第56話 クレアの進化
クレアと一緒に購入した物件の部屋などを見て回ったが問題らしいものは見つからなかった上にこの場所は街の外れなので人目に付きづらい。レンジが望む条件(人目に付かずに転移出来て雨風を凌げる)を満たしているし、家自体も新築で悪くないので気に入った。
現在は異世界における新拠点の掃除をしている。外見は綺麗に整備されていたが、中は家具などは一切ない殺風景といっていい物だったきっと前の持つ主が売り払うか持って行くかしたのだろう。
いくら仮初めの家でも、流石にこれは殺風景過ぎる。この家を異世界での拠点にすべく、家具などを商店で買い漁り。今は模様替えを行っている。
あくまでもメイン拠点は地球の自宅なので。最低限度──見栄えを整える程度のつもりだ。
買ってきた家具や魔道具を家の中に設置する。コーディネートには気を配っていないので、家具のセンスはいまいちだが。クレアのセンスが良いためか。取り敢えずは人を招いても、恥ずかしくない程度にはなってくれた。
普通なら模様替えなど一日仕事だ。しかし、俺の筋力は人外の物になっている。本来なら二人がかりで運ぶ家具さえも、片手で楽勝に運ぶことが出来る。まぁそもそもアイテムボックスがあるので力が無くても楽勝な事に変わりは無いが!
リビングが何とか形になったので、お次は自室だ。この家の間取りは、八畳ほどの部屋が5つと地下室。
俺は部屋などさほど興味が無い! 寝ることさえ出来れば文句はないのだ! クレアには好きな部屋を使っていいと伝えたので。今は好みの部屋を選んでいるようだ。
決まったら、後でベッドやクローゼットを運び込めばいいだろう。アイテムボックスは超便利だ。地球で普及したら、廃業する業種が出てくるだろう! その他にも便利な魔道具が普及すれば、似たような運命を辿る業種は必ず出てくるはずだ。
(これも急激な進歩に対する弊害だな!)
簡潔にそう断じる!
時代の変化、技術の進歩と共に消えていく職業はいくらでもあったので。この考えは間違いじゃないだろう! だがレンジの表情は、まったく興味がなさそうだった!
◆
買い物ついでに。アイテムボックスも、より大容量のモノに切り替えた。お古はクレアに使ってもらうことにする。その後も自分の決めた部屋にこもって、各種のアイテムの整頓。金勘定を行い、クレアの準備が完了するのを待つ。
一時間ほど過ぎた時。扉をノックする音が聞こえたので、ドアを開けるとクレアが立っていたので部屋の中に迎え入れる。
(逆にクレア以外が立っていたら怖いけどな!)
「準備は出来たか?」
馬鹿なことを考えていたのが気恥ずかしくなり。端的にそれだけ聞く。
「は、はいっ!」
俺を待たせたのを、申し訳なく思っているのか。顔を俯かせていたが、直ぐに返事をしてくれた!
「じゃあ今日中に最初の進化まで持って行くぞ? 厳しくなるがそれでもいいか?」
「が、頑張ります!」
「最後にもう一度だけ聞いとくぞ! 今更だが、冒険者以外にも幾らでも生きてく道はある。わざわざこの道にする必要はないが・・・・本当にそれでいいか? 後悔はないか?」
やはり最後にこれだけは聞いておきたかった。クレアは美人だし、生きていく道など幾らでもある。常に命の危険に晒される、冒険者などを選ぶ必要は無いのだ。俺に気を遣っているんなら、即座に止めさせた方が良い。
「???。後悔などありません! どんな世界でも、力が無ければ生きていけません。 大きな力や流れに逆らわずに、下を向いて生きていれば。取り敢えずは生きていけるでしょう」
(それには同感だ! 俺も自宅にダンジョンが出来るまでは。そう考えて生きてきた!)
「でも、そんな生き方は・・・・上位の存在の気まぐれで、簡単に崩れ去ります。私は自分の意志で貴方と行く道を選びました。そんな気遣いは不要です!」
キョトン。とした表情から一変して少し怒ったような顔でそう言われてしまう。 最後の確認がてら聞いてみたが、どうやらプライドを傷付けてしまったらしいな。
(しかし『大きな力や流れに逆らわずに、下を向いて生きていれば。取り敢えずは生きていけるでしょう』か。 全く耳が痛いぜ。 その言葉は変貌する前の世界での俺の生き方がそのものだったからな)
記憶も無く、まだ力も無い女性が、自らの意志で険しい道を進もうとしている。 もし母の病気が無かったら、俺は適当にレベリングなどはしていただろうが。今のようにリスク承知で無謀な真似はしなかったはずだ。
そんな自分とクレアを比較すると、少々情けなくなってくるが気を取り直して行こう。ただ漠然と生きていた頃の俺ならばともかく。今の俺は母を助ける目的がある。
それは自分勝手かもしれないが、胸を張れない物じゃない! 母を助けた後に、やってみたい事も出来た。 それは・・・・夢とさえも言えないかもしれないが。何の夢も目標さえもない、カラッポの自分だった頃よりはいいだろう。
(それにしてもクレアは凄いな! 女なんて、は女性差別になるが。自分の意志で選択したんだ。尊敬するぜ!)
言葉に出すと気恥しいので、内心で言うに留めておこう。流石に面と向かって言っていえるほど、俺は女性慣れしていないしな。
「じゃあラバンの森でレベリングと行こうか!」
「はい!」
俺の言葉に元気よく返事をしてくれた。 美女の笑顔でやる気が増すんだから、俺ってば現金な奴だよ。
◆◆
〇<ラバン森>
あれから数時間の戦闘を行った。俺は要所で補助は行っていたが、それ以外はクレアの好きなように戦わせていた。
時折、クレアのレベル帯では厳しいモンスターも出現したが。弱体化の付与魔法を掛けて弱らせたうえで戦わせる。戦闘中に駄目な点もあったが、それを自分で考え修正していく学習能力の速さは驚愕の一言だ。特に一度戦った魔物に対しては、無傷に近い形で勝利している!
