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第48話 誓約と選択


 〇自宅地下・大広間【聖騎士】志波蓮二


 まずやるべき事は契約だ。クレアにスキルの使用を頼むと、俺とクレアの手元に羊皮紙が現れた。記載された内容を纏めるとこうなる。


 1・お互いを尊重して思いやる事。

 2・これらを守っている限りスキルは効果を発揮する。

 3・1を破ろうとすると警告として、全身に痛みが走る。

  

 つーか、曖昧過ぎんだろ。この誓約は余りにも具体性に欠ける。俺流解釈で大切にしろってことでいいな? 

 まず一緒にやって行こうとするなら、大事にするのは当たり前だろ? 

 まぁ、何かのきっかけで仲違いする可能性は高いがな。俺とクレアの間には、信頼どころか信用さえお互いに無い状態なんだし。


 (これを現状で結ぶのはリスクが高すぎだ。お互いに最低限の信用が出来てからにするべきだな。

 仲違いしたら、自分だけじゃなく相手までペナルティーが下されるんだから)


 その旨をクレアに伝えると、彼女も了承してくれた。流石にリスクが高すぎると感じたんだろう。

 下手すりゃ経験値が倍増するスキルだしそれ相応のリスクが有るのは当然っちゃ当然だ。


 このスキルは使いようによっちゃ、お手軽育成だって出来るからな。

 片割れを誰かに守らせて高難度の場所に行き、契約の片割れがスキルの範囲内でモンスターを狩り続ければ一気にレベリング出来る。

 

 個人的にこのやり方は好きになれない! ゲームじゃ寄生、若しくは養殖と呼ばれている手法だ。

 このやり方はレベルやステータスは上昇するが、PSが育たない。 故に初期はそのステータスによって楽勝だが、後半になるほど苦戦する傾向がある。

 ゲームでは後半になるほど難しくなるのは当たり前。

楽した輩ほどそれを理解もせず、やれクソゲーだバグゲーだの騒ぐので、俺はこの手法をあまり好まない!

 

 ◆


 契約は後回しだ。未選択のクレアの種族を選ぶべきだろう。


 困ったのは、ステータスカードを見せて欲しいと頼んだ時に胸の谷間から取り出したこと。

 その時に着ていた服がはだけ、大きなタワワが見えたことは非常に眼プ・・いや、けしからん。


 カードの種族をタップして貰い、選択可能な種族をお互い確認する。


 ◆◆


 獣人(狐)

 エルダーエルフ

 ピクシー・・・・・・・・種族ランク・F

 レッサーサキュバス・・・種族ランク・F


 ◆◆

 〇獣人(狐)


 獣人はその種族によって適性がハッキリとしていることが多い。

 狐獣人は、力は弱いが幻惑などの魔法に特に高い適性を持つ。魔法適正に加えて敏捷性も高いため、軽戦士としての適性もある。重装備などの装備適性は極めて低い。獣人の特性として嗅覚と聴力にも優れている。


 〇エルダー・ダークエルフ


 世界樹の守り人と謳われるエルフの上位種。

多くの魔法に対して高い適性を持つ。武器は弓に対して特に高い適性を持つが、後の武器に対してはそれほどでもない。

 重装備などの装備適性は極めて低い。


 〇ピクシー

 種族ランク・F


 魔素の濃い森などに生息する妖精。性格は個体差があり、悪戯好きな物や邪悪なものなど多岐にわたる。

 力は全くと言ってほど無いが、精霊魔法を筆頭に魔法の才能が極めて高い。上位種になると固有魔法を扱える。



 〇レッサーサキュバス

 種族ランク・F


 淫魔種の雌。異性を虜にする魅了を使用するため下位種でも非常に危険。能力は良く言えば万能型。悪く言えば器用貧乏。

 しかし、上位種になると魅了によって数多の強力な魔物を従え。圧倒的な数の力によって立ちはだかるモノを粉砕する。


 ◆◆


 クレアはチラチラと俺の顔を見てくるが、俺は何も言わない!

