第69話 番人
最後の大部屋に足を踏み入れた時に、それはいた。
自動扉の開く音に反応したのか、入ってきたレンジを見据えている。
(なんだコイツは? 身長は4メートルくらいだが、明らかにさっきまでの門番どもと造りが違うぞ?)
これまでの門番とは明らかに違う、外見もその装備も。
◆◆
Name:『拠点防衛型自律人形兵器・typeコマンダー』
HP:47500
MP:25450
SP(体力):∞
STR(筋力):10500
AGI(敏捷):3500
MAG(魔力):0
VIT(耐久力):8500
DEX(器用):3000
LUC(幸運):0
〇アクティブスキル
・【超振動発生装置】・【フォノンメーザー】・【9㎜速射砲】・【火炎放射】
〇パッシブスキル
・【魔力式ビームシールド】・【悪路走行】・【衝撃吸収多重装甲】・【多機能索敵レーダー】・【振動超音波】・【自動修復装置】・『自爆』
〇装備
72㎜電磁投射砲(3級):雷属性・貫通力強化・連射性能強化・破損耐性・冷却機能
超振動ブレード(4級):切断力強化・重量軽減・破損耐性
魔力式連射銃(4級):連射性能強化・貫通力強化・破損耐性・魔力弾精製
◆◆
『シンニュウシャハッケン! ハイジョコウドウヲカイシ!』
その明らかに非友好的な発言を耳に入れた時のレンジの心境は・・・・・・・。
(ついに出て来たよ。銃を持ってる奴が! これまでの出てきた銃持ちの奴らはモンスターだから、倒すとアイテム残して消えるし、ドロップ品も『壊れた銃器』とかしか出ないし! 修理できる奴もいないし、ストレス溜まってたんだよな!! おっちゃんに直せるか聞いたら『こんなもん直せるかボケッ!』って殴られたしな! 鴨がネギしょって鍋に出汁まで用意してくれたような気分だぜ!)
敵の装備を解析して完全に舞い上がっていた。
これまでも銃器の類があると分かっていても、入手できないジレンマに何度か襲われたことがあった。ようやく鹵獲できそうな銃器が見つかったことでレンジのテンションは鰻登り状態だった。
(問題は銃器を壊さないように倒さないといけない点だな! 威力調整の難しい魔法は論外! 近接戦で一気にカタを付ける)
思わぬ収穫を前に、ウキウキした気分で戦闘を開始した。
『阿修羅旋空』で残像を6体創り出し、敵が気を取られている内に背後へと回り込み両腕を切り落とし、武器をかく・・・・ほっ!
全身が激しい衝撃によって打ち据えられた。
(グッ、なん、だ)
後ろに回り込み、魔剣で腕を切り落とすべく近寄った瞬間。口から血を吐く羽目になった。身体の内側に意識を向けると、内臓が損傷している感覚がする。
(これは、振動波か?)
接近は悪手と考え、咄嗟にバックステップで大きく後ろに飛び退いて距離を取る。
『ハイジョスルッ』
手に持つ電磁投射砲の砲口はレンジを捉えていた。
「やっべ!」
あの武器は3級。レンジの聖剣・魔剣より上位武器。マトモに喰らうのはマズいと考え、空中を蹴り回避行動をとる。
飛び退いたのを狙いすましたように、電磁投射砲の砲口はレンジに向けられ・・・・タイムラグ無く発射された。
銃口から光が煌き、弾が通った射線上はシェルターのぶ厚い壁面が撃ち抜かれていた。
(空中で足場を作って避けてなきゃお陀仏だったぞ? なんて威力だよオイッ! って待てよ、連射は無しだろっ!)
『ハイジョッ!』
余りのブッとんだ威力に、思わず悪態を付きつつも。一息吐く間もなく連射される銃弾から逃げ回るため、部屋中を駆け回る。
「はっ! 俺も遂に壁走りまで出来るようになるとは・・・・忍者も真っ青だな!」
今のレンジはスキル『天狗秘伝』により、いかなる場所でも道にして駆け回ることが出来る。天井さえも平坦な道のごとく走り回り、狙いを絞らせ無いように立ち回る。
弾丸から逃げ・・・・回避している間も、思考は敵の攻略法を探している。
(あの振動は厄介だ。近づいた奴はあれで対処して遠距離から一方的に攻撃する・・・・・か! えぐいコンセプトなこって。だがな・・・そんな程度の仕様はクソゲーなら温いんだよ、ダボがっ!)
