第66話 分配
あれからクレアと合流。すぐさま自宅まで戻ると、お互いに途中で何があったかを確認した。
クレアは特に問題なく、転移石を使用してダンジョン入り口まで戻れたようだ。 俺を一人で置き去りにしたことを詫びてきたが、「気にするな!」と笑って許した。
(残っていても、グルデミスとの戦闘の余波に巻き込れていたからな!)
傷付けるだけなので、言葉にも態度にも絶対に出さないが。
クレアもその程度の事は理解できているのだろう。だがやはり感情的に納得できないのであろう。
(俺としては寧ろ自分の力量も弁えずに残った方が厄介だった。即座に撤退してくれたことを評価しているんだがな)
「あの時はあれがベストだ。残って人質にされていたら厄介だったし、即時撤退は最善の判断だと思う! だからもう気にするな! それよりも戦利品を分配しようぜ」
クレアも俺が全く気にしていないことは分かってるはずだ。しかし、言葉ではっきり言った方が伝わるだろう。だから笑顔でそう告げる。
(過ぎたことを必要以上に気にしても意味が無い! 反省だけして次にいかしゃ良いのさ!)
それよりも、あんな屑どもの事よりもそちらの方が俺としては興味があった(因みにまだアイテムボックスの内容は確認していない)。
「わかりました。でも何もしていない私が戦利品を頂くわけには・・・・「あほか!」」
そう言葉を被せて遮ると、ただ装備を渡すだけでは受け取らないだろうと考え説明をしてやる。
「竜人と獣人はともかくとして、エルフは後衛魔法職だった! 俺が持っていても装備の持ち腐れだし、装備しても旨味が少ない。だからクレアに渡した方が有用だ。もし嫌なら売却して金を渡すことにするがそれでいいか?」
「で、でも。何もしていない私が受け取る理由が「何もしてないことは無いだろ?」」
そう言葉を紡ぐとビックリした表情をした。・・・ちょっとおもしろかったのは内緒だ。
「お前が屑どもを引き付けたおかげで不意を打てて一気に始末できた。もし連中がクレアに気を取られずに連携されていたら俺もヤバかった。だから危険な囮を引き受けて勝利に貢献したクレアは装備を受け取る資格がある・・・それだけだ!」
これは紛れもなく本心だ!
実際のところあの3人が連携を組み、グルデミスと戦ったらかなりヤバかったのは火を見るよりも明らかだ。・・・連中の注意を引きつけたクレアの功績はデカい! 装備を受け取る資格は充分ある。
「わかったらさっさと装備の確認だ。俺は今の装備があるから欲しい物があったらクレアに優先して渡す。だから遠慮するなよ?」
そう言って俺は3個のアイテムボックスから収納品を次々と取り出していく。・・・・・ってかこのアイテムボックスだけでもかなりの収穫のようだ。
〇アイテムボックス(5級)
3500㎏まで収納できる。
◆◆
火竜の槍(4級):火属性・貫通力強化・腕力強化10%・火属性耐性
精霊の杖(4級):4大属性強化・精霊魔法強化・魔力強化10%・魔力探知
アダマンタイトのナックルダスター(5級):敏捷強化10%・腕力強化10%
アダマンタイトの全身鎧(4級):破損耐性・衝撃耐性・斬撃耐性・打撃耐性
賢者のローブ(4級):魔力強化10%・MP回復速度強化・消費MP軽減5%
闘魂の舞踏着(4級):クリッティカル強化・敏捷強化10%・ダメージ軽減5%
黒竜の兜(4級):魔法耐性・4大属性耐性・物理ダメージ500カット
霊樹アリルミーアのティアラ(4級):精霊魔法強化・精神系状態異常耐性強化・魔法威力強化
気合のねじり鉢巻き(5級):食いしばり15%・体力強化10%
光竜のガントレット(4級):光属性半減・筋力強化10%・危険察知
霊樹アリルミーアの手袋(4級):精霊使役強化・精神系状態異常耐性強化・体力強化15%
武聖の籠手(4級):危険察知・殺気感知・筋力・敏捷強化10%
黒竜のグリーブ(4級):竜耐性・敏捷強化10%・魔法耐性・火属性耐性
霊樹アリルミーアの靴(4級):魔法威力強化・精霊魔法強化・身体系状態異常耐性強化
韋駄天のブーツ(5級)・敏捷強化10%・罠感知
