第72話 頂へと至る道筋
レンジはジッとアイリスの言葉を待った。やがて開かれた口から出た言葉は、レンジの望む物では無かった。
「申し訳ございません! 不可能です。マスターのご希望の薬を作るには『調合王』か『薬剤王』のジョブとスキル、更には知識が必要です。そもそも当機も原料のすべてを把握しておりません!」
「そう・・・・か」
ある程度覚悟していたが、やはり落胆したのか肩を落としてしまう。やはり、A級以上のダンジョンに挑むしか道は無いのだろう・・・・?
アイリスの言葉で引っ掛かった部分がある、思わず素で呆けたように考え込む。
(【調合王】に【薬剤王】これはトップジョブだろ? それを知ってるって事は・・・・・・)
それはアイリスがあることを知っている可能性を示している。
「ひょっとしたらだが、お前はトップジョブに至る条件を知っているのか? 『調合王』とか『薬剤王』とか普通に話していたが?」
思わず顔を近づけると、捲し立てるように詰問してしまう。
レンジからしてみれば、エリクサーの製法も知りたい。だがトップジョブの条件はそれに匹敵する重要案件だ。取り乱すのも無理はないだろう。
「当機は不完全ながら『ジョブカタログ』を記録しています。全てのジョブを網羅しているわけではありません。ですが、多少はご期待に沿ったお答えを返すことが出来るかと」
「・・・・・しゃあっ!」
落胆から一転して顔には喜色を浮かべている。
レンジは内心でガッツボーズを取りながら小躍りをしたい心境になった。
それも当然といえば当然かもしれない。条件が分かっているなら兎も角。条件も解らず試行錯誤するのもモチベーションを維持するのも辛い。自分の行いや試しが正しいのかさえ分からないから当然かも知れないが。
(良い武器やアイテムを作成するための素材を求めて、地獄のマラソンをやったことは幾度もある。しかし、それは明確な目標があるからできる事であって。これが正解か不正解かも解らず、延々と続けるのはぶっちゃけなくてもキツイ!)
レンジは当然そういった経験がある(ゲーマーなら大抵はそういった経験があるだろうが)。目標があっても条件が不明なものを延々と試行錯誤するのはやはりキツかった。
(まぁ、自分で完全じゃないと言っていたし。俺の知りたいトップジョブを記録しているかも不明だ。取り敢えずは聞いてみようじゃないか)
駄目なら駄目でまた模索為るしか無い。
「俺のジョブは『闘士』・『飛翔剣士』・『呪術師』・『暗黒騎士』・『聖騎士』・『特攻隊士』・『殲滅者』だ。合計レベルは418。このジョブの中でトップジョブは記録にあるか?」
レンジはスラスラと自らのジョブを挙げていく。
「少々お待ちください・・・・・・・・ございます。特殊ジョブである【飛翔剣士】以外は、名前と条件も殆ど網羅しています!」
「!!!!!」
その言葉に思わず身を乗り出しかけるが。理性を総動員してグッと耐える。
「そうか! ならばまずは名前から教えてくれ。その後に条件を頼む!」
弾むように問いかけるのは、声に喜色が混じるのはどうしようも無かったが。
「畏まりました。それではまずは名前からお教えいたします!」
教えて貰ったトップジョブの名前と特性は以下のようになるらしい。
◆◇
〇【闘士】は一対一での戦闘に特化した【決闘王】と。あらゆる武器に適性を持ち、装備枠の拡張さえも可能な【戦闘王】。
〇【呪術師】はデバブに特化した【呪術王】と。即死などの攻勢呪術に特化した【怨嗟王】。
〇【暗黒騎士】が防御と呪術攻撃特化の【墜天騎士】と物理と闇属性魔法特化の【奈落騎士】。
〇【聖騎士】は防御と聖属性魔法に特化した【聖天騎士】と攻撃寄りの万能型【凛天騎士】
〇【特攻隊士】は敵を道連れに特化した【死騎王】とカウンター特化の【報復王】。
〇【殲滅者】は攻撃力と面制圧特化の【殲滅王】と根絶やしに特化した【根絶王】
◆
条件が分かっても、それを満たせばいい訳では無いのがトップジョブの辛いところだ。レンジも当然それは理解していた。
(【闘士】・【暗黒騎士】・【聖騎士】はもう既にトップジョブは片方は取られている。【呪術師】・【特攻隊士】は種族を極めていった方が効率がいいので、取り敢えずいい。ひとまずは【殲滅者】系統だけ聞く事にするか? ひょっとしたら、あっちでもう既に就いてる奴がいるかもしれんけど!)
