第58話 洗礼
〇<龍機界>
危険なことは重々承知だったが、どうしても誘惑にあらがえずにダンジョンの探索に乗り出すことにする。
ダンジョンに降りる前に検証さえしていなかった新機能を確認すべく。先程から手元にウインドウを表示してはアレコレと確かめている。
どうやらアップデートされた機能には、簡易ステータスウインドウを出すことが出来るようになったようだ。おかげで今の場所の名前などを調べたり出来るようになった!
(そういう重要事項は通達しろやっ!)
それが俺の正直な意見だ。放置系の運営でも、もうちっと親切だ! このクソゲー以下のシステムを現実に導入した輩に、そんな配慮を望むのは無意味だろうがなっ!
(おかげで便利な機能が追加されたのはいいんだが!)
その言いつつ顔は何処となく浮かない。修正やアップデートには、碌な思い出がないから当然かも知れないが!
(といったところでこれは確認を怠った俺のミスだがな!)
どうもまだまだ甘い。本来なら、こういったことは真っ先に確認しておかねばならない。解析に頼っていたり他ごとに気を取らせすぎているとこういう弊害が出る。アップデート後のこまめな確認を怠った俺のミスだろう。
因みにウインドウに出たこのダンジョンの名は【龍機界】というらしい。
(何か・・・・前聞いたギルド長の話しを思い出すな!)
この<バリアン湿地帯>が生まれた理由を思い返す。龍と機械の化け物の戦闘が理由だったはずだ!
名前だけでもヤバい雰囲気がプンプンしてくる。間違いなくBランク以上は確実だろう。ひょっとしたら以前にチラッと聞いた未発見のSランクダンジョンかもしれないと期待していたが、どうやら違ったようだ。
先にいっておくが、このダンジョンをギルドに報告する気は一切ない。報告するにしても、俺が安定して攻略できるようになり大方探索を終えた後だ。
(生憎と俺は素直でもマジメでもない! 宝の山が目の前にあると知って、大人しくしてるほど謙虚でもないんでな!)
顔は浮かなくても、内心はけっこうウキウキしている。
ギルドや冒険者の利益を考えるならば報告するべきだろう。だがそんなことは、俺の知ったこっちゃない。
未踏のダンジョンは、宝の山だと以前ジーク氏は言っていた。ならばその宝を頂きたいと思うのは当然のことだ。仮のこのダンジョンが知られたら、高ランク冒険者が我先にと押しかけてくるのは明白だ。
下手すると大規模なクランが進出してきて、狩場が独占される恐れもある。レンジが一番大事なのは自分の利益だ。
(獲れるときに獲れるだけ利益は取っとかないとな!)
それがレンジの本心だ。
それ以外は儲けるなとまでは言わんが、得られる利益を捨ててまで分けてやる気は全くない。
このダンジョンの周りを見回すと。今までの迷宮とは違うオープンフィールド型のダンジョンのようだ。 見た感じは湿原に機械のようなモノと生物の骸が埋まっているダンジョンだ。 時代のバランスが全く取れていない感じがすごい!
(今日はあくまで様子見だ。強敵が出たと判断、もしくはヤバかったら直ぐに引き返す。作戦はあくまでいのちだいじに、だ!)
このダンジョンのランクと出現するエネミーの情報。出来れば採取出来る素材の傾向も掴めればなお良し!
周囲を警戒しながら進んでいくと。急にモーターの駆動音のような音が聞こえたと思ったら。俺めがけて、到底あり得ないモノが襲い掛かってきた。 漆黒のボディに二足歩行、手にはマシンガンと大型の鋸の様なブレードを持っている。 余りの事に一瞬混乱したが、これまでの経験からか謎の機械に解析を試みた。
◆◆
〇Name:
種族:怨念動力式自律機甲兵器TypeD・デストロイヤー・種族ランク:C・0/100%
MR:6
LV:57
HP:21000
MP:21000
SP(体力):
STR(筋力):7500
AGI(敏捷):6500
MAG(魔力):
VIT(耐久力):7000
DEX(器用):2500
LUC(幸運):1
〇アクティブスキル
【24式マシンガン】・【20式振動ブレード】・【炸裂弾投擲】
〇パッシブスキル
【索敵LV:8】・【射程延長LV:8】・【攻撃範囲拡大LV:8】・【統率LV:5】・【連携LV:5】
〇種族特性
【炸裂装甲】・【怨念変換(MP)】・【広範囲索敵レーダー】・【救援信号】・【悪路走行】・【雷属性被ダメージ倍加】・【コア破壊即死】
〇固有スキル
嘗ての大戦で使用された兵器の残骸が怨念によって動き出したモノ。
状況に合わせた様々なタイプが製造されており、殲滅型・狙撃型・個人戦闘型・索敵型・防御型などが存在した。真の恐ろしさは複数のタイプが連携した時に初めてわかるだろう。
機体を動かしているのは怨念か、かつての操縦者かは誰にもわからない。
◆◆
(ファンタジー世界からSF系の世界に放り込むのはやめーや!)
