第62話 狩るモノと狩られるモノ
まずレンジが行ったのは、後衛職エルンストの排除だ。多彩な魔法を使うエルンストと前衛二人が連携されると厄介だ。ステータスはレンジが勝っていても連携はその優位を覆すことをあのメカとの戦闘で学んだ。
ぶち抜かれた足を再生させ剣を装備すると、一番近くにいて後ろを向いていたエルンストに飛び掛かりその首を断ち切った。当然アクセサリーの致命回避が発動したため、返す刀で再度首を跳ね飛ばした。
「げ、ガハッ!な、何がっ、ぶげっ!??」
「やかましい。・・・・・死ねっ!」
首を飛ばしても直ぐに死ぬわけじゃない、生首となっても混乱していた。それに構わず、首を思いっ切り踏み砕く。
自分に何が起きたのかも理解できず、驚愕の表情を浮べた首が宙を舞い。地べた転がった首を踏み砕いたらグチャッと耳障りな嫌な音と感触が足に残るが、確実に止めを刺したことを確認する。
どれだけHPが高くても人間範疇生物は首を飛ばせば即死する(特殊なスキルを持っていない限りだが)ひとまず厄介な後衛を始末できた。続いて行ったのはクレアの確保だ。
時天魔法『短距離転移』を使用。レンジの意図を察して逃げ出したクレアの傍まで転移する。この魔法は発動までに時間がかかるが、目視できる範囲に一瞬で移動できる優れた魔法だ。弱点は発動時間以外には使用MP固定で一万。クールタイムが15分と大変コストが重い。
(クレアを嬲ろうなんて考えずに、直ぐに拘束しておけば良かったのに。テメェらの変態性癖が裏目に出たな!)
連中が馬鹿だったおかげで助かった。最初から油断などせずに連携を取って行ったら、ここまで一方的にはならない。
ハッキリ言って油断しすぎだ。レンジの足を破壊した時に、そのまま頭を踏みつぶしておけばよかった。そうすれば魔核のおかげで死にはしないが、万が一を考えて慎重な立ち回りをせざるを得なかった。それをしなかったのはクレアが嬲られるのをレンジの目の前で見せつけることで、絶望する顔が見たかったってところだ。
(実戦で詰まらん情けや趣味を出すのは禁物だってのに!)
弱者を嬲るうちにそんな基本まで疎かにしていたのだろう。
それに仲間が殺された今も、『クレアを痛めつけて俺を絶望させたい』という自分たちの欲求に夢中になり。場の状況が変わったことにさえも気づいていない。なぜこんな馬鹿共がここまでレベルを上げられたのか疑問が出てくるほどだ。
「よう! 元気か?」
クレアの前に転移してあいつ等に向け、ニッコリと微笑んでやる。後ろにいた俺が目の前に居る事が信じられないのか。ギョッとした顔をして、慌てて後ろを振り返る。
(馬鹿が! 敵が目の前にいるのに目を離すなんざ素人かよ?)
内心で呆れるが、せっかくの好機を逃す気は全くない。
隙を見せまくる馬鹿どもに向けって暗黒魔法『呪縛鎖』を発動。鎖に触れた相手を拘束し、『呪縛』『衰弱』『出血』と複数の呪怨系の状態異常を付与する凶悪な魔法がガウスとゼノを縛り付け拘束した。
「な、何だこの鎖は?」「ああ、この、ほどけよ。どうなっても知らねぇぞ!」
「お前ら本当にレベルカンスト間近か? 状況判断能力、対応能力、戦闘力。どれを取っても落第点だ。大方、弱い奴ばかりを狙って強い奴とは戦ったことなんて無いんだろ? 所謂、養殖ってやつか?」
自分たちの優位を一瞬で覆され、間抜けにも拘束され一歩も動けない馬鹿ども・・・いや、馬や鹿と一緒の扱いは馬や鹿に失礼だな。屑どもに嘲笑と侮蔑を込めそう言い放つ。
ジーク氏から聞いたが、養殖とは高ランクの冒険者や騎士に守られながら。弱らせたモンスターに止めだけを刺してレベルを上げたモノを指す蔑称だ。
当然のことだが、レベルは高くても修羅場は一切潜っていないので、戦闘技術は得てしてお粗末。例え同じレベルでも、修羅場を潜った者達よりも場慣れしていない分遥かに弱いらしい。
余談だが、MMOでも『出荷』や『寄生』といった類義語がある。主に大手クランが新人の育成などに使うことが多い。
「き、貴様!れ、劣等種の分際でっ!わ、俺たちをぶ、侮辱するのか?」
「ハッ!? その劣等種に手も足も出ないお前らはいったい何様だよ? 自分たちの方が優れてるんならその程度の拘束は自力で解けるだろ? ほれ! 待っててやるから自分たちの方が優れてるって証明してみな!」
嘲笑を顔に張り付けた上で連中の言葉を鼻で笑い飛ばし、更に煽ってやる。
「く、クソッ!こ、この程度の、劣等種の魔法如きにっ」
「ヒャハッ!ッこの拘束が解けたらぶっ殺してや・・・・ぱへッ!」
「お前らの減らず口はもう聞き飽きてんだよ! 下らんこと喋ってる暇が有ったらサッサと身体を動かせや!」
言葉と同時に剣を急所に突き刺し、致死回避アクセサリーを破壊。更に首に向かって剣を一閃させると、ゼノの首が宙に舞った。
「くだらんお喋りをする暇があったらもう少し必死に成れ! そうすれば減らず口も無くなるぞ?」