その仕草から、どうやら俺の意見を聞きたいようだが。

 選択するのはあくまでもクレアでなければならない──自分の今後に関わることだからな! ただ、種族の概要とアドバイスだけはしておく。


 「人間種は基本的に弱点は無いが、これといった伸びしろも無い。逆に異形種は弱点はあっても、その分の補正が入るので上位種になれば伸びしろが期待できる。どちらも一長一短だ。よく考えて自分で決めてくれ」

 長期的な視点で見れば異形種が有利だが、初期の時点では弱点が目に付く。 これは好みの問題でもあるが、自分がなるならともかく。他人に異形種を勧める気にはなれない。

 だが、俺と比較すれば気になることがある!


 (俺と比べて選択が少なすぎる。俺はほぼすべての種族が選べたぞ? ひょっとして《無限の可能性》の恩恵だったのか?)

 もしも、種族選択の壁をなくしていたのなら、とんでもない恩恵だろう。当時は無意味なスキルだと内心貶していたが、とんでもない間違いだったようだ!

 今は《進化の系統樹》になったスキルの前身を思い返して感謝しておこう。


 「レンジさん。私は【ピクシー】を選択します」


 クレアは意を決したように、真剣な顔を向けてそう告げた。


 「一応だが、理由を聞いても?」

 俺は賛成も反対もせずに、ただ理由だけを聞いた。


 「獣人やエルフでは今後の伸びしろがそこまで期待できません。 

 ならば、ピクシーか淫魔になります。サキュバスは万能ですが、逆に言えば特徴が無いという事です。魅了が強力でも対策をされれば通じなくなります。高位の魔物も簡単には魅了できないでしょう? 下位の魔物を育てるのにも時間を取られます。

 ならばピクシーですが、例え力が弱くても、それは魔法で補えると思います。特に精霊魔法は攻撃や補助もできる万能型の魔法です。

 しっかりと使いこなせることが前提ですが、不足しているモノを補えると思います」


 リスクを見越した上でしっかりと考えている。元々どんな種族を選ぼうが文句など無い。

 俺はクレアの考えを肯定するようにしっかりと頷いた。


 「つーか、スキルや魔法に詳しいな?記憶は無かったんじゃないのか?」

 記憶が無いと言ってたのに、やけにスキルや魔法に詳しい!

魅了対策や、魔法知識が豊富な事に疑問を抱いたので聞いてみる。


 「私が誰で、どんな人生を歩んできたのかは、全く思い出せません。

 でもスキルや戦闘、魔物に関しては朧気ですが覚えているようです。

 そのスキルや魔法について考えてくると記憶が急に鮮明になるような感じです」


 黙っていたことが後ろめたいのか。少々、申し訳なさそうな表情で弁明してきた。

 別に後ろめたいことじゃない!


 もし俺を騙そうとしたり、悪意があるなら俺の『悪意感知』で引っかかるはずだ。

 寧ろ、一から知識を教えるよりも手間が省けたことを喜ぶべきだろう。


「じゃあ次はジョブの選択だな。就きたいジョブの希望はあるのか?」

 

「はい。私は『魔女』に就きます」

 即答だった!


 もうジョブを決めていたことには驚いた。それに選択した種族との相性もいい。しっかり考えて、自分で決めた事なら構わん。

 

 (それにしても【魔女】か。攻撃魔法に特化した後衛のジョブだったかな? 俺としては回復特化型の『治癒師』か『司祭』が良かったんだが・・・・それは言うまい)

 俺が意向や希望を伝えれば、それは自分で決めたことにならない!


 俺はゲームでもビルドに関して一切口を挟まない主義だ!

ゲームでのビルドは、もう一人の自分と言ってもいい。

 ならば、全て自らの選択で決めるべきと考えているからだ!

