第38話 査定と今後の動き
〇ファーチェス冒険者ギルド【受付嬢(幻獣召喚士)エリス】
もうすぐ時刻は22時。ギルドの買取り終了時間になります。ギルドは基本的に24時間営業ですが。
買取などの通常業務は22時までとなっています。
私は本日は当直なので、緊急依頼などがあった時のため。
今日はギルドでお泊りです。
大変な仕事ですが。その分お給料がいいし、様々な情報を知ることが出来ます。
私が考えているのは、あの【シレン】という新米冒険者の事です。
冒険者登録の時に、私が担当しましたが、見た目は凡庸。
気が弱そうだけど頭は悪くない男。この年からじゃ冒険者として大成は無理でも。
細々と食いつないでいく位は出来るかな? といったのが見た感じからの印象でした。
しかし、その印象は今では一変しています。こちらに非があったのは事実ですが。
ギルド内で騒ぎを起こし、それをうまく利用しました(ギルド長談)。
普通なら腹を立てますが、冒険者はその位強かでなければ務まりません、やっていけません。
良い人は利用され、骨までしゃぶり尽くされるのが冒険者という職業です。
<バリアン湿地帯>でもギルド長の風水術『水鏡』により彼の戦闘を見ていましたが。
ルーキーどころかベテランでも、あれほど戦える人は滅多にいません。
ギルド長の言いつけ通り。一足先にファーチェスに帰り、ギルド内で試験の結果報告と情報の共有を行いました。
ルーキーがランク6の魔物をソロで討伐した事実に、皆が驚いていましたが否定の言葉は出ませんでした。
それもそのはず、私達ギルド職員は、全員にある誓約魔法が掛けられています。
それは、ギルドに入る時に記入する契約書に明記され。
その内容はギルドに関する事で虚偽の報告が出来ない。という内容も含まれています。
今回は強制ではないにしろ、ギルド長が直々に課した試験です。
虚偽などを行えばペナルティーとして、何らかの罰が与えられるのは間違いありません。
これは不正などを防ぐために必要なことであり。私たちの身を守るための法でもあります。
もしも情報を手に入れるために脅されても、この誓約が有る限り───脅しは意味を成しません。
話す事が誓約によって不可能だからです。過去にある国家が情報を手に入れるためにギルド職員を脅し。情報入手が不可能とわかるとその職員を殺してしまったそうです。
真相の究明に乗り出したギルドは、すぐさま犯人を突き止めたそうです。
当然、ギルドは大激怒し、その間者が所属する国から総撤退。
・・・その後、その国は荒れ果てました。和解はなかなか成立せず。
情報収集を命じた王太子の廃嫡と死刑。関わったすべての機関の重役の処刑。
国が傾くほどの多額の賠償金でようやく和解したようです。
その様なことがあってから、ギルドのに職員に手を出すのはタブー中のタブーとなりました。
何があっても『冒険者ギルドに喧嘩を売るような真似をするな』は権力者にとっては常識のひとつです。
この事は冒険者でなくても、この世界で生きていて、ある程度の年齢になれば。誰もが知っていることです。
当然、それが分かっていない存在も残念ながらいます。
戻った私がシレンさんの試験結果について報告しているのをコッソリ聞いていた若年の冒険者などがその典型です。
その冒険者は、シレンさんの試験結果を信じられないのか「ギルドが嘘をついた」「ズルをした、インチキだ」など。
この発言から、如何に世間を知らないかよくわかります。
そうやって盛り上がっていた中でもクランに所属する子などは、年長者から取り押さえられていました。
職員の前で、ギルド長の判断にケチを付けていると思われたくなかったんでしょう。
・・・・・・閑話休題。
しかし、とっくに帰ってきてもいい時間なのに、シレンさんはまだ帰って来ません。
私が心配することではありませんが、やはり気になります。
(買取終了まであと少しです。そろそろ明かりを消しますかね?)
そのように考えていた時、ギルド中央の大扉が開く音が聞こえてきました。
◆
〇ファーチェス冒険者ギルド【暗黒騎士】シレン
「すみません。まだ買取の受付はよろしいでしょうか? もし時間外なら明日また出直してきますが?」
俺は受付カウンターに行くと、只一人いたエリス嬢に向けて何食わぬ顔で話しかけた。
「はい、まだ大丈夫ですよ! それでは売りたい素材をこちらにお願いします」
(何らかのアクションは在ると思ったが。平静を保てるのは流石だな!)