身代わりの指輪×4(3級):致命攻撃回避
幻惑の指輪×3(4級):ステータス・スキルを隠蔽
鋼竜のネックレス(4級):VIT500上昇
黒竜のピアス(4級):索敵・危険察知・殺気感知
星空のマント(4級):月光チャージ・魔力貯蔵
賢者の眼鏡(4級):鑑定眼LV:5・ステータス看破
玉兎の指輪(4級):逃走時敏捷50%強化・見切り
霊樹アリルミーアのアミュレット(4級)即死耐性強化・HP・MP1000上昇
詐欺王ダ・マースの万年筆(4級):ステータス・スキル偽装
探索王サ・ガースの羅針盤(4級):宝箱探知
その他金目のモノや素材
◆◆
「この装備は普段は使えないな。使うとしたら人目の付かないダンジョンに入ってからだ」
「え、こ、この装備すごく良い物ですよね? どうして普段から使わないんですか?」
クレアの疑問は当然だ。これらの品は一級品ばかり。普段使いしたいと思うのは当たり前だろう。
「ああ! この装備はかなりのモンだ。だからこそ俺たちのようなルーキーが持てるもんじゃない。ああ、前提として俺はルーキー狩りを始末したことを口外するつもりは無い!」
「え、ギルドに報告しないんですか?」
心底驚いた表情でそう訊ねてくるクレアに、レンジは静かに頷きを返す。
「ルーキー狩りはかなりの人数を殺しているはずだ。俺たちが討伐したと言っても普通は信じないいだろう。そうなると証拠としてこの装備を提出するしかない、連中の死体は処分したからな。さて、この提出した装備だがすんなりと俺たちの所に戻ってくるかな? 俺はかなり怪しいと思うが」
ギルド長はレンジが討伐したと言ったら、多分信じてくれるだろう。しかし、周囲はそうでは無い。最悪難癖をつけられて装備を没収される可能性がある。
(俺は正直に話す気はサラサラない。それに殺された冒険者がクランに所属していた場合は遺品や補償とか理由を付けてそのクランが出張ってくる可能性もある)
───端から考えれば余りにも無茶苦茶な理屈だ。
しかし、この装備の値打ちを考えればその程度の難癖は付けてくる可能性はある。
そのことをクレアにも説明する。欲だけでこのようなことを言っていると勘違いされたくはないからだ。こういった誤解やすれ違いは、放置しておくと碌な事にならない。
「す、すみません! そこまで考えていたとは思ってもみませんでした」
慌てたように謝罪してくるが、レンジは笑いながら軽く手を振って話を切り替える。
「俺は黒竜と光竜の装備と星空のマントと玉兎の指輪だけでいい。あとはクレアが使いな!」
「私の取り分が多すぎます。そんなに要りませんし、頂くわけには行きません!」
取り乱すクレアに落ち着けとジェスチャーをすると説明を行う。
「言葉が足りなかったな。後衛の霊樹装備とアクセのシナジーするモノを選んで、後はアイテムボックスに仕舞っておこう」
「それでも多すぎます。レンジさんが持つべきです!」
「自分にシナジーしない装備なんか邪魔だな。売り払わないのは出所を聞かれたくないのと。今後仲間が増えた時のための保険だ。いちいちおっちゃんに装備を見繕ってもらうのは面倒だしな」
使い道が無くても一級品だ。下手に売るより今後に備えて保管した方が良いだろう。別に金にも困ってはいない。
(尤も仲間を簡単に増やすつもりは無いがな!)
レンジとクレアの秘密は絶対に地球で知られるわけにはいかない。そんな人材が簡単に見つかるはずがない。
────現実はラノベや漫画とは違う。
「それに今は無用でも今後のビルド次第では有用になる事もある。売るのは方向性が決まってからでも遅くはないさ。金には今のところ困ってないしな!」
そう言って笑いながら選別した装備をクレアに押し付ける。
「一旦、地球に帰るか? あっちの情報も出来れば入手しておきたいしな」
「シレンさん、いえ。シレン様」
「ど、どうした? やけに改まって?」
これから聖戦に臨む戦乙女のような気配を放ち、やけに改まったクレアに戸惑いつつも言葉を返す。
「私と契約を結んで下さい!」
クレアの口から本日最大の爆弾発言が飛び出しやがった!