能力やアイテムのアドバイス程度はするけど・・・・。 

 

 ◆ 

 

 おっと、話が逸れた。俺の弱点は回復能力だ。『聖騎士』で『神聖魔法』を習得したが。万が一を考えれば回復能力持ちは幾らいても困らん。

 しかし、ヒーラーは打点が取れず。レベル上げが困難なのはお約束だ。攻撃特化でレベルを上げて回復系統のジョブを取って将来的には『賢者』に就くプランだけでも提示しておくか? 選択するのはクレアの自由だしな。


 そう決めると、俺の知り得た【ジョブ】の情報をクレアに話し。共有情報とした。


 水晶に触れて、無事に【種族】と【ジョブ】の選択を終えたようだ。再度、解析を掛けてみる。


 ◆◆

 〇名前 :クレア

 〇種族 :ピクシー:種族ランク・F

 〇ジョブ:魔女


 〇HP :65

 〇MP :135 

 〇力  :34

 〇敏捷 :55

 〇体力 :20

 〇知力 :67

 〇魔力 :89

 〇運  :87


 〇アクティブスキル

・【黒魔法LV:2】・【精霊魔法LV:3】・【結界LV:3】


 〇パッシブスキル

・【魔力操作LV:3】・【回避LV:1】・【魔力強化LV:1】 ・【結界強化LV:1】


〇種族特性

・【飛行LV:2】・【樹木共生】・【MP回復速度上昇LV:1】


 〇固有スキル

【約束の二人】・【多言語対応】


 ◆◆


 (俺の初期値と比べてMPや魔力が高い。かなり癖のあるステータスだ。恐らくはHP・体力・筋力の補正は無いに等しいだろうな)

 ステータスを確認し、『これは打たれ弱いタイプだ!』そう判断する!


 俺はクレアに顔を向けると、今後について話し始めた。


 「じゃあ前提から話そう。まずは、クレアは俺の家の近くで倒れていたところを偶然俺が保護した・・・・という事にする」

 その言葉を聴いた途端に、ポカンとした表情を浮かべるクレアさん。


 何言ってんだコイツ? みたいな視線を向けんなや。それも含めて説明するから。


 「この国では戸籍という物が存在し、それが無いと面倒なことになる。

 でも異世界人のクレアにはそれが無い。だから、俺が倒れていたのを保護して家に運んで看病した。起きた時に身元を聞いたら何も覚えていない。自分のルーツが分かるものも、何も持っていなかった。

 通常はありえないが、【種族選択】の反動で記憶が無くなったことにして強引に押し通す。胡散臭かろうが、誰も実証出来ないからな!」


 自分でもかなり穴があると思うが。【種族選択】については何も分かっていないんだ。そんな事があるかもしれない? と思わせればいいだけの事。俺かクレアがバラさなきゃ真実は闇の中だし。


 (『記憶も行く当ても無く、更にはお金も無かったから。同意の上で家の家事を手伝ってもらっていた』とでも供述すれば。

たとえ怪しくても警察も俺をしょっぴけまい)

 これが誘拐や拉致ならば、問答無用で臭い飯を喰うことになる。だが同意の上での事なら何の罪にも問えない!

 

 クレアは普通に美人だ。健全な男と女が同棲し、それだけで済むわけない。

 中学生でも、そんなわけねぇだろ?と絶対思うだろうが。無理矢理なら兎も角。お互い同意の上です、と釈明すればいいのさ。


 考えてる内に邪な感情がよぎり、チラリとクレアを見る。


 モデル並みの長身に、切れ長の碧眼。褐色の肌に腰まで届く銀髪。豊満なバストに細いウエスト。スラリと長い手足。

 控えめに言って超美人だ。『彼女は世界的なモデルです』と説明されても、疑う者はいないだろう。


 (俺みたいな冴えない男が普通に生活していたら。一生関わることさえない存在だろうな)

 俺のようなモブと違い、彼女は華やかな世界にこそいるべきかもしれない。


 (俺とクレアが一緒にいたら。誰が見ても絶対にオカシイと思うだろうな)

 脳内では俺とクレアが並んで歩いている姿が映し出される。

その周りでは、ヒソヒソと陰口を聞こえるように叩いている連中の姿もある。  


 (俺とクレアが一緒に居たら普通に起こる事だろうな!)

 その光景が容易に想像できる。人はアンバランスを嫌うものだ! 俺とクレアでは、間違いなく不釣り合いな関係だろう。

 そこまで考えると。不快な感情がわき上がるのを抑え切れそうになかった。

 確かに不釣り合いなのは認めるが、理解と納得は別問題だからだ!

