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第5話 城崎商会


 〇城崎商会【会社員】志波 蓮二


朝から続くハプニングで精神と肉体共に心底まいっていたが。会社に出社して業務をこなすうちに気持ちも落ち着き。普段通りに仕事をこなす事が出来た。この時期はまだまだ忙しいし、飛び込みの注文も多いので気を抜かないようにしないといけない。


 しかし、会社の様子が完全にいつも通りか?と言われると、決っしてその様なことはなかった。社長や奥さんも含めて全社員はどことなくソワソワと浮ついたような雰囲気を漂わせている。今朝の魔物出現はトップニュースとして取り上げられているのでそれが原因だと思う。他に理由を聞かれても、そうなる理由と言えばそれぐらい(魔物出現)しか思い浮かばない。


 そうこうしてる内にコレといったトラブルも無く、昼休みの時間帯に入る。昼飯は屋上で同僚や後輩と一緒に食べるのが日課だ。食事中に話さないのがこの会社の暗黙のルールだ。静かに飯を食べ終えると、トークタイムに突入するが、やはり話題は今朝の「怪物出現事件」だった。


「せんぱ~い、ニュースで言ってましたけど。怪物なんて本当にいると思います~?」


去年入社した後輩【阿良々木仁美(あららぎひとみ)】が猫なで声を出しながら。あざとい仕草をとりつつ俺の腕に抱き着いてきた。


 そのとたん。背筋が急に寒くなり、思わず左右を見ると。俺の同期【海堂龍太(かいどうりゅうた)】と3年前に入社した後輩【城崎エリカ(しろさきえりか)】が俺を鋭く睨んでいた。


睨んでるといっても。実際睨んでいるわけではなく、笑顔を浮かべているが。目が全く笑っていないからそのように見えるだけなんだが、気分が良い物では無い。『言いたいことがあるならハッキリ言えやコラっ!』が俺の本音だ。口に出すとエリカが怖いので内心だけで言ってるんだけど。


  ちなみに【城崎 エリカ】は名前からわかるかもしれないが、この会社の社長令嬢だ。 本人をお嬢扱いすると怒るし。本当に嫌そうな顔をするので触れないようにしているが。実際には俺のオヤジたちと社長夫妻は親友同士だったので、エリカとはガキの頃(俺が倖月から今の両親に引き取られた頃)から家族ぐるみで付き合いでの付き合いだ。まあエリカは俺の妹みたいなもんさっ。


前にお嬢扱いしたら、あまりにも嫌そうだったので理由を聞いてみたことがあるが。


「社員が10人そこそこしかいない会社の社長令嬢でお嬢様扱いなんて恥ずかしい」・・・・・ということらしい!


後から聞いた話だが、学生時代は相当なお嬢様学校に通っていたらしく。親が大企業の社長や重役クラスといった名家の娘が多かったとのことだ。


エリカ自身も黒髪ロングのスラリとしたモデル体型の美女だ。その頃は寮生活だったので年に数回しか会えなかったが、学生時代(その頃)から容姿に優れ、成績、生活態度トップクラスに良かったので(奥さん情報)。学校の教師陣の覚えも相当良かったらしい。


そうなると。お決まりのように出てくるのが。自分が劣っていることが認められず。自分の家柄や親の権勢を鼻にかける世間知らずのお馬鹿(お嬢)さん達だ。


下手に虐め等をしてバレたりすると。家名を傷つけるし、自分の内申にも響く上に当時の学園は実力至上主義を掲げていたようだ。


その当時の理事長も公明正大な人だったようで、たとえ家の権勢などをひけらかしても淑女らしからぬ行為、校則を何度も破ったり陰湿な虐め等をした場合。最悪、退学処分もありえたようだ。


気に喰わない相手を貶めたい、でもバレると自分の内申が悪くなり退学処分になるかもしれない。そうなると相手も無駄に頭を使ってくるようで、お茶会や交流会などと最もな名目を付けてエリカを呼び出し、親や家柄・血統などを自慢する通称・七光りの会(命名エリカ)に強制的に参加させられ。遠回しに親や会社を馬鹿にされたようだ。


この会社はエリカの父。【城崎 大河(しろさきたいが)】が裸一貫からここまで築き上げたものだ。社長は仕事に情熱を持っているが、家庭を蔑ろにするような男ではないことはこの会社にある程度勤めている者なら誰でも知っている(会社の経理でもある奥さんといつもイチャイチャしているのは誰でも知っている。俺はその行為を【美魔女と野獣(ゴリラ)】とこっそりと呼んでいる)。


