第49話 ダンジョン探索
前話が短かったのでもう一話投稿しました。
〇箱根ダンジョン前【聖騎士】志波蓮二
あの後、食材を購入して数日分の食事を作ると。直ぐにここまで来た。
無論、《光学迷彩》と《気配遮断》を使用しているため。誰にも気づかれていない。
(それにしても、自宅から走って箱根まで一時間程度で着くとは・・・しかも全く息切れしていない。ステータスの恩恵はすごいぜ!)
スキルの使用で減少したMPを回復するための。MPポーションを飲みながら、ついそんなことを考えてしまう!
車を利用しても自宅から箱根まで二時間は掛かるのに、それが自前の足で半分程度の時間で到着したのだ。驚くのは当然かも知れない!
箱根山にあるダンジョン入り口と思わしき岩穴には。国防軍が陣取り24時間の警戒態勢を敷いているようだ。ご丁寧に簡易バリケードまで設置してやがる!
周囲には付近の住人だろうか? バリケードの外から、恐る恐る様子を窺っている。バレずに中に入るのは不可能だろう。普通ならば!
(普通じゃない俺にはいくらでも方法があるけどな!)
内心でそう嘯き、準備に取りかかる。
周囲に被害が出ないように黒魔法『ロックボール』で岩石を作成し、山頂から転がして人のいない地点に落とす。
ドゴン。と大きな音と土砂が舞い上がり、軍人さんの注意は完全に音の方角に向いたのを確認。《光学迷彩》を使って一気に入り口に突っ込んだ。
そうすると、あら不思議。・・・・簡単にダンジョンに入れました。
「つーか。赤外線センサーか生体センサー位は仕掛けておけよ」
思わず口に出してしまったが、これは本心だ! 安全を考慮して閉め出すには、余りにもお粗末だからだ。
念の為に解析で周囲を確認。
入り口だけを固めて、中に何も仕掛けていない軍人のお気楽思考に溜息をつく。
門に入り階段を降りるとやはり大広間があった。周囲を見回しても俺の家の地下と大差は無いように感じる。大広間を抜けて、一気に下に続く階段を───迷宮に続く階段を下りた。
(そういや、これが俺の初めての本格的なダンジョン攻略じゃね?)
今更のことにようやく気が付いた!
(もっと早く来るつもりだったが。随分と回り道をしていたような気がする。・・・・いや、気のせいだろうさ)
高ランクの敵と死闘を繰り広げたり、半ベソかいて逃げ回ったりと思えば波瀾万丈な人生になっちまった!
ネガティブな方向に向かう思考を、軽く頭を振ることで追い出す。
◆◆
・・・比較対象が無いのでレンジは知らぬことだが、普通の冒険者は低ランクモンスターの素材や採取で昇級ポイントを貯めて一~二年掛けてEランク冒険者に昇級。それからダンジョン探索───という流れだ。
間違っても登録してすぐに、ランク4のモンスターを討伐したり。ランク6モンスターの素材や貴重な鉱石を大量に持ち込んだりなどはしない・・・・というよりも出来ないのだ。
冒険者ギルドや普通の冒険者からすれば、レンジは異常・・・というか狂人の類に思われていても不思議ではない。
それほどまでにレンジの行動は常軌を逸しているのだが。
本人はその事に気付いていない・・というよりも、気付いていながらも半ば無視しているのだ。
レンジにとって他者の評価など何の価値もないからだ!
◆
魔力糸と《索敵》を全開にして進むと。石造りの通路に出た。このダンジョンは、どことなく≪始まりの迷宮≫に似た雰囲気がある。
(それ程ヤバイ感じがしない! 高ランクダンジョンじゃないと思う。 ・・・・・勘でしかないがな!)
<バリアン湿地帯>は入った瞬間から刺すような空気を感じたが、このダンジョンからはそのような空気をまったく感じない。
────その勘は直ぐに当たる。
更に進むと開けた場所に出た。早速、モンスターの歓迎に会った。出てきたのはホーンラビットにダイアウルフ。スケルトンソルジャーが各五体ほど。
(どれもランク2のモンスターだ、じゃあこの迷宮はDランクか?)