 

 ・・・閑話休題


 俺に偶然保護された美女。これが、地球でのクレアの基本スタンスだ。

 ネットを見たら【種族選択】でエルフ種は普通にいるようだ。それならクレアの容姿が怪しまれることは無いだろう。

 ・・・・【種族選択】前なら大騒ぎになっていただろうが。

 

 では今後の動きについて説明をしよう。


「まずは、この極東でのダンジョン調査。これは俺一人でやるべきだろう。未確認のダンジョンにクレアを連れて行って。もし高難度ダンジョンならクレアを危険に晒すことになる」


 行くとしたら、箱根ダンジョン。次にアルプス辺りから順に調べていく。クレアを連れて行くにしても、こっちのダンジョンを調査が完了して。

 おっちゃんから最低限の装備を購入してからだ。今行くと装備作りに夢中なおっちゃんに殴られるだろうし。


(向こうと違って、こちらではまだ魔物が出現しにくい。ダンジョンに同行させるなら、クレアもジョブの一つぐらいはカンストしておきたい。

 レベリングならラバンの森周辺か。森の浅い場所で俺が直ぐに介入出来るように付いていればいいだろう)

 

 ・・・・いや、ピクシーはHPが低すぎる。無理をすれば万が一がある。下手に焦らずにクレアの装備購入までは待つべきだ。

 リスクを考慮し、直ぐにその考えを破棄した。


(他の店で購入するのは嫌だ、選択肢にも上がらない。最初に俺を騙そうとしたからな、心情的にも生理的にも受け付けん)


 一度失った信用は簡単には払拭できない。この場合は、最初にレンジを騙そうとした商人の自業自得だろうが!


(食料を買い込んで、クレアには魔力操作や魔法の発動の練習をしていてもらおう。あとはこの世界の知識を本やネットで知って貰った方がいいな)

 だからといって遊ばせておくつもりはない。別に扱き使おうとかじゃなく、外にも出れずやることも無いなら退屈だと考えた結果だ!


 俺の考えを聞かせると、最初は不満そうだったが。自分の実力不足は理解しているのか、最後は頷いてくれた。聞き分けがよくて助かる。


 本は《多言語対応》で読めるし。使い方を教えると、ネットやテレビは興味津々で見ていた。頭がいいのか使い方もすぐに覚えたので非常に助かる。後は・・・・クレアが着る服だ!


 これについては正直、問題はなかった。この家には俺の実母の服が大量に保管してある。

 倖月から捨てられた後に、母の服を全て送ってきたのだ。あのクソ共の家に母の服を置いておくのは嫌だったので。この点については感謝・・・はしてないが、現状を考えればありがたいと思うようにしておく。


 あのクソヤローは物で母の気を引こうとしていたのか。こと有るごとに母に何か贈っていた。

 因みにクソヤローとは、俺のかつての実父のことだ。


 かなり昔の事だが、ハッキリと思い出せる。


(ヤツからの贈り物に対し、母さんは喜ぶどころか常に申し訳ない様な困ったような顔をしていた。

 あの家での記憶で、俺といる時以外で愛想笑い以外に母さんが本心から笑っていたところなどは見たことが無い)

 庶出というだけで、母さんは、親戚連中から見下されていたからな。そりゃ心労も溜まるだろう。


 常にヤツからの贈り物を持て余していた。だから、一度も着てないような服が大量にある。


 (母さんとクレアは身長や体形がかなり似ている。サイズが合わず、全く着れないという事は無いはずだ)


 念のために何着か着て貰ったが、問題無く着れた。

名家の当主が贈る服だけあって、みな高級ブランドの品物だ。

 流行は兎も角、しっかりとした作りなのか古臭い印象は全くない。良い物は時代が変わっても良いって事だろうな!


 これで衣・住は何とかなった。後は食だけだ。


 『外にさえ出なければ、後は好きにして入れば良い』と伝えて。俺は食料を大量に調達すべく、スーパーまで車を走らせた。

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