先ほどのように連続して急所である首を狙い、致命回避発動を無意味にした上で首を飛ばした。
「う、動けない相手に・・・・こ、この卑怯者めっ!?」
ついには最後のひとりとなり、先ほどの優勢————数の優位が覆された恐怖からか。そんなバカげたことを言いだした。
レンジは「ククク」とワザとらしく笑いながらその言葉に嘲りを以って返した。
「卑怯? ハッ! 笑わせてくれるぜ。最初に不意打ちをかましてきたのはどっちだ? 三対一で数の優位に立って襲おうとしたのはどっちだ? 自分が優位なら卑怯も正義。不利になった途端に卑怯? ちゃんちゃら大爆笑だな!」
確かにレンジはこいつ等よりもレベルは低い。しかし、補正によってステータスは高い。種族の力でスキルの数もレベルも上だ。とは言っても最初から連携を取り、油断さえしなければそこそこいい勝負にはなったはずだ。そうならなかったのは偏にコイツラのお粗末な思考と戦闘技術にある。
(最初に俺の首を狙って殺していたら勝負は分からなかったけどな。 もしそうなっていたら————首の急所狙いだったら避けていたけど)
この状況に陥った根本はこの馬鹿どものクソみたいな趣味と温い思考にある。
(課金が容認されていた頃のVRMMO初期のPVPでよく見かけた。装備だけ凄くてPSがお粗末な課金主義によく見られるタイプだ)
金掛けてるだけあって装備だけは立派だが、それ以外がお粗末で。システムの仕様や特性を全く把握していないので、ちょっと抜け道を使ってそいつらに勝つと。直ぐにバグだチートだ、果ては運営に通報だと五月蠅かったのを覚えている。
「く、クソッ! こ、この程度の魔法直ぐに解除して、く、ガハッ! ち、チクショウ。こ、こんなところで、し、死んでた、たまるか!? こ、殺されたか、家族の、無念をは、晴らすまで!」
レンジは最後の一人となったガウスの不様な姿を冷めた目で見つめていた。
衰弱の状態異常により、ステータスは半減し。出血と呪縛の効果でHPとMPもドンドン減っている。このままほっといても死ぬが、レンジの手で殺してやるのがせめてもの慈悲かもしれない。
「おい、せめてもの情けだ。従魔を出せ。いるんだろ騎竜のスキルを持ってたのは知ってんだ!このまま放っておいても死ぬが、俺の手で葬ってやるよ!」
口ではそう言ってるが、これは情けでもなんでもない。俺の欲と打算に基づいた行動だ。ハッキリ言わせてもらうが、こんな屑どもに掛ける情けなど無い!境遇には同情すべき点もあるが、復讐までなら兎も角、弱いものを嬲ってきたのは正義でもなんでもない。結局のところ、落ちたのはこいつ等の弱さが原因だ!
「ハ? ハハ! よ、余裕のつもりですか? な、舐めやがって~、れ、劣等種風情がっ!い、いいでしょうっ! その驕りを後悔させてやるっ!?」
そう言って顔を歪めると俺から距離を取り。懐から宝石のようなモノを取り出した。
(あれが従魔を収納することが出来る『封魔石』か? 奴さんも本気だし、そろそろ猫を被っておくのをやめるか?)
「いでよ!『グルデミス』。愚かなる劣等種に地獄を見せてやれ!?」
既に勝った気でいるのか、先ほどまでの恐怖は無く。顔いっぱいの余裕の笑みを浮かべている!
まぁコイツの力を見れば増長する気もわからんでもないがね!?
出現した魔物に解析を掛けそのステータスに驚いてしまった。
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Name:『グルデミス』
種族:グレンデル・種族ランク:B・67/100%
MR:8
LV:65
HP:65000
MP:13000
SP(体力):15500
STR(筋力):17000
AGI(敏捷):12750
MAG(魔力):1650
VIT(耐久力):11700
DEX(器用):1650
LUC(幸運):300
〇アクティブスキル
・【ブレスLV:8】・【闘気LV:8】・【爆裂拳LV:5】・【超硬化LV6】
・【暴圧LV:5】・【竜拳LV:2】・【振動咆哮LV:5】・【飛刃鱗LV:2】・【地獄車輪LV:1】
〇パッシブスキル
・【匂感知LV:8】・【剛力LV:5】・【韋駄天LV:5】・【竜鱗LV:5】
・【気配遮断LV:1】・【魔法耐性LV:2】【物理耐性LV:3】【HP回復速度上昇LV:3】・【MP回復速度上昇LV:1】
〇種族特性
・【邪竜】・【高速移動】・【戦闘狂】・【捕食回復】・【痛覚遮断】・【状態異常耐性ゼロ】
・【暗視】・【戦意高揚】・【肉体操作】・【高速再生】・【恐慌の魔眼】
〇固有スキル
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(ククク。やっと面白くなってきたぜ!)
歯ごたえのある展開に、レンジは知らない内に口角を吊り上げていた。




