第74話 試練
【記録者】は静かに語りだした。当時起こった悲劇と絶望を。そして最後まで希望を捨てなかった勇気ある男を・・・・。
「【始原文明】はある一人の人物によって産み出されたと言っても過言ではありません。その方の名は【ジュリウス・クラフトマン】。稀代の天才、いえ怪物でした。
彼が現れるまでは文明のレベルは決して高いとは言えませんでしたが。彼が世に現れたことで一気に加速していきました」
まるで当時を懐かしむかのように、遠い目を天井に向けていた。
「彼が生み出したものは数えきれません。生活用品から果ては兵器まで・・・その功績は数えるのも馬鹿らしい程でした。 もっとも、彼の頭脳を恐れ、地位を脅かされそうになった大国などから命を狙われたり、誘拐されそうになったりと華やかなだけでは無かったようですが」
まるで人間のように苦笑しつつも、まだまだ語りは止まらない。
「そんな彼の最高傑作と称されるものが私達【機巧人】を初めとした人工生命体です。彼は兵器も創り出しましたが、過剰な兵器の開発と発展は最終的に文明を滅ぼすと、どこか忌避していたように思います」
そこで言葉を切り、沈黙すること数秒。それから・・意を決したように話し始めた。
「しかし、そのようなことを言っている余裕は無くなりました。【試練】と呼ばれるモノの到来です。【始原文明】はそれらを【壊獣】と呼称していました」
(【試練】・・ね? 俺のキャラネと同じなのは気に食わんが【壊獣】? 聞いただけでもヤバそうだな。しかもそれらってことは複数体いたってことか?)
実際【始原文明】を滅ぼしたんだ。もし地球に現れたら現状の戦力で抵抗しても無駄だろう。少なくともトップジョブを揃えていた始原文明の戦力は地球より数段上なのは確実だ。
「その中でも最大級の大きさを誇り、天にも届かんばかりの超巨大壊獣を【壊獣女王】と呼び。それに次ぐ巨体を持つ7体を【眷属】と呼称していました。女王は数多の小型、といっても数メートルはありましたが。小型の壊獣を産み出し【始原文明】の国家を蹂躙していきました」
「で? その【眷属】とやらは強かったのか? 一体も倒すことなくやられっぱなしだったのか?」
気になったのはソコだ。【始原文明】が滅びたことよりも、全く抵抗できなかったのか。少しは抵抗できたかによって、脅威度はまるで違ってくる。・・・まぁ予想は出来るがね。
この言葉に【記録者】は沈痛な表情を浮かべ、口を結ぶが。やがてポツリポツリと話し出した。
「当初は最北にある国家【ドラグノウス】が戦端を開きました。戦闘を有利に進めていた初めのうちは他国の介入を嫌い、自国のみでの勝利に拘っていたようです。しかし、・・・・・」
そう言った後、完全に黙ってしまう。
「はぁ~!」
俺は敢えて大げさにため息をつくと、話を引き継ぐ。
「続きを言ってやろうか? その【ドラグノウス】も直ぐに余裕がなくなり、他国に救援を要請したが、他国は無視、もしくは戦力をケチってを小出しにした。結果その【ドラグノウス】は滅びた。大量の難民が近隣になだれ込み、周辺の国家の機能はマヒ。その隙に中央を取られるが、攻撃態勢が整う前に【壊獣女王】か【眷属】に大量の小型壊獣を産み出された。最後には大陸全土に侵攻を掛けられた結果【始原文明】は滅びた。小型はどうか知らんが【眷属】は一体も倒せていない」
目線で「そんなとこだろ?」と問うと。肯定の雰囲気が漂ってきた。
「まるで見てきたように語るのですね。概ねその通りです!」
その言葉に対して呆れたように、そっけなく返す。
「よその国家にとっちゃ「対岸の火事」だ! 次に自分のとこが危ないのによそ様なんざ構ってるほど余裕はないだろ? よそのために戦力を出すにしても威力偵察か情報収集がイイとこだ」
俺としては目先のことに目を瞑れば他所と組んだ方が良い気もする・・・・・だが主導権争いや、被害が出た時の補償など面倒ごとが起きるのは明らかだ。
「その通りです! 小型種は倒せないほど強くは無かったそうですが、大半は圧倒的な物量によって圧殺されたそうです。【眷属】はありえないほど強力な能力を持ち。大陸侵攻の基本は、まず【眷属】が軍事施設や拠点を破壊し、最後は小型が圧倒的物量で蹂躙する・・・・が流れでした」
