第67話 新たなる誘い
〇地下大広間 【特攻隊士】志波蓮二
「本当にいいのか? ちゃんと考えて決めたことなのか?」
「はい。出来れば私と契約を結んで下さい」
俺の確認にクレアは揺るぎなき声で即答する。
何度も念押しするが、やはりクレアの決意は固いようだ。
(正直、《エンゲージリング》はメリットも大きいが、デメリットの発生条件が曖昧過ぎる。俺個人としてはあまり好きじゃないんだがな)
実際の所、なぜクレアが急に誓約を結ぶ気になったのか不明だ。しかし残すところレンジが選べるジョブは残すところ100レベル。下級職2つ、上級職1つ分しかない。
(結ぶメリットは既に無いとまでは言わんが、薄くなっている)
結ぶメリットよりも結ぶデメリットが上回り、リスクを取ってまで結ぶ魅力が無い。というのが俺の感想だ。
(今日は正直言って疲れた! 明日詳しく聞けばいいか)
実際にレンジの身体はけっこうガタがきている。首から上は既に修復しているが。精神的な疲労は馬鹿に出来ないレベルだ。
そう考え「今夜はもう遅いので、明日になってから誓約を結ぶ」旨を伝え。今日はお互い早めに休むことにした。
◆
あちらに行っている間に地球も激しく動きがあったようだ。
大亜細亜連合の内乱に始まり、世界各地で犯罪件数の増加。日本でもダンジョンに侵入する馬鹿がそこらかしこで現れたようだ。
その結果は、ほぼ全滅に近い状態らしい。運良く戻って来た者もPTSDを発生したり、マトモな精神状態ではない者が大半のようだ。
そのニュースを閲覧したレンジの感想は・・・・。
「さもありなん。大方、ラノベやゲームのやりすぎで、ダンジョンを甘く見た結果だろうな」
これである。レンジはこういった連中が必ず現れるととっくに予想していた。なのでこんなニュースなど今更でしかない。
(下は10代から上は30代後半が多かったようだ。ちょうどラノベの流行っていた世代や、調子に乗りやすい世代だ)
無双やチートなどの『異世界転生最強系・異世界転移最強』のラノベやゲームが流行っていた世代。奇しくもこの現在の地球は、それらの世界観に当て嵌まってしまう。
(愚かなことに、それで勘違いしたんだろうな・・・)
レンジは呆れたように溜息を吐いた。
◆
これがレンジであれば、ダンジョンに挑む前にスキルやジョブの情報を集め、各種の検証を行うだろう。
それからダンジョンの情報を徹底的に集めてから攻略に乗り出す。
───志波蓮二という人間は情報も無いのに見切り発車で挑むような蛮勇とは全くの無縁だ。
・・・・やってることは他人から見れば狂気の行いだが。
確かにこのシステムはゲームのようなモノだ。しかし、同時にこれは現実であることを忘れてはならない。
ゲームは基本的にある意味で平等で、手順を踏めば最後には攻略できるようにプログラムされている(一部のバグゲー、クソゲーは例外とする)。しかし、このシステムはかなりの悪辣な難易度調整がされている上に、平等とはほど遠い設定が数多く盛り込まれている。
種族や、一人しか就く事が出来ない早い者勝ちのトップジョブがその最たる例だろう。そして、ジョブにも個人によって限界がある。Dランクでも舐めていれば即死級の仕掛けや魔物が普通に現れる。何の情報も無い者がダンジョンに行ったところで死ぬのは当然と言える。
しかし、ハクスラに代表されるVRMMOとはそういったもので当然だ。限られた資源。限られたアイテムを奪い合う。それに勝利した者がトップ層や攻略組と言われる存在になる。この世界、地球の成り立ちから言ってもそうだ。
強い者が弱い者から資源や人員を奪い取り支配して国を作り、発展させてきた。18世紀の白人の侵略の歴史がそれを証明している。いや、それ以前からそれこそ有史以前より人間は同じ人間同士で争ってきた。
人が争う理由は、食料や金品の略奪。人種や宗教、価値観の違いなど。幾らでも無限に用意できる。
いつになっても争いを止めない───止めることが出来ない・・・・それが人間というものだ。
◆
(他者が俺のことを知れば罵るだろうが、そんなのは俺の知ったことか! 確かにきっかけは偶然だろうが、ココまでになったのは、俺が命を賭けて道を切り開いてきたからだ)
自分勝手な独り善がり。独善的であっても、ここまでになったのは自らが望み命を賭けたからだ。
(何もしてない輩に情報だけヤル気は毛頭ないな。俺の情報が欲しけりゃ、それに見合った対価を渡してきたときだけだ)
人が知れば怒り狂うかも知れない。だが軽蔑されるのも、侮辱されるのもレンジにとっては慣れたものだ! それに一度でも前例を作れば、次も次もと搾り取られる。
故にレンジは実力を隠すし情報を開示しない。自分の力を知られれば、必ず面倒事に発展すると理解しているからだ。
(まぁ母のこと以外は、そんなことは心底どうでもいいことだ。それにもうすぐ面白いイベントがこの日本で起きる。それが、コレだ!)
