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第40話 査定終了と昇格


 蜘蛛に散々嬲られた負傷を≪高速再生≫で復元し、ファーチェスに戻れたのは昼過ぎだった。


 戻る途中で考えていたが、高ランクの場所はリスクも高い代わりに見入りもいい事が判った。

しかしながら、現状はランク7以上に挑むことは自殺行為だという事も同時に理解できた。


 それ以前の問題として、冒険者になって一週間も経たない者がランク7モンスターに挑むこと自体が無謀なのだが、生憎とレンジはその事にはまるで考えが至らなかった。



 だからといって、ハイそうですか・・・と諦める訳にはいかない。

聞いた話ではAランク迷宮深部にはランク7モンスターが普通に出現するようだ。

 非常に困難だが、レンジには諦めるという選択肢は一切無い。


 諦めない理由は幾つもあるが、その根幹となるモノは母を助ける為。そのために『エリクシール』を手に入れるためにはAランクダンジョンの深部へ行かねばならない。

 その為の障害としてランク7モンスターとの戦闘は避けては通れない道だ。

 もう一つ、いや。二つはこの世界に来る前に危険に対する覚悟を決めていたことに加え。

幼少の頃より理不尽に晒される事に慣れているからだ。


 覚悟を決め、リスクも想定しているレンジにとって理不尽や強敵など。今更でしかない。

勿論、誰に対しても自分を傷つけてまで、ましてや自分が死ぬ可能性を考慮してなお行動するわけでは断じて無い。


 レンジが此処までするのは生きている人の中では養母、志波愛子だけである。(死んだ人間まで含めれば祖父母、母、養父まで含まれるが)それ以外の人間だったら。

 仮に助ける手段を知っていても、リスク次第では行動するどころか、その方法を教えることもしないだろう。


 レンジは優しい面もあるが、そえ以上に冷徹な面も持ち合わせている。

特に信義にはとても厳しい。約束をすれば自分からは破らないが、相手が破った場合には容赦なく手の平を返す。

 そしてその相手のことを基本的に信用しなくなる。ただし、相手が約束を遵守し。自分に利を与えてくれる限りは(たとえ嫌いな相手でも)きちんと報いる。


 その資質は、ある意味でリーダーや組織のトップに向いている。本人はそのような面倒を嫌がるだろうが。


 ファーチェスに到着すると、真っ先にギルドに向かう。


 ギルドに入ると真っ先に受付カウンターに向かい、見知らぬ受付嬢に名前とギルドカードを見せて、査定が終了しているかの確認を取ると。


 「はい、終了しています。お待たせして申し訳ありませんでした。あとこちらはEランク冒険者のギルドカードになります」


 笑顔で対応してくれた受付嬢であったが、少し困った顔になり、小声で聞こえないように話しかけてきた。


 「これだけの素材の納品なら本来はDランクに昇格でもおかしくありません。

 しかし、ギルドの規定でEランクからの昇格は、昇格してから一月の期間を開けなくてはなりませんのでご了承下さい」


 この言葉でギルドがなぜこのような規則を定めたのか思い至った。


 「なるほど。急激にランクが上がることで調子に乗った冒険者が、無謀な真似をしでかさないような措置という事ですね?」


 「はい。過去にもそういった方がいらしたそうです。それと、Eランクになれば基本的にダンジョン探索の制限はありません。

 しかし、過去に新進気鋭の若手パーティーが高ランクダンジョンに向かって命を落とす事例が何度もありました。

 そのため場所によっては入り口に監視や見張りが付き。低ランク冒険者の立ち入りを制限している事もありますご注意ください」


 (それは厄介だな。俺の目的はAランクダンジョンの深部を探索し、件のアイテムを入手することだ。ギルドは親切でやってるんだろうが、有難迷惑だな!)