この会社は社員こそ少ないが、複数の商社と取引があり下手な中小企業よりもよっぽど利益を出している。少なくとも。なにも成したことのない、お嬢ちゃん共に馬鹿にされるほどこの会社は安くないと俺は信じている。


エリカも親が頑張って築き上げた物を馬鹿にされるのは相当に腹立たしかったようで、そういう勘違いをした輩は大っ嫌いだそうだ。俺もそういった勘違いした輩は死ぬほど嫌い。


まぁエリカもそんな逆境を糧にし、国内の最高学府【帝王大学】に合格し、無事に卒業した。


母校から【帝王大学】への現役合格者は。歴代含めて100人もいないようで。エリカの代ではエリカのみ。卒業式の時に理事長から壇上で激励されたそうだ。


 ちなみにその時の事を「壇上から勘違いした馬鹿を見下ろすのは最高に気分が良かった」と語っている。・・・・・・・・・性格わりーぞ(ボソっ)


  性格はともかく。スペックはメチャクチャ高いので、望めばどこにでも就職先はあったはずだが、何故か実家でもある【城崎商会】に就職した。


 ◆


【阿良々木 仁美】は如何にもギャルっぽい外見をした。良くも悪くも現代っ子と言った感じだ。ふわふわの髪を茶色に染めているが、ピアスやネイルなどは行っていないので根はマジメなんだろう。


俺が教育係を務めたこともあり、当初は俺を馬鹿にしたような態度も見受けられたが。教育期間の終わりにはそういう態度を見せなくなった代わりに、少々行き過ぎのスキンシップを見せるようになってきた。・・・・・ 俺をからかっているのだろう。


【海堂 龍太】は大学でゼミなどが一緒だったので、ともに行動することが多かった。良くも悪くもマジメで熱血のうえに融通が利かないが、悪いことは悪いと認めるので、何だかんだで未だにツるんでいる(俺の数少ない友人でもある)。


龍太本人は隠しているようだが、【阿良々木 仁美】に惚れているので発破をかけるために。カラかっていると(背中を押していると)真っ赤になって否定するとてもおもろい奴だ。個人的にはコイツの恋が成就して欲しいところだ。だが心配はいらない・・・・・・。


俺の勘(誰でも一目瞭然)だが阿良々木は龍太に惚れている。俺に過剰なスキンシップを取ることによって、龍太を焚きつけているのだと考えている。


————これが俺がよくツルム会社の人間関係だ。


 ————それはさておき。


「怪物か? 今まではそんなもん信じちゃいなかったが、実際に死傷者が出ている。それなのに存在しないと、か夢だ非現実的とか言うのは犠牲者に対して失礼だろうさ!!」


家の地下にダンジョンが出来たのに今さら魔物も糞もない。感情を出さないように努めて冷静に阿良々木の質問に答える。


「つーか。現実主義のレンジが、魔物なんて眉唾の話をすんなりと信じてるのが以外だぜ?」


まぁ龍太の意見は俺をよく理解しているな。ダンジョンなんて空想の代名詞を直接見なけりゃ俺は簡単に、どころか絶対に信じなかっただろうしな。まあ『自宅にダンジョンが出来ました!』なんて言うわけにもいかない。適当にお茶を濁しますかね。


「そうか? 古来を見れば。日本の鬼や竜。西洋のオーガにドラゴン。当時は何の交流もなかった国同士でここまで類似した生物が普通、想像されるか? もしも、異世界何て代物が有ったと仮定して。昔はソコから地球に行き来できていた。そして、そこからきた生物を昔の人は記録して語り継いできてそれが神話や伝説の大元となった・・・・・と考えれば辻褄が合う」


東洋の龍や鬼と西洋のドラゴンやオーガ、これ等は伝承に残されているように類似点が多い。当時は何の交流さえなかった国同士で、ここまで共通した生物が語り継がれるだろうか? 偶然で片付けるに両者には似通った点があまりにも多い。そういった生物は異世界からやって来たと考える方がよっぽど自然だ。


「ぶ~!冷めてますね~! 可愛い女の子が怖がってるんですよ? 『魔物が出た? 安心しろ俺が守ってやるから心配するな!』くらい言えないんですか~!」


俺に抱きつきながら頬を膨らませて。ぶーぶー言ってくる。お前はブタか? 龍太に抱き着いてやれ、平静を装いながらも内心で死ぬほど喜ぶからよ。つーか自分で可愛いとかよくいうぜ。ある意味で逞しく図太い阿良々木に感心していると横から冷たい声が飛んできた。