ジーク氏から聞いた話だが、大体最初に出てくるモンスターでダンジョンのランクは大まかに分かるようだ。
ランク二・三ならDランクダンジョン。
ランク三・四ならCランクダンジョン。
ランク五ならBランクダンジョン。
Aランクは最低ランク六のモンスターが出てくるのが常らしい。
大体がこのようになっているそうだ。あくまでも、目安だが。
勿論だが、高ランクにほど難易度は上がるし、敵は強くなる分。宝箱──トレジャーも良くなる傾向にあるようだ。
今の俺ならDランクダンジョンの攻略は可能だろう。ただし、《ユニークモンスター》と遭遇しなければ・・・・・だが。
《ユニークモンスター》を討伐して《ユニーク武具》を獲得したジーク氏から聞いたところ。
《ユニークモンスター》が厄介な点はステータスでも通常スキルでもなく。《ユニークスキル》とでもいうべき特殊なスキルのようだ。
まず、《ユニークモンスター》は解析によってステータスは確認できてもスキル系は解析不能。
それだけでも厄介だが、相手によっては最悪の初見殺しのスキルを持っていたりするようだ。
その対策として。一定レベルに達した冒険者は『身代わり系』のアクセサリーを装備するのが常識のようだ。
形状は『指輪』・『ブローチ』・『ネックレス』など様々だが。致死攻撃や即死魔法を一度だけ肩代わりしてくれるようだ。
効果が凄い代わりに当然のように制限もある。
1・一度肩代わりしたら壊れる。
2・壊れたら再装備するまでには24時間のクールタイムが必要。
3・同系統の『身代わり系』アイテムを複数装備しても効果が発揮されるのは一回だけ。後はクールタイムが過ぎないと効果を発揮しない。
4・制限ではないが、値段が高い。最低価格が1千万ディム。
制限はあっても有用なことに変わり無い。これを聞いて俺も商店に買いに走ったが、残念ながら売り切れだった。
ある程度の冒険者には必須装備なので、常に品薄状態のようだ。だが高ランク冒険者なら、購入して当然のアクセサリーらしい。
話が逸れたが、たとえDランクダンジョンでも《ユニークモンスター》が出現すると難易度がイッキに跳ね上がるようだ。
攻略に当たって討伐する必要はないが。仮に存在していたら、ダンジョンで内を徘徊している所を遭遇したらヤバい。
(もし出くわしたら、即座に退却。少なくとも致死回避のアクセも無しで戦う気にはならない)
この方針は徹底しておく。俺の望みは母の治療であって。蛮勇を奮い、無駄な危険を冒す必要は無い。
《ユニークモンスター》が下位のダンジョンに現れることは滅多にないようだ。
だが前例が無いわけではないようだし。出くわした場合の方針を決めて、最低限の警戒だけでもしておくべきだろう。
俺の魔力糸の操作範囲は500メートルを超えた。可動範囲内で迷宮を隈なく探査し、探索の効率を上げている。モンスターは討伐し、トレジャーは見つけ次第───開けまくる。
地球での迷宮攻略に拘る理由の一つが『ボーナス』がある可能性が高いからだ。
≪始まりの迷宮≫で初攻略特典やソロ特典などのボーナスがあったからには。通常のダンジョンもそういった『ご褒美』があると思う───その可能性は高い!
そしてダンジョンの難易度が、高くなればなるほど。ご褒美の質は上がるだろう。
これまた予想だが、地球の技術レベルを上げるようなアイテムが入手でき。
それが医療に関する者だった場合───もしかしたら、母の治療に役立つかもしれない。
(そう都合よくいくはずもがないが、可能性があるならやっておいて損は無いだろう!)
世の中そう都合良く行かないのは身に染みている。───だが可能性は有る。だからこそ、わざわざ箱根まで足を運んだのだから!