決して余裕が有るわけでは無いが、不利なときこそ心の強さが大切だと知っているレンジは怒りによってテンションを上げる。
◆◆
【殲滅者】志波蓮二
脳裏に俺がこれまで挑んできた無理ゲー、クソゲーの数々が思い浮かんでは消えていく。その中でも特に強く浮かんできたのは『自分だけの魔法を創り出せ!』を謳い文句にしたVRMMO初期の失敗作『レジェンド・オブ・マジシャン~魔法の創造者~』通称『伝魔枷』。
VRMMO───フルダイブのマトモな失敗作として悪名を轟かせたゲームである。
このゲームの失敗した要素は、余りにも造り出せる魔法の自由度を高めた点と、魔法を創り出し改良するのに必要なエッセンスのドロップ率の渋さにある。
基本的には大元となる魔法にモンスターを倒すことで手に入るエッセンスを組み合わせ、新たな魔法を想像する。それだけだが、その組み合わせは膨大な上に、エッセンスの排出率はかなり、いや可笑しいくらい渋い。しかも創り出す魔法は使用回数式のクソ仕様。
余りにもあんまりな仕様に、運営に抗議が殺到する。しかし運営連中も自棄になり、意地でもドロップ率を変更しなかった。
最終的には魔法ではなく、棍棒や石を投擲する野蛮な殴り合いに落ち着いた・・・・何とも曰く付きのゲームとなった。
俺の主観では『素直にドロップ率調整しときゃ、それなりに面白かったと思うよ!』・・・・だ。
その後。違うメーカーが世に送り出したデマカセをパクっ、リスペクトした『誰もが簡単に魔法使いになれる』を謳った『マジック・クリエイター~魔導世界を切り開く者~』は神ゲー、は言いすぎだが、良ゲーの名に恥じないヒット作となった。
『伝魔枷』で魔法を使えなかった連中が、この作品をネットや掲示板で腹いせとばかりにワザとらしい程褒めちぎった事で知名度が上がり。お試しで買った奴も多いようだ!
俺の魔法に関しての発想はこの二作品によって培われた。
(このゲームに関しては、正直まだいい)
更に頭のおかしい奴が創ったと思われる作品はまだまだある。
◆
宇宙戦士となり宇宙船に乗って巨大宇宙怪獣と戦う悪意の迷作『ギャラクシー・バスターズ』。
エンカ率と難易度調整をミスったとしか言いようのないクソ鬼畜仕様。
初期ステージでも見渡す限りの敵を前に、弾数制限有りの撤退戦を強いられる。その他のステージも『クリアさせる気ねーだろっ!』と叫び出したくなる、ちょっと意味わからん調整がされている。
ラストステージは全長数十キロはある超巨大宇宙怪獣『グランドギャラクシオン』の内部に突入。外敵を排除する体内の抗体として無限に湧き出る敵を相手にしながら、心臓を目指して核を破壊するという。ディスプレイ時代の往年の作品によくあるステージと思わせつつ。
入るたびに通路が変わるうえに、途中で何故か謎解きやパズル・クイズが出題される混沌とした『何でここでやるの?』と開発者を殴りたくなるステージ。そのクイズも当ゲームの歴史など超カルトなものばかり。基地に戻り資料室を利用しないと解答出来ない問題ばかりだった(俺はソフトを割りたい衝動に幾度駆られたか分からない)。
途中でムキになり、意地でもクリアしてやったがな!
俺の回避能力と大軍への対処法はこのゲームで培われた。
余談だが『グランドギャラクシオン』の咥内からではなく、複数ある肛門の内、ある特定の手順を踏みつつ尻尾近くにある肛門から突入すると超イージー仕様になるバグが発見されたときは何とも言えない乾いた笑いが起きた。
◆◆
(・・・・・此処までにしておこう。まだまだ数えきれないほどの理不尽に晒された記憶が蘇りそうだが、当時の理不尽を思い出すことで、怒りでテンション上げるつもりが逆に下がってきた)
当時はあんな理不尽なゲームをムキになってクリアしようとしていたのか分からなかった。───だが今ならば分かる。
(俺はムキになっていたんじゃ無い・・・・仮想世界でも負けたく───逃げたくなかったんだ)
ここ数年はないが、このゲームをやっていた頃、俺個人に対して倖月の嫌がらせがそれなりの頻度であった。それはひと思いに殺すと言うよりも、ジワジワと苦しめる類のものだった。
(刃向かっても何も出来ない。迷惑をかけると黙って耐えていた、だが何も感じなかったわけじゃ無いっ!)
憎しみはあった。それにフタをしていただけ。
クソゲー・無理ゲーをムキになってクリアしようとしていたのは、抗えない───諦めた現実だけじゃなく。仮想世界まで敗北を認め、諦めることは我慢できなかったからだ。
だが今は抗う力も意思も有る。
ここまで考えて有ることを決心した。ずっと気になっていながらも、確かめられ無かった事を確かめる決心を。
それ結果如何では恐ろしい事が起こるが、今はまだどうなるのかは誰にも分からない。
◆
(当時のクソったれな出来事を思い出せば近付けない位なんだってんだ! 全方位から謎の光線や触手に襲われてたに比べりゃこれぐらい屁のカッパだ!)
