縛する動きがあるみたいだよ? マナー的にどうかと思うけど、君は【ユニークシナリオ】を含めて色々独占や秘匿してるからね~」


「あの世界で俺を捕獲するのは不可能だ。隠者よりも人のいない所にいるんでな」


 俺が情報を秘匿してるのは認めるが、それらを公開する気は無いね。自力で模索してる奴らが詰まらなくなるからな。全て人を当てにするなら情報サイト巡りでもしてりゃいいのさ。


「一部からは【運営垢疑惑】・【イカサマチート】・【情報秘匿ボッチ】なんて言われてるし、嫉妬に狂ったバカは本当に見苦しいよね」


目が全く笑っていない笑顔を浮かべ、息を吸うように毒を吐くスーパーモデル様(めっちゃ怖い)


あと冬イベ報酬が盗られた。に関して補足すると【戦鬼】はイベント終了後に上位入賞者限定アイテムが進呈される。イベント終了後はそのアイテムを奪うべく。入賞者を袋だたきにする集団PKイベが発生する。


アイツの物が欲しい?ならば奪え! 【強いものが正義】がモットー。それが野蛮人の聖地とまで謳われる【戦鬼】というゲームだ。


「迷惑な話だ。当面誰も来ない過疎エリアか秘匿エリアに退避だな」


トップクラン(選民主義者)などに下手に関わると碌なことにならない。そのことを身を以って知っている俺としてはそう吐き捨てる。


「ボッチ気質は相変わらずか~」


俺の言葉を聞き少し寂しそうな顔をしていたが、すぐに笑顔に切り替えて茶化してくる。


「俺は自分が楽しむためにゲームをやっている。トップクランや攻略組だのに入ってノルマやらなんやらを課せられるのはごめんだね。連中を全否定する気はないが、あいつらの大半は目的と手段が逆転している・・・それにあの上から目線も正直気に食わないな」


あいつらの選民主義的な態度(選ばれた者気取り)を思い出し不愉快気に言い放つ。ゲームのスコアを自慢したいならプロにでもなればいいのさ。


「あのお馬鹿さん達の態度の腹立たしさには同意だね・・・友達と一緒にやってたらクラン名をひけらかして。「俺たちがこの狩場を使う方がこのゲーム全体のためになる」・「俺たちが来たなら狩場をどうぞ使ってくださいと立ち去るのがマナーだよ」とか当たり前のように言ってくるからね」


「関わるのもバカバカしくなってさっさと立ち去ったけど」と、あの馬鹿どもに対する不満は俺と同じようだ。一応のフォローするならばそういった奴らのトップや幹部陣はまともなのが多い。現実とゲームじゃ全く違うが、人の集まりを管理する以上は最低限の常識やマナーは弁えているからな。


そういうやったらめったら他人を見下すイキったバカは、大抵中堅以下なので上の連中は頭を抱えるのだ。


こうして話していても、やはり気は思い。花蓮のためでもあるのであまり関わりたくない。しかし、この女はとにかく頑固だ。電話やチャットなら無視を決め込めても、対面したなら俺が何を言っても聞きゃしない。なので買い物を継続しつつ話に付き合うことにした。


「てゆ~か、そんなにゲームが上手(うまい)ならプロゲーマーになればいいのに。スカウトされたことがあるんでしょ?」


まるで俺が望めば簡単になれるように言ってくる。しかしそんな簡単な道じゃないことは俺も、そして花蓮もわかってるんだろう。どんな道でもそれで食っていこうと思ったら並大抵じゃない程の努力が必要だ。花蓮のいるのはそんな世界だからな。


それを指摘する必要は無い。俺よりも遥かに努力している人間に言うなんて恥ずかしいからな。なので俺は敢えて軽く返す。


「ゲームはあくまで楽しむためにやっている趣味だ。仕事にする気にはならないね」


花蓮も察したのか「そっか」とだけ返す。


ちょっと気まずくなりかけたので。空気を入れ換えるように、軽い話題を振ろうとしたとき。

ガラスが割れる音と同時に突然、獣のような咆哮が響き渡った。


「GYAAAAAAAARYOOOOOOOOO」


それは俺が昼に笑いながら話した「限りなくゼロに等しいが決してゼロじゃない!」が現実になった瞬間だった。

お読みいただきありがとうございました。


【戦鬼】。それはプレイする人間を選ぶ修羅のゲーム。適性の無い者はプレイした後に「意味が解らん!」・「コミュ力ゼロの奴がやるクソゲー」・「死ねっ!」と罵倒を浴びせかける。だが適性のある者は「魂の帰る場所」・「聖地」・「このゲームをプレイするために生まれてきた」と称賛を惜しまない。舞台は戦国時代の風のオープンフィールドで獲物は基本は刀剣だが、槍や斧・弓などからも選択できる。協力という概念は己が利益に見合った場合のみ。昨日の友は今日の仇、昨日の仇は今日の友。血を血で洗い。理性を戦闘力に変換した狂戦士が跋扈する『野蛮人の聖地』。


 春夏秋冬の季節に行われる通称『死季イベ』では協力と裏切りの嵐が吹き荒れる。イベントの上位5人までに与えられる装備は特殊なスキルを持つプレイヤー垂涎の品物となっている。一位に与えられる国宝武具は常軌を逸した性能を誇っている(障害物無視・防御力無視・超広範囲索敵・無限耐久など)。


冬季イベント上位者

〇序列一位【告死夢葬 シュラ】・戦鬼最強の剣士。一対一で勝利は困難と言われている。

〇序列二位【変幻自在 シレン】・戦国忍者。勝つためにはあらゆる手段を用いる外道中の外道。

〇序列三位【一揆刀銭 ゼニガタ】・農民の黒幕。NPCの扇動と刀の投擲による一撃必殺が持ち味

〇序列四位【死面疎火 タマハチ】・花火師。火薬を使用させれば天下一品。広域殲滅の達人。

〇序列五位【剛力牟柱 ゴリライオン】・ゴリラ。STR特化の狂戦士。

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[気になる点] 細かい設定は小出しにしてくれ 一度に設定を大量に読ませられると場面がわからなくなる 前話もキャラの説明入れるタイミングおかしかったし。女性が腕に抱きついてきてる状態で他の女性の説明は頭…
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