そのメカメカしい外見に、方針と罵倒が飛び出そうになるが今はそんな場合じゃない。理解は出来ずとも、体は最適な動作を選択し敵を迎え撃った。
【幻影旋空】で残像を生み出しながら敵の背後に回り込み。聖剣に雷を纏わせるとコックピットと思われる個所に突き刺した ・・・と思ったが。
剣を突き刺した箇所が爆発し、俺を弾き飛ばした。
(これが【炸裂装甲】か? 戦闘はヤバい! ・・・・・っち!)
そう思ったのも束の間。 今度はデストロイヤーがの手に持ったマシンガンが俺目掛けて火を噴いた。
(舐めんな!)
即座に結界を展開し、防御態勢を取る。
結界が銃弾を弾き飛ばすしていくが、相手は掃射をいつまでもやめない。まるで俺をこの場所に留めておくのが目的のように。
(ま、まさか?)
嫌な予感が頭を過ぎる、咄嗟に結界を解除して横に飛び退いた。
この動作は単なる山勘だった。しかし、その勘が俺を救った。
一条の閃光が走ったかと思うと俺のいた地点に光が通ったと思った瞬間。爆発が起こった。
閃光の放たれた方角に目を向けてみると、強大な砲身を背負ったTypeS・スナイプなる機体が俺を狙っていた。砲身は大出力の光線を放ったからか、赤熱して煙を上げているようだ。
(なめんな! 狙撃手は連発出来ないのがお約束なんだよ!? 雷系統の魔法を多重起動)
恐らく連射が出来ない一撃必殺型の鈍重な機体と判断し、先手を打つべく弱点の魔法を発動する。
離れた機体・TypeS・スナイプには黒魔法『轟雷雨』。TypeDには『雷刃』を複数ブチ当てる。雷雲から放たれる連続の轟雷が直撃したことで破壊できたと思ったが、後ろに控えていたと思わしきTypeM・ミラーなる機体が背面のバックパックから傘のような装置を展開すると。半円状の力場を形成して俺の魔法を遮ってしまう。
(ちょっと待てよ! そりゃないだろ!)
そう毒づいても、敵さんが俺の気持ちを斟酌するなんざあり得ない。殺意全開で向かってきやがった!
それで終わりかと休ませる間もなく、今度は傘の先端を此方に向けて来たかと思った瞬間。
俺の右腕は消し飛んでいた。 敵の砲弾が着弾した地点は大爆発を起こし、衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
(・・・ッ! 今の属性は・・・・痺れから雷属性の集束砲か? あの装備の仕業か? 俺の魔法を吸収して放ったって事か? ・・・・・それしか考えられんな!)
右腕を消し飛ばされた激痛を無視して冷静に分析する。痛いだの言ってたら死んじまうからだ!
あの傘は吸収した魔法を圧縮して放つ装備に間違いないだろう。証拠に着弾点からは大量のスパークが迸っている。
(連携した時が真の脅威か! 全く以てやってくれるぜ)
気が付いたら7機のTypeF・ファイターなる機体が俺を取り囲んでいた。 スナイプも5機が後方から俺に狙いを定めている。状況は・・・・・・絶望的だ!
(ククク! そうだよ、これだよ。俺が物心ついたときから常にある敵意・悪意。このところ平和ボケしていたからすっかり忘れていた。抗えない、抗っても何もできない無力な自分)
並の者なら心がへし折れ、諦めてしまう場面だ。第三者が見ても間違い無く詰んだと思うだろう。
だが・・・・・・・。
『クフフフフ! この程度何ってこたー無いよな? あの頃はこれぐらいの絶望は日常茶飯事だった! だが今は抗える力を持ってるんだぜ? あの頃に比べりゃ楽勝だろーがよ!』
幼少期・・・・・・・あの家で過ごしていた時から、母が亡くなってからずっと聞こえてきた声が俺の脳裏に聞こえてくる。
『絶望も苦難も俺らに取っちゃ隣人だろ? おめぇは今この程度の状況に本気で絶望してんのか? だったらさっさと逃げちまえ! 母を助けるにゃこの程度お遊びの地獄に行かなきゃならんのだぜ? 無理です・駄目です! ・・・・って尻尾を撒いちまいな!』
声は俺を嘲るように嘲笑した。暗に覚悟が決まっていないお前が甘い、と馬鹿にしているようだ! 笑わせんじゃねぇよっ!