僅かな期待を胸に宿し、探索を再開した。
3時間ほどで14階まで何事も無く探索し。そして───到着した。目の前にあるのはボス部屋前の大扉。躊躇わずに俺は扉に手を触れ、中に足を踏み入れた。
中に入ると、ちょっとした競技場位の広さのある空間があった。中央にいたのは4メートルはある巨大なカエル。
全身に大きなイボがあり醜悪な顔に濁った瞳。身体を絶えず瘴気のようなモノが覆っている。
そして、何よりも臭い。まだ離れているのにここからでも腐ったような匂いが分かるほどだ。
◆◆
〇墓守蝦蟇
〇名前 :『ゲッコー』
〇種族 :墓守蝦蟇・・・種族ランク:E・64/100%
LV:43
〇HP :3587
〇MP :978
〇力 :1289
〇敏捷 :698
〇体力 :754
〇知力 :475
〇魔力 :609
〇運 :98
〇アクティブスキル
【黒魔法LV:3】・【魔力障壁LV:3】・【死霊魔法LV2】【盾技】・【大跳躍LV:5】・【毒舌連打LV:3】・【恐怖の歌LV:1】
〇パッシブスキル
【跳躍強化LV:3】・【逃げ足LV:2】・【魔力操作LV:2】・【詠唱速度上昇LV2】
【毒耐性LV:5】・【麻痺耐性LV:5】・【魔法耐性LV:1】・【物理耐性LV:1】
・【状態異常攻撃強化LV:2】・【死体強化LV:2】・【統率LV:1】
〇種族特性
【飛行LV:4】・【猛毒体質】・【炎属性被ダメージ倍加】・【雷属性被ダメージ倍加】・【氷属性被ダメージ倍加】・【暗視】
〇固有スキル
なし
〇墓守蝦蟇
ランク4モンスター。大蝦蟇が戦場の怨念を吸収して進化すると言われている。
死霊魔法によってアンデットを使役する。
顔は醜悪で全身のイボからは絶えず猛毒が飛び出し。体からは常に悪臭が漂っているのでとても不快な存在。
◆◆
(強いっちゃ強いが、弱点が多すぎだ。能力もこれといった特徴が無い。早々に片付けるか!?)
解析で相手の能力を確認したら、俺はすぐさま相手に向かって飛び掛かった。
同時に黒魔法『地獄炎』・『氷爆連鎖』・『轟雷砲』を並列起動してカエルに叩き込んだ。
漆黒の炎と凍てつくマイナス60℃の寒波の連続爆発。渦を巻く雷砲弾がカエルに迫り、着弾と同時に凄まじい爆音を衝撃をまき散らした。
衝撃波を結界で防ぎ、土ぼこりを『突風』で吹き飛ばした。
着弾点にはとんでもなくデカいクレーターが出来上がっており。カエルの姿は影も形も見当たらなかった。明らかにオーバーキルだ。
(やりすぎたか? いや、万が一という事もある。侮って手痛い攻撃を喰らうよりはいいだろうさね!)
これまでに遥かに強い魔物と戦たおかげで、ランク4では歯ごたえが無い。楽な分にはありがたいかもしれないが!
そう切り替えて中央に出現した宝箱に近づいて中を確認する。
〇魔術師の杖(7級)・『魔法威力強化』
〇魔術師の帽子(7級)・『詠唱速度強化』
〇魔術師のローブ(7級)・『魔法耐性』
〇魔術師の靴(7級)・『物理耐性』
(スキルも付いてるし、悪くない。クレアに装備させるべきだな。最初から高ランクの装備を身に着けると、自分の実力を勘違いする事にも繋がる)
俺の望む物ではないが、産廃でもない。クレアのお土産にはちょうどいいだろう。
ここまでの成果を計算すれば金のインゴットや銀貨など、軽く見積もって日本円で一千万は超える。確かに攻略が目標ではあるが、ダンジョンを知るための最低限の経験は出来たはずだ! 危険を感じたら即座に撤退を視野に入れるべきだろう。
戦利品をアイテムボックスにしまい込みながらそう考えて、俺は更に下に続く階段を下りた。
◆◆
端から見れば慎重を通り越し、憶病とさえ言えるレンジの思考。しかし、冒険者にとっては強さ以上に大切な能力だ。自信と過信は天と地ほどに違う————この地球を変貌させたシステムはゲームのようなシステムだが————これは現実なのだから!
地球でもこの能力を欠いた者たちが、もうすぐ数えきれないほど命を落とすことになる。
その悲劇はもうそこまで迫っていることには、まだ誰も気づいていない。
お読みいただきありがとうございます。