「阿良々木さん。志波先輩は凡庸の皮を被った獣だから。あまり馴れ馴れしくすると、毒牙に掛けられちゃうわよ?」


  エリカが俺を睨みながら声を掛けている。俺が抱き着いてるわけじゃないのに非常に理不尽だ。昔はお兄ちゃんと慕ってくれたのに悲しいわ。


「あれ~。もしかしたらエリカ先輩。妬いてます~?」


阿良々木はニヤニヤと笑顔を浮かべながら、まるで挑発するようにいい放つ。エリカを揶揄う気満々のようだ。怒らせるとメッチャ怖いからやめとけっての。


それに対してエリカはますます冷たい目を何故か俺に向け。再度、阿良々木に声を掛ける。挑発に乗ったようだ。


「あらあら、貴女を心配してのアドバイスだったのだけど。そんな風に受け取るなんて悲しいわね!!」


 口調は優しいが、声に妙な凄みがあるのが不気味だ。流石にこれ以上は雰囲気が悪くなるだけだ。介入しますかね。


「お前ら食休みの最中にじゃれるな!! 喧嘩だったら人のいない所で好きなだけやれ」


「は~い」「 ごめんなさい」


すぐさま二人から謝罪が返ってきた。 二人とも根は素直なんだよな。と思いつつ食後の珈琲を一口飲む。何事も喧嘩は良くない、ほどほどが一番だ。


「でも~。怪物が存在するとして。また現れると思います~?」


俺が一息ついたのを見計らったように、再び阿良々木が質問してきた。


「あくまでも怪物が存在するのを前提とした話ともいえんもんだが。俺たちは怪物について。何もわかっていない。もう現れないというのは楽観的過ぎる。 ひょっとしたら明日、この街に現れる可能性は・・・限りなくゼロに近いが絶対に無いとは言えないな。 仮に遭遇したとして対処・・・できるかどうかはともかく。もし出会ったらすぐ逃げる。とか、最低限の心構えはしておくべきだと思う。 あと龍太、今持ってる株は絶対に明日までには処分しといた方が良いぞ!!!」


 魔物を猛獣と想定したら一般市民がどう頑張っても勝てる訳が無い。勝てない敵に立ち向かうのは勇気じゃなく匹夫の勇に過ぎない。さっさと逃げだすに限るのさ。


「レンジ~。それはあんまりな言い方じゃね? まぁお前が言うんなら間違いないな。今日中に持ち株は処分しとくわ!!!」


 俺のあんまりな答えに龍太が口を挟んで来るが、最後の俺のアドバイスだけは聞くことにしたようだ。


「俺だって怪物に遭遇なんて御免被る。あくまで心構えだよ、心構え」


何の心構えをもしていないのとしているのでは大違いだ。コイツらに死んで欲しい訳じゃないので。魔物と会ったら逃げ出せというアドバイスくらいはしておく。


「はっ!そんな可能性はアメリカの宝くじロイヤル7に当たるより低いだろうさ」


「まぁそんな事態になったら龍太が二人を守ってやれよ。俺はソッコーでとんずらするからさ」


女性陣の少し怖がっている雰囲気を察して、俺と龍太でおどけたように軽く言う。大学からそれなりに長い付き合いだ。この手の連携は息を吸うようにできる。


「せんぱ~い。そこはオレが守ってやるぜ(キリっ)て言うべきじゃないですか~?」


阿良々木は察したのか。すぐさまそんな言葉で切り返してくるので、俺も再度、軽快に返す。


「俺がそんな物語の主人公みたいなセリフを言っても似合う面だと思うか? そういうイカしたセリフはイケメンの専売特許だぞ?」


俺たちの漫才にいつしか暗い雰囲気は消失し、屋上には笑い声が響き渡っていた。


この時の俺は忘れていた。ゼロじゃ無い可能性は、ほんのわずかな確率でも起こりうる。


 そして『本当の最悪は限りがない』という事を。しかもその言葉をすぐに実感することになるとは。この時は微塵も思っていなかった。

お読みいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人が大勢死んでいるのにさすがに危機感がなさ過ぎ。人より先に知ったのだからすぐにでも行動しないと不自然に感じる。食糧、武器防具、ダンジョンの検証など。
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