戦術の基本だな。厄介なものをまず精鋭によって潰してから数の暴力で蹂躙する。やられる方はたまったもんじゃないけどな・・・・・・。
「そして【試練】開始から20年ほどで人類は種として存続が不可能なほど減少しました。種の存続を図るためシェルターは万全の準備が整えられ、半永久的に生活できるようになっていましたが・・・・・。先に籠られた方や逃げ込んだ方もいるでしょうが、正直希望を持ち続けて生きて行けず、自決を図ったシェルターも多いのではないかと」
このシェルターが正に希望を持ち続けることが出来ず、自決を図っているからさもありなんってとこなんだろうが・・・・・流石にコイツの前では言うまい。
(いつ終わるのか? いつまで耐えればいいのか? 希望も無しに生きていけるほど人間は強くないしな。まぁそのシェルターにしても権力者や金持ちとかの有力者しか入ることが出来なかったんだろうがね)
そういった『安全地帯』に優先的に入れるのは力を持った者だけだ。一般人はほとんど【壊獣】に殺されたと見るべきだな。いや、権力者によって犠牲にされたというべきかね? それにしても、あのシェルターにあった遺骨はやはり集団自決・・・・か。逃げた先も地獄とは・・・さすがに同情するね。
「訂正するなら。私たちも最後に意地を見せました。【ジュリウス・クラフトマン】の【機械獣】の中でも最高の戦闘力を誇っていた5機の【機巧獣】が【眷属】の一体【断罪の黒蟷螂・ゼロムス】に決死の総攻撃を仕掛け、破壊にまで持ち込みました。しかし・・・残った【眷属】から集中攻撃を浴びて奮戦虚しく大破したそうです」
誇らしげな表情は一転して沈んだものに変わってしまう。
「ふむ。滅んだ経緯は分かった! じゃあ何で【試練】が【始原文明】に襲い掛かって来たかは解るか?」
これが一番大事だ。始原が滅んだのは別にいい。俺には関係ないからな。だがその【試練】とやらは地球で起きる可能性がある、俺の関心はそれだけだ。
「いえ、わかりません。しかし太古より『文明栄エシ刻、天ヨリ【試練】舞イ降リン。持テシ力、全テ捧ゲ打チ勝タン。サスレバ大イナル祝福ガ与エラレン』と伝わっていたことから。【壊獣】が【試練】だと考えられていました」
多分だが、【壊獣】はユニークモンスターじゃないか? それも【世界級】の? 神代でも【世界級】のなんちゃらってのが現れたんだ。【試練】ってのは【世界級】のユニークモンスターの投下じゃないのか? いや、結論を急いでも良いことは無い。今後も情報を集めて行こう。
「では最後に・・・・始原世界には≪ユニークモンスター≫ってのは存在したか?」
「≪ユニークモンスター≫・・・・・ですか? いえ、その様な存在の記録はございません。当時も魔物は存在しておりました。リソースであり、食料でもあり。倒した後に残った骸は幅広い用途に使われていました」
(骸? アイテムと魔玉をドロップするんじゃないの?)
ここでも現在と違うようだ。
「追加質問だ! 倒すと骸を残す? アイテムと魔玉かその欠片を残すんじゃないのか?」
「???・・・いえ。 倒した魔物は骸を残し、その素材は武具や装飾を始めとしたさまざまな用途に使われていましたが?」
(アイテムドロップ機能が付いたのは神代以降ってことか? 謎が解決するどころか、また謎が増えたよ)
謎が解決どころか・・・・ドンドンと増え、積み重なっていく状況はゲームなら攻略の意欲が高まるが、現実だと嫌になってくるぜ。・・・・・明日は朝一でクレアと誓約を結ぶってのに。
「あの、複合型トップジョブについては宜しかったでしょうか? まだお話ししていませんでしたが・・・・・」
肝心かなめの情報はそれだ・・・・。だがこのストレス過多の状況では・・・・・。
(ああ、それもあったな)程度に感じるよ。だが聞かない訳にはいかないしな。
「そうだったな! ではそのジョブ名と条件を頼む」
「かしこまりました。ではお伝えいたします」
こうして情報を得るため時間は過ぎていき。気が付いたときには空が明るくなった後だった。