母を助けるためにも、新たな決意を達成するためにも。こんな所では死ねない───死ね訳にはいかない。その事が心に活力を齎す。
(全身に結界を纏い振動を遮断。更に時天魔法『真空領域』であのメカ野郎を覆い、こっちまで振動が届かないようにする。本来時間のかかる時天魔法の詠唱が破棄できるからとっても楽だ。持っててよかった《詠唱破棄》ってな!)
テンションこそ軽いが、思考は冷静に勝利の道筋を組み上げていく。眼前の敵を滅ぼす道筋を・・・・。
(この部屋全体を真空にすると俺が死ぬかもしれんし、空気抵抗が無くなるから弾速も上がるので不利になるだけだ。あくまでも真空はコマンダーの周辺だけに調整・・・・・完了!)
体感速度を引き延ばす《幽星界の真眼》を発動。これで120秒間はレンジの周囲は超スロー状態となった。
(あくまでも体感なので俺が速くなったわけじゃないけどな!)
幻影を創り出しながら空中を駆けることが出来る【疾駆夢幻】を発動すると一気に距離を詰める。
コマンダーもレンジに向けて絶えず銃弾をばら撒くが、変速機動で360度を駆け巡るレンジを捉えることが出来ない。既に通り過ぎた見当違いの場所に銃弾を打ち込んでいる。
(弾は無限じゃないぜ? 補給も無しにそんなに無駄弾を打ってる余裕があんのか?)
その様子を鼻で笑いながら詰めに入る。
(銃器や兵器の弱点は昔から弾切れか燃料切れと相場が決まっている。魔力式でも無限に撃てるはずがない)
案の定。バカスカと撃っていた反動で、直ぐに魔力弾も品切れになった。
(これで厄介なのは振動波とブレードのみ。まずウザったいブレードを処理する!)
ブレードは超速振動している。斬り結べば魔剣でも刃毀れするだろう。切り結ぶのは悪手だとレンジは理解していた。
(もし魔剣がボロボロになったりしたら、修復に出したとき俺がおっちゃんにボコボコにされる)
そんなのは御免こうむりたいところだ。ゆえにブレードの超振動を封じるべく、コマンダー周囲を黒魔法『タングステンウォール』で囲むことで動きを制限し、黒魔法『ラヴァブレット』を発射する。
コマンダーは打ち出された溶岩塊をブレードで切り裂くべく振るうが、切り裂いた溶岩塊はその高熱と粘度でブレードを包み込む。
すかさず黒魔法『ウォーターボール』で溶岩を急速に冷やすことで固めることで振動を封じ、強靭かつ鋭利なブレードはただの岩剣と化した。
「はぁっ!」
その隙を逃さず敵の背後に回り込み、両腕を切断する。
「ほいっと!」
腕を壊さないように軽く蹴り飛ばし、コマンダーの手の届かない場所移動させ。最後は左右半分の真っ二つに両断した。
『ハイジョシッパイ。テキシュノムリョクカヲハカル』
「ハイハイッ! そういうのはいいから!」
スキル構成を解析していた、コマンダーに《自爆》が───道連れスキルが有ることも、追い詰めれば必ず使用することも確信していた。
だから・・・・・備えは出来ていた。
指を鳴らすと、備え───待機させていた魔法が発動する。
『タングステンウォール』がコマンダーを押し囲むように四方に展開される。それと同時にコマンダーが《自爆》した。
本来ならこの部屋を全て灰燼と化す爆発は・・・・押さえ込まれていた。
強固な壁が自爆の爆風と衝撃、破片を防ぐ。手榴弾で怖いのは爆発ではなく、爆発時に飛び散る破片の方が殺傷力が高い。《自爆》も原理は同じだ。ゆえに抑え込んでやれば被害を最小限に防げる。
(自爆スキルは知らないから脅威となる。持っていることを知っていれば対処法は幾らでも用意できる。やはり解析系のスキルは戦闘職には必須だな)
もし解析スキルが無ければ、対処が遅れ致命傷を受けていた。相手の手札を確認できるスキルと、自らに使用された際に、それを防ぐアイテムなりスキルは、こと対人において必須だ。
(それを再認識できた。今後に備えて高レベルの隠蔽装備は必要だな!)
言葉に出さずに心に留めると、コマンダーの残骸に目をくれることなく。鹵獲した銃器をアイテムボックスの収納し、最後の大部屋を探索し始めた。