今回はクレアのレベリングだけでは無く、俺の新スキルの検証も兼ねている。ゲームなら兎も角。いきなり効果が分からないスキルを、高レベル地帯で試そうとするなどアホな行為だ。
各種魔法にスキルの検証を並行して行い。クレアのサポートも力を入れて行った結果。クレアはすぐに進化リソースの上限まで持って行く事が出来た。
補正が入ることが分かったことで、進化する利点は更に大きくなる事が分かった。進化先を選ぶのはクレア自身であるべきだが。やはり興味があるので。お願いして進化先を表示してもらった。
◆◆
〇ハイピクシー・・・種族ランク・E
〇ドリアード・・・・種族ランク・E
〇サキュバス・・・・種族ランク・E
〇ハーピィ・・・・・種族ランク・E
〇ハイピクシー
種族ランク・E
ピクシーの上位種。ピクシーの使用する魔法の強化に加えて、魅了などのスキルを操る。
単体ではそこまで強力ではないが、群れを成す性質なので脅威度は高い。HPや筋力は低いが魔力とMPは高い典型的な後衛と言える。
〇ドリアード
種族ランク・E
外見は美しい姿をした女性。 植物の成長を促し、収穫量を増加させるスキルを持っているので、発見したら保護を第一とするように冒険者ギルドより通達されている。足は無いが、木々に同化して移動できる。その特性ゆえに樹が無いところでは移動さえできない。
〇サキュバス
種族ランク・E
妖艶な姿をした淫魔の女性。 異性を虜にするスキルを持っている。その美しさに惑わされて理性を失ったが最後。 精力を一滴も残らず搾り取られる。力が弱い代わりに多彩なスキルを持ち、魅了によって魔物の群れを作り出すため非常に危険。
〇ハーピィ
種族ランク・E
別名を人面鳥と呼ばれているように顔は人間だが。下半身は鳥のモノ。人肉を好み群れを成す習性を持っており、高山や山岳地帯などに巣を作る。空を飛ぶことが出来るが、体重が軽いために力は弱く貧弱とさえ言える。
◆◆
(どれも長所と弱点ハッキリしてんな! ま、選ぶのはクレアだし好きにしたらいいさ)
ゲームのビルドでも基本的に、他人のそれに口を出さない主義だ。 後になって文句を言われるのも嫌だし。選択の結果がどうなっても自己責任で、それも含めて自分で考えるべきだと思っているからだ(つまらなくなるので、シナリオの内容とかユニーク関連も口外しない主義だ!)。
クレアはレンジの顔を窺っていたが、レンジが何も言う気はないことを悟ると。しばし考え込んでいたが、やがて意を決し進化先をタップした。
光が包み込み、数秒で進化が終わったので解析をしてみる。
Name:クレア
種族:ハイピクシー ・種族ランク:E・0/100%
MR:3
JOB:【魔女】
LV:31 :合計31
HP:375
MP:1853
SP(体力):113
STR(筋力):96
AGI(敏捷):231
MAG(魔力):780
VIT(耐久力):51
DEX(器用):233
LUC(幸運):187
〇アクティブスキル
・【黒魔法LV:3】・【結界LV:3】・【精霊魔法LV:3】
〇パッシブスキル
・【索敵LV:1】・【回避LV:2】・【魔力操作LV:4】・【詠唱速度上昇LV:2】
・【気配遮断LV:1】・【並列起動LV:1】【結界強化LV:2】・【魔力強化LV:2】
・【精神系状態異常耐性LV:1】・【MP回復速度上昇LV:2】
〇武器スキル
・【回し受け】
〇種族特性
・【飛行LV:4】・【樹木共生】
〇固有スキル
・【約束の二人】・【多言語対応】
◆◆
(まだまだ弱いが・・・・・成長はしている。焦る必要は無いだろう)
俺はクレアに向けて軽く微笑み。補正値や新たなスキルについての説明を行った。
ステータス表示は変わったが、補正などはマスクデータのようでカードに記載されていない。
(恐らくはアップデートと、固有スキルの進化が重なったので見落としていたが。これが『賢者の解析眼』の力だな。 更に進化かレベルが上がれば他のステータスも見えるようになるかもしれないな)
補正を抜きにしても俺のレベルアップ速度やスキルの成長はおかしい。 まだ何らかの要素があると見た。
今までは比較対象が居なかったので比べられなかったが。クレアと共に過ごすことで自分の異常さをはっきりと認識することが出来た。確かにドンドンと人間を止めていくようで空恐ろしさがある。しかし、弱いよりはマシだ! 強くなけりゃ俺の目的は達成できないからな!
(今日の目標は魔女のカンストだ。 日が暮れるまで4時間ほどだし、そこを区切りにファーチェスに引き返すことにしよう)
そう内心で決めクレアに伝えると、笑顔で了解してくれた。
◆
3時間後。クレアは無事に魔女のカンストまで至った。 ランク3程度の魔物なら俺のサポート無しでもギリギリ勝利できることが分かった。まだ一人でレベリングは不安だが、もう少し鍛えれば充分に通用するレベルになる!
(しかし、HPが低すぎるのでワンパンの可能性があるのはいただけない。早急に対策を講じるべきだろう)
クレア強化プランを練りつつも、その日はファーチェスへの帰路についた。