条件を満たしても、先にその座に就いた者がいれば意味が無い。だがギルドで購入した情報には【殲滅王】に就いた存在は居なかったはずだ。
(ジーク氏やギルド長を見ていると。トップジョブはその道の天才クラスしか就く事が出来ない。欲をかいてあれこれと手を伸ばすより、狙いを絞って就いた方が効率がいいはずだ)
あれこれと浮気しても、レベリングだけでも一苦労。ならば狙いを絞って効率的にレベリングした方が良いはずだ。
「まずは【殲滅王】と【根絶王】の条件だけ教えてくれ。」
「畏まりました」
そう言って深々と腰を折り。一拍措くとその条件を話し始めた。
「まずは【殲滅王】ですが、モンスター5種の討伐数がそれぞれ一万以上。殲滅者のレベルのカウントストップ。強敵撃破となります」
(やはり相当条件は厳しいな。モンスターを五万討伐するなら兎も角、種族ごとに一万は相当面倒だ。下位のダンジョンを潰しても恐らくは達成は出来ないだろうな)
レンジが思案している間にもアイリスの説明は続いて行く。
「続いて【根絶王】ですが。強敵撃破、殲滅者のレベルカウントストップ。あとの条件は不明となっています」
思わぬ肩透かしに内心扱けそうになるが、一つでも条件が解ったのは御の字だろう。そう思い直して気を取り直すことにした。
「ふむふむ。強敵撃破ってのは、具体的にどの程度のモンスターを倒せばいいんだ?」
強敵なんて基準は曖昧過ぎる。基準があるなら聞いておきたい。
「ソロならば最低でもモンスターランク8以上。パーティーなら10以上だと考えられています。それも寄生の場合は条件は満たされず、討伐で一番貢献するくらいではないといけません!」
(俺はグレンデルをソロで倒している。もしこの条件が正しいなら、後は【殲滅者】のカンストとモンスター五種を各一万以上討伐だが、条件が厳しすぎね? 不可能とは言わんが、一体ダンジョンにどれだけ籠ればいいのやら)
だが条件も知らなければどれだけ迷走していたのか検討さえつかない。条件を知ることが出来た幸運に感謝するべきだろう。もし他のトップジョブも似たような難易度なら、達成までの道のりを考えれば気が遠くなってくる。
「一応聞くが。【殲滅王】ってのは強いジョブなのか?」
余りにも厳しい条件に、思わず訊ねてしまう。条件達成してショボければ暫く落ち込む自信があったからだ。
「強いかどうかは人によると思いますが。攻撃の範囲が全て倍加する【攻撃範囲強化LV:MAX】を始め、自分の周囲30キロを索敵できる【索敵LV:MAX】、誘導式の魔法や兵器の追尾性能を爆発的に向上させる【追尾性能強化LV:MAX】などを習得出来ます」
(何その素敵スキル! 絶対欲しい!)
難しいというよりも、面倒な条件だが。やり遂げる価値はある、その労力を支払ってもおつりが出る位には。
「【殲滅王】自体もHPとSTRを筆頭に、AGIの上昇が若干低い以外は、平均以上にステータスの上昇も見込めます」
俺の内心を知ってか知らずか。更にやる気になる言葉を放ってくる。俄然やる気が出てきた。
(ふ~む。じゃあまずは【殲滅王】を目指すとしますか? いや、あっちでジーク氏かギルド長に就いた奴がいないか確認が先だな。先に就いた奴がいるとしたら、条件を達成しても徒労になるし・・・いや、ちょっと待てよ、ひょっとしたら。だが。念のために聞いてみるか!)
前々から気になっていたことを聞く良い機会だ。訊ね先も【記録者】の名を冠する存在だし打って付けだろう。
そう思って【記録者】に尋ねてみた。
「あとジョブについて聞きたいんだが。ひとつの系統を極めた先にあるトップジョブ以外にも。複数のバラバラの系統で条件を達成して解放されるジョブってないか?」
昔から結構こういったパターンはあった。素直に職業やビルドを極めていくだけじゃなく。敢えてわき道にそれることで。新たな道を提示する極めて質の悪い・・・・いや、意地の悪いシステム。
このシステムを創り出した『運営』は高確率でソレをやると思っている。実際に俺の過去のゲー歴を振り返っても。スキル等の解放条件に全く、そのスキルと関係の無い様な条件が含まれていたり。素直にビルドを突き詰める王道よりも、RPや趣味寄りのビルドで楽しむことで、より強力な力の開放条件が達成されるという運営の仕掛けたトラップ。
あの神ゲーと名高い【ワールド・フロンティア】でのレンジがまさしくそうだから。敢えてソロを貫き(一緒にやる人もいないが)スキルとPSを極めることで強敵を打ち倒してきた。そして、その先に解放された隠し最上級職業【超越者】
解放後に条件を見たが、ハッキリ言って『この職業を取らせる気ねーだろ?』と言ってもいい程に難解かつ達成困難な条件だった。恐らくはレンジ以外にはもう獲得することは不可能と言っていい程には。
余談だが、その後の大規模レイド戦でレンジが大活躍したため。ジョブについて根掘り葉掘り聞いてくる奴がウザかった。それ故に条件は掲示板に挙げたが、レンジをやたらと敵視しているアンチの荒らしがウザかったのでレンジは無視した上で、運営にマナー違反でアンチ共を通報した。
それだけで終わらず。しまいにはトップクランのリーダー達からも呼び出された上で、念押しの様にしつこく聞かれた。こちとら嘘は言ってないので、後ろめたいことは何もない。
(アホな馬鹿取り巻き共が嘘だ、チートだと五月蠅かったが。なら条件を達成すればいい。そんで開放されなければ幾らでも罵倒しろと言ってやったら押し黙ったけど! 実力もねーくせに吼えんなやボケが!)
人の目もあったのでそこまでは言わなかったが、連中の行いは最低限必要なマナーを違反していた。レンジが荒ぶるのは無理も無いことかもしれない。
話が盛大にそれたが、全く違う系統のジョブを選択することによって、条件が達成されるトップジョブがある可能性はかなり高いとレンジは見ている。
—————さてさて、始原の記録者の返答や如何に?