恐らく受付の時間ぎりぎりだが。嫌な顔ひとつしなかったエリス嬢は流石と言うべきだろう。
店を閉めようとした時や、会社から出ようとしたときに呼び止められるのは気分のいいもんじゃないからな。
俺は勿体付けるでも無く、素材をアイテムボックスから取り出してカウンターに置き始める。
直ぐにカウンターを埋め尽くすが。まだ半分も出して無いので、どこに置けばいいのか目線でエリス嬢に尋ねると。
慌てたように、買取専用の大部屋までついてくるように言われた。
そう言われて。少しの間。後に続いて入った部屋はちょっとした体育館ほどの広さだった。
「申し訳ありません。ここは、大型のモンスターの素材などを鑑定する場所です。こちらの机の上に素材をお願いします」
入った時は気付かなかったが、エリス嬢以外にも4人ほど職員が作業しているようだった。
俺は全ての素材を机の上に並べ始める。最初は平然としていた職員たちだったが、徐々に顔が引きつっていった。いちいちかまうのも面倒だ。
俺は彼女らの変化に気付かぬ振りをして。全ての素材を机に並べ終えた。
「これで全部になります。査定をお願いします」
受付嬢たちはエリスの顔を見ていたが、エリスが促すと素材を手に取り、査定を始めた。
「これは《バーバリアンタートルの甲羅》。それに《バンシーの宝核》。《ネクロマンサーの悲涙石》。
それ以外にも貴重な物ばかりをこの量を──ソロで? 嘘でしょ? Aランク冒険者並じゃないの?」
「こっちは《魂魄草》、《桃色草》に《百葉クローバー》。《蒼層華》に《十年美人》よ! どれも貴重な上に保存が難しい物ばかりじゃない! ルーキーが取ってこれるようなモノじゃないわ!!」
「こっちは《ミスリル鉱石》に《怨念石》。それと》魔水晶》。これ──嘘でしょ?まさか《アダマンタイト鉱石》?」
受付嬢が何やら騒いでいるが、俺は無視を決め込み。腕組みをして査定の時間が過ぎるのを待っていた。
何やら話し合っていた受付嬢が、申し訳なさそうな顔をしながら近寄ってくると。頭を下げてこちらに謝ってきた。
「申し訳ありません。これほどの素材になりますと本日中に査定が終了しないため、明日までかかってしまいます。それでもよろしいでしょうか?」
面倒だが時間ギリギリに来たのはコチラの落ち度だ。
下手にゴネて騒ぎを起こすのは不本意でしかない。
「いえ、謝っていただく必要はありません。時間ギリギリに素材を持ちこんだ私にも非があります。
明日の昼までには査定は終わっていますか?」
怒ったところで問題が解決するわけでも、利があるわけでもない。
にこやかに気にするなと伝えておくと、受付嬢たちは何度も頷き、その後にホッとした表情になった。俺はクレーマーじゃないぞ!
「それでは本日は失礼させていただきます。申し訳ありませんが、明日の昼までには査定をお願い致します」
金は早急に要る。装備を融通してくれたウルドのおっちゃんに支払うツケの分も必要だし。
借りはなるべく早く清算しておくに越したことはない。装備のメンテナンスもかねてイロを付けて渡しておこう。
俺はギルドから出ると、昨日の宿に向けて歩を進めつつ思考を開始した。
(やはり、種族特性は使える。特性とスキルのコンボは、ランク6モンスターでも楽勝──とまでいかずとも多少の苦戦程度で討伐できた。
それとは別に、あのバリアン湿地帯の奥には何かある)
バリアン湿地帯の深部まではいけなかった。だが中心に近づくに連れて、霧が深くなり瘴気のようなモノが漂ってきた。
遠目からだが、モンスターもランク7や8をちらほらと見かけた。
・・無論、気付かれる前に速攻で逃げたけどな。正直ランク8どころか、7でも今の俺には手に余る。
運がよかったのは、アダマンタイトの採掘場所を見つけたことだ(掘ってる途中で『スペクター』なるランク6のモンスターが複数出現した時は危うく死にかけたがな!)
◆◇
〇アダマンタイト
上位の武具にも使われる極めて硬度の高い金属。
強度は高いが魔力の伝導率はミスリルやオリハルコンに比べると低い。加工が難しく、生半可な腕では扱うことが出来ない。
(こんな金属が普通に手に入るんだ。是非ともバリアン湿地帯には通い詰めるべきだろうな。
その為にもアンデッドの対策として【聖騎士】のジョブを習得するべきだろう。条件はほぼ満たした。明日にでも達成できる!)
レアアイテムのためなら少々のリスクは許容するのがゲーマーという人種の生態だ!
これが現実と忘れてはいないが。ここは今後のためにもリスクを受け容れるべきだろう。
ちなみに【聖騎士】の条件はこれだ。
○アンデッドモンスターの討伐100体以上。
〇一定レベルの強さ(ランク5以上)を持つモンスターのソロ討伐。
〇教会に寄付して祝福を受ける。(最低でも金貨10枚以上)
〇騎士系統の合計レベルが100以上。
査定の金額がいくらになるか知らないが。教会へ寄付して【暗黒騎士】をカンストすれば条件は満たせるはずだ。
後は進化だろう。リソースは勿体ないが、進化してから聖騎士になった方がいい。
その根拠は、暗黒騎士になって思ったが。上級であることを差し引いてもステータスの上昇が大きいように感じる。
恐らく通常のモンスターと違い、モンスターレベルが無い分。ジョブレベルに対しての補正のような要素があるのだろう。
そして、進化するほど補正値が上昇している気がする。
根拠は無いが、もしそうならば。進化してからジョブに就いたほうがお得だろう。
あとは、クエストに関してだ。舐めているわけではないが、今更ランク4のモンスターに気後れはしない。
ゴブリンキングは実質ランク5だ。取り巻きが少々いたとしても、全く気にならん。
しかし、油断大敵という言葉は嫌というほど理解できたつもりだ。
しっかりとレベルを上げて、当初の予定通り。明日含めて2日後に挑むべきだろう。
取り敢えずは寝る前に。手に入れた魔玉の欠片を食べれるだけ食べておく。
ランク6の魔玉は欠片も含めれば、かなり手に入れた。
この行動で次の進化先がどうなるのか非常に楽しみだ。
そんなことを考えながら、宿に入り。明日に向けてぐっすりと睡眠を取ることにした。