◆◆
〇災害クエスト:【豚帝王の大暴走】
オークエンペラーが統率した5万の軍団が極東の首都、東京に襲撃をかける。敗北は東京の壊滅を意味し、男は死ぬまで奴隷。女はブタどもの苗床となる。
勝利条件:オークエンペラーの討伐
敗北条件:襲撃から3日経過し、オークエンペラーが生存している。
基本報酬:一ヶ月の間、東京は安全地帯となり如何なる魔物も侵入できない。
ルール:近代兵器・機甲兵器の使用不可。クエスト通知後は東京から脱出不可能。
◆◆
(ぶっちゃけ東京がどうなろうが知らん。だが東京が豚共の拠点にされ、他の県に侵攻される事態は避けたい。俺の住んでいる県は東京のお隣だしな! それに近代兵器が使えないならこのクエストは正直言わなくても俺以外にはかなり荷が重いはずだ(市街地で兵器の使用はそもそも難しいだろうけどな!))
これが北海道や沖縄で起きるクエストならレンジは無視するだろう。だがこのクエストに失敗した場合より面倒が起こるのは確実だ。対処しないわけにはいかないだろう。
(東京からの脱出は出来なくても、侵入は出来るはずだ。そもそもある程度レベリングした俺でさえゴブリンキングにも手こずったのに、兵器使用が出来ない状態で現状の地球でオークエンペラーが討伐できる存在がいるとは到底思えん。このクエストはハッキリ言わなくても、失敗を前提で発生させているとしか考えられんな!)
このクエストは失敗が前提に、被害————悲劇を起こすために用意された物としか思えなかった。
(このシステムを組み上げたクソ『運営』ならやりかねない。どう考えても俺が出張るしかない。東京やそこに住んでいる住民のためじゃなく、あくまでも母の安全を確保するため・・・・だ)
クエスト終了後にオーク共がどうなるのか判らないのが問題だ。消滅してくれるなら良し、もし東京を占領して他県に侵攻してきた場合には、目も当てられない程の悲劇が起こる。
(本音を言わせてもらえば、この国や国民の危機感を煽り、現在の情勢を正しく認識してもらうため。俺はこのクエストは失敗するべきだと思っているがな!)
俺だけならこのクエストがどうなろうが知ったこっちゃない。だが・・・・・・。
(まぁ、母のためなら仕方がない。経験値の事もあるし、クレアも連れていくべきだな。五万のオークの経験値を共有すればジョブのひとつやふたつ分カンストするくらいは入手できるはず。万が一、俺の正体がバレないために『擬態』で姿を変えるのは当然として、クレアもあのスキルを使って貰えば俺の近くにいても大丈夫なはずだ)
やるからには最高効率を目指す、それがゲーマーだ。早速段取りを組み立て始めた。それ以外にも下心はある。
(それに恐らくはこの地球で初めてのクエストだ。ダンジョンの様に初回限定の報酬が出る可能性は高い。是非とも最高戦功獲得者となり、報酬を手に入れたいところだ! どうも初回限定報酬はジョブや生産系のアイテムが出るような気がする。今のところは宝の持ち腐れだが、将来は分からない。手に入れておいて損は無いはずだ)
出現しているクエストを確認していく。レンジのお目当ては人命救助ではなくクリアして手に入る報酬だ。人命は可能な限り助けるつもりだが、あくまでもついででしかない。
(てか、ステイツや新ソ、大亜連にも似たようなクエストが発生しているようだ。俺個人としてはステイツに転移門で赴き、クエストを攻略するつもりだ。クールタイムもあるし、他国の事までは知らん!)
冷徹かもしれないが、他国のことまで気にする余裕も義務もない。『頑張れよ~!!』というのが偽らざるレンジの本音だった。
◆
さて、後はもう一つの問題だ。地球に戻って再度システムなどの検証をしていて気づいたが、この部屋から行ける転移先が追加されていた。
その名も『始原の跡地』! 名前だけでもヤバい雰囲気とマイナスな臭いがプンプンする。
ただこのタイミングで新しい転移先が出現したことは意味がある気がする。
クエスト開始まで余裕はあるし、どのような場所かだけでも確認しておきたい。
グルデミスとの戦闘で負った傷は全て回復した。どんな場所かもわからんのに、クレアを連れて行くわけにもいかないので、今から確認に行こう(つーか、クレアはもう寝てるだろうし)。
(明日は朝一で誓約を結ぶんだ、ちょっと行ってすぐに帰ってくるかね!)
そう決めて転移先を選択し、レンジは新たな転移先へと旅立った。疲労していても、興味があれば確かめられずにはいられないのは・・・・・・ゲーマーの性かもしれない。