 「あと、昇格は出来ませんが。その間も依頼や納品で稼いだ余剰のポイントは持ち越されます。

ですからシレンさんはひと月後にDランクに昇格出来ますよ」


 この受付嬢の笑顔の裏にある本音も読めた。要するに『ポイントは無駄にならんからジャンジャン討伐してギルドに売れよ!』ってとこだろう。


 「なるほど。ご丁寧にありがとうございます。ひと月後まで死なないようにしなくてはいけませんね」


 冗談めかした口調で軽口を叩いたが、逆に受付嬢は怖い顔をして、小声で耳打ちをした。


 「これはここだけの話にしていただきますが。最近、低ランクダンジョンで冒険者パーティーが戻らないという事態が多発しています。

 勿論、ダンジョンのモンスターや罠で死んだ可能性もありますが、そう何組も全滅という事態は滅多にありません。

 ひょっとしたら、冒険者を専門に狙う殺人者がいるのではないか?とギルドでも疑われています。ダンジョンは何が起こっても自己責任、それは冒険者の鉄則です。

 しかし、殺人や犯罪が黙認されているわけではありません。

もしこれ以上不審な事態が続くなら、ギルドは総力を挙げて事態の解決を図るでしょう」


 所謂、『ルーキー狩り』みたいな存在がいるかもしれないわけね!!


 「もし、ダンジョンに潜られるなら、くれぐれもご注意ください。冒険者にとって一番恐ろしいのは魔物でもダンジョンでもなく、人間なのですから」


 お節介な人だと思ったが、こちらの心配をしてくれているのはわかった。なので笑顔で対応しておくことにしよう。


 「ありがとうございます。もしダンジョンに行く事があったら充分に気をつけます。貴重な情報を教えていただき、ありがとうございました」


 俺の言葉が意外だったのか? ポカンとしていたが、すぐに苦笑して、その様な顔をした答えを教えてくれた。


 「申し訳ありません。普通は新米の方にこのようなことを言えば、「そんなの俺が倒してやる。逆に返り討ちにしてやるぜ」とか言うのが一般的ですから」


 まさかお礼を言われるとは思わなかった。と付け加えてくれた。


 自信を持つのは良いことだが、過信は禁物だ。まぁ若けりゃ無理も無いだろうけどな。この前俺に絡んできた若造みたいな例もあるし。


 「それではお待たせ致しました。こちらが今回の買取りの査定額になります」


 俺は差し出された紙を眺めると書いてある金額に動揺したが、それをおくびにも出さずに軽く頷いた。


 「それでは、お納めください。またのご利用をお待ちせています」


 規則正しく一礼する受付嬢(ネームプレートを見るとエイダ)に報酬をアイテムボックスに仕舞。軽く会釈して背を向けると、出口へと向かった。

 途中で何人かの冒険者が視線を向けてきたが、絡んでくるようなことは無かった。


 いや、一人いた。それは初めてギルドに来た時に会った大男、ジークハルトだった。


 「よう、無事だったみてーだな? バリアン湿地帯はどうだった?」


 「何度も死にかけましたよ。先ほどもランク7のモンスターに絡まれて、命からがら逃げだしてきたところですよ」


 俺を馬鹿にするでもなく、純粋な興味からだろう質問に。「心底、怖かった」という表情で質問に答えた。


 「生き残っただけでも大したもんだぜ? あそこは最深部になるとAランクでも死にかねないからな。そういや、なんかいいモンが見つかったか? あそこは入る奴がいないからな。どんなお宝が眠ってるかわかんねぇんだよ!」


 ある意味で図々しい質問だが、この人は俺の擬態をある程度見抜いている気がする。真直ぐそう

な人なので、今更だが嘘を付くと心証を悪くしそうだ。なので正直に答えておくことにした。


 「お教えしてもかまいませんが、少し付き合っていただけませんか? 恥ずかしながらツケが溜まってまして、先に清算しておきたいんですよ」


 この人に情報を話すのは良いが、他には聞かれたくない。俺は周囲を見つつ、そうお願いした。


 俺の意図を察したのか。頷くと手で先に行けと促した。


 そうして俺はジークハルト氏を連れ立ってウルドのおっちゃんの店に向かった。

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