(絶望? そんなものはとっくにしている。恐怖? 母が死んだ時以来あれ以上のモノは無い。憎悪? クッハハッ! ずっとしてるぜ・・・・・あの倖月のクソ共・この理不尽な世界、そして何よりも無力な自分。俺を蔑み侮辱してきた全ての奴ら。 恐怖? 何を恐れる? 何を遠慮する? 何を押さえつける? 笑わせるなよ志波蓮二っ!)
俺の邪魔をする奴は・・・・・・・・・殺してやる!
『それだ・・・・その気持ちを忘れるな! 俺はまだ力を貸せねぇ! だがこの程度を乗り切れなきゃAランクダンジョンに挑むなんざハナッから無理だぜ! だったら・・・・母を助けてーなら、気張れやっ!!』
(言われるまでもねぇ! この程度笑って乗り切ってやるよ!)
これが物語の主人公ならば奇跡が起こりパワーアップでもするんだろうが、生憎こちとらただのモブ。 そんな都合の良い事はハナッから期待しちゃいない!
クリアになった思考をフル回転させ、この状況を打破するべく動き出す。
時天魔法『減速領域』と『脳内加速』を起動。右手を再生させると同時に魔剣を取り出し、【明鏡止水】で心を冷徹にし、【羅刹腕】で60秒間、筋力を倍加させてTypeF・ファイターに斬りかかった。 敢えて超近接戦に持ち込み、乱戦とすることにより敵の狙撃を封じる。 死角には結界を圧縮させたものを配置し、万が一に・・・・仲間ごと葬り去る強襲に備えつつ、敵の大型のブレードと斬り結んだ。
高速振動するブレードが魔剣を切り裂かんと迫ってくるが、この剣はおっちゃんが魂を込めて鍛え上げた剣だ。 量産品の剣ごときで断ち切れるほど温くない。
(強化の続いている内にこいつ等だけは片づける!)
スキルによって倍加した俺の筋力はこいつらの3倍近い。 この効果が切れる前にファイターを倒すことが勝利への絶対条件だ。 強引にブレードを切り上げると距離を詰め【轟烈砲拳】を機体の中心部に叩き込む。
闘気を拳から放出し、強力なノックバックを発生させるこの技はファイターを吹き飛ばすと背後にいた機体に衝突し。『炸裂装甲』の効果も相まって玉突き事故のように次々と連鎖爆発を生み出した。
(敵は浮足立っている・・・・チャンスだ!)
『影支配』で相手の影に潜り込み、暗黒魔法『暗黒糸』で動きを封じ込める。 双剣に雷属性を付与し、相手の胴体を真っ二つに切り裂いていく。
爆発が起き、衝撃波が襲ってくるが暗黒魔法『呪怨の鎧』を直前に発動し、剣を地面に突き刺し、衝撃を軽減させていたので今度は吹き飛ばされない。
半壊したファイターを黒魔法『疾風迅雷』で止めを刺していく。
荒れ狂う暴風雷雨を目晦ましに、【虚空疾駆】で空中を足場に一気に加速し、typeSに肉薄する。
相手は暴風で俺を見失っていたのか、明後日の方向を向いていた。
(フン! やはりあれだけの砲撃を討つために機動性を代償にしているようだな!)
特化型共通の弱点が露呈した事に凶悪な笑みを浮かべ止めを刺すべく動き出す。
typeSは砲の反動を受けないように脚部ち胴体の装甲は分厚いが、頭部は貧弱と言っていい造りだ。至近距離で黒魔法『閃光』を放ち、センサーを麻痺させる。頭上から真下に向けて剣を刺し込んだ。 倍加した筋力と魔剣の切れ味によって装甲を紙のように切り裂き敵を沈黙させた。 残り6体。
typeSは高速移動する俺の動きにまるで付いてこれていない。重装甲と高火力の代償に機動力を犠牲にしたんだろう・・・・・肉薄すればサンドバックに過ぎん。捕捉されないように絶えず高速で動き回り真っ二つに断ち割っていく。 何とか此方を捕まえようとワイヤーを飛ばしてくるが、それを躱し時に剣で断ち切り次々と機体を破壊していく。
いよいよ後2体となった。 【羅刹腕】の効果は残り十秒、ここで決めなくては勝利が遠ざかってしまう・・・・・・俺は意を決して勝負に